よこはま彩発見
2026年9月号
<読者プレゼントあり>
海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ都市横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は、横浜市歴史博物館(都筑区)からです。
海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ都市横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は、横浜市歴史博物館(都筑区)からです。
横浜市歴史博物館 学芸員 花澤明優美
横浜に、千年近く前につくられた仏像が、今も大切に受け継がれていることをご存じでしょうか。
平安時代後期、都が置かれた京都では、仏師・定朝によって、日本の仏像の典型となる「和様」が完成しました。穏やかな表情と整った姿を特徴とするその様式は各地へ広まり、地方でも多くの仏像が造られるようになります。しかし、地域に残る仏像を見ていくと、都の新しい様式を取り入れながらも、その土地ならではの個性が息づいていたことがわかります。横浜市歴史博物館で開催する特別展「南武蔵の平安仏」では、現在の横浜市域を中心に伝わる平安時代の仏像を通して、地域に根付いた仏教文化の姿をご紹介します。
現在の横浜市域の大部分は、かつて武蔵国の久良岐郡・橘樹郡・都筑郡に属していました。そのなかでも久良岐郡の中心的な寺であったと推測されている南区の弘明寺には、11世紀中頃に作られたとみられる「十一面観音菩薩立像」が今も残されています。
この像には、都で生まれた新しい様式と地域性が共存しています。 全体は和様にみられる穏やかで優しい作風である一方、像の全面にノミで削った跡が大胆に残された「鉈彫り」という東日本を中心にみられる表現が用いられています。
また、平安時代後期には複数の木を組み合わせて仏像を造る「寄木造り」が用いられるようになりましたが、この像は頭と体幹部を一本の木から彫り出す「一木造り」という古い技法によって造られています。
こうした特徴からは、都の文化がそのまま地方へ伝わったのではなく、地域のなかで徐々に受け入れられていったことが伺えます。
現在の都筑区にある薮根不動原遺跡からは、瓦搭破片や浄瓶、灯明皿などの仏教信仰に関わる遺物が見つかっているほか、仏堂とみられる建物跡も確認されています。この地域でも、仏教信仰の場が築かれていたことがわかります。
都筑郡域には都筑区の清林寺菩薩立像や港北区の西方寺十一面観音菩薩立像など、寺の創建や現在地への移転以前からその地で祀られていたとみられる、像高1m弱ほどの平安仏が伝わっています。これらは薮根不動原遺跡にみられるような集落のなかに建てられた小さな仏堂を前身とした堂宇の本尊であった可能性も考えられます。また、青葉区の真福寺菩薩立像のように、通常の千手観音菩薩像とは違う、変わった姿の像も残っています。この地域で造られた独特な古仏の影響を受けたものかもしれません。特別展「南武蔵の平安仏」出陳予定の横浜市の仏像は、これら都筑郡域のものが中心です。清林寺像、西方寺像、真福寺像ともに和様の影響をうけた12世紀の作で、ゆったりとした量感の体躯で静かに立ち、全体に素朴な雰囲気の残る作風を示します。
平安時代の終わり頃になると、横浜市域の仏像にも新たな変化が現れます。磯子区・真照寺の阿弥陀三尊像や栄区・證菩提寺の阿弥陀三尊像には、中央風の洗練された表現がみられます。いずれも鎌倉の武士が造像に関わったと考えられています。
地域に残る仏像をたどると、そこには都から伝わった新しい文化だけでなく、それを受け入れた人々の営みや祈りの歴史が刻まれています。特別展では、そうした仏像たちをご紹介します。ぜひ会場で、一体一体の表情に向き合いながら、南武蔵の人々が紡いできた歴史に思いを巡らせていただければ幸いです。
◇特別展「南武蔵の平安仏」~10月31日(土曜日)から12月13日(日曜日)まで開催~
横浜市歴史博物館
TEL:045-912-7777
FAX:045-912-7781

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広報よこはま2026年9月号に紙面掲載した「よこはま彩発見」の内容は、「よこはま彩発見」紙面連載バックナンバー(2026年分)をご覧ください。