ここから本文です。

はまふぅど人32号

最終更新日 2018年8月27日

健康的で長く続けられる農業を実践し、おいしい農産物を地元の人に届ける
野彩家 佐藤農園 園主 佐藤克徳(さとう かつのり)さん

はまふぅど人32

緑区の十日市場駅からほど近く、恩田川沿いに田んぼや畑ののどかな風景が広がります。ここで代々続く農家を受け継ぐ佐藤克徳さんは、こだわりの農業を実践。直売所“野彩家(やさいや)佐藤農園”に並ぶ米や野菜は、地域でも評判です。さまざまな取組みを続ける佐藤さんに、農業にかける思いや今後の展開についてお話を聞きました。

試行錯誤を繰り返し無農薬・減農薬の農法へ

佐藤さんが手掛ける農産物は、米をはじめ、野菜や果物など年間に80~100種。「なるべく無農薬、どうしても虫がついてしまうときは1~2回だけ、でんぷんのりや無機銅剤など環境保全型の農薬を使うようにしています。それに今はもう、化学肥料はほとんど使っていません」。
佐藤さんが農薬や肥料にこだわる理由の一つは、昔からの日本の農業を残したいから。幕末の開港以前の日本は、下肥(人や家畜の排泄物)や魚の油の搾りカス、雑草などを堆肥にしていました。「自然から生まれた国内産の肥料だけでうまく循環していたんですよ。さすがに今は下肥は使いませんが、昆布や魚粉、米ぬかなどを堆肥にしています」。
そしてもう一つ、大学生のときに“先天異常学”という学問と出合い、食べ物や肥料に含まれる化合物が妊婦や胎児に及ぼす影響について卒論のテーマとし、研究したことがきっかけでした。卒業し、研究員として就職した後も、毒性試験などに携わります。
そして20代後半に就農。無農薬・減農薬の農業に取り組み始めました。「本当はやりたくなかったんです。百姓なんか」と笑う佐藤さん。「それでも、自分でやるようになったら、けっこう楽しくて」。“有機農業研究会”の会員になり、あちこち出かけては有機肥料を試す忙しい日々。ときには、トマトやキュウリが病気にかかって全滅したことも。さまざまな試行錯誤を繰り返すうちに、だんだん現在のやり方が確立してきました。
その努力が認められ、神奈川県からは“エコファーマー”、横浜市からは米など一部が“特別栽培農産物”の認証を受けています。特別栽培農産物とは、その地域の一般的な農法に比べ、化学肥料の窒素成分量と化学合成農薬の使用回数が半分以下の作物。窒素は植物の成長に欠かせない栄養素の一つですが、あまりに多く含まれたものを乳児が摂取し続けると、悪影響を及ぼすことがあるそうです。

直売所に並ぶ多彩な野菜地域の人にこそ食べてほしい

佐藤さんが手塩にかけた米や野菜は、直売所“野彩家 佐藤農園”に並びます。香りが強く、味が濃いと好評で、「おいしかったって言われるのが最高で、至福です。そのうれしさは、暑くても寒くても、台風でも、種まいたり、草取りしたり、経験した人じゃないと分からないでしょうね」。
ごくまれに「虫がいた」と指摘を受けることもあります。そんなときは無農薬・減農薬で作っていることを丁寧に説明。「申し訳ないけどって、お客さんに直接説明できるからありがたい。都市農業のいいところです」。3月ころはイチゴやセロリ、インゲン、コマツナ、ホウレンソウ、もう少し後で、さまざまな種類のレタスも野彩家の棚を彩ります。
育てた野菜を、地域の人にこそ食べてもらいたいと考えている佐藤さん。これから子孫を残していく若い世代は特に、健康のため、食べるものに気を遣ってほしいと言います。「うちのじいさんは100歳まで生きてくれましたけど、見た目は本当に質素なもん、食ってたと思うんですよ。でも質は良かったんじゃないかな」。

地元の米を地元の子どもに食育から広がる地域の輪

子どものころから米を中心とした食生活に親しんでほしいと、佐藤さんは地元の小学校の子どもたちに米作りを教えています。子どもたちは1年を通して、田植えや除草、稲刈りを体験。農薬や化学肥料を使わずに、米を育てています。最後は、杵と臼で餅をついて、大地の実りを味わいます。「実際に農作業に従事してもらうと、一つひとつの作業を通して“食の大切さ”とか“農家の苦労”とか、分かってくれるんですよね」。学校給食のご飯や野菜が佐藤さんの作ったものだと子どもたちに伝わると、食べ残しの量が減るそうです。
米作り体験の効果は食育だけにとどまりません。佐藤さんは子どもたちと面識ができ、地域ぐるみの見守り活動に一役買っています。「“あ、佐藤の親父だー”って言ってくれれば、“ご飯食べた?”とか“早く帰んなさいよ”とか、声を掛けられるじゃないですか」。ときには、大人になった卒業生にあいさつされたり、親御さんから「佐藤さんのおかげで、バラ農園に就職しました」とお礼を言われたことも。「それはうれしかったですね」と佐藤さん。

行政、市民、飲食店、デザイナー…農家をとりまく心強いサポーター

横浜の農業の特徴は「行政がいろんな人を巻き込んで、農家をサポートしてくれること」と佐藤さん。
例えば、横浜の農家では、援農ボランティアや市民菜園の参加者など、さまざまな人がヘルパーとして農作業に従事。佐藤さんの田んぼや畑でも活躍の“はま農楽”は横浜市独自のシステムから生まれた団体です。市が開催する市民農業大学講座を卒業した有志の集まりで、農家の要請を受け、市内各地に“お手伝い隊”として派遣されています。「みんな自分より先輩です。一緒に草取りしてくれて、頭が下がります」。
同じく、市の講座を受講して認定された“はまふぅどコンシェルジュ”たちは、朝市や農イベントなど、農家と消費者をつなぐ現場で活躍します。
飲食店は“地産地消サポート店”として、横浜の農産物を積極的にメニューに取り入れて応援。さらに、観光やデザインの専門家とコラボレーションし、農業を盛り上げていく企画なども始まっているとか。「一つひとつの活動の歯車がうまく回り始めていて、いい仕組みだなと思います」。
今後、横浜の農業に期待することは「少しでも長く、多世代にわたって続けていける環境であってほしい」。十日市場には田んぼが多くありますが、高齢化の影響で耕作しきれない田んぼが増えています。畑は個人でもできますが、水田は水利の面から地域の農家みんなの協力が必要とのこと。「多くの人の協力を得ながら、次世代に残したい」。また、長く農業を続けるには、地域住民とのコミュニケーションが大切と言います。「農薬や堆肥の臭いなど、畑の近所の人たちに丁寧に頭を下げて説明する責任があるのかな」。

佐藤さんの新たな挑戦そして、新たな世代へ

佐藤さんは今、新たな品種の米に挑戦しようとしています。粘り気の弱い高アミロース米“ホシニシキ”です。パラパラした米粒が特徴で、カレーやパエリア、リゾットなどに向いています。全国的にも作っている農家は少なく、種もみがなかなか手に入りませんでした。「さまざまな方の協力もあり、今やっと、取り寄せの目途がついたところ。楽しみですね。頑張りますよ」。
自身を“農家”ではなく“百姓”と呼ぶ佐藤さん。「百の女が生きるって書くでしょ。百姓は女が元気でないと」。佐藤家では今、佐藤さんとお父さんに加え、お母さんと奥さんも農作業に携わっています。さらに、娘さんが農園を継ぐべく、農業技術センターで勉強中。「いろいろ試行錯誤して、形は変えてもいいと思うんですよ。でも代々昔から続いている質は変えてほしくない。“やると決めたなら、ちゃんとやれ”って話をしたんです」。佐藤さんがおじいさんやお父さんから引き継いだバトンは3世代の想いを乗せて、また新たな世代に受け継がれようとしています。

このページへのお問合せ

みどり環境局農政部農業振興課

電話:045-671-2637

電話:045-671-2637

ファクス:045-664-4425

メールアドレス:mk-nogyoshinko@city.yokohama.lg.jp

前のページに戻る

ページID:320-066-161

  • LINE
  • Twitter
  • Facebook
  • Instagram
  • YouTube
  • SmartNews