よこはま彩発見
2025年9月号
海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ都市横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は、横浜美術館(西区)からです。
広報よこはま2025年9月号に紙面掲載した「よこはま彩発見」の内容は、こちらのリンク先をご覧ください。
海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ都市横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は、横浜美術館(西区)からです。
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横浜美術館主席学芸員 松永 真太郎
ピタゴラ装置(NHK「ピタゴラスイッチ」より)
画像提供:横浜美術館

[上]ポリンキーの秘密(湖池屋)
[下]バザールでござーる(NEC)
ともにアドミュージアム東京所蔵
「佐藤雅彦」という名前を聞いてピンとくる人は、あまり多くはないかもしれません。しかし、佐藤の手がけた作品のどれかには、なじみのあるもの、記憶に残っているものがあるはずです。
例えば、1950年代から1970年代頃に生まれた人であれば、1980年代の終わり頃からお茶の間を席巻した、湖池屋の「スコーン」や「ポリンキー」、NECの「バザールでござーる」といったCMの強烈な印象が記憶にあるでしょう。
1980年代から1990年代生まれの人なら「だんご3兄弟」に夢中になったでしょうか。それ以降の世代であれば「ピタゴラスイッチ」にハマっている人も多く、また私を含め、その親世代は、最初に挙げたCMの数々を当時リアルタイムで見ていたかもしれません。
世代を超えて親しまれてきたこれらの創作物がすべて、佐藤雅彦というひとりの人から生み出されたものなのです。

佐藤雅彦+桐山孝司 《計算の庭》
また、その表現ジャンルの振り幅の大きさも類を見ません。広告などのヴィジュアルデザインやコピーライティング、ゲーム、楽曲、映画、教科書、そして膨大な著書まで、多彩な表現を手がけています。
展覧会の来場者は、展示されたいくつもの作品をみながら、
「これ懐かしい…」からはじまり、
「あ、これも知ってる!」を経て、
「これも同じ人がつくったものだったの!?」、さらに
「え、こんなものもつくっているのか!!」と、
次々に発見と驚きを繰り返すことになります。
とはいえ、佐藤作品の多様さに驚くのは、この展覧会鑑賞のファーストステップにすぎません。それらの創作物を通じて、ひとりの表現者としての際立った独自性を知るという、次のステップが控えています。
佐藤の創作の根底に共通する独自性。それは、世の中のさまざまな事象(お菓子のCMでも、数学の問題でも)を「どうすれば分かりやすく伝えられるか」ということを、表現の目標としている点にあります。そして、その伝えるための方法、つまり「作り方」の開発に重きを置いている点でも一貫しています。佐藤の作品は、そのひとつひとつが、楽しさ、美しさ、心地よさ、意外性に満ちていますが、見る人の多くがそうした感覚を共有できること自体が、佐藤が「分かるように伝える」ための「作り方」の開発に成功している証ともいえます。

佐藤雅彦+桐山孝司 《指紋の池》
「この展覧会のテーマは、『作り方を作る』です。」
会場入口脇の壁に貼り出されているこの一文は、来場者に向けた佐藤自身によるステートメント(声明)です。この展覧会では、佐藤の作品そのものと同時に、あるいはそれ以上に、その「作り方」のほうを前面に押し出しています。「佐藤雅彦には、“企業秘密”という概念はないのか?」と訝しんでしまうほどに、佐藤独自の方法論が、具体的な着想の源泉も交えて、映像と文章によってつまびらかにされていきます。
佐藤は自身の創作を、「メディアをつかったコミュニケーションデザイン」と定義します。
会場に展示されている作品の≪計算の庭≫や≪指紋の池≫(いずれも桐山孝司との共作)は、体験している人と、それを見ている人とが意識や感覚を共有できるテクノロジーアートの代表的な作品です。こうした作品だけでなく、CMや教育番組のコンテンツにおいても、ひとつひとつが見る人の思考や感覚に強く訴えてきます。
佐藤の言う「分かるように伝える」の「分かる」は、単純に「理解する」という意味にとどまらず、作品から誘発されるさまざまな感覚、さらには「もっと分かりたい」と感じさせるような、感覚や意識の高まりまでも含んでいます。そういった意味でも、五感に強く働きかけ、「もっと分かりたい」という気持ちにいざなうこの展覧会自体が、佐藤雅彦によるひとつのメディアコミュニケーション作品と言ってもいいでしょう。
連日、多くの方で賑わっている展覧会場には、頭と感性をフル稼働して何時間も鑑賞に没頭している大人たちの姿が目にとまります。とはいえ、子どものストレートな思考と無垢な感受性も、侮れません。たとえ会場各所の解説文の意味をすべて理解しきれなくても、この展覧会が伝えたい「考えることの大切さ」を、きっと感じとっているはずです。
「横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」は、11月3日(月・祝)まで開催中。
※日時指定券が必要です。
※10月・11月の土曜日は、開館時間を20時まで延長します。
横浜美術館
TEL 045-221-0300
FAX 045-221-0317
いつも「広報よこはま よこはま彩発見」をご覧いただき、ありがとうございます。感想をお寄せいただいた方の中から抽選で、「横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」の招待券を10名様にプレゼントします。
(※別途、日時指定予約が必要な券です。)
ご希望の方は、次の6項目※を明記し、郵便はがき(〒231-0005 横浜市中区本町6-50-10 横浜市役所政策経営局広報・プロモーション戦略課 あて)または電子メール(ss-saihakken@city.yokohama.lg.jp)でご応募ください。締切は2025年9月30日(火)必着です。
※①郵便番号、②住所、③氏名、④感想、⑤読んでみたい記事、⑥「9月号プレゼント希望」
なお、当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。また、いただいた個人情報は、賞品の発送以外の目的には使用しません。
横浜市役所政策経営局広報・プロモーション戦略課
TEL 045-671-2332
FAX 045-661-2351