第4章様々な人権課題への取組 多岐にわたる人権課題に対応するため、国内外では不断の取組が続けられています。また、国や地方公共団体それぞれにおいて、法律や制度を整備し施策を推進してきましたが、今もなお様々な人権に関する課題があるのが実情です。様々な課題に対して、歴史や特性に十分に配慮し、教育・啓発から相談・支援まで、途切れの無い取組が必要とされています。 本章では、人権の分野ごとに「現状と課題」、「取組状況」及び「施策の方向性」について概説しますが、現実には人権問題に直面している人々は複合的な困難を強いられている場合が多くあります。例えば、外国人の子どもの場合には、日本語習得が困難なことから学習の遅れが生じたり、言葉を理由にからかいやいじめを受けたりすることで、不登校になることもあります。  このような視点を持ち、差別されている当事者の背景にある課題や複合的な困難に対する認識を深めることも人権問題を考える上で大切です。 1女性 ○現状と課題 日本は、昭和60年(1985年)に「女性(女子)差別撤廃条約」を批准しました。平成11年(1999年)には「男女共同参画社会基本法」が制定され、男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、互いにその人権を尊重しつつ、個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現が、21世紀の国の最重要課題と位置づけられました。 平成27年(2015年)には、「女性活躍推進法」が制定され、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や女性の職業生活における活躍に関する情報の公表が事業主(国や地方公共団体、民間企業等)に義務付けられました。さらに、令和2年(2020年)6月からは、セクシャアル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント等の防止対策の強化が事業主に義務付けられました。 平成29年(2017年)には、女性への暴力や性犯罪被害などの根絶に向けて、刑法制定以来110年ぶりに性犯罪に関する改正が行われ、厳罰化や非親告罪化(被害者の告訴がなくても起訴できること)などが図られました。 しかし、男女共同参画社会基本法が成立してから20年が経ち、女性の活躍が国の最重要課題として推進されている今日においても、社会で女性の力が十分に発揮されているとは言い難く、性別にまつわる格差や不平等、困難が山積しています。 世界経済フォーラムが、令和3年(2021年)3月に発表した各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数 において、日本の順位は156か国中120位となっており、特に、政治や経済の分野で意思決定の場への女性の参画が進んでいないという現状を色濃く表す結果となっています。令和2年度に実施した横浜市の「男女共同参画に関する市民意識調査」によると、「夫は外で働き、家庭を守るべきである」という考え方は変化しつつあるものの、実際の役割分担では、女性が家事・育児・介護の主な担い手であり、男性は仕事を優先する傾向が高いなど、依然として根強い性別役割分担意識がうかがえます。男女共同参画社会を実現するためには、男女共同参画の視点に立った意識の改革だけでなく、意思決定過程への女性の参画促進や男女共同参画関係の施策の一層の推進を図っていくとともに、こうした性別による役割分担意識を解消していくことが求められています。 かねてより国連の女性(女子)差別撤廃委員会から差別的であると指摘されていた法規定(民法における婚姻適齢、離婚後の女性の再婚禁止期間、夫婦の氏の選択)に関しては、婚姻適齢については、女性の婚姻年齢が16歳から18歳に引き上げられ、男女の婚姻開始年齢が統一されます(令和4年(2022年)施行予定)。離婚後の女性の再婚禁止期間については、平成28年(2016年)に、女性の再婚禁止期間を離婚後6か月から100日に短縮し、離婚時に妊娠していなかった場合は100日以内でも再婚可能にする改正がなされました。また、夫婦の氏の選択については、平成27年(2015年)には最高裁において夫婦同姓が「合憲」と初の憲法判断が示されましたが、判決にあたっては「制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」と付言されています。 このように、女性の社会参画にむけては国内でも一定の動きがみられるものの、依然として、女性の地位は十分向上しておらず、雇用形態における実質的な男女格差は大きく、様々な課題があります。 さらに新型コロナウイルス感染症が感染拡大する中で、雇用環境の悪化やDVの深刻化、性別役割分担意識を背景とした家庭生活の負担増など、特に女性に対して深刻な影響を及ぼしています。一方で、テレワークの拡大など柔軟な働き方の広がりや男性の在宅時間の増加など、男女共同参画社会の形成に向けて契機となる状況も見られており、さらなる取組の推進が求められています。 ○取組状況 横浜市は、平成13年(2001年)に「横浜市男女共同参画推進条例」を制定しました。条例の基本理念に基づき男女共同参画の施策を実施するために「横浜市男女共同参画行動計画」を策定し、様々な事業を推進しています。 また、公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会と3館(戸塚区・南区・青葉区)の男女共同参画センターと連携し、各種相談業務や就労支援、情報提供、広報啓発を行っています。また、横浜市DV相談支援センターによる相談・支援事業に加え、県や県警と連携し、配偶者等からの暴力防止及び被害者の保護なども行っています。 引き続き、誰もが互いの人権を尊重しつつ責任を分かち合い、性別に関わりなく、それぞれの個性と能力を十分に発揮し、あらゆる分野に対等に参画できる社会の実現を目指した施策を推進していきます。 ○施策の方向性 性別に関わりなく、個性と能力を十分に発揮し、あらゆる分野に対等に参画できる社会に向けて施策を推進します。 調査・実態把握 ・男女共同参画に関する市民意識調査の実施 ・その他 男女共同参画施策に関する調査 研修・教育・啓発の推進 ・女性の意思決定過程への参画の促進 ・誰もが働きやすい職場づくりの推進 ・DV及びデートDVの根絶に向けた啓発 相談支援の充実 ・ひとり親世帯、在住外国人への支援 ・横浜市DV相談支援センター ・心とからだと生き方の電話相談 ・女性としごと 応援デスク 多様な主体との協働 ・DV被害者の安全・安心の確保と自立に向けた支援の充実 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「女性(女子)差別撤廃委員会による最終見解」(2016年3月7日)の主な内容について ・家父長制に基づく考え方や家庭・社会における男女の役割と責任に関する根深い固定観念が残っていることを依然として懸念する。特に固定観念の存続が、メディアや教科書に反映され続けているとともに、教育に関する選択と男女間の家庭や家事の責任分担に影響を及ぼしていることやメディアが性的対象とみなすことを含め、女性や女児について固定観念に沿った描写を頻繁に行っていること、性差別的な発言が女性全般に向けて続いていること等を懸念している。 ・配偶者強姦を明示的に犯罪化する必要があると考えなかったことを懸念する。性交合意年齢が13歳のままであること、法定強姦の法定刑の下限がわずか3年の懲役であることも懸念する。 ・同一価値労働同一労働賃金の原則の不十分な実施による男女の賃金格差の拡大、家族的責任が原因で女性のパートタイム労働への集中が続き、それが年金給付に影響し、退職後の貧困を生む原因の一端になっていること及び妊娠と出産に関連したハラスメントの報告が絶えないこと等を依然として懸念する。 ・職場でのセクシュアル・ハラスメントが横行していること、及びセクシュアル・ハラスメントを防止できなかった企業を特定する措置が法律に盛り込まれているものの、違反企業名の公開以外に法令遵守を強化するための制裁措置が設けられていないことに懸念を表明する。 ・依然として家庭や家族に関する責任を女性が中心となって担っていること、そのために、男性の育児休業取得率が著しく低いこと、並びに家庭での責務を果たすために女性がキャリアを中断する、またはパートタイム労働に従事するという実態が生じていることを懸念する。 「社会権規約委員会による最終見解」(2013年5月17日)の主な内容について ・労働市場における依然として極端な垂直的及び水平的な性別の差別待遇及び出産後に離職するかパートタイム雇用に移行しなければならない女性の高い割合に見られるように進展が遅いことに懸念を表明する。 「自由権規約委員会による最終見解」(2014年7月24日)の主な内容について ・ドメステイック・バイオレンスが広く存在し続けること、保護命令の発令過程が長期にわたること、本犯罪のために処罰される加害者の数が非常に少ないことを、懸念をもって留意する。 2子ども ○現状と課題 平成元年(1989年)、国連の総会において、18歳未満の全ての子どもの基本的人権を尊重することを目的に、「子どもの権利条約」が採択されました。この条約は、子どもの尊厳を守り、生存、保護、発達などの権利を国際的に保障、促進していくため、国際児童年から10年間にわたる審議を経て採択されたものです。日本は平成6年(1994年)に批准しました。 平成28年(2016年)には、「児童福祉法」が改正され、子どもが権利の主体であること、その意見が尊重されること、最善の利益を優先されることが明確に示されました。また、令和元年(2019年)にも改正が行われ、親権者による児童のしつけに際して体罰を加えてはならない等の児童の権利擁護や、児童相談所の体制強化、関係機関間の連携強化について規定されました。しかし、いじめ、不登校、ヤングケアラー、ひきこもり、貧困、虐待や児童ポルノ、さらには子ども自身が犯罪に巻き込まれてしまうなど、子どもたちを取り巻く環境は、ますます厳しくなってきており、深刻な社会問題となっています。 これらの問題は、少子化や核家族化、地域のつながりの希薄化など、子育てをめぐる家庭や地域の状況の大きな変化、経済的困窮、情報化社会の進展がはらむ危険性などの様々な要因が重なって起きてくるといわれています。 (1)いじめ 令和元年度(2019年度)の全国におけるいじめの認知件数は、約61万2千件で、5年前の平成25年度(2013年度)の約18万6千件の3倍以上となっており、依然として深刻な問題となっています。     いじめの問題は、いじめを受けた児童生徒の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を及ぼすのみならず、生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるもので、どの集団にも、どの学校にも、どの子どもにも起こる可能性がある最も身近な人権侵害です。こうした認識のもと、平成25年(2013年)9月に「いじめ防止対策推進法」が制定され、国、地方公共団体、学校、家庭、地域、関係機関等の連携のもと、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進しています。 (2)ひきこもり 平成27年(2015年)の内閣府の調査によれば、15歳〜39歳のひきこもり状態にある方は54万1千人いると推計されています。ひきこもりの背景は多様であり、専門的な支援が必要です。このため、平成21年度(2009年度)から、「ひきこもり支援推進事業」として、都道府県、指定都市へのひきこもりに特化した専門的相談窓口(ひきこもり地域支援センター)の設置、ひきこもり支援に携わる人材の養成など、ひきこもりの状態にある方やその家族へ相談支援等に取り組んでいます。 (3)貧困 令和元年(2019年)の国民生活基礎調査によると、我が国の子ども(17歳以下)の貧困率は13.5%となっています。「子どもの貧困対策法」の施行から5年が経過し、令和元年(2019年)6月に一部が改正され、同年11月には、法改正を踏まえて新たな「子供の貧困対策に関する大綱」がまとめられました。この大綱を踏まえて、親の妊娠・出産期から子どもの社会的自立までの切れ目のない支援に向けて、教育支援、生活困窮への支援、ひとり親等の就労支援、経済的支援などに取り組んでいます。 (4)児童虐待 平成12年(2000年)に「児童虐待防止法」が施行され、問題に対する社会的な関心が高まったこともあいまって、全国で相談対応件数は増加しています。また、法施行後、対策が強化されているにもかかわらず、全国的に、虐待により子どもの命が奪われることも少なくないのが現状です。このため、平成28年(2016年)の「児童福祉法」等の改正により、発生予防から発生時の迅速・的確な対応、及び自立支援までの一連の対策の更なる強化等を図るため、子育て世代包括支援センター(法律上の名称は「母子健康包括支援センター」)の設置、市町村及び児童相談所の体制強化等の措置が講じられました。さらに、市区町村に、子どもとその家庭や妊産婦等を対象に、実情の把握、子ども等に関する相談全般から通所・在宅支援を中心としたより専門的な相談対応や必要な調査、訪問等による継続的なソーシャルワーク業務まで行う機能を担う拠点(子ども家庭総合支援拠点)を整備することとされました。 (5)ヤングケアラー 家族にケアを要する人がいる場合に、様々な家庭事情から、18歳未満の子どもが、一般に本来大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護などを日常的に行っている場合があります。令和2年度(2020年度)に国(厚生労働省、文部科学省)が実施した実態調査では、中学生(2年生)の5.7%(約17人に1人)、高校生(2年生)の4.1%(約24人に1人)が、「世話をしている家族がいる」と回答しており、1学級(40人)につき、1〜2人のヤングケアラーがいる可能性があることが示されました。年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担を負うことで、本人の育ちや教育に影響が生じることがありますが、家庭内のデリケートな問題に関わるものであること、本人や家族に支援が必要である自覚がないケースもあることなどの理由から表面化しにくい状況があります。このため、国において、実態把握、相談窓口の整備やヤングケアラーのいる家庭への家事・子育て支援など、施策の検討が行われています。 子どもの人権を守るためには、複雑多様化する子どもが抱える問題の背景をしっかりと捉え、子どもを一人の人間として尊重し、社会全体が一体となって解決に取り組んでいくことが大切です。行政はもとより、地域・事業者・人権関係団体など様々な社会の担い手が、未来を担う子どもたちの人権を尊重し、育んでいくことが、引き続き求められています。 ○取組状況 横浜市では、令和2年(2020年)3月に策定した「横浜市子ども・子育て支援事業計画(第2期)」において、「未来を創る子ども・青少年の一人ひとりが、自分の良さや可能性を発揮し、豊かで幸せな生き方を切り拓く力、共に温かい社会をつくり出していく力を育むことができるまち『よこはま』の実現」を目指すべき姿とし、幅広く横浜市の子ども・青少年のための施策を推進しています。学校教育においては、「だれもが」「安心して」「豊かに」生活できる学校を目指し、子どもの発達段階に応じた全教育活動を通じ、「人権尊重の精神を基盤とする教育(人権教育)」を推進します。 いじめの問題に対しては、「いじめ防止対策推進法」の制定を受け、横浜市は、同年12月、「横浜市いじめ防止基本方針」(平成29年(2017年)10月に改定 )を定め、すべての子どもの健全育成及びいじめのない子ども社会の実現に向け、市全体で取り組んでいます。 ひきこもり状態にある若者(15〜39歳)については、横浜市内に約15,000人いると推定されています(平成29年度(2017年度)「横浜市子ども・若者実態調査」)。横浜市では、青少年相談センター(1か所)を中心に、地域ユースプラザ(4か所)、若者サポートステーション(3か所)が連携し、若者の自立に向けた相談支援、就労支援を行っています。引き続き、情報提供や広報啓発により、困難を抱える若者に対する理解の促進に取り組みます。 子どもの貧困については、子どもの生まれ育った環境による生活や進学機会の格差などにより、将来の選択肢が狭まり、貧困が連鎖することを防ぐため、実効性の高い施策を展開し、支援が確実に届く仕組みをつくることを目的として、令和3年(2021年)●月に「第2期横浜市子どもの貧困対策に関する計画」を策定し、子どもの貧困対策を推進しています。 児童虐待については、横浜市では、平成26年(2014年)に「横浜市子供を虐待から守る条例」を制定しました。今後も、児童虐待防止のための支援策の充実、関係機関との一層の連携強化、人材育成、広報・啓発、地域における児童虐待防止のためのネットワークづくりなどを推進し、児童虐待の未然防止から再発防止に至るまでの適切な支援に取り組みます。また、令和3年度(2021年度)に、10区の福祉保健センターに、子どもの権利条約の理念を具現化するための「こどもの権利擁護担当」を中核とする「子ども家庭総合支援拠点」を整備し、従前の「子育て世代包括支援センター」の機能と一体化して、総合的な支援を進めていきます。 教育、ひきこもり、貧困、虐待など、こどもに関わる施策を担うすべての部署が、「子どもの権利条約」の理念を共有し、これを踏まえて、各々の専門性を活かして施策に取り組むとともに、関係部署間で情報共有と緊密な連携をとることで、総合的な取組を進めていきます。 ○施策の方向性 社会全体が一体となって未来を担う子どもたちの人権を尊重し、子どもの育成、児童虐待やいじめなどの防止、家庭や地域活動における啓発活動や青少年の健全育成のための施策を推進します。 調査・実態把握 ・全児童生徒を対象にした「無記名アンケート」及び全教職員を対象としたアンケートによる実態把握 ・子どもの貧困の実態把握のための市民アンケート、支援者等ヒアリングの実施 ・児童相談所による児童虐待の現状把握 研修・教育・啓発の推進 ・子どもの人格と権利を尊重する社会意識の醸成 ・子どもの自尊感情を高め、自分の人権を守り、他の人の人権を守ろうとする意識・態度・意欲を育成する学校教育の推進 相談支援の充実 ・子どもの視点に立った相談・指導等の対応 ・関係機関による若者自立支援にかかる支援体制の充実 ・経済的に困窮している家庭の子どもなどに対して、貧困の連鎖を生まないための学びや育ちの支援 ・子ども・青少年が健やかに育ち、自立した個人として成長できるよう、その生まれ育った環境に関わらず、教育・保育の機会と必要な学力を保障し、たくましく生き抜く力を身に付けることができる環境整備 多様な主体との協働 ・「横浜市子供を虐待から守る条例」に基づく、未然防止から早期発見・早期対応、再発防止に至る総合的な児童虐待防止施策の推進 ・相談機関・窓口や関係機関間のネットワークの構築 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「子ども(児童)の権利委員会による最終見解」(2019年3月5日)の主な内容について ・嫡出子ではない子の非嫡出性に関する戸籍法の差別的規定(特に出生届に関するもの)が部分的に維持されていることや、周縁化された様々な集団に属する児童に対する社会的差別が根強く残っていることを懸念する。 ・学校における体罰が法律によって禁止されていることに留意するが、学校における体罰の禁止は、効果的に実施されていないことや、家庭及び代替的監護環境における体罰は、法律によって完全に禁止されていないことを懸念する。また、民法及び児童虐待防止法は、特に、適切なしつけの行使を許容し、体罰の許容性を明確にしていないことも懸念する。 ・児童に対する暴力、性的虐待及び搾取が高い水準で発生していることを懸念している。あらゆる形態の暴力の撲滅を優先し、虐待及び性的搾取の被害児童のための、児童にとって利用しやすい通報、申立て及び照会メカニズムの設置を進める等を勧告する。 3高齢者 ○現状と課題 我が国では、平均寿命の伸びや出生率の低下等を背景として、少子高齢化が進行しており、人口の4人に1人が65歳以上となっています。人口が増加傾向で推移している横浜市においても高齢化が進んでおり、令和2年(2020年)には高齢者(65歳以上)は92万人で高齢化率(総人口に対する高齢者の比率)は24.6 %となっています。令和7年(2025年)に団塊の世代が75歳以上となり、また令和22年(2040年)には33.2%になり、「3人に1人が高齢者」となる見込みとなっています。 このような中、介護者による身体的・心理的虐待や、家族等による財産の無断処分等の経済的虐待、振り込め詐欺等の犯罪が社会問題となっています。 国民一人ひとりが生涯にわたって安心して生きがいを持って過ごすことができる社会を目指した「高齢社会対策基本法」、「高齢者虐待防止法」などに基づき、施策が進められています。高齢者一人ひとりが生き生きと暮らせる社会を目指して、高齢者について理解を深めるとともに、環境づくりを進めることが求められています。 また、平成30年(2018年)に、「ユニバーサル社会実現推進法」が施行され、障害の有無、年齢等にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、障害者、高齢者等の自立した日常生活及び社会生活の確保に向けて、ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策に取り組んでいます。 ○取組状況 横浜市では、高齢者に関する保健福祉事業や介護保険制度の総合的な計画である「高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画(平成12年(2000年)3月策定)」と、令和元年6月に国がまとめた認知症施策推進大綱に基づいて、横浜市が独自に策定した「認知症施策推進計画(令和3年(2021年)3月策定)」の3つの計画を合わせて「よこはま地域包括ケア計画」として位置付け、現在、第8期計画(令和3年度(2021年度)〜5年度(2023年度))を推進しています。 この計画により、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けた横浜型地域包括ケアシステムの構築を引き続き進めるとともに、団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となり、高齢者数がピークを迎える2040年に向けて、効率的・効果的な高齢者施策を推進しています。 また、地域で支え合いながら、介護・医療が必要になっても安心して生活でき、高齢者が自らの意思で自分らしく生きることができる社会を目指すとともに、高齢者の権利を擁護するなど高齢者の人権を尊重した施策の充実を図っています。 「高齢者虐待防止法」(平成17年(2005年))に則した虐待の未然防止、早期発見・対応、介護者への支援や、認知症高齢者が安心して暮らせるまちづくり、事業者をはじめとする介護従事者の人権意識の向上などに積極的に取り組んでいます。 また、市民の意思決定支援事業として市民が自分らしい生き方を自ら選択し、大切な人と共有するきっかけとなるように、各区でオリジナルのエンディングノートを作成し書き方講座を開催しています。 あわせて、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、地域における市民の自主的な福祉活動や支えあい活動などへの支援を推進しています。 ○施策の方向性 高齢者が安心して暮らせるまちづくりを進めるとともに、高齢者の権利を擁護するなど高齢者の人権を尊重した施策を推進します。 調査・実態把握 ・横浜市高齢者実態調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・高齢者の尊厳を大切にする社会意識の醸成 ・高齢者への理解を深める研修・教育の推進 ・高齢者が安心・安全に暮らすためのバリアフリー化の推進やユニバーサルデザインの普及啓発 ・認知症についての幅広い世代への啓発 ・自分らしい生き方を選択できるためのエンディングノートの啓発 相談支援の充実 ・高齢者虐待の未然防止、早期発見・対応、介護者への支援 ・高齢者の孤立を防ぐための地域の中の支え合い・見守りの仕組みづくりや成年後見の推進 多様な主体との協働 ・高齢者が自分らしく活動し、社会参加できる環境づくり ・認知症についての正しい理解と、認知症になっても地域で安心して暮らせる支援体制づくり ○国連組織による最終見解の内容について 「社会権規約委員会による最終見解」(2013年5月17日)の主な内容について ・特に無年金又は低年金の高齢者の間での貧困の発生に懸念を表明する。委員会は特に、貧困が主にその年金が適格な基準を満たしていない高齢女性に影響を及ぼしていること、及びスティグマが高齢者に公的な福祉的給付の申請を思いとどまらせていることに懸念を表明する。 ・国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律により導入された変化によっても多くの高齢者が年金を得られないままとなってしまうことに懸念を表明する。 4障害児・障害者 ○現状と課題 国連が昭和56年(1981年)を「国際障害者年」と決議したことを契機に、「障害者の完全参加と平等」の理念のもと、障害のある人に対する社会の取組は大きく前進しました。日本では、平成5年(1993年)に施行された「障害者基本法」において、全ての障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有し、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられることが基本理念としてうたわれています。 平成18年(2006年)12月には、国連総会において「障害者権利条約」(以下「条約」という。)が採択され、日本も平成19年(2007年)9月に署名しました。条約の批准へ向け、平成23年(2011年)6月には「障害者虐待防止法」が、同年7月に「障害者基本法の一部を改正する法律」が成立するなど、福祉・医療だけでなく国内の様々な法律が整備されました。さらに、平成25年(2013年)6月には、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止を行政機関・民間事業者の法的義務とし、合理的配慮の実施を行政機関の法的義務、民間事業者の努力義務とすることを盛り込んだ「障害者差別解消法」が制定されました。平成26年(2014年)1月には条約を批准し、障害者の権利の実現に向けた取組を一層強化するための歩みを進めています。 しかし、平成28年(2016年)7月に発生した「津久井やまゆり園」での事件をはじめ、障害者施設の建設に際して地域との間で紛争が生じるという、いわゆる施設コンフリクトなど、障害者の生命や生活が脅かされる出来事が依然として起きており、障害への理解が十分ではないのが現状です。 令和2年(2020年)に、横浜市が障害のある市民を対象として行ったアンケートの中で、日常の困りごととして、障害の種別によっては5割前後の人が「周囲の理解が足りない」と答えています。また、外出時の困りごととして「人の目が気にかかる」、「いじめや意地悪がこわい」などの項目が上位となっています。さらに、精神障害者家族からは、周囲の理解不足により、障害のある本人が地域で安心して暮らせない状態にある、などの声も届いています。新型コロナウイルス感染症が拡大する中では、「聴覚障害があると、コミュニケーションをとるとき、口の動きや表情の変化からも言葉を読み取るので、マスクで隠されていると難しい」といった声も出されています。 このことは、周囲の理解が足りないことにより、障害のある人が、今なお多くの生きづらさを強いられていることを物語っており、障害者への差別の解消に向けて一層の取組が必要となっています。 また、障害児については、差別のない環境の中で健やかに成長・発達していけるよう、乳幼児期、学齢期を支える地域療育センターや保育所、幼稚園、学校その他関係機関が連携して、適切な療育や保育、教育を受ける機会を確保するなど、障害児とその家族への支援が必要です。 「障害者差別解消法」は、施行から3年が経過した後に所要の見直しを行う旨が規定されており、令和3年(2021年)5月に改正されました。主な改正内容は、事業者に対し社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をすることを義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化を講ずることとされており、障害を理由とする差別解消の一層の推進を図ることとしています。 なお、障害者雇用については平成25年(2013年)、令和3年(2021年)に法定雇用率が引き上げられ、「共生社会」の実現に向けた取組が進められています。 ○取組状況 横浜市では、障害福祉施策に関わる中・長期的な計画である「横浜市障害者プラン」に基づいて様々な施策・事業を行い、現在「第4期」(令和3年度(2021年度)から令和8年度(2026年度))として施策を推進しています。   このプランは、「障害者基本法」に基づく「障害者計画」と、「障害者総合支援法」に基づく「障害福祉計画」、そして「児童福祉法」に基づく「障害児福祉計画」の三つの性質を持つ計画です。 「第4期横浜市障害者プラン」では、「障害のある人もない人も、誰もが人格と個性を尊重し合いながら、地域共生社会の一員として、自らの意思により自分らしく生きることができるまちヨコハマを目指す」ことを基本目標に掲げ、障害福祉施策を着実に進めています。 また、横浜市では障害福祉施策の総合的かつ計画的な推進をすることや、関係行政機関相互の連絡調整を要する事項を調査審議することを目的とした「横浜市障害者施策推進協議会」を設置し、今後の障害福祉施策の取組を検討しています。 「障害者差別解消法」の施行に伴い、平成28年(2016年)2月に策定した「障害者差別解消の推進に関する取組指針」に基づき、職員対応要領を策定し、職員研修や市民啓発活動などに取り組むと共に、副市長をトップに構成する庁内推進会議を組織し、横浜市の取組の推進状況の確認及び見直しについて協議しています。とくに、手話通訳・要約筆記、点字、わかりやすい表現等により、聴覚障害、視覚障害、知的障害のある方等への情報保障に力を入れています。 また、障害当事者やその家族、事業所の代表、弁護士、学識経験者等から組織する「障害者差別解消支援地域協議会」では、相談事例の共有や障害者差別解消に関する現状や課題について、様々な視点から協議し、障害者差別解消の一層の推進に向けて取り組んでいます。さらに、「横浜市障害を理由とする差別に関する相談対応等に関する条例」を制定し、障害者差別事案の解決に向けたあっせんの仕組みを構築し、相談および紛争防止等にも取り組んでいます。 障害の原因は様々ですが、「障害者を取り巻く社会の側に物理的・心理的な壁があることにより、日常生活や社会生活を送ることに支障がある」、つまり「『障害』は、『障害のある人』にあるのではなく、『社会』の側にこそある」という「社会モデル」の視点を持つことが必要です。市民、事業者、団体、行政など社会全体による取組を進める中で、障害者の生命や人としての尊厳を守るとともに、障害者の権利を擁護する施策を一層進めていきます。 ○施策の方向性 「障害」を社会の側の課題として捉える視点を持ち、障害者の権利を擁護する施策を推進します。 調査・実態把握 ・障害者プラン策定にかかる当事者アンケート等の実施 ・障害者差別に関する相談事例の把握 研修・教育・啓発の推進 ・障害者が安心・安全に暮らすためのバリアフリー化の推進やユニバーサルデザインの普及啓発 ・個々の障害特性に応じた、地域社会等での障害理解の促進  〇 地域の福祉保健活動への参加  〇 防災訓練への参加  〇 教育、医療、交通、行政各機関等への啓発 ・障害のある人と障害のない人との交流を通した相互理解の促進 相談支援の充実 ・合理的配慮の実施の推進 ・障害者虐待の未然防止、早期発見・対応・支援 ・コミュニケーションの促進を目的とした、障害特性に応じた適切な配慮(点字、音声での案内、手話通訳、要約筆記等)の実施 多様な主体との協働 ・様々な分野における政策形成プロセスへの障害当事者の参画 ・就労をはじめとする社会参加の促進 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「社会権規約委員会による最終見解」(2013年5月17日)の主な内容について ・雇用に関する締約国の法制度が障害に基づく差別からの完全な保護を与えていないことに懸念をもって留意する。 ・必要とされる場合の職場における合理的配慮の提供に係る法的義務がないことに懸念を表明する。 ・職場へのアクセスのしやすさの改善を目的とした措置などの様々な措置は講じられているものの、標準以下の状態にある保護雇用状況への配置を含む、障害者の雇用における事実上の差別に懸念をもって留意する。 「自由権規約委員会による最終見解」(2014年7月24日)の主な内容について ・多くの精神障害者が、非常に広範な条件で、また権利侵害に異議を申し立てるための実効的な救済措置なく、非自発的入院の対象となっていること、また、代替となるサービスがないために入院が不必要に延長されるとの報告があることを懸念する。 5部落差別(同和問題) ○現状と課題 同和問題(部落差別)は、特定の地域(「同和地区」又は「被差別部落」ともいう。)での出生等、その地域の出身であることなどを理由として続いている差別問題です。 日本社会の歴史のなかで形成され、近代以降も「家柄」や「生まれ」を重く見る価値観とともに、特定の地域に関して、日常生活・就職・結婚等に関わって差別が続いてきました。 このため、「近代社会の原理として何人(なんびと)にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題」(昭和40年(1965年)「同和対策審議会答申」)という認識のもと、昭和44年(1969年)以降、「同和対策に関する特別措置法」に基づき国を挙げて様々な取組が行われました。 その結果、同和地区(被差別部落)の生活環境はおおむね改善されましたが、教育、就労などの生活課題をはじめ、同和地区(被差別部落)出身者であることなどを理由とする差別は、今なお残っています。「身元調べ」を目的とした戸籍関係書類の不正取得や、同和地区(被差別部落)への偏見に根ざしたインターネットやSNSなどにおける差別的書込みや地区の特定など、同和地区(被差別部落)出身者を苦しめている現実があります。 平成28年(2016年)12月には、「部落差別解消推進法」が施行されました。同法では、現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえ、部落差別は許されないものであるとの認識が示されています。 また、同法に基づき、地方公共団体などが把握する差別事例や一般国民に対する意識調査などについて、平成30年度(2018年度)から令和元年度(2019年度)にかけて国が実施した調査では、正しい理解が進む一方で、心理面における偏見、差別意識は依然として残っているということなどが部落差別の実態としてあげられています。 また、令和2年度(2020年度)に行った横浜市の「人権に関する市民意識調査」では、同和地区出身者との結婚について自分が同和地区出身者と結婚しようとしたとき、親などから強い反対を受けたらどうするかと尋ねた設問では、「自分の意志を貫いて結婚する」と答えた人は20.4%でした。「親などを説得し、自分の意志を貫いて結婚する」と答えた人は37.0%となり、この2つを合わせるといずれにせよ「結婚する」と答えた人は57.4%でした。一方、「家族などの反対があれば結婚しない」と「絶対に結婚しない」と答えた人を合わせると14.2%で、今も1割を超える人が結婚しないという結果となりました。また、今回調査で新たに設けた「わからない」と答えた人は27.5%でした。依然として、結婚に関して根強い差別意識があることがうかがえます。 人を生まれた地域や住んでいる地域で判断し、差別するという行為は、許されることではありません。そうした考え方や価値観を克服していくことは、社会全体の問題であると同時に、一人ひとりの問題です。 ○取組状況 同和対策については特別措置法に基づく取組の結果、同和地区(被差別部落)の生活環境はおおむね改善されたことから、平成14年(2002年)に特別措置法に基づく事業を終了しました。それからは「人権教育・啓発推進法」(平成12年(2000年))により、啓発を中心とした取組が行われています。また、「部落差別解消推進法」では、地方公共団体の責務として、地域の実情に応じた施策を講じることや相談体制の充実、部落差別を解消するため、必要な教育及び啓発などを行うことが定められています。 横浜市では昭和49年(1974年)に同和対策事業を開始しました。平成15年(2003年)には、「横浜市同和対策事業に対する基本的考え方(方針)」(昭和52年(1977年))の見直しを行い、残された課題解決に向けて最近のインターネット上の新たな差別事件など同和問題をめぐる状況等の変化に留意し、一般施策を有効に活用しながら取組を進めています。 引き続き、行政による研修・啓発や学校における人権教育をはじめ、市民・地域・事業所・団体などが同和問題解決の意義を認識し、取り組んでいく必要があります。 ○施策の方向性 部落差別(同和問題)に対する正しい理解と認識を深め、偏見と差別意識の解消のための施策を推進します。 調査・実態把握 ・人権に関する市民意識調査の実施 ・国、県が実施するインターネット上の差別の実態調査結果等による把握 研修・教育・啓発の推進 ・身元調べ等の現状を踏まえた同和問題についての職員や教職員に対する研修・啓発 ・人権教育における同和問題への取組 ・「広報よこはま」などを通じた幅広い世代への啓発 相談支援の充実 ・本人通知制度による本人の権利利益保護及び住民票等の不正取得抑止 ・関係団体による生活相談支援 多様な主体との協働 ・行政・市民・地域・事業所・団体などの連携による啓発取組 ・地域住民との交流 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「人種差別撤廃委員会による総括所見」(2018年8月30日)の主な内容について ・部落差別の解消の推進に関する法律の施行を歓迎する一方、部落民の定義が同法及びその他においても存在しないことを遺憾に思う。委員会は雇用、住居、婚姻における部落差別が継続していることを懸念する。また、部落民の戸籍情報への違法なアクセスやインターネット上での公開が、部落民を更なる差別に直面させていることを懸念する。 ・委員会は締約国に、部落民の明確な定義を定めること、雇用、住居及び婚姻における部落の人々に対する差別の撤廃に努力すること、部落民の戸籍情報の秘密が守られ、戸籍登録情報の乱用に関する事案が捜査、起訴され、加害者が制裁を科されることを確保することなどを勧告する。 6外国人 ○現状と課題 横浜市の外国人住民数は、令和3年(2021年)3月末現在、約10万人で、市民の約35人に1人が外国人となっており、出身地も約160の国・地域と多様化しています。外国人が地域社会の一員として自立し、円滑に生活していくためには、行政サービス等の多言語化を進める一方で、日本語能力を身につけるための支援体制の整備が必要です。 また、就労・留学・結婚などのために来日し、生活の基盤を日本の社会に置いた外国人が増加したことに伴い、育児・教育、福祉・医療など生活全般にわたる相談が増加しています。その中でも、特に、DV、離婚、生活困窮などの深刻な相談が増加傾向にあり、きめ細かな取組が求められています。加えて、企業による外国人雇用が増加する中で、最低賃金を下回る違法な低賃金や、「労働基準法」に反する不法な就労環境などの労働に関する問題もあります。 さらに、日本国籍であっても父母のいずれかが外国籍であるなど、外国につながる人々は、家庭内の言葉や生活習慣の面で日本の暮らしになじみが薄いなど、生活上の困難さを抱えている場合もあるほか、名前や外見などを理由にからかわれたり、じろじろ見られたりするなどの差別や誹謗中傷にさらされます。このため、外国人と同様のきめ細かな取組や、差別の解消・防止に向けた取組が必要です。 近年、特定の民族や国籍の人々への排斥を扇動する差別的言動がいわゆるヘイトスピーチとして社会的問題となっており、平成26年(2014年)12月には、人種や国籍で差別するヘイトスピーチの違法性を認めた判決が最高裁で確定しました。こうした状況の中、平成28年(2016年)6月に「ヘイトスピーチ解消法」が施行され、本邦外出身者又はその子孫に対する不当な差別的言動のない社会の実現を目指すため、その解消に向けた取組を推進していくことが定められました。同法の理念に基づき取組が進められていますが、依然としてヘイトスピーチが各地で行われています。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関連し、外国にルーツを持つ人々に対する誹謗中傷や差別が発生しています。 平成31年(2019年)4月に改正「出入国管理法」が施行され、市内の外国人人口の一層の増加が見込まれることから、文化、宗教、生活習慣等における多様性に対して理解を深め、これを尊重し、偏見や差別のない環境づくりが必要です。 ○取組状況 横浜市では、地域の外国人支援・国際交流の拠点となる国際交流ラウンジの整備、行政窓口や学校等への通訳ボランティアの派遣、多言語による生活情報の提供など様々な取組を進めています。 また、市民、企業等に対する啓発施策を充実することによって、市民の人権意識の高揚を図り、今なお根強く存在する在日韓国・朝鮮人に対する差別意識をはじめ、社会の様々な所で生じている外国人や外国につながる人々に対する差別の解消を目指すとともに、相互理解の促進や共に歩むまちづくりに努めます。 なお、ヘイトスピーチに関しては、公会堂などの市民利用施設の使用許可にあたって、条例や規則に基づいて、ヘイトスピーチなどの差別的言動が行われる恐れがあり、施設に混乱が生じる可能性が高いと判断される場合は、使用の不許可又は取消を行うこととするなど、未然防止を徹底しています。不当な差別的言動であるヘイトスピーチは重大な人権侵害であり、あってはならないことです。神奈川県警察など関係機関とも連携し、一つ一つの事案に丁寧かつ的確に対応していくとともに、あらゆる機会を捉えて「差別は絶対に許さない」という姿勢を発信していきます。 また、令和元年(2019年)に実施した横浜市外国人意識調査では、今の自分の暮らしに満足と回答した人が6割以上、地域活動への参加意向を有する人が7割以上となる一方、日本語の不自由さを困りごととして回答した人が3割で、そのうち日本語の学習意欲を有する人は9割に上るという結果でした。   今後も、多言語での情報提供・相談対応の充実、日本語学習支援等の在住外国人の生活支援や自立と社会参画を推進していきます。 ○施策の方向性 民族や国籍、文化の違いにかかわらず、同じ横浜市民として、互いを理解し、日本人も外国人もともに地域社会を支える主体となるような活力ある多文化共生社会に向けて施策を推進します。 調査・実態把握 ・外国人意識調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・外国人児童生徒等への教育支援 ・多文化共生の視点に立った国際理解教育の推進 相談支援の充実 ・多言語による広報と情報提供の推進 ・日本語学習支援 ・相互理解促進のための取組 多様な主体との協働 ・法律・医療・福祉等専門分野におけるサポート体制の整備 ・外国人の日常生活をサポートする相談機関の充実及び相談機関に関する情報の収集・提供 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「人種差別撤廃委員会による総括所見」(2018年8月30日)の主な内容について  ・2016年6月に施行されたヘイトスピーチ解消法を含む、ヘイトスピーチに対処するために締結国がとった措置について歓迎する。 ・同法成立後においても、在日韓国人・朝鮮人といった民族的マイノリティー集団に対するヘイトスピーチなどが引き続き行われていること、インターネット及びメディアを通じたヘイトスピーチ並びに公人によるヘイトスピーチ及び差別的発言が継続していること等を、引き続き懸念する。 7感染症・疾病 ○現状と課題 HIV、ハンセン病 といった感染症や難病、精神疾患、アルコールなどに対する依存症などについての正しい知識と理解が、市民の間で十分に普及しているとはいえません。このため、これらの疾病にかかっている人の中には、周囲の人々の知識や理解の不十分さなどに起因する偏見や差別によって、家族も含めて社会生活の中で苦しんでいる人が少なくありません。周囲の偏見の目を恐れ、自らの感染症・疾病などについてカミングアウトできず、生きづらさを抱えている人もいます。 例えば、ハンセン病は病原性の弱い「らい菌」による感染症であり、現在では適切な治療で完治することができるにも関わらず、過去には恐ろしい病気と誤解され、患者を強制隔離する政策が行われました。平成15年(2003年)には、ホテルがハンセン病の元患者の宿泊を拒否する事件が起きるなど、現在もなお存在する偏見や差別意識が当事者を苦しめています。このような偏見や差別の解消を推進するために、平成20年(2008年)6月に「ハンセン病問題基本法」が制定されました。また、本人だけでなく、例えばハンセン病の患者・元患者の家族についても、令和元年(2019年)11月に同法が一部改正され、「ハンセン病の患者であった者等の家族であることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」とされています。 最近では、新型コロナウイルス感染症が感染拡大する中で、インターネットやSNS等での患者や家族、医療従事者等に対する差別的な書き込みなど、「コロナ差別」、「コロナいじめ」などと呼ばれる様々な人権問題が発生しました。横浜市の「人権に関する市民意識調査(令和2年度(2020年度)実施)」においても、関心のある人権課題で「感染症・疾病の患者等の人権」が前回調査よりも約25ポイント増加したほか、人権上問題あることとして、「患者や感染者、その家族等が差別的な発言や行為を受けること」が最も多く挙げられました。また、新型コロナウイルス感染症等の患者等の人権を守るために必要なこととしては「市民一人ひとりが新型コロナウイルス感染症等に関する正しい知識を身につけること」が最も多い結果となりました。 なお、令和3年(2021年)2月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の一部が改正され、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対応し、差別の防止に係る国及び地方公共団体の責務規定が設けられました。 様々な感染症や疾病は、人びとの間に患者や回復者、その家族に対する偏見や差別を生じさせてしまう恐れがあります。感染症・疾病の患者等の人権が守られ、安心して日常生活を営むことができる社会を実現する取組と併せて、正しい知識の普及や理解の促進など偏見や差別を解消するための取組を続けていくことが重要です。 ○取組状況 横浜市では、市民が、安心して適切な医療が受けられるよう保健・医療施策の充実を図るとともに、保健・医療従事者の研修等に取り組みます。また、人間としての尊厳を傷つけられることなく暮らせるよう、市民の理解の促進と互いに支え合う社会づくりを進めます。 さらに、予防のための知識とともに、疾病に関する正しい知識の普及啓発の取組に努めます。 患者等の人権を尊重する医療を進めるためには、医療従事者と患者等の双方が話し合いを十分に行い、信頼関係に基づいた医療サービスの提供が必要です。また、患者等の知る権利を尊重するとともに、医療機関によるインフォームド・コンセントが的確に行われ自己決定権が尊重されることも重要です。横浜市立病院では、いわゆる病院医療憲章において、病院を利用される市民の皆様が、質の高い医療サービスを安心して安全に受けることが出来るよう、患者の人権を尊重し、インフォームド・コンセントを的確に行うことを明示しています。 また、新型コロナウイルス感染症の患者等に対する人権侵害に対しては、差別や偏見、心ない言動をなくし、正しい知識に基づいた冷静な対応や相手の立場を理解し思いやる行動、患者等の人権への配慮を様々な媒体を通じて呼びかけ、あらゆる機会を捉えて啓発しています。 ○施策の方向性 市民が安心して適切な医療を受けることができ、また、感染症・疾病にかかっている人々の人権が守られ、安心して日常生活を営むことができる社会に向けて施策を推進します。 調査・実態把握 ・横浜市民の医療に関する意識調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・市民・マスコミ等に対して啓発するための市職員に対する正しい知識の普及 ・インフォームド・コンセントの必要性についての医療従事者に対する啓発 相談支援の充実 ・医療従事者等における患者の立場に立った対応 ・HIVや新型インフルエンザ等の感染症や疾病に対する正しい理解の上に立った対応 多様な主体との協働 ・相談機関や医療機関などとの連携・協力 8職業差別 ○現状と課題 私たちの社会は、分業化された様々な職業から成り立つことによって日常生活が維持されています。それらは相互に関連し、補完しあって、活力ある社会を生み出しています。 しかしながら、社会生活の中で、無意識のうちに序列意識などの価値観が刷り込まれる、それぞれの職業の意義を正しく理解せず、それに従事している人を低く見たり、忌避したりすることがあります。 中でも、血や死に触れることを「けがれ」と考える意識や、仏教における「せっしょうかい」などに根ざした生き物を殺すことへのマイナスイメージは連綿と受け継がれているとともに、動物を可愛がることのみを良しとする一面的な考え方は、家庭や学校、そして社会の中で何ら疑問を持たれることもなく人々の意識の中に刷り込まれてきました。 また、あらゆる動物が、それぞれの特性によって他の生き物を利用して生きているように、人もまた、動物をペットとして、また物資の運搬や人の介助などの労働力として、そして食料・鞄靴や装飾品・楽器等として、様々に利用しています。 動物を殺して利用することも、人が生きていく上でごく自然な行為の一つなのです。また、利用する以外にも人の生活の安全を守るため、駆除する方法として、殺すこともあります。 そうした人と動物の多様な関係があるにもかかわらず、殺すことを「かわいそう」なことをする行為と思うこと等により、私たちの食生活に必要な食肉を生産すると畜業務や、動物の保護・管理のために行う犬や猫の収容業務に従事している人やその家族が、いわれのない差別的な言動に傷つけられています。 動物の死の方に着目することで、傷つく人がいることに気づかずにいるのではないのか、自分の問題として考えることが必要です。また、人は誰も死を迎えます。それにもかかわらず、死を「きひ」する気持ちから斎場や墓地に関わる業務に対して向けられる負の感情についても、従事する人々を傷つけているのです。 また、最近の新型コロナウイルス感染症が感染拡大する中で、医療従事者、エッセンシャルワーカーやその家族などに対して、様々な心ない言動や、根拠のない情報に基づく偏見や差別が起きています。その多くは日常の中で無自覚になされています。 同じ社会にあって、それぞれの職業に従事する人々が等しく尊重され、いきいきと生活できることが当たり前の社会であることを、市民一人ひとりが心に刻み、それを阻害する偏見や差別の克服に取り組むことが大切です。 ○取組状況 横浜市は、差別を解消する社会的な責務を持つ職員や教職員が、人権問題を自身の意識や価値観に関わる問題として捉え、差別の解消に向けて主体的に取り組んでいくよう、研修の強化に取り組んでいます。 学校教育においても、子どもたちが家族の職業やその他のあらゆる職業に対して偏見のない職業観が培えるよう人権教育の工夫と充実に努めています。 また、市民等に対しても職業差別について理解を深められるよう啓発に努めています。 ○施策の方向性 それぞれの職業に従事する人々が等しく尊重され、いきいきと働き、生活できるよう施策を推進します。 調査・実態把握 ・人権に関する市民意識調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・人と動物との関係について自分自身の思いを点検し、問い直す、職員・教職員への研修・啓発 ・市民への広報・啓発の推進 ・学校教育における人間と生き物の関係を正しく捉えた学習の取組 相談支援の充実 ・自分自身の課題の解決や可能性の発揮に向けて行う取組(エンパワメント)への支援 多様な主体との協働 ・関連機関からの情報やノウハウの提供などの連携・協力 9ホームレス ○現状と課題 国が毎年1月に行っているホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)で、令和3年(2021年)の調査では横浜市内で約400人のホームレスが確認されています。また、不安定な就労などによりホームレスになるおそれのある人々も多いと考えられています。 平成28年(2016年)10月に実施した全国調査では、ホームレスを対象に聞き取り調査を実施しました。この調査では、ホームレスになる以前は働いていた人が多く、ホームレスとなるに至った事情として、企業の倒産や解雇、自身の病気や人間関係等の理由で仕事を失ったことや、家庭の事情など様々な結果がでています。 ホームレスの数は大幅に減少しているものの、その背後には、様々な居住の不安定を抱える人々が存在し、何らか屋根のある場所と、路上を行き来している状況が確認されています。ホームレスの自立支援を推進するためには、今日の産業構造や雇用環境等の社会情勢の変化を捉えながら、総合的かつきめ細かな支援を行う必要があります。 また、ホームレスへの襲撃事件や嫌がらせ、暴行事件などが、いまだに発生しています。私たちは、その背景にあると思われる、ホームレスに対する偏見や、排除しようという意識をなくすとともに、この問題を個人の責任だけに帰するのではなく、市民・事業者・学校・地域など社会全体の課題として捉え、解決していかなくてはなりません。 ○取組状況 国は 、平成14年(2002年)に「ホームレス自立支援法」を制定し、国及び地方公共団体の責務として、ホームレスの自立等を支援するため、福祉、就労、住居、保健、医療等の分野において総合的な取組を行うとともに、ホームレスの人権擁護について啓発を行うことを定めています。 横浜市では「ホームレス自立支援法」に基づき、平成16年(2004年)に「第1期 横浜市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画」を策定し、国や県などとともにホームレスの自立の支援に取り組んでいます。現在の「第4期 横浜市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画」(平成31年度(2019年度)〜35年度(2023年度))では、横浜市におけるホームレスの実態に応じた施策を計画的かつ効果的に実施するとともに、自立支援施策の更なる推進を目的として、基本的な施策の方向性を明示しています。 今後もホームレスの基本的人権を尊重し、路上生活からの脱却を支援するとともに、市民の理解を深めるなど、総合的な施策を推進します。 ○施策の方向性 ホームレスの基本的人権を尊重し、路上生活からの脱却を支援するとともに、市民の理解を深めるなど、総合的な施策を推進します。 調査・実態把握 ・市内各所での巡回相談時の状況把握 ・ホームレスの実態に関する全国調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・「広報よこはま」や人権研修などによる啓発 ・学校における生命尊重を基本とした人権教育の推進 相談支援の充実 ・各区役所窓口・自立支援施設・巡回相談等、様々な場面における、本人の意向を尊重し、その人権の擁護を第一にした支援 多様な主体との協働 ・「第4期 横浜市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画」に基づいた、関係機関等や民間団体との連携によるホームレス自立支援施策の推進 10性的少数者(セクシュアル・マイノリティ) ○現状と課題 性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)とは、様々な性のあり方の中で、少数の立場にある人のことを言います。性的指向について少数であるレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、性自認について少数であるトランスジェンダー(身体の性に違和感をもつ人)の頭文字をとってLGBTと言われることもあります。 「性的指向」 人の恋愛・性愛がどのような対象に向かうかを示す概念。自分がどのような性別を好きになるかということ。 「性自認」 自分の性をどのように認識しているのか、どのようなアイデンティティ(性同一性)を自分の感覚として持っているかを示す概念。 LGBTの4つの類型にあてはまらない人たちもたくさんいます。そこで、誰にでも性的指向・性自認があり、性のあり方は多様であることを示す言葉としてSOGI(「ソギ」または「ソジ」)が使われています。 性的少数者の割合は5〜8パーセントであるといわれ、学校や職場の仲間として、あるいは家族として、身近に存在しています。しかし、差別や偏見を恐れて、周囲に伝えられない(カミングアウトしていない)人も多く、その存在が可視化されていないのが実情です。地域・事業所はもとより、学校などにおいても、これらの人々に対する理解を深めていく取組が求められます。 令和2年(2020年)6月の「労働施策総合推進法」の改正において、相手の性的指向、性自認に関する侮辱的な言動を行うこと等をパワー・ハラスメントに該当すると考えられる例として明記されました。このように性的指向・性自認に関する正しい理解を促進するための取組が進められるなど、性の多様性については、近年、社会の関心が高まってきています。こうした動きをさらに加速させていくことが求められます。 (1)同性愛について 同性愛の人たちは、時代や社会集団を問わず、常に一定の割合で存在します。 世界保健機関(WHO)は、平成4年(1992年)、「同性愛はいかなる意味においても治療の対象とはならない」という見解を発表しました。  しかし、現状は、性別を男性と女性の2つに分類し、異性を性愛の対象とすることが当たり前という意識が強く、性的指向が本人の意思によって選択できるという誤解も多い中、違う性のあり方を持つ性的少数者への理解はまだ不十分です。性的指向が異性以外へ向かう人、いずれにも向かわない人など、まだ周囲の理解が不足しているため、様々な場面でそうした人々が苦しんでいるという実態があります。異性愛(性的指向の対象が異性)が「普通」「正常」という意識は、社会の中に根強くあり、同性愛は偏見やからかいの対象として扱われがちです。 このため、多くの同性愛者は、ありのままの自分を隠し、異性愛者を装って生きざるを得ない現実があります。同性愛について正しく理解し、偏見を解消していくことが必要です。 (2)「トランスジェンダー」と「性同一性障害」について トランスジェンダーとは、「身体の性」と「心の性」が一致していないため「身体の性」に違和感を持つことや、「心の性」と一致する性別で生きたいと望む人のことを言います。 性同一性障害とは、トランスジェンダーのうち、医療機関を受診し、「身体の性」と「心の性」が一致しないと診断された人たちに対する医学的な診断名です。トランスジェンダーの全員が性同一性障害の診断を受けていたり、または希望していたりするわけではありません。 日本では平成16年(2004年)に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、条件付きではあるものの戸籍上の性別の変更が可能になりました。しかしながら、その条件が厳格であるため、戸籍上の性別は変更しないまま、心の性に合致した性別で生活する人もいます。 なお、日本精神神経学会は平成26年(2014年)に、性同一性障害を「性別違和」に名称変更するよう呼びかけました。また、令和元年(2019年)5月に世界保健機関(WHO)が承認し、2022年1月から適用予定の「国際疾病分類・改訂版第11版」(ICD-11)では、性同一性障害が「精神障害」の分類から除外され、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「性別不合(仮訳)」として、「病気」や「障害」ではない状態として位置づけられています。 トランスジェンダーの人たちは、幼少期から自分の性別に対する違和感を持ちながら、その理由が分からず、強い孤独感や絶望感に陥りがちです。さらに、「身体と心の性が異なることはない」という誤解や偏見による差別を恐れて、周囲に悩みを打ち明けられず、抱え込んでいる人が多い現状があります。そのため、広く社会が認識を深めることが求められます。 ○取組状況 横浜市では、性的少数者の人々に対する差別や偏見、暮らしの中での困難などを解消するため、さまざまな支援事業を進めています。 平成16年(2004年)から、印鑑登録証明書をはじめ、法令上、男女の別を記載することが義務づけられていない各種申請書類等については性別記載欄を削除する等の取組を進めてきました。 また、平成27年度(2015年度)からは、性的少数者の支援に携わっている臨床心理士が悩みを聞く個別専門相談や、同じ悩みを抱える者同士が集い安心して過ごすことができる交流スペースを開設し、性的少数者の方々が「自分らしく」いきいきと生活できるようになるための取組を進めています。 さらに令和元年(2019年)12月から、性的少数者をはじめ、様々な事情によって、婚姻の届出をせず、あるいはできず、悩みや生きづらさを抱えている方々に寄り添っていくために、「横浜市パートナーシップ宣誓制度」を実施しています。 教育現場においても、平成27年(2015年)4月に文部科学省により「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」の通知が各自治体の教育委員会あてに出されました。それを受け、横浜市の学校においても、性的少数者に対する配慮を求める取組がなされています。 横浜市は、区役所での窓口対応をはじめ、様々な施策の実施において、これら性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)の人権を尊重するとともに、市民の理解促進に向けて、市民向け講演会やパネル展示など、啓発に取り組んでいます。 ○施策の方向性 性的少数者の人々が「自分らしく」いきいきと生活できるよう、偏見や差別、暮らしの中での困難などを解消するための施策を推進します。 調査・実態把握 ・人権に関する市民意識調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・職員、教職員に対する性的少数者についての研修及び相談窓口における対応強化 ・性的少数者である児童生徒が抱える問題に対する教育現場での配慮 ・保健・福祉・医療関係者に対する啓発 ・性的少数者に関しての市民・事業所等への啓発 相談支援の充実 ・個別専門相談窓口や交流スペースの提供 ・パートナーシップ宣誓制度の運用 多様な主体との協働 ・ノウハウを持つ人権関係団体・NPO法人などとの連携・協力 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「自由権規約委員会による総括所見」(2014年7月24日)の主な内容について ・レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人々に係る社会的嫌がらせ及び非難についての報告、及び自治体によって運営される住宅制度から同性カップルを排除する差別規定についての報告を懸念する。 11 自死・自死遺族 ○現状と課題 我が国の自殺(自死)者数は、平成10年(1998年)以降、14年連続して3万人を超える状態が続いていたのを受け、平成18年(2006年)「自殺対策基本法」が制定され、平成19年(2007年)には、国の自殺対策の指針となる「自殺総合対策大綱」が策定され、国を挙げて自殺対策に取り組んできました。平成28年(2016年)の自殺対策基本法の改正では、すべての都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務付けられ、平成29年(2017年)には「自殺総合対策大綱」も見直され、地域レベルの実践的な取り組みや子ども・若者・勤務問題に対する自殺対策のさらなる推進が新たに加えられました。 横浜市においても、平成14年(2002年)以降、自殺対策の強化を進め、自死遺族や自殺未遂者への支援などに取り組んできました。 このように「自殺対策基本法」等に基づく様々な取組により、平成22年(2010年)以降、自殺者数は減少傾向となり、令和元年(2019年)には全国では約2万人、横浜市でも490人となっています。しかしながら、国、本市とも若年層の死因の第1位は自殺となっていること、自殺死亡率が他の先進国と比較して高い水準にあることを踏まえると深刻な状況が続いているという認識が求められています。また、令和2年(2020年)は新型コロナウイルス感染症による影響により、11年振りに自殺者数が増加に転じました。自殺の背景には、経済・生活問題、健康問題、労働問題、家庭問題など様々な問題が重なっており、社会全体の問題として捉え、精神保健福祉分野に限らず、勤労、経済支援、教育、ハード面の安全対策など多岐にわたる取組を自殺対策につなげていく必要があります。 「自ら選んだのだから仕方がない」、「防ぎようがない」という考えは、間違った考え方です。自ら進んで自殺する人はいないのです。 自殺を個人的な問題として捉えるのではなく、その背景に潜む様々な社会的要因を考慮する必要があります。 また、自殺に関わる大切な施策の一つに、自死遺族に関わる課題があります。深い悲しみと自責の中にいる遺族にとって、心ない声かけは大きな心痛となります。多くの方が自殺で亡くなられている現代、誰もが日常生活や業務において、自殺対策の取組の重要性を認識するとともに、自死遺族への適切な支援について理解する必要があります。 ○取組状況 平成14年(2002年)から、現状調査・把握、普及啓発、ゲートキーパーの育成を強化するとともに、自死遺族や自殺未遂者への支援などに取り組んできました。また平成28年(2016年)の自殺対策基本法の改正など全国の動きに合わせて、自殺対策を総合的かつ効果的に推進していくために、平成31年(2019年)3月に「横浜市自殺対策計画」を策定し、「誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指して取組を進めてきました。横浜市自殺対策計画では、5つの基本施策と本市の自殺の特性を踏まえ対象者を明確にした3つの重点施策、本市における様々な分野の事業のうち自殺対策につながる各区局の関連施策により、取組を進めています。 これまで取り組んできた自殺の実態把握、ゲートキーパーの育成とともに、自死遺族や自殺未遂者への支援を充実させるとともに、「誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指しています。 ここに表があります。 横浜市における自殺対策施策の体系 基本施策 国が地域の自殺対策の基本的な施策として全国的に実施されることが望ましいとされるもので、本市でもこれまで取り組んできた5つの施策 @地域におけるネットワークの強化 A自殺対策を支える人材「ゲートキーパー」の育成 B普及啓発の推進 C遺された方への支援の推進 D様々な課題を抱える方への相談支援の強化 重点施策 本市の自殺の特徴を踏まえ、対象者を明確にした施策 ・40〜50歳代の自殺者数が全体の4割を超える  @自殺者の多い年代や生活状況に応じた対策の充実 ・自殺未遂の経験のある自殺者数が全体の2割を超える  A自殺未遂者への支援の強化 ・30歳未満の自殺死亡率が減少しない  B若年層対策の推進 関連施策 自殺対策につながる各区局の事業 表はこれで終わりです。 ○施策の方向性 横浜市自殺対策計画に基づき関係機関等と連携しながら施策を推進します。 調査・実態把握 ・こころの健康に関する市民意識調査(自殺に関する市民意識調査)の実施 研修・教育・啓発の推進 ・「ゲートキーパー」の育成(自殺対策計画の基本施策A) ・普及啓発の推進(同計画の基本施策B)、 ・自殺の多い年代や生活状況に応じた対策の充実(同計画の重点施策@) ・若年層対策の推進(同計画の重点施策B) 相談支援の充実 ・専門相談員による電話相談など遺された方への支援の推進(自殺対策計画の基本施策C) ・様々な課題を抱える方への相談支援の強化(同計画の基本施策D) ・自殺の多い年代や生活状況に応じた対策の充実(同計画の重点施策@) ・自殺未遂者への支援の強化(同計画の重点施策A) ・若年層対策の推進(同計画の重点施策B) 多様な主体との協働 ・地域におけるネットワーク強化(自殺対策計画の基本施策@) 12 犯罪被害者等 ○現状と課題 犯罪被害者やその家族、遺族(以下、被害者等)は、犯罪による直接的な被害に加え、精神的にも、経済的にも様々な打撃を受け、日常生活上の様々な困難に直面しています。また、被害者等を取り巻く地域住民や支援に携わる関係者の無理解や配慮に欠けた言動、報道機関の行き過ぎた取材活動等により二次被害を受けることがあるなどの問題が指摘されています。 そのため、平成17年(2005年)に「犯罪被害者等基本法」が施行され、地方公共団体に対しては、相談体制の整備など支援の取組が求められています。 また、同法により、政府は、被害者等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、被害者等のための施策に関する基本的な計画を定めなければならないこととされており、令和3年(2021年)4月、「第4次犯罪被害者等基本計画(令和3年度(2021年度)〜令和7年度(2025年度))」が策定されました。 ○取組状況 横浜市では、平成24年(2012年)6月から、被害者等支援のため、「横浜市犯罪被害者相談室」を開設し、被害者等からの相談に応じ支援を行っているほか、市民等の被害者等への理解が深まるよう、さまざまな啓発事業を実施しています。 さらに、被害者等の権利利益の保護が図られる地域社会の実現に向け、被害者等への支援の充実や、市民の理解・協力の確保等の観点から、被害者等の支援について市、市民等及び事業者のそれぞれの責務を明確にするとともに、経済的な負担の軽減や被害からの早期回復のための支援等を盛り込んだ「横浜市犯罪被害者等支援条例」を平成30年(2018年)12月に制定、平成31年(2019年)4月に施行しました。 個別の相談支援として、被害者等からの相談に応じて、その状況や支援ニーズを把握し、庁内関係部署、かながわ犯罪被害者サポートステーションや法テラス等の関係機関と連携し、各種制度・事業や窓口に関する情報の提供、助言などを行っています。このほか、条例に基づく支援制度として、カウンセリングの提供や法律相談、経済的負担の軽減のための見舞金の支給などの日常生活における支援を実施しています。 被害者等支援体制整備のための取組として、被害者等が直面する様々な問題に、関係機関が連携して対応し、途切れない支援を行うため、庁内の支援体制整備に取り組むとともに、関係機関等との連携支援体制の整備に向けて、国や県と協働して事業を行っています。 また、区及び市役所の各窓口で、職員が被害者等に対し不適切な対応をして二次被害を与えないよう、職員を対象とした研修等を行うほか、福祉や保健の相談支援を行うケアプラザ職員など、地域の身近な相談先として被害者等に関わる支援者への研修などを実施しています。さらに市民が被害者等の置かれている現状や心情を理解し、被害者等が安心して地域で生活できる社会の実現を目指し、講演会やパネル展示、リーフレット配布などの啓発事業を行っています。 ○施策の方向性 犯罪被害者等が地域で安心して生活できるよう、支援の充実や支援に関わる人材育成、市民向けの啓発事業などの施策を推進します。 調査・実態把握 ・人権に関する市民意識調査の実施 ・「横浜市犯罪被害者相談室」における被害者等の現状把握 研修・教育・啓発の推進 ・被害者等への理解を深めるための市区の窓口職員向け研修 ・地域の支援機関との連携支援を目指した支援機関向け研修 ・地域住民の理解促進のための啓発 相談支援の充実 ・多機関連携による途切れない支援に向けた支援システムの構築 多様な主体との協働 ・市内関係機関との連携支援体制整備事業 ・庁内の被害者等支援ネットワークの推進 13 インターネット等による人権侵害 ○現状と課題 インターネットが情報収集ツールからコミュニケーションツールへと進展し、誰もが気軽に情報を発信できる等利便性が大きく増しています。一方で、そのインターネットを悪用し、他人の誹謗中傷や侮辱、無責任なうわさ、特定の個人のプライバシーに関する情報の無断掲示や差別的な書き込みなどの人権侵害が社会問題となっています。携帯電話やスマートフォンの普及には目覚ましいものがあり、大人だけでなく子どもの所有率も増加しています。フェイスブック、ツイッター、ラインなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)等の機能を使って、気軽に情報収集やコミュニケーションがとれる一方、いじめに利用されることも課題となっています。 さらに、インターネットを利用したセクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメント等のハラスメント、部落差別(同和問題)や外国人、障害者等に関する差別的な書込み等も深刻化しています。 こうした誹謗中傷等の書込みや、社会的地位を低下させるような内容の書込みは、名誉毀損や侮辱にあたり、刑法犯罪に問われる場合があります。また、個人情報(住所、メールアドレス、写真等)を無断で掲載することは、プライバシーの侵害にあたります。これらの行為は、相手の心を深く傷つけるだけではなく、場合によっては、自死につながることもあります。  インターネットでの人権侵害は、他のメディアなどと異なり、「匿名」で気軽に発信できることや、一度公開された内容がすぐに広まってしまうため被害が急速に拡大すること、サイト管理者が分からず削除が難しい場合があること等、その全てに対処することが困難なことが特徴として挙げられます。 また、性的な画像等をその撮影対象者の同意なく、インターネットの掲示板等に公表する行為により、被害者が大きな精神的苦痛を受ける被害が発生しています。このような実情に鑑み、平成26年(2014年)「リベンジポルノ被害防止法」が施行されました。 さらに、インターネットの利用者には障害者、高齢者、外国人など様々な立場の人たちがいることを考慮して情報発信する必要があります。また、経済的な理由などからインターネットを利用できる環境にない人もいることから、情報格差が発生する可能性もあります。 このような状況に対処するには、市民一人ひとりがインターネットの特徴をよく理解するとともに、インターネットには必ず現実の「人」が関与していることに思いを馳せ、人権に配慮した利用を心がけることが大切です。そして、管理者側はインターネットでの情報提供や掲示板などのサービスを行う際に、人権について考え、内容を適切に管理することと同時に、ウイルスなど情報セキュリティへの適切な対策のほか、データの盗み見や不正取得、個人情報漏えいによるプライバシー侵害が起きないよう対策を取る必要があります。また、インターネットによる周知を行う場合は、特定の人に情報が提供されないことがないよう、障害者、高齢者、外国人などに誰にでもかりやすいホームページの作成や、紙媒体での情報提供も必ず行うなど、誰もが平等に情報を得られるようにする必要があります。  ○取組状況 横浜市は、インターネットによる適切な情報提供や管理に努めるとともに、市民、事業者等にも様々な機会を通じて啓発を行っています。 また、児童生徒やその保護者に対しては、学校教育を通じて適切な利用について理解を図っています。 ○施策の方向性 インターネットによる適切な情報提供や管理に努めるとともに、市民(特に子ども)、事業者等にも様々な機会を通じて啓発を推進します。 調査・実態把握 ・人権に関する市民意識調査の実施 ・子どもたちのネット利用に係る実態調査の実施 ・県が実施するインターネット上の差別の実態調査結果等による把握 研修・教育・啓発の推進 ・各種事業を通じたインターネット使用におけるモラルやリスクについての啓発 ・インターネットを利用する児童生徒への指導及びその保護者への啓発 ・児童生徒が所持する携帯電話へのフィルタリングサービス利用についての保護者への周知 ・インターネット利用が困難な人に発生する情報格差を防ぎ、解消するための対応 ・事業者に対するインターネット利用に関わる人権についての意識啓発 相談支援の充実 ・相談機関や窓口の周知 多様な主体との協働 ・ノウハウを持つ人権関係団体・NPO法人などとの連携・協力 14 災害に伴う人権問題 ○現状と課題 平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災と、それに起因する原子力発電所の事故によって、多くの犠牲者と被災者が発生しました。そして、東日本を中心に人々の心身や生活に大きな打撃を与えました。また、原子力発電所の事故については、放射線の影響のため、避難や転居を余儀なくされた人々に対し、風評での思い込みや心ない言動により、被災者を二重に傷つけるできごとも発生しました。 近年においても、平成28年(2016年)4月に発生した熊本地震、令和2年(2020年)7月に発生した九州での記録的な豪雨など災害が繰り返し発生しています。 このような状況において、避難所生活の中では、プライバシーが守られにくいことのほかに、高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、外国人などの災害時要援護者や、性的少数者、女性に対する十分な配慮が行き届かないことなどの人権課題が顕在化しました。 また、長期化する避難生活のストレスから暴力や虐待などの人権侵害も問題となっています。 災害時には、不確かな情報に惑わされない冷静さとともに、「相手の立場に立って考える」「相手の気持ちを想像する」姿勢を忘れないことが大切です。 ○取組状況 横浜市では、市における災害に対処するための基本的かつ総合的な計画として、「災害対策基本法」に基づき、横浜市防災計画を策定しており、この中で災害対策における「人権尊重」を規定しています。具体的には、高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、外国人などの「災害時要援護者」は、援護を必要とする状態が一人ひとり異なることを認識し、対応する必要があることや、災害対策は、すべての人の人権への配慮を基本にして行うことを明記しています。 また、平時における固定的な性別役割分担意識を反映して、災害後には、家事、子育て、介護等の家庭的責任が女性に集中してしまう可能性や、女性や子どもを狙った犯罪が増加するおそれなど、様々な問題の発生が考えられることから、固定的な性別役割分担意識をなくし、方針決定過程や地域活動への女性の参画を促進するなど、防災対策に男女共同参画の視点を取り入れ、防災計画のすべての事項を通して男女のニーズの違い及び性的少数者の方への配慮を行うことなどを定めています。 ○施策の方向性 避難生活における安心・安全の確保、女性や災害時要援護者などに配慮した避難支援体制の整備に向けた施策を推進します。 調査・実態把握 ・人権に関する市民意識調査の実施 ・横浜市民の防災・減災の意識、取組に関するアンケート調査の実施 研修・教育・啓発の推進 ・災害に備えるための避難所運営訓練等の実施・周知・啓発 相談支援の充実 ・災害時要援護者への配慮 ・男女共同参画の視点を取り入れた防災体制の確立、男女のニーズの違いや性的少数者への配慮 多様な主体との協働 ・支援のノウハウを持つ人権関係団体・NPO法人などとの連携・協力 ○国連組織による最終見解の主な内容について 「社会権規約委員会による総括所見」(2013年5月17日)の主な内容について ・東日本大震災及び福島原発事故の被害への救済策の複雑さに留意して、委員会は高齢者、障害者、女性及び子どもといった不利益を被っている脆弱な集団の特別な要望が、避難の際並びに復旧及び復興の努力において十分に満たされなかったことに懸念を表明する。 「女性(女子)差別撤廃委員会による最終見解」(2016年3月7日)の主な内容について ・2011年の東日本大震災後の国・地方レベルの災害リスクの削減と管理分野において指導的役割への女性の参画が少ないことを懸念する。特に地方レベルで災害に関する意思決定や復興過程への女性の参画を加速することを勧告する。また、災害リスクの削減や復興対策だけでなく、全ての持続可能な開発政策に男女共同参画の視点を取り入れるための取組も継続すべきである。 15 その他の課題 ○先住民族(アイヌ民族) 現在世界には、少なくとも5000の先住民族が存在し、その数は3億7000万人を数え、5大陸の90カ国以上の国々に住んでいます。平成19年(2007年)に採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(国連先住民族権利宣言)では、文化、アイデンティティ、言語、雇用、健康、教育に対する権利を含め、先住民族の個人および集団の権利を規定しています。さらに、先住民族について「自らの植民地化とその土地、領域および資源の奪取の結果、歴史的な不正義によって苦しんできた」との指摘がされています。 多くの先住民族は政策決定プロセスから除外され、ぎりぎりの生活を強いられ、搾取され、社会に強制的に同化させられたり、自分の権利を主張すると弾圧、拷問、殺害の対象ともなりました。また、迫害を恐れてしばしば難民となり、時には自己のアイデンティティを隠し、言語や伝統的な慣習を捨てなければならないこともありました。 アイヌ民族は、固有の言語や伝統的な儀式・祭事、ユカラなどの多くの口承文芸等、独自の豊かな文化を持っていますが、近世以降のいわゆる同化政策等により、その文化の十分な保存・伝承が図られているとは言い難い状況にあります。 平成9年(1997年)に「アイヌ文化振興法」が施行され、平成20年(2008年)6月には、国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され、国が初めて、アイヌの人々が先住民族であることを認めました。さらに令和元年(2019年)5月に、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会の実現を図ることなどを目的とする「アイヌ民族支援法」が施行されました。アイヌの人たちは、北海道だけでなく、首都圏にも多く居住しています。アイヌ民族の文化や歴史を理解し、民族としての誇りを尊重することで、偏見・差別をなくし、ともに生きる社会を築くための取組を進めていきます。 ○拉致被害者等 北朝鮮が行った拉致は重大な人権侵害です。政府が認定した拉致被害者のほかにも、拉致の可能性が否定できない事案があることも指摘されています。 平成18年(2006年)に施行された「北朝鮮人権侵害対処法」では、地方公共団体の役割として、国と連携を図りつつ拉致問題等の人権問題に関する国民世論の啓発に努めるよう規定し、12月10日から16日までを「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」と定めています。同法に基づき、横浜市は、神奈川県、川崎市や民間団体と連携した啓発活動を通して、一日も早い問題解決の後押しとなるよう取り組んでいきます。 また、北朝鮮による拉致問題が、在日韓国人・朝鮮人等の方々に対する差別的な見方に繋がらない よう啓発に努めていきます。 ○刑を終えて出所した人 刑を終えて出所した人は、本人が真摯な更生意欲を持っているにもかかわらず、就職や住居の確保にあたって差別を受ける場合があります。刑を終えて出所した人が円滑に社会復帰を果たすためには、周囲の人々や職場、地域社会の理解と協力が不可欠です。 平成28年(2016年)、犯罪をした者等の円滑な社会復帰を促進すること等を目的に「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行され、平成30年(2018年)度から令和4年(2022年)度末までの5年間を計画期間とした「再犯防止推進計画」が策定されました。 横浜市では、「再犯の防止等の推進に関する法律」に基づき、令和2年(2020年)3月に「誰もが安心して自分らしく健やかに暮らすための更生支援の方向性(横浜市再犯防止推進計画)」を策定しました。 犯罪被害に遭う人の減少と立ち直ろうとする者を受け入れる社会を実現させるため、犯罪被害者等の尊厳に配慮しつつ、関係機関・団体と連携協力して、犯罪をした者等に寄り添い、更生を支援していきます。また、関係機関・団体とともに、広報啓発活動を推進し、犯罪をした者等の地域での立ち直りに対する理解を促進します。 ○人身取引(トラフィッキング) 性的搾取、強制労働等を目的とした「人身取引」は、重大な犯罪であり、基本的人権を侵害する深刻な問題です。被害者の多くは社会的・経済的に弱い立場にある女性や子どもたちですが、男性も被害者となり得ます。売春などの性的な搾取だけではなく、労働搾取や、臓器の摘出を目的とする場合もあります。 国は平成16年(2004年)4月から「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」を開催する等して関係行政機関が緊密な連携を図りつつ、「人身取引対策行動計画」(平成16年(2004年)12月)、「人身取引対策行動計画2009」(平成21年(2009年)12月)に基づき、人身取引の防止・撲滅と被害者の適切な保護を推進してきました。平成26年(2014年)12月には、新たに「人身取引対策行動計画2014」が策定され、「平成32年(2020年)の第32 回オリンピック競技大会(2020/東京)・東京2020パラリンピック競技大会に向けた「世界一安全な国、日本」を創り上げることの一環として、人身取引対策に係る情勢に適切に対処し、政府一体となってより強力に、総合的かつ包括的な人身取引対策に取り組み、人身取引の根絶を目指す」こととされました。 人身取引は、被害者に深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらします。被害者からの訴えや相談を適切に認知し、対応できるよう、国の取組を踏まえ、関係機関・関係団体との情報交換や啓発に努めます。 ○ハラスメント ハラスメントは、職場など様々な場面での「嫌がらせ、いじめ」を意味します。本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたりする発言や行動が問題となっています。ハラスメントの種類は多岐に渡りますが、一般的に広く知られているものとしては、性的嫌がらせを意味する「セクシュアル・ハラスメント」、職務権限を背景にした職場等での嫌がらせを意味する「パワー・ハラスメント」、妊娠・出産・産休・育休などを理由に職場で不利益な扱いを受けることを意味する「マタニティ・ハラスメント」などが挙げられます。 こうしたハラスメントを防止し、女性をはじめとする多様な労働者が活躍できる就業環境を整備するため、女性活躍推進法等の一部改正により、令和2年(2020年)6月から、一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大、女性の職業生活における活躍の推進に関する情報公表の強化、パワー・ハラスメント防止のための事業主の雇用管理上の措置義務等の新設及びセクシュアル・ハラスメント等の防止対策等の措置が講じられることとなりました。 ハラスメントに対しては組織で取り組むことが大切であり、職場における相談窓口の設置や研修の実施による理解促進などの取組を進めることが重要です。 ○生活困窮者 近年の経済状況の変化により、生活困窮に至るリスクの高い人々や生活保護受給者が増大しており、日本の相対的貧困率は上昇傾向にあり、特に高齢者世帯や母子世帯の相対的貧困率が高い状況となっています。これは、急速な高齢化に伴い収入源が限られている高齢者が増加してきていることなどが原因と考えられます。また、母子世帯では、働く母親の多くが給与水準の低い非正規雇用であることも影響しています。家庭の経済的貧困が、子どもたちの教育や就労における機会均等に影響し、貧困が次世代に渡り、連鎖するといった問題も指摘されています。そのため、国は平成25年(2013年)6月に「子どもの貧困対策法」を制定、また平成26年(2014年)8月に「子供の貧困対策に関する大綱」を策定し、親から子への貧困の連鎖を防ぐため、教育費の負担軽減や親の就労支援などに取り組む方針を立てました。また、令和元年(2019年)6月に同法が改正されるとともに、同年11月に新たな「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定され、「子育てや貧困を家庭のみの責任とするのではなく、地域や社会全体で課題を解決するという意識を強く持つ」ことなどが掲げられています。 この他にも、失業、病気、家族の介護などをきっかけに生活困窮に陥る人々も増えています。国は、平成25年(2013年)4月から「生活困窮者自立支援法」を制定し、平成27年(2015年)4月から様々な事情で経済的に困難を抱えている方に支援を行う制度をスタートさせました。生活保護のような現金給付ではなく、自立に向けた人的な支援が中心となっている制度です。横浜市では、各区役所の生活支援課を相談窓口として、状況に応じた支援を行っていきます。 ○様々な人権課題 上記の他にも、ひとり親家庭、婚外子、児童養護施設や里親などの社会的養護のもとで育った人々、若年性認知症の人々などに対して差別や偏見の眼差しが向けられることがあります。また、様々な事情から出生の届出がされず、無戸籍であることから制度的な保障が受けられず、困難を抱えている人々もいます。さらに、事件や事故の加害者の家族や周囲の人たちに、批判や好奇の眼が向けられることや労働者に対する賃金の未払い、長時間労働、退職強要など、ブラック企業といわれている人権を侵害するような事業所等の存在が問題となっています。 また、横浜市独自の問題として、横浜の経済発展を支えてきた労働者が多く居住する地域への偏見・差別の問題があります。中区の寿町周辺に、戦後の横浜港の港湾労働や高度経済成長期の土木・建設業などに従事する人たちの多くが地方から集住し、日雇就労という不安定な雇用制度の中で、横浜市の発展はもとより、我が国全体の戦後の産業構造の転換と経済発展の一端を担ってきました。近年、この地域は、従来の日雇就労で生計を立てる人が減少する一方、他の地域にもまして高齢者が増加しています。そうした中で、住民は高齢者をはじめ誰もが安全・安心に住み、お互いに支えあいながら交流しやすい開かれたまちづくりを緩やかに進めています。しかし、我が国の戦後を支えてきたこの地域や居住する人たちに対する差別意識や偏見があることは否めません。こうした差別や偏見をなくすために、地域の歴史的な背景や現在の姿について正しい理解を促すよう啓発に努めていきます。 一人ひとりの人権は、誰にとっても等しくかけがえのないものであり、互いに尊重し合う寛容さが求められます。