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2024年12月号 森日出夫さん寄稿「海から、空から、記憶を記録する」
海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は写真家の森 日出夫さんに寄稿していただきました。
最終更新日 2025年1月6日
生まれ育った横浜の街を撮り続けて半世紀が経ちます。
海から、陸から、時にはヘリコプターで空からも撮影します。世の中の変化は早くて、昔からあった建物がなくなっていたり、風景が変わるとそこがどんな形でどんな色だったか思い出せなくなってしまう。忘れ去られてしまう街や人の居た風景を残すのが私の日常です。特に好きな時間帯は明け方で、赤レンガ倉庫や大さん橋から見る港の朝焼けは光り輝いて美しく、希望を感じさせます。働く人やジョギングをしている人たちも朝日を浴びてドラマチックな絵になります。
1980年2月12日 ワールドクルーズでハワイから入港したクイーン・エリザベス2
赤レンガ倉庫は保税地区だった頃は人通りも少なく、フェンスがあって中の様子はよく知られていませんでした。早朝の港の写真を撮るために倉庫の近くで車中泊をした時でした。フェンス越しの赤レンガ倉庫の周りにはユリの花が一面に咲きみだれていたのです。自分はまだ夢を見ているのかと思いました。現在では横浜を代表する観光地に生まれ変わりましたが、私の脳裏には白いユリと赤レンガのコントラストの美しさがはっきりと残っています。
海岸通団地も大好きな場所でした。昭和30年代に建てられたこの団地は風情があって、季節を通して撮影をしていました。周りが猛スピードで近代的になっていく中で、この団地だけは空気感が違っていました。一歩敷地に入ると時間の流れがゆるやかで、昭和にタイムスリップさせてくれます。団地の中にある公園からは、丸坊主とおかっぱの子どもたちの遊ぶ声が聞こえてくるようでした。そして団地越しにはランドマークタワーがそびえ立っていて、まさに新旧を代表する絵図でした。現在は新しく建て替えられ、高層ホテルも建設されるなど景色は一変しました。
私にとっては人も風景と同じです。
いつもそこに居た人がいなくなる、そうすると風景も変わってくる。伝説の娼婦メリーさんがそうでした。白塗りの化粧に白いドレスで歩く姿は異様でありながら、気品と気高さがあり、まるで舞台女優のようでした。高齢になるとその姿は痛々しさも漂うようになりましたが、街の人は口々に噂をしつつも、その存在を受け入れていたと思います。私はメリーさんを撮りたいと強く思うようになりました。
本人の許可をいただき、数年間撮影を続けました。伊勢佐木町や馬車道の出没しそうな所に出向いては少し離れた所からレンズを向けました。そのメリーさんがある日忽然と姿を消しました。いるはずの場所に行ってもどこにもいないのです。私の中で何か横浜の風景が違って見えるほど違和感を覚えました。
そして風景も人も気になったら撮影する、それが自分の役割だと思い現在に至っています。
多くの撮影をしていると、地上では近すぎる、でも空からでは遠すぎる…そんな距離感への不満も出てきますが、それを満たしてくれるのがドローンです。私は仕事で建築写真を撮ることが多いのですが、空撮とまではいかなくても俯瞰でその建物の良さを表したいと思い、この歳になって講習に通いドローンの資格をとりました。
ご縁あって昨年、北海道の東川町の写真集を出版することになり、季節ごとに北海道に通いました。雪の旭岳にも登り撮影をしました。雄大な風景の中、ドローンを自分の目のように飛ばして撮影した作品が写真集の中に納められました。
これまでも横浜にとどまらず、日本の気になる場所と出会うと、時間の合間をみて撮影に行ってきました。誰かに言われたことがあります。「森さんの写真は日本のどこかや海外の写真でも横浜を感じる」と。
そして新作として、空撮の時に長年気になっていた「扇島」の製鉄所を撮影しました。今では「工場夜景」という言葉があるほど人気ですが、私も昔から工場が好きで横浜港から川崎の工場地帯に入ると気持ちが高揚したものです。街のイルミネーションと違って機能重視の弱い光源ですが、暗闇に浮かんで何とも言えない温かみを感じさせるのでしょう。これほど工場が人々に身近な存在であったということは感慨深いです。
扇島の撮影許可を得るまで時間がかかりましたが、どうしても撮りたかった場所でした。撮らなければならないと思っていました。失って初めて存在の大きさに気付くことがわかっていたからです。
不思議なもので強く思うと協力してくれる人と出会うのです。まさに工場が休止される一歩手前でした。第2高炉の火が消える瞬間まで記録することができました。扇島を撮ると決めて動き出してから10年が経っていました。
流れ出る真っ赤な製鉄と、冷やす蒸気が轟音とともに舞い上がります。焼け付く温度を感じながら撮る写真には熱感が映っていると信じています。
夜中の3時頃、サイレンが鳴り稼働が止まりました。働いていた人たちの目に涙が溢れ、肩を抱き合っていたあの瞬間が忘れられません。
作者プロフィール
森 日出夫
写真家。1947年、横浜市生まれ。JPS(日本写真家協会)所属。長年撮り続けた横浜の港・街・人を「森の観測」と名付け、それらの作品を写真集や個展に多数発表。
1992年 写真集「森の観測 vol.1-三吉橋界隈」刊行
1995年 写真集「YOKOHAMA PASS ハマのメリーさん」刊行
1996年 ニューヨークADC MERIT AWARD受賞
2001年 第50回横浜文化賞奨励賞受賞
2010年 8×10による人物全身像写真集「わたし」刊行
2011年 写真集「SCENERY of Yokohama」刊行
2016年 写真集「YOKOHAMA Chronology」刊行
2019年 横浜高島屋にて開店60周年記念写真展「YOKOHAMA 1969-2019」開催
2023年 みなとみらい21地区着工40周年記念事業写真展「PHOTO CHRONICLE」開催
2024年 写真集「HIGASHIKAWA」刊行
【受付終了】読者プレゼント
写真集『SCENERY of Yokohama 2』抽選で5名様にプレゼント
2025年カレンダー 抽選で10名様にプレゼント
応募受付は終了し、当選者に1月6日(月曜日)に賞品を発送しました。ご応募ありがとうございました。
いつも『広報よこはま』・「よこはま彩発見」をご覧いただき、ありがとうございます。感想をお寄せいただいた方の中から抽選で、森 日出夫さんご本人のサイン入り写真集『SCENERY of Yokohama 2』を5名様、2025年カレンダーを10名様にプレゼントします。ご希望の方は、次の6項目※を明記し、郵便はがき(〒231-0005 横浜市中区本町6-50-10 横浜市役所政策経営局広報課 あて)又は電子メール(ss-saihakken@city.yokohama.lg.jp)でご応募ください。締切は2025年1月5日(日曜日) 必着です。
※ 1.郵便番号、2.住所、3.氏名、4.感想、5.読んでみたい記事、6.「12月号プレゼント希望」
なお、当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。当選者には写真集、カレンダーのいずれかをお送りします。また、いただいた個人情報は、賞品の発送以外の目的には使用しません。
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