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2024年5月号 能登半島と横浜

 海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は1月の地震で大きな被害を受けた能登(石川県)と横浜のつながりについてです。

最終更新日 2024年6月3日

「広報よこはま」2024年5月号「よこはま彩発見」の掲載内容はリンク先をご覧ください。

能登半島と横浜

横浜都市発展記念館 主任調査研究員 吉田 律人

 
 2024(令和6)年の元日、能登半島の先端を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、志賀町、輪島市で震度7を記録するなど北陸地方は大きな揺れに襲われました。津波や土砂崩れ、大規模な火災など甚大な被害が発生し、道路や水道の復旧に時間がかかるなど、被災地では現在も不自由な生活を送られている方が多くいらっしゃいます。

大本山總持寺祖院・大祖堂
輪島市門前町の大本山總持寺祖院・大祖堂 2022年12月4日撮影

 横浜から能登半島は遠く離れた場所にありますが、深いつながりがあります。例えば、鶴見区にある曹洞宗の大本山總持寺(そうじじ)は、輪島市門前町(もんぜんまち)に起源があります。また、横浜市内で銭湯を営み、支える人びとのルーツも多くが能登半島にありました。石川県の鹿島郡や羽咋(はくい)郡、七尾市の神社には、鳥居や狛犬、灯籠に「横浜」の文字が刻まれています。横浜で成功した銭湯経営者は、郷里への恩返しとして積極的に寄付を行い、それを見た人びとがさらに横浜へ移住するという流れができていました。横浜市民の公衆衛生は能登半島出身者によって支えられていたのです。
 1859(安政6)年の開港以降、国内外を問わず、横浜の地は様々な地域からの移住者を受け入れることで、コミュニティを構築してきました。能登半島のように、都市への移住者を通じて、横浜は様々な地域とつながっています。
 ここでは、2018(平成30)年に横浜開港資料館・横浜市歴史博物館で開催された企画展「銭湯と横浜」の内容を中心に、能登半島と横浜のつながりを、横浜市内や能登半島の各地の写真とともに紹介します。

「中の湯」の従業員
西区藤棚「中の湯」の従業員 1958年9月28日 広瀬始親撮影 横浜開港資料館所蔵

 西区の県営藤棚団地内にある「中の湯」の浴室。営業開始前の女性従業員を撮影した1枚。やわらかい日の光とともに、笑顔が印象深い。「中の湯」の経営者は能登半島の出身者で、従業員たちも能登半島からやってきた。女性従業員の仕事は接客から子守り、清掃と多岐にわたった。女性たちの手前にカラン(水道の蛇口)、後方の壁面にはペンキ絵や広告が確認できる。昭和30年代の浴室内の様子、設備などがうかがえる。

「中の湯」の全景
西区藤棚「中の湯」の全景 1958年9月28日 広瀬始親 撮影 横浜開港資料館所蔵

 県営藤棚団地と公園に隣接した「中の湯」は住民たちの憩いの場となっていた。第2次世界大戦の戦災によって横浜市内の銭湯は激減したが、高度経済成長にかけて数を増し、昭和30年代から40年代はおおよそ340軒前後で安定する。この写真はそうした戦後の全盛期に撮影された1枚である。撮影者の広瀬始親(山梨県甲府市出身)は県営藤棚団地の住人で、日常的に「中の湯」の人びとと交流があった。

江尻福松像
江尻福松像 2019年9月12日撮影

 石川県七尾市中島町中島の蓮浄寺境内にある胸像。1972(昭和47)年5月20日に「中島町江尻福松顕彰会」によって建立された。1899(明治32)年1月1日、中島で生まれた福松は1913(大正2)年に上京、銭湯で修業を重ねた後、1923(大正12)年に経営者として独立した。その後、鶴見区生麦の「朝日湯」を中心に、複数の銭湯を経営したほか、母校のプールや公民館の建設、神社や寺院に多額の寄付を行った。

江尻福松が経営した「朝日湯」
江尻福松が経営した鶴見区生麦「朝日湯」 2021年8月6日撮影

 能登半島出身者は銭湯を拠点に他の業種にも事業を拡大させていった。福松も入浴剤の販売を行ったほか、運輸業等の経営を行った。また、戦後、神奈川県公衆浴場環境衛生同業組合の初代理事長を務めるなど、福松は業界を代表する人物となっていく。郷里からは福松を慕って多くの若者がやってきたが、高度経済成長の終焉とともにその流れは途絶える。設備の機械化などもあり、銭湯は家族経営が中心となっていった。

三島神社の石柱
人麿社・三島神社の石柱 2017年11月14日撮影

 石川県七尾市中島町瀬嵐(せあらし)に所在する人麿社(ひとまろしゃ)・三島神社。同社の石柱は保土ケ谷区天王町で「富士竹湯」を営んでいた竹中乙吉が1942(昭和17)年3月11日に建立したもので、「在横濱」の文字が刻まれている。竹中の成功とともに、郷里への思いがうかがえる。また、石鳥居は東京銀座で「金春湯(こんぱるゆ)」を営んだ圓山清一郎が1987(昭和62)年8月に寄進したものである。残念ながら石柱、石鳥居ともに今回の能登半島地震によって壊れてしまった。

久氐比古神社の石鳥居
久氐比古神社の石鳥居 2017年11月15日撮影

 石川県鹿島郡中能登(なかのと)久江(くえ)に所在する久氐比古(くてひこ)神社。石鳥居は久江出身者で組織される「東京横浜楽心会」が1922(大正11)年9月に建立した。横浜の銭湯経営者として、昭和戦前期の神奈川県浴場組合連合会及び横浜浴場組合連合会の会長を務めた富山富男(中区富士見町「越の湯」)、同副会長の門久吉(中区蒔田町「栄久湯」)、中村宇太郎(中区伊勢佐木町「利世館」)、石田宇太郎(中区西戸部町「羽沢湯」)などの名前が確認できる。

能登比咩神社の石鳥居
能登比咩神社の石鳥居 2019年9月11日撮影

 石川県鹿島郡中能登(なかのと)能登部下(のとべしも)に所在する能登比咩(のとひめ)神社。石鳥居はガラス製品の問屋を営む永瀬啓太郎が1923(大正12)年に寄付したものである。1935(昭和10)年1月刊行の業界誌『浴場評論』は啓太郎について、「巨万の資産家」と評している。啓太郎は富山富男の義兄にあたり、鏡やコップ、硝子器具など横浜市内の銭湯が使用するガラス製品を取り扱っている。銭湯と関連する産業にも能登半島出身者が根をはっていた。

寄進者の名前
柱に刻まれた寄進者の名前 2019年9月11日撮影

 能登比咩(のとひめ)神社の石鳥居には、「横濱市福富町一丁目五十一番地 永瀬啓太郎」と刻まれている。横浜市内の銭湯業界には、能登半島出身者の人的ネットワークが広がっていた。例えば、同じ福富町には、横浜浴場組合連合会の会長を務めた前田又五郎(現・鹿島郡中能登町曽祢(そね)出身)の所有する「福富湯」があり、その経営は富山富男の姪の夫にあたる松田彦治(同久江(くえ)出身)に任されていた。啓太郎も遠戚にあたる彦治の活動を支援していた。

 ご覧いただいた通り、横浜で成功した銭湯経営者が生まれ育った故郷、能登半島を想う郷土愛の深さに感心させられます。能登の山村、漁村から横浜に出てきた若者たちは、親類や同郷者の銭湯で修行した後、新たな経営者として巣立っていきました。また、横浜には、新潟県、富山県出身の銭湯経営者も多く、能登と同じように同郷者のネットワークを築いていました。そうした都市移住者の歴史、能登と横浜のつながりに想いをはせ、横浜から能登の復興を支え、応援していきたいと思います。
 
※詳しい情報は『横浜都市発展記念館紀要』第18号(2024年3月)と横浜開港資料館・横浜市歴史博物館編『銭湯と横浜』(公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団、2018年)をご参照ください。

予告

 改修のため休館中の横浜都市発展記念館が2024年7月20日(土曜日)に再開館するのにあわせ、パネル展「能登半島と横浜―銭湯がつなぐ人びとの交流―」を開催します。会期は2024年7月20日(土曜日)から9月29日(日曜日)までです。皆さまのご来場をお待ちしております。

【受付終了】読者プレゼント

読者プレゼント『銭湯と横浜』

 応募受付は終了し、当選者に6月3日(月曜日)に賞品を発送しました。ご応募ありがとうございました。

 いつも『広報よこはま』・「よこはま彩発見」をご覧いただき、ありがとうございます。感想をお寄せいただいた方の中から抽選で、横浜開港資料館で2018年に開催された企画展「銭湯と横浜―“ゆ”をめぐる人びと―」の図録『銭湯と横浜』を3名様にプレゼントします。ご希望の方は、次の6項目※を明記し、郵便はがき(〒231-0005 横浜市中区本町6-50-10 横浜市役所政策経営局広報課 あて)又は電子メール(ss-saihakken@city.yokohama.jp)でご応募ください。締切は2024年5月31日(金曜日) 必着です。
※ 1.郵便番号、2.住所、3.氏名、4.感想、5.読んでみたい記事、6.「5月号プレゼント希望」
 なお、当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。また、いただいた個人情報は、賞品の発送以外の目的には使用しません。

読者プレゼント問合せ先 横浜市役所政策経営局広報課 TEL:045‐671-2331 FAX:045‐661-2351

このページへのお問合せ

政策経営局シティプロモーション推進室広報課

電話:045-671-2331

電話:045-671-2331

ファクス:045-661-2351

メールアドレス:ss-koho@city.yokohama.jp

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