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ぐるっとSTORY(2023年秋号)
最終更新日 2024年9月4日
横浜市交通局の広報誌「ぐるっと」では、“おしごとSTATION”と題して、市営地下鉄やバスで働く人たちを紹介しています。
日常生活のなかではなかなか知る機会のない、市営交通の裏側にフォーカスした本連載。誌面に入り切らなかったインタビューをWEB限定記事としてお届けします! 今回は、2023年度に誕生した優良バス乗務員・ゴールドマスタードライバーの秋田一紀さんへのインタビューです。
将来は市営バスの乗務員になる。それしか考えてなかった
秋田一紀さんは、市営バス36系統に乗って育ったと言う。祖母の家を家族で訪ねたり、姉と遊びに出かけたり。バス乗務員は小さいころからの憧れだった。高校生になった秋田さんは、三者面談で進路を問われ、先生と親を前にたった一言こう答えていた。
「市営バスの乗務員になる」
他社でバス乗務員の経験を積み、今は横浜市交通局でのキャリアが21年余。2023年度には「ゴールドマスタードライバー」に任命され、選りすぐりのバス乗務員として働いている。
横浜市交通局のマスタードライバー制度は、バス乗務員のモチベーションや運転・接客技術の向上を目的として2011年度に始まった。今年度時点で、マスタードライバーは全乗務員の18%ほどしかいない。秋田さん曰く「ミスなし・事故なし・苦情なし」であることがその条件だ。
「運転操作のなめらかさや事故の有無、接客態度などの運行実績に基づいて任命されています。自分のミスで事故なんて起こしたら、すぐ称号を失ってしまいます」
2020年度からはマスタードライバー制度の中でも「シルバー」や「ゴールド」のように、より上位の段階が定められた。秋田さんはマスタードライバーを複数年継続し、ゴールドマスタードライバーに。胸につけた金色のバッジがその証だ。
「このバッジをつけていると気が引き締まります」
自分が良い接し方をすれば、相手も良くしてくれるはず
ゴールドマスタードライバーは通常業務に加え、新人バス乗務員への運転技術指導や接客指導も担う。接客について、秋田さんが口酸っぱく新人に伝えることがある。それは「返報性の原理」という人の心の働きだ。
「自分が相手に良い接し方をすれば、相手も良くしてくれる、という心理です」
秋田さんは、その教えを証明するような珍しいエピソードを話してくれた。その日は、綱島駅前行きのバスを運転していた。道路が混雑していて全く進めない。目的地に着くのはダイヤから1時間も遅れたそうだ。
「お客さまを長時間お待たせしまっている…。心臓が終始ドキドキしていました。運転中もアナウンスで平謝りです。『雨の中お待たせして大変申し訳ありません。私もずっとお手洗いを我慢して頑張っています』と。そしたらお客さまが笑ってくれて」
そのうち、車内から「運転手さんは悪くないよ」と言う人が現れた。綱島駅前に到着したときには、ねぎらいの拍手をお客さまから貰ったという。「こんなことは初めて」と秋田さんはその出来事を振り返る。
「20年以上もやっていると、いろいろとハプニングだらけです」と笑う
とにかく難しい仕事
雨の日も雪の日も、事故があっても道路工事があっても、人々の命を預かって走る市営バス。では、秋田さんはどうやってミスや事故を防止しているのか。
「私は『次、左に曲がります』とか、『このバスは〇〇系統、〇〇行きです』とアナウンスすることで、お客さまにご案内すると同時に、自分が間違えないよう言い聞かせています」
昨日は交差点を直進する経路を走っていても、今日はそこを左に曲がる経路かもしれない。運行ミスや経路間違いがないよう、日々気を遣っているそうだ。では、事故防止策はどうだろうか。
「1秒でも早く危険に気づくため、『危険を探しにいく運転』をします。運転経路にある危ない箇所を把握して、通過するときはブレーキの上に足を置いておくんです。何かがあったら、アクセルからブレーキへと足を動かしている時間で大きく変わってしまいます。それだけシビアに考えています」
ベテランの秋田さんにとってもバス乗務員は難しい仕事だと言う。
「リアルな話をしてしまうと、朝は早いし夜は遅いこともある。楽な仕事ではないですよね」
それでも、秋田さんは続ける。「やりがいはありますね。信号待ちのときなどに小さい子どもが手を振ってくれると、思わず手を振り返してしまいます。小さいころの私も、大きいバスを運転するのが憧れだったので。ひとりでも多くの子がバス乗務員を目指してくれたらありがたいな」
彼らの高い運転技術を、ぜひ体感してほしい。
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