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第七話:露木谷(つゆきだに)のきつね
最終更新日 2024年3月15日
むかし、ある年の冬もおわりのころでした。瀬谷村のある農家の嫁さんが、お産のため上川井(かみかわい)村へ里帰りをして、無事、男の子を産みました。
この知らせを聞いたお舅(しゅうと)さんは、初孫のお七夜(ひちや)の祝いに心づくしの赤飯を重箱(じゅうばこ)につめ、嫁の実家へいそいそと出かけて行きました。
たっぷり孫の顔も賞(め)で、ご馳走(ちそう)にもなり、すっかり上機嫌(じょうきげん)になったお舅さんは、ころあいをみて帰路(きろ)につきました。
お返しの小豆の入った重箱の風呂敷包をせなかにくくりつけ、祝酒(いわいざけ)の四合瓶(びん)を小わきにかかえて露木谷(つゆきだに)にさしかかると、くれかけた空からひらひら雪が舞ってきました。
八ッ塚(やつづか)あたりにきたころには、日はとっぷり暮れました。ここは古戦場の跡で、討ち死にをした武士や旅の行きだおれを葬ったといわれる淋(さび)しい所で、山道はここから八方に分かれます。雪のはげしい暗い道では、提灯のあかりもぼんやりとたよりなく、お舅さんはこのきみわるい所を早く通りぬけようとあせるうちに、いつしか道に迷ってしまいました。
歩いても歩いても同じような所へ出るがどうしたことかと疲れた足を止めますと、遠くに家のあかりらしいものが見えます。
「やれ助かった。」
とほっとしたとき、急に足元からさあっと風が立ち提灯の火を消してしまいました。
その瞬間(しゅんかん)、お舅さんは後ろからせなかをどんとつかれ、あっというまに、ぼちゃーんと川に落っこちました。
「助けてくれー。助けてくれー。」
とまっくらやみの川の中で大声をあげていますと、運よく村人が通りかかって助けあげてくれました。
ぬれねずみになってふるえながら帰ってきた姿を見て家の者はびっくりしました。
早々に着がえるとお舅さんはいろりにあたりながら、この奇妙(きみょう)なできごとを話しました。
「そりゃ、きっと狐(きつね)のわるさだわ。八ッ塚で変な目にあったちゅ話は前にも聞いたことがあるぞ。年寄りのいうにゃ、そんなときゃたばこを一服すうか、火のついた線香を持っていくといいそうだ。」
「それにしてもじいさんに、水あびをさせるなんてひどい狐よ。」
とその夜、いろりのまわりは狐の話でもちきりでした。
あくる朝、お舅さんはおみやげの重箱を入れた、風呂敷包(ふろしきづつみ)と祝酒の瓶(びん)のないことに気がつきました。家の者と手分けをしてそのあたりを探しましたが、それらしいものは見当らず、雪の上一面に狐の足あとらしいものがあったそうです。
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