第3章 人権施策推進のための取組 ※の用語は巻末資料「用語解説」に掲載しています。 1調査・実態把握 人権問題の多くは、見えにくく、気づきにくいことから、偏見や差別により苦しんでいる人々が置かれている状況を、周囲の人が認識することの難しさがあります。例えば、障害者や高齢者の中には、人権侵害の場面にあっても自らの意思を十分に伝えることができない状況にある人がおり、表面化している事例が全てではありません。 人権侵害の解決に向けて効果的な施策を進めるためには、これらの問題を的確に把握し、偏見や差別により苦しんでいる人々の思いに寄り添って、迅速に取り組むことが必要です。 横浜市では、これまでも定期的な「人権に関する市民意識調査」や分野ごとの生活実態調査などを通して実態把握を行ってきましたが、今後も、各種の調査を通して市民意識の動向を把握します。また、差別されている当事者や、その支援等の活動に従事する人権関係団体・NPO法人などで構成された「横浜市人権懇話会」※ での意見交換、相談・対応事例の検証・蓄積などによって、より的確な実態把握に努めます。 2研修・教育・啓発の推進 偏見や差別が生じる要因は、その多くが誤った認識や知識の不足などにあるといわれています。これらの要因を取り除くためには、市民一人ひとりが日々の生活の中で、人権の大切さを理解し、人権意識を高める努力をすることが、何よりも重要なことです。また、このことが「共生の心」の醸成にもつながることになります。 「人権に関する市民意識調査」の結果からも、多くの市民が差別された経験を持っていることがうかがえます。差別をなくす取組を進めるためには、差別されている人々の視点に立って、その解決を図っていく必要があります。このため、まず職員及び教職員などが、人権問題を解決する社会的な責務を自ら強く認識し、何よりも自らの人権感覚を高めるために人権研修に積極的に参加します。 また、学校教育においては、引き続き子どもの発達段階に応じた人権尊重の精神を基盤とする教育を推進します。 そして、市民が主体的に、様々な年齢層や生活様式の方々が参加できる啓発活動を推進します。 なお、これらの取組については、「横浜市人権啓発推進計画」(平成15年度(2003年度)策定、平成24年度(2012年度)改訂)を見直し、国内外の人権施策などとの整合性を図るとともに、国などの関係機関をはじめ人権関係団体・NPO法人などとも連携・協力しながら着実に推進します。 (1)研修 ア横浜市職員の人権研修の充実 全ての職員が人権問題を正しく理解し、自分の問題として捉え、自身も含めて人権を侵害する行為をなくすという問題意識を持ち、それぞれの分野においてその解決に向けて取り組むよう、人権研修を充実します。そのために、引き続き「横浜市職員人権啓発研修推進要綱」(平成2年(1990年))による研修の充実に努め、日常の業務に反映できるよう職場内研修を推進します。 また、業務の性格上、人権に対する十分な認識や取組姿勢が求められる各種相談業務や戸籍等の業務に従事する職員、人権に関わりの深い業務に従事する保健・医療・福祉等専門職員に対する人権研修の推進に努めます。 横浜市の外郭団体や指定管理事業者についても、同様の人権研修に取り組んでいきます。 イ教職員の人権研修の充実 学校教育の場において一人ひとりの子どもの人権を尊重し、人権教育を推進するためには、教職員一人ひとりが豊かな人権感覚を身につけ、子どもたちの発達段階に応じて人権教育に取り組むことが必要です。 教職員一人ひとりが人権問題を自らの問題として認識し、一人ひとりの子どもを一人の人間として大切にするとともに、様々な背景をもつ子どもたちの思いを受け止められるよう、教職員に対する人権研修を充実します。 ウ事業者などによる人権研修の取組支援 全ての民間事業者においても、事業者が自ら主体的に人権尊重の取組を進めていただくとともに、地域社会の一員として取組に御協力いただき、社会的な問題解決や地域社会に積極的に関わっていただけるよう、人権研修に取り組むようお願いしていきます。 横浜市は、事業者が行う自主的な研修に対して、研修内容の充実や研修効果を高めるため、研修教材の貸出しや研修の実施に際して相談に応じるなどの支援を行います。 (2)教育 ア子どもの意見の尊重 子どもの人権を尊重した教育を進めていくためには、子どもの意見を聞く機会を確保するとともに、意見を尊重することが重要です。学校でも家庭や地域においても、子どもの年齢や発達段階に応じて意見が尊重される社会づくりに努めます。 イ人権教育の推進 (ア)人権が尊重される環境づくり 学校では、人権に関わりのある様々な課題に対応するため、各校に人権教育推進担当者を配置するほか人権教育の全体計画を作成して、人権教育の推進に取り組んでいます。また、全教育活動を通じて、差別をなくす人権教育を推進するとともに、「だれもが」「安心して」「豊かに」の視点で目の前の子どもの背景を捉え、課題を解決することに努めます。 人権尊重の精神を基盤とする教育の推進により、自分が大切にされていると感じることができる教育環境づくりに努めます。 (イ)人権教育カリキュラムと教育手法の充実・工夫 子どもの発達段階に応じて、様々な人権問題に対するカリキュラム開発を全ての教科を対象に検討し、学校の教育活動全体を通じて人権を尊重する意識を育てるとともに、一人ひとりの人格を大切にする人権教育の充実を図ります。 また、子どもたちが、人権問題を身近な問題として捉え、人権を尊重する意識を高めることができるよう、体験型教育プログラムを活用するなど、教育手法の工夫を図ります。 ウ学校と地域社会が一体となった人権教育の推進 人権教育は、学校活動の中でのみ行えば十分であるというものではありません。人権教育の推進には学校・家庭・地域が一体となった取組が不可欠です。様々な分野において学校と地域社会が一体となった人権教育の取組を推進します。 (3)啓発 ア自己啓発やエンパワメント※の取組支援 人権啓発においては、一人ひとりが主体的に取り組むことが重要です。横浜市は、市民が主体的な自己啓発や学習に取り組めるよう支援します。 また、差別や偏見に苦しんでいる人々が本来持つ権利を認識し、自分自身の課題の解決や主体性の発揮に向けて行う取組を支援します。 イ啓発手法の工夫 横浜市では、市民の多様な生活様式に応じた啓発機会を提供します。聴講型の講演会やパネル展の開催、広報よこはまの他、インターネットコンテンツの充実やSNSでの発信など市民の皆様の世代や、興味・関心に応じて手法を工夫し、より多くの方がともに考え、感動や共感を得ることができ、主体的な人権尊重につながるような啓発活動に努めます。 3相談支援の充実 全ての人が人権を尊重され、安心して暮らすことのできる社会を実現するためには、人権を侵害されている人の様々な相談を受け、適切な機関による救済が受けられるような社会の仕組みが必要です。 人権を侵害されている人々の権利救済のため、権利の確保を支援する制度の充実を図ります。 特に、人権上の問題が生じている場合、当事者は、どこに相談すればよいかという問題に直面します。市民に分かりやすい人権相談体制を構築するため、相談機関、窓口について、十分な周知に努めます。 また、関係機関・団体などの実施主体の垣根を越えて情報提供・連携が図れるよう仕組みづくりを進めます。また、DV※ や犯罪被害者等からの相談など特に配慮が必要な相談や、外国人からの相談に対する母語での対応などについて、相談体制を拡充していきます。 さらに相談員は最初に問題を受け止めることになり、その役割は大変重要です。相談者が複合的な課題を抱えている場合や、何が困難の原因なのか相談者自身が分からないこともあります。また、相談者が相談員の言動により二次被害に遭うことがあってはなりません。そのため、相談員の育成と研修の充実を図ります。 4多様な主体との協働 人権問題に取り組むうえで最も重要なことは、社会全体で取り組むという合意と人権擁護に関係する複数の機関が連携できる体制を構築することです。 人権関係団体やNPO法人などの行う活動は、行政だけでは解決できない様々な社会的要望に柔軟かつ迅速に対応できることなど、数々の特色があります。とりわけ、偏見や差別に傷つき、苦しむ人々に寄り添い支援する人権関係団体・NPO法人などの人権団体の取組には大きな意義があります。人権問題の解決のためには、これらの団体などをはじめ、社会全体が連携して取り組むことが重要です。 (1)国・県・市町村の関係機関などとの連携 人権施策は、国、県、市町村の関係機関がそれぞれの特性に応じた役割分担のもとで、連携を図りながら実施することにより、効果的に推進することができます。このため、国や県、神奈川県警察、神奈川県弁護士会など、人権に関わる機関と連携・協力して人権に関する取組を推進します。 また、国に対しては、県や市町村が人権施策を推進するために必要な財政面の適切な支援等の要請も行っていきます。 (2)関係団体等との協働・連携 ア人権関係団体・NPO法人などとの協働・協力・支援 柔軟な行動力などの特色を生かして啓発や相談などに取り組む人権関係団体・NPO法人などは、課題解決の原動力の一つになっています。区福祉保健センターや児童相談所など市の相談機関に寄せられる相談には、広範かつ複雑で、専門的な見地が求められるものもあります。行政だけでは解決できない様々な社会的要望に柔軟かつ迅速に対応するため、その自主性を尊重しながら活動への支援を行うとともに、双方の役割分担や関係の在り方などを踏まえ、これらの団体との協働・連携を一層推進します。 イ人権擁護委員との連携 人権擁護委員は、人権擁護委員法に基づき、法務大臣により委嘱されています。人権尊重の思想を広め、市民の基本的人権が侵害されないよう配慮し、人権を擁護していくため、人権相談、啓発活動など人権に関わる多岐にわたる活動を行っています。横浜市においては、市役所内の市民相談室での「人権相談」や人権週間(12月4日〜10日)に合わせた特設相談をはじめ、小・中学校への出前人権啓発事業(人権キャラバン)や区民まつり等での街頭キャンペーン、啓発冊子等の作成・配布など、市の取組と連携して独自の活動を行っています。 人権擁護委員活動との協働・連携を一層推進するとともに、様々な機会を活用して人権擁護委員制度の周知に努め、活動を支援します。