このページの先頭です

はまふぅど人17号

最終更新日 2019年3月19日

はまふぅどナビ17号(2010年5月14日発行)

都市農業のメリットを最大限に活かす
JA横浜独自の一括販売システム

矢沢定則さん(前JA横浜営農経済部長)

矢沢定則さんの写真
前JA横浜営農経済部長の矢沢定則さん


横浜市内には、およそ3200ヘクタール(東京ドーム684個分)の農地があり、約4500軒の農家が農業を営んでいます。人口367万人を擁する大都市にあって、これだけの農地が残っているのは全国的に見ても珍しいケース。農業がここまで守られたのは、農地保全のハード面と、農産物販売のソフト面がうまくかみ合ってきたからこそ。農地保全のために、横浜市は「計画的都市農業の確立」というコンセプトの下、およそ半世紀の間「農業専用地区」制度など多様な農業施策を重ねてきました。また、販売面では、生産者の方々が市場出荷のほか、独自の販売チャンネルを有していますが、加えて、20年前から行われているJA横浜独自の一括販売制度が横浜の農業に大きく貢献しています。この制度を考案し、中心となって取り組んできたのはJA横浜の矢沢さん。仕組みづくりの背景と横浜ならではの農業の形について、お話を伺いました。

都市農業を守るために生まれた「一括販売」制度

矢沢さん
横浜で採れる野菜の量は、市内全体の消費量の2割弱。米に至っては、市民1人当たりわずか210グラム。生産量が少ないからこそ、地域住民に向けた流通をしないと農業がなりたちません。

一般的に、農協における農産物販売は、農家によって組織された組合が品目や品種を決めて計画生産し、安定した一定量の作物を、農協を通して市場に出荷する「共販」という方法で野菜や果樹を販売しています。これに対し、JA横浜が行っている「一括販売」は、JA横浜に登録している生産者なら誰でも、品種や量に関わらず、いつでも農協に出荷できる制度です。規格外の作物でも、少ない量でも出荷できるため、自家用野菜の規模で野菜作りをする人や、市場出荷が難しくなった高齢農家まで、さまざまな農家が参加できるのが大きな特徴。農協は、出荷された野菜を市場やスーパー、直売所に卸します。平成4年にスタートしたこの制度の背景には、都市化に伴って零細化していた農家の販売先を確保する必要性がありました。

「一括販売の前身となる小口農家の販売は、約20年前に舞岡の農業地域でスタートしました。宅地化がどんどん進み、農業が打撃を受けていた時代です。当時の舞岡には55戸の農家がありましたが、専業農家はそのうちの15戸で、40戸は他の仕事にも従事している兼業農家。農業専用地区に指定されている舞岡で何とか農業を続けるために、規模の大小に関係なく、地域のみんなで力を合わせようというところから、一括販売の仕組みの原型ができ上がりました」。

市場に農産物を卸すには、1種類で200個くらい揃わなければ商品になりませんが、自家用野菜くらいの規模でやっているところでは、1種類でせいぜい20個くらいしか収穫できません。ならば、そうした小規模農家を10軒集めて200個の作物を揃えればいいと、スタート当初、矢沢さんは自らトラックを運転して各農家を回り、野菜を集めていたそうです。ところが、集めた野菜を市場に持って行っても、形が不揃いで規格に合ったものが少ないために、商品価値を認めてもらえません。そこで、市場を通さずに、農地に隣接する大手スーパーと直接契約し、毎朝採れたての野菜を持って行きました。すると、市場では評価されない作物を、近隣に住む消費者が安心感を持って購入してくれたのです。「その頃はまだ『地産地消』『地場野菜』なんて言葉がなかった時代です。でも、近所の人たちは『うちの近くの舞岡で作った野菜』ということで、価値を認めてくれる。それが一括販売の原理になっています」。


逆転の発想で生まれた横浜独自の地産地消スタイル

ハマッ子
地元の農産物が購入できる横浜のファーマーズマーケット「ハマッ子」

農業を活性化させるには、たとえば愛媛のみかんや、新潟のコシヒカリのように、名前を聞けば誰もがわかるようなブランド品を作るのが、一番いい方法です。しかし、農地があちこちに点在していて、まとまった広い面での農地が確保できない横浜ではそれは難しいこと。全国展開できない横浜の農業を存続させるには、同じ地域の消費者に支えてもらわなければなりません。現在、市内に9店舗あるJA直営の農産物直売所「ハマッ子」「メルカート」は、そうした逆転の発想によって生まれた地産地消の拠点です。

「他都市では、観光スポットのような大きい直売所を作って収益を上げているところもありますが、横浜ではひとつの大きな拠点を作るのではなく、ネットワーク網での流通を構築しています。農家の個人直売所とJAの直売所、大手スーパーなど、市内のいたるところを網羅して、どこに行っても市内産野菜が購入できる仕組み。店舗の規模が小さくても、隣近所の人が毎日買いに来てくれるような場所が近くにあればいいと考えています」。

農産物直売所「ハマッ子」や「メルカート」の各店舗は、おおよそ半径5キロ四方にある農家の野菜を扱っていますが、店によって種類や数が偏らないように、市内の他の地域で採れたもので補完しています。だいたいどの店も近隣5キロ圏内の生産物が70%、それ以外の横浜産野菜が30%くらいの割合。どの店舗も横浜産の野菜が占める率はほぼ100%ですが、地場率が高いということは、旬の野菜以外は扱っていないということです。

「ハマッ子などでは、地域の農業を見せるような品揃えをしているので、季節はずれの野菜はないし、旬の時によく採れるものがあれば、そればかりになる時もあります。生産農家の奥さんは、ほうれん草ばかり続く時には、飽きないように工夫してほうれん草を使った料理のバリエーションを考える。それが農家の知恵だし、その土地の食文化を作っています。生産者から調理方法を教えてもらうのも、直売所を利用するメリットだと思いますよ」。


「個」→「隣」→「域」へ地産地消は自給の連鎖

大熊にこにこ市
20年前から続く農家直売所、大熊にこにこ市。「一括販売を始める前に視察に行き、こういうやり方があるんだとヒントをもらいました」(矢沢さん)

農地が減少しつつある横浜では「専業経営で儲かる農業」という展開は難しい、と言う矢沢さん。横浜の農業の価値は市民と共有するところにある、と話します。

「本来、それが農業の基本形です。農業の目的は、まずは自分の口をまかなう「個」の自給。そしてみんなで助け合って生きていくために、個人の直売の形で隣近所におすそわけをする。それが「隣」の自給。そこに農協の歯車を噛み合わせてもう少し広い範囲の地域へとつなげ、「域」の自給へと発展させる。「個」から「隣」、そして「域」へとつながって、消費者である市民の間にその連鎖がぐるぐる溶け込んで行くのが、横浜の農業と地産地消の形です」。


店内
JAの直売所で月に2回販売する横浜産の牛や豚などの肉類は大人気。地元農家から1頭買いをするので、さまざまな部位の肉が揃う。

そもそも横浜には、明治、大正の時代から引き売りや軒先の直売で近隣の人たちに作物を売り、自分の畑の規模に見合った流通を築いてきた農家の人たちがいます。

「行政や農協に頼らずとも、農家がずっと昔から地産地消の原型を独自に築いているのです。現在、市内には農家の個人直売所が約1000軒ありますが、大規模農家が減る一方で、こうした小さな直売所は増えてきている。これは横浜ならではの特殊な現象ですよ」。

今後は、定年帰農者や女性の農業従事者ができる範囲で農業を続けられるよう、支援に力を入れて行きたいとのこと。市場で産地間競争をするような大きなビジネスにはならないけれども、そんな農業モデルがあってもいいんじゃないか、矢沢さんはそう考えています。

このページへのお問合せ

環境創造局農政部農業振興課

電話:045-671-2637

電話:045-671-2637

ファクス:045-664-4425

メールアドレス:ks-nogyoshinko@city.yokohama.jp

前のページに戻る

ページID:746-982-275

先頭に戻る