第6回:「二ツ池の竜」伝説
最終更新日 2019年3月8日
二ツ池は、昔から獅子ケ谷と駒岡の2村に分割されていた。この獅子ケ谷と駒岡に竜についての伝説がある。話の内容が、両村どうし偶然一致して「竜」になっているところが興味をそそる。
駒岡村に伝わる口碑
むかしむかし、武蔵の国に駒岡という小さな村があった。この村は、三方が小高い山に囲まれており、その中に大きな沼があった。沼のまわりからはおいしい水が湧き出るので、どんな日照りの年でも水が涸れることはなかった。沼から流れ出る小川の水は、下流の田畑を潤していた。
夏になると村人たちは、連れ立って大沼のほとりで釣りを楽しんでいた。この沼では、コイ、フナ、ウナギ、ナマズなど、大きなさかながたくさんとれ、村人たちの栄養源として大変役立っていた。
ところが、ある夏の夕暮れ近く、一番高い小山の峰に、一軍の黒雲が現れたと見る間に、雷鳴とともに黒雲は大沼を覆い、どしゃ降りの豪雨となり、激しい雷鳴がとどろき、閃光が空を切り裂いた。
村人たちは驚き、大沼のほうに目をやると、ひとかたまりの黒雲が恐ろしい勢いで沼の中に落ちていった。
その瞬間、沼の水は渦巻き、天が落ちてきたのではないかと思うほど、恐ろしくて大きな音がした。音は村中に響き渡り、大沼に何か投げ込まれたのではないかと、みんな恐れをなした。
まもなく、あれほど荒れ狂った空も嘘のようにもとの静けさに戻り、村人たちは、また、いつものように沼に釣りに出かけて行ったが、以前と違って、コイもフナもドジョウも1匹も釣れなかった。1年経っても3年経っても、この沼からは魚が1匹も釣れなかった。
5年の月日が経った。
晩春の穏やかな日よりの続いたある日の午後、5年前と同じように、突然あたり一面に黒雲がたちこめ、雷鳴がとどろき、閃光が走り、豪雨になった。そのすさまじさは、前回とおなじだった。そして、大きな黒雲が大沼めがけて再び落下してきた。
と、見る間に重いうなり声と同時に、黒雲は緑色の大きな物体と、大量の沼の水とともに竜巻となって舞い上がった、と思った瞬間、また急転直下、沼をめがけて落下してきた。そのときの大音響は、隣りの村でさえ、「地震だ!」と思ったほどの大きな音だった。
実は、5年前の嵐の日に沼に投げ込まれたのは子どもの竜だった。竜の子どもは、5年の間に沼の魚を食べ過ぎて、育ちすぎ、雲に乗れずに空中から落下してしまったのだった。
このことがあった後、だれひとり沼に近づくものはいなかった。が、数年経ったある日、村人たちがそっと沼に近づいてみると、大沼に落下した竜の胴体で沼は二分され、竜の胴体はこけむし、草が生い茂っていて、「まるで土手が築かれたようだ」と村人たちは語りあったとさ。(磯ヶ谷善五郎氏の話)
獅子ケ谷村に伝わる伝説
むかし、この池は一つの大池であった。池には竜神が住んでいたが、めったに出てこなかった。たまたま池に、石を投げると、あたり一面が急に暗くなり、強い風とともに大雨が吹きつけ、雷鳴がとどろき荒れ模様になった。そして、池の水は大きく渦を巻いて、その渦の中から火を噴き、目をつり上げた竜が、天高く立ち上がり、池のふちの道を通る人を殺す、といわれていたので、村人たちはその道を通るときは石を落とさないように、ぬきあしさしあしで通っていた。
この竜神を鎮めるために、毎年、旧暦の12月になると、村から1人、いけにえを捧げることになっていた。もし、それをしなければ、竜神が暴れまわり、村が全滅するのだと言い伝えられていた。
その年も、その時期がきたので、庄屋さんは、誰をいけにえにしようかと、頭を抱えていた。そして、「今年は弥助のところが一番不作であった。そうだ、弥助の子ども、タエにしよう」と思いついた。早速、弥助の家へ頼みに行った。
しかし、タエには、将来を約束した蓑吉という男がいた。蓑吉は、熊使いの名人だった。蓑吉はその話を聞いて驚き、愛するタエのためにも、また、村人のためにも、竜を退治しようと決心した。
蓑吉は飼い慣らした10頭の熊を連れて池に出かけて行った。池のそばまで来ると、蓑吉は池に石を放り込んで、大声で「村の者を困らせる竜よ、出てこい」と叫んだ。するといつものように嵐になり、ものすごい勢いで竜が出てくるなり「ガヨー」とほえた。そして竜は、1匹の熊をめがけて跳びかかってきた。
それをきっかけに、すさまじい闘いが繰り広げられた。しのつく豪雨の中に、ときおり稲妻が光った。両者の戦いはいつ終わるとも知れなかった。が、やがて嵐が静まるころ、10頭の熊は、竜の体に噛みついたまま動かなくなった。竜も、最後の力を振り絞って、天高く舞い上がり「ギャー」という叫び声とともにばったりと、池の真ん中に倒れ落ちた。
その竜の死体が堤となって、ひとつだった大きな池がふたつに分かれたのだと、獅子ケ谷村では言い伝えられている。(昼間義信氏、横溝武夫両氏の話)
文責:鶴見歴史の会会長・四元宏
現在の二ツ池の様子(獅子ケ谷町)
現在の二ツ池の様子(駒岡町)