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泉区地域自治講演会 講演会録【要旨】

最終更新日 2023年12月19日

日時:平成21年10月29日(木曜日)17:30~19:00
場所:泉区役所 4階ABC室
講師:名和田 是彦氏(法政大学法学部教授)

日本とドイツの地域自治の取り組み

  • 地域自治の仕組み(連合町内会の区域に自治会区域を区分してそこに住民組織を置くこと)をインターネットで分かる範囲で調べてみると、全国で、大体2割くらいの自治体がやっている、あるいは、やろうとしていることが分かる。そのくらい普通な取り組みになってきていて、今の日本の様々な問題を乗り切っていくための不可欠な制度として導入されている。また、自治体の中のコミュニティのエリアを制度的に位置づけることは、全世界的に行われており、国際的共通性があるということでもある。
  • 泉区がやっているような、全区的な地域協議会があり、その中に、連合町内会レベルにさまざまな団体や組織が募っている地区経営委員会がある、というように自治体の中をさらにいくつかに区分するような仕組みを自治体内分権や都市内分権と言っている。自治体内分権の定義づけは、自治体の区域をいくつかのエリアに区分し、そこに役所の出先を置き、そこに住民代表的な組織を付帯させるという、この3つを整備しているような仕組みを言う。
  • 自治体内分権が必要になった原因は合併が大きい。合併により効率が良くなり、より高度な行政サービスが提供できるようになったが、民主主義が薄くなってしまったために、改めて自治体を合併前の市町村くらいの区域に区分して、そこに民主的な話し合いの場を設け、それに対応する役所の組織を置くようになった。ドイツの場合も合併を起源に、合併前の自治体の区域を地域地区として、もとの役場をそのまま区の事務所として置き、そこに選挙制の住民代表組織を置いている。
  • 日本の自治体内分権の特徴は、協働という政策理念によって大きく規定されている。協働とは、公共サービスを行政だけでは担いきれないので、民間側の力と行政の力とをあわせて公共サービスを確保しようという考え方のこと。ドイツの場合は、高福祉高負担国家で税金をたくさん取っており、公共サービスを提供するのは基本的には行政の役割である。しかし、日本の場合は、公共サービスの身近なところを自治会町内会や様々な民間団体が担ってきた。その動きをさらに強めようというのが、協働という政策理念である。自治体内分権も、日本の場合はこのような協働という取り組みを進めるための制度という意味合いが非常に強く、日本の特徴になっていると思われる。
  • 日本の地域社会の構造は、地域的まとまりの重層構造である。国があり県があり市があるというように、同心円状の地域的まとまりが重なりあっている。自治体の中にも、より小さな地域という役割、連合町内会と単位町内会という2つの地域的まとまりが存在している。日本の地域的まとまりを考えてみると、一番下に単位町内会・自治会がある。その単位町内会の起源は、自然集落ないし字であるように思う。これは地域によって違うようだが、連合町内会の起源は、おそらく、昭和の大合併の結果、消えてしまった市町村である。横浜市でも区域図を見てみると、昔の町村が今の連合だったりする。
  • 地域的まとまりの構造は外国にもある。ドイツのハンブルク市の場合、ヨーロッパ連合があり、ドイツ連邦共和国があり、州があり、その下に7つの区が置かれ、それぞれに区役所があり、その下に区民会議と称する、直接選挙制の大組織がある。さらに、4つか5つの地域に各区が区分されていて、そこに地域事務所が置かれており、間接選挙的なやり方をしている地域委員会というものが置かれている。また、ドイツでは、日本で言う連合会に当たる民間組織が制度化されている。日本は近代化の過程でこのような身近な地域の制度化を放置し、民間に任せてしまったが、ドイツの場合は、消えてなくなる市町村(身近な地域的まとまり)を制度の中に残しながら合併をしてきた。
  • 日本の場合は、身近な地域的まとまりを民間(地域住民)に任せたまま、戦後進み、高度経済成長期を迎え、地域のつながりが希薄化となった。希薄化は困るので、自治体は、コミュニティ政策、コミュニティづくりという政策を行うようになった。
  • 1970年代には、地域協議会や地区経営委員会というような仕組みが、先進的な自治体で取り組まれた。その中に、横浜市の区民会議もあるが、全区で1つという、コミュニティとはいえないぐらいのエリアで設立されたものだった。中野区、目黒区、三鷹市などは、小学校区や中学校区ぐらいの狭いエリアに役所の支所を置き、そこに住民協議会といった名前の、今で言う地区経営委員会のような内容の住民組織の設置が試みられた。70~80年代のコミュニティ政策の大体は、地域のつながりの希薄化に対応するというよりも、小学校区、中学校区くらいにコミュニティセンターを設置して、それを住民に管理してもらうというコミュニティ政策が主流だったと思われる。
  • バブル崩壊後、90年代の半ばごろからいくつかの自治体で新しい傾向のコミュニティ政策、地域福祉的な生活の切実な課題に対応するようなコミュニティ活動をする組織が立ち上がるようになった。早いところだと、神戸市のふれあいのまちづくり協議会、宝塚市のまちづくり協議会、北九州市のまちづくり協議会などがある。
  • 不況と財政危機の中、切実な生活課題に対応するような、地域福祉的な課題を持った住民組織を新たに作るようなコミュニティ政策が行われるようになった。このスタイルが現在の日本で行われている協働型の自治体内分権に繋がっていると思われる。バブル崩壊後の厳しい時代の中で、地域力を高めることが再び必要になった。
  • 今世紀に入ってから自治体加入率が全国どこでも、年間1%くらいずつ下がってる。横浜市は大都市であるにも関わらず、加入率が8割と高いが、全国的には、新潟あたりは90%台など高いところもあるが、政令指定都市などは70%台のところが多く、地方の県庁所在地などは60%台、東京は4~5割が当たり前という状況である。
  • 自治体加入については、必要があるかどうかだと思っている。横浜市は高度成長期に人口が爆発して行政が追い付かないという時代が長く続いたので、地域の方が頑張り、地域を支えてきた。従って、自治会の必要性が高く、それが市民にもよく分かっているので、自治会加入率が高い。しかし、地方都市は補助金などで手厚く保護されてきたので、自治会加入率が低い。自治会は必要があるから存在するのであって、必要があれば加入率が高く、なければ加入率が低いというのが私の仮説である。
  • 加入率の低下の大きな原因ではないかと考えているのは、「アパート・マンションの居住者が入らない。」ということである。昔の居住者は入っていたが今は入らない。今の40歳くらいから下の世代というのは異なった地域文化を持っていると思われる。自治会に入るのは当然だという認識をあまり持っていない。この人たちは、自治会町内会を敵視しているわけではなく、入るのが当たり前だという文化を持っていない。自治会が主催しているお祭りや防犯灯は市が管理していると思っている。そのことを分かると場合によっては自治会に入ってくれるが、加入率低下の大きな要因になっていると思われる。
  • 宮崎市では、皆が入り、負担するような新しい組織、泉区の地区経営委員会のような仕組みを作ることになった。これは、法的な仕組みとして作るので、皆がそれに関わっているということになる。また、自治会費を払っていない人でも、自治会費に含まれている様々なサービスを享受しているので、コミュニティ税として500円を住民税に上乗せし、税金を納めてもらうことにした。コミュニティ税は8,000万円近くあり、地域によっては1,000万円近く分配される。(全国の相場は、大体200万円くらいだと思われる。)
  • 横浜市としては、地域のつながりを作り直すような、新しい試みが求められていると考える。例えば、地域福祉保健計画は、地域の繋がりをもう一度考え直し、地域の実践をしていくという、よい仕組みになったのではないかと思う。このように、新しい仕組みの中で、地域のつながりを作り直すことが求められており、その1つの大きなやり方として、自治体内分権があると思っている。全国では自治体内分権という仕組みを整備して地域のつながりを作り直す試みをしている自治体が増えており、横浜市でも自治体内分権などを考えなければならない時期にきているのではないかと思われる。
  • 全国の自治体で自治基本条例を制定するところが増えており、基本的なこれからの自治体の政策の基本理念として、「参加」と「協働」の2つが使われているという傾向がある。参加というのは市政、区政に参加する権利であり、協働というのは行政と協力しながら公共サービスを自ら担う義務である。参加と協働、両方が重要である。参加は、民主主義を身近なものにする権利、意思決定に関わることである。これに対して、協働は行政だけでは全部できないから、尐し協力しようという取り組みのことである。参加と協働とが車の両輪になって地域が進んでいく新しい仕組みが必要である。それが、自治体内分権であり、泉区では地区経営委員会ということになる。参加と協働が車の両輪のようになって進んでいくということが、全国的な一般論では非常に大事なことだと思っているが、横浜市では一筋縄でいかないところがある。現に、地区経営委員会というものを全区的に立ち上げているのは泉区だけである。

横浜市

  • 横浜市は、高度経済成長期にはコミュニティは政策課題にはなり得ず、大規模開発、都市骨格、都市基盤整備をきちんとするということが課題だった。横浜市でコミュニティということが行政課題となり始めたのは、80年代の末になってからであり、他の自治体が地区コミュニティセンターなどを整備し終わっている時期である。80年代の末に、横浜市も身近な地域施設を整備するという時代になったが、他の自治体のコミュニティ政策から見れば、まだまだ十分なものではなかったと思われる。横浜市もようやく、他の都市並にコミュニティのことを考え、それを政策的な課題にすることができる状況に客観的になってきた時に、地域福祉保健計画という課題が出てきた。横浜市は非常に熱心に取り組み、多くの区では、地区別計画、ささえあい連絡会や連合、地区社協のエリアでの区計画を作った区もある。
  • 全国の自治体では、まだ、4割くらいの自治体が法律上の義務であるにも関わらず、地域福祉保健計画を策定していない中、横浜市は非常に熱心に取り組んでいる。この違いは、私の仮説では、特に地区別計画というものは、自治体内分権と同じ効果を持っていると考えている。だから、横浜市は地域福祉保健計画に熱心だと思っている。それは瀬谷区を見ているとよく分かる。瀬谷区の地区別計画は12の連合地区社協のエリアごとに地区別の計画を作って、サロン活動や防災活動や見守り活動などに非常に熱心に取り組んでいる。その中で、単位自治会やその下の組や班のレベルまで活性化してきている。こういうことは、実は自治体内分権の中で求められていることである。
  • 横浜市は高度成長期の負の遺産があった為にコミュニティの問題を政策的に取り上げる余裕がなく、だんだん成熟し、取り組める客観的状況になった時に、地域福祉保健計画という課題が与えられ、それを主体的に受け止め、自ら自治体内分権の代わりのような機能をそこに果たしてきたという経緯だと思われる。例えば、瀬谷区の場合、区域を12に分けて、その1つ1つに役所の支所はないが担当職員がいて、そこに住民代表的な地域福祉保健計画の策定のための組織(実行委員会や連合や地区社協)をおいた。これは、自治体内分権の定義に当てはまると考えている。このように横浜市は、コミュニティのことを考えるために、自治体内分権に取り組むという課題を地域福祉保健計画という制度的な枠組みの中でやり始めたということだと思われる。地域福祉保健計画に取り組む中で、横浜市流のコミュニティのあり方、自治体内分権のあり方が開発されると期待されるものだと思う。そして、自治体内分権の仕組みそのものを実践する泉区が出てきた。泉区が先頭をきって、地区経営委員会という自治体内分権の住民組織を設置した。
  • 大都市ならではの課題として、代表者が2名ずつ地域協議会という区レベルの代表組織に出ているというように区レベルでも住民対応的な組織が必要だと思われる。人口360万人もいて、1人の市長と1つの議会しかない横浜市には、尐なくとも、区に何らかの住民参加的な組織が必要ではないかと考えている。住民が関わって区政の運営を定めていくような仕組みが必要である。私は、横浜市大都市制度検討委員会において、区レベルに選挙制の議会的な代表組織を置くべきではないかという提言をしている。選挙制の組織を身近に置くことについては若干疑問があるが、民主主義ということを考えると尐なくとも、区レベルくらいには、はっきりした制度的実現、決定権を持っている選挙制の組織が必要ではないかという提言を検討委員会ではしている。これに対して、連合自治会くらいのレベル、いわゆる地域レベルでは、自治会町内会を中心とした、さまざまな地域の活動をしている方が集うような共同型の地区経営委員会を作るというように、区レベルと地域レベルとで違った性質の住民組織を置いて、それぞれが連携をとる、という2層性の自治体内分権制度を考えていく必要がある。単位自治会、連合自治会と、横浜市の場合、区というかなり大規模な自治体ができているので、それに対応した自治体内分権制度を作らざるを得ないのではないか。
  • 地区経営員会がどんなことをする組織となるかは、いくつか多面性があると思っているし、地域によっても状況は違うと思っている。例えば、地域の中の活動団体の間の風通しをよくするというだけでも意味のある地域もあるだろうし、地域の中に新しい課題を発見して取り組むような意志決定機能が非常に有効な地区もあると思われる。地区経営委員会が、地域でどの団体も取り組んでいないが、深刻な課題がありそうだと発見し、自ら取り組むということが必要な地域もあるかもしれない。ニーズがあり、問題になってきているのに、自治会も他の団体も取り組んでいないので、組織を作らなければならないということを地区経営委員会が問題提起をして、かつ自ら解決に乗り出せるような組織を作り、さらに用意されているお金を投入するような事業実施をやるということもあると思われる。どう取り組むのかというのは、一概には言えず、どの自治体も手探りでやっている。それぞれの地域で考え、まだ、解決されていない地域の中に眠っている、隠れているニーズがあるかもしれないので、それに取り組むような方向で考えてはどうかと思っている。
  • 自治体内分権の取り組みをすることで、最終的には、地域が元気になって、かつ、福祉的な理念、どんな人でも地域で安心して暮らす、そういう地域が出来ていくことになるのではないかと思っている。協働というのは、財政危機なのだからしょうがないだろうという感じで、住民に仕事をやらせるというように受け止められがちだが、それだけではなくて、誰でも安心して暮らせるという福祉国家を皆が共有できるようにしていく必要があると思っている。

質問

  • 連合自治会が地域を支えているということは、誰もが認めているし、連合自治会が中心となって動けるような組織づくりを進めていかないと、課題解決がしにくい。新しい組織を作ること自体がいいことではなくて、連合会の傘下にいろいろな解決をする組織を作ったらどうかと思うが、それはどうお考えですか。

名和田先生

  • 平均的には、4~6割が当たり前のような自治会の状況だと、自治会を中心としながらも、それ以外の力を合わせて新しい地域を作っていくという自治体内分権のようなやり方が求められているのが平均的なやり方だと思う。しかし、自治会の中には、十分にすべての課題解決が出来ているという所もあるかも分からない。そういう地域は、この仕組みを一元的に作っているが、本当に必要あるのかと疑問になると思われる。泉区は横浜市の中で、先頭をきってこういう試みをしたわけなので、率直なところを言ってもらい、横浜市でどういう制度が望ましいのかということを検証しないといけないと思う。
  • 松山市では、条例を作り、加入率は6割と尐ないが、まちづくり協議会という名前の地区経営委員会にあたる組織を作っている。このまちづくり協議会は申請をして設置するというやり方なので、市が無理やり全域に作るということをしていない。(41ある地域の内9つ設置。)松山市の場合、会費を取って、歳入としている。現時点の自治会と同じなので、自治会の加入率分の会費しか入ってこない。自治会の会費を100円余分に払ってもらい、その分をまちづくり協議会の財源に当てている。このように、まちづくり協議会というものの必要がなく、連合自治会でやるということであれば、連合にあがってくる会費を増やすといったことがありうる制度設計になっている。横浜市では、どちらがいいかは分からないが、港南区では連合自治会に加入していない単位自治会も結構出てきている。連合だけではなくて、もう尐しいろんな団体を入れた新しい組織が必要なのかなと思えるような区である。そこのところを横浜市全体の制度設計を検証するという意味で、泉区で上がってくるいろんな疑問を率直に言ってもらった方がいいと思う。

質問

  • なぜ新しいコミュニティづくりが必要になったかというと、高度経済成長に農村が崩壊して、地方都市は崩壊したために、地域力が必要になってきたからである。これからの社会を考えた場合、再び、昔みたいに個人所得が増えて、地域力はどうなってもいいという時代がやって来るのか来ないのかということを先生の個人的な考えをお伺いしたい。

名和田先生

  • 今後経済がどうなっていくのかは分からないが、格差の拡大といわれており、高度成長期のように全員の所得が上がっていくことには今後はならないのではないか。特に、国際競争に勝っていくため、高度成長期のように個人所得が増えていくということにはならないのではないかなという気がする。高度経済成長期は基本的には、個人所得が上がって、地域で一緒に、例えば、旅行会に行くとか今でもやっておられると思うが、それに対する期待感は住民の中では、昔の比ではないだろうということと、もう1つは、今まで自治会がやっていたことを、行政がするようになるという傾向が一部の領域で生じたと思われる。例えば、道路事業などは道路事務所がすることになり、自治会町内会がやっていることの大事さが見えにくくなった。消滅したわけではないが、見えにくくなったということが大きな変化だったのではないかと思っている。その傾向が90年代以降、逆転したと思っている。

問合せ先

区政推進課地域力推進担当 (3階307番)
電話:045-800-2333
FAX:045-800-2505

このページへのお問合せ

泉区総務部区政推進課

電話:045-800-2337

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ファクス:045-800-2506

メールアドレス:iz-kusei@city.yokohama.jp

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