第1章人権施策基本指針の位置づけ 1人権とは 人は、誰もがかけがえのない存在であり、一人ひとりが多様な個性と豊かな可能性を有しています。人権とは、その基盤となる一人ひとりの尊厳と固有の権利であり、それらが保障されることによって、人は希望を持ち、努力し、可能性を発揮することができます。 人権は誰もが等しく持っているものです。全ての人が互いの人権を尊重しあうことが、自らの人権が尊重されることにつながります。 2指針の位置づけ 本指針は、横浜市のあらゆる施策・事業について、人権尊重の視点をもって推進するための基本姿勢を示すとともに、横浜市における人権施策の取組の全体像を明らかにするものです。 横浜市は、市政運営の基本理念を定めた「横浜市基本構想(長期ビジョン)」において、人権尊重を都市づくりの基本に据え、「横浜市中期4か年計画2018〜2021」など各種基本計画や行動計画に、人権尊重の視点を盛り込み、人権施策を総合的・体系的に推進することで、人権に関する諸課題の解決に向け全庁的に取り組んでいます。 また、人権に関わる問題は市民共通の課題であり、社会全体の課題です。そのため、横浜市は、行政の責務として人権問題の解決に取り組んでいくとともに、市民、団体・事業者にも呼びかけ、社会全体で人権尊重の取組を推進していきます。 コラム 指針策定の経緯 平成8年(1996年)の「ゆめはま人権懇話会」における「人権を尊重する社会をめざして」と題する提言では、人権問題の解決に向け横浜市が基本的に留意すべき点として、 @人権尊重の文化・風土づくりに向けた、豊かな人権感覚をはぐくむための啓発・教育等の取組 A人権施策推進の基礎となる人権問題の現状を把握するための取組 B人権擁護を進める社会的システムの整備の推進 C取組を効果的に進めていくためのネットワークづくり が掲げられました。 その提言を受け、平成10年(1998年)、あらゆる施策・事業を人権尊重の視点を持って推進するとともに、市民、団体・事業者にもその取組を呼びかけるために「横浜市人権施策基本指針」を策定しました。 3人権問題に対する基本認識 (1)人権を取り巻く状況 ア国際社会の動向 20世紀における2度の世界大戦の経験から、国際連合(以下「国連」という。)は、昭和23年(1948年)に「世界人権宣言」を採択し、基本的人権の尊重と人間の尊厳の不可侵は世界共通の課題として、人権の保障に取り組むことを宣言しました。そして、その考え方を具体化するため、「人種差別撤廃条約」(昭和40年(1965年))、「国際人権規約」(昭和41年(1966年))、「女性(女子)差別撤廃条約」(昭和54年(1979年))、「子どもの権利条約」(平成元年(1989年))、「障害者権利条約」(平成18年(2006年))など30を超える人権関連の条約を採択し、加盟国に批准・加入を求めてきました。 また、平成27年(2015年)に、国連が採択したSDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)では、「人や国の不平等をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」など17の目標を掲げ、「人権尊重」を大きな柱としています。エスディージーズを定めた「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文でも、「誰一人取り残さない」「すべての人々の人権を実現する」と宣言されており、人権尊重の理念が基礎にあることを示しています。 このように、人権の尊重は、国際社会全体にかかわる問題として、その具現化に向けて、不断の努力が重ねられてきています。 ここに画像があります。 エスディージーズのロゴと17個の目標のアイコンの画像です。 17個の目標 1貧困をなくそう 2飢餓をゼロに 3すべての人に健康と福祉を 4質の高い教育をみんなに 5ジェンダー平等を実現しよう 6安全な水とトイレを世界中に 7エネルギーをみんなにそしてクリーンに 8働きがいも経済成長も 9産業と技術革新の基盤をつくろう 10人や国の不平等をなくそう 11住み続けられるまちづくりを 12つくる責任つかう責任 13気候変動に具体的な対策を 14海の豊かさを守ろう 15陸の豊かさも守ろう 16平和と公正をすべての人に 17パートナーシップで目標を達成しよう これらのアイコンの最後にエスディージーズのロゴである17色の円が載っています。 画像の説明は終わりです。 コラム 人権とはどこから始まるのでしょうか。エレノア・ルーズベルトのメッセージ。 20世紀には、世界を巻き込んだ大戦が2度も起こり、特に第二次世界大戦中においては、特定の人種の迫害、大量虐殺など、人権侵害、人権抑圧が横行しました。このような経験から、人権問題は国際社会全体にかかわる問題であり、人権の保障が世界平和の基礎であるという考え方が主流になってきました。 そこで、昭和23年(1948年)12月10日、国連第3回総会(パリ)において、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として、「世界人権宣言」が採択されました。世界人権宣言は、基本的人権尊重の原則を定めたものであり、それ自体が法的拘束力を持つものではありませんが、初めて人権の保障を国際的にうたった画期的なものです。 この宣言は、すべての人々が持っている市民的、政治的、経済的、社会的、文化的分野にわたる多くの権利を内容とし、前文と30の条文からなっており、世界各国の憲法や法律に取り入れられるとともに、様々な国際会議の決議にも用いられ、世界各国に強い影響を及ぼしています。 以上、法務省ホームページより引用。 世界人権宣言を起草した人権委員会の議長 エレノア・ルーズベルト(公式記録にはフランクリン・ルーズベルト夫人と記録)は、次のように述べています。 「結局、普遍的人権とはどこから始まるのでしょう。小さなところ、家の近く、……とても近くてとても小さくてどの世界地図にものっていないところ。しかし、そこは個人という人の世界なのです。人が住んでいる近所。人が通う学校や大学。人が働く工場、農場または事務所なのです。これらこそ、すべての男性、女性、子どもが差別のない平等な正義と、平等な機会と、平等な尊厳とを求める場所なのです。これらの場所でこれらの権利が意味をなさないのであれば、他のいかなる場所でもこれらの権利にはほとんど意味がないでしょう。家の近くで関係する市民がこれらの権利を支持する行動をするのでなければ、もっと大きな世界で進歩をとげることなど見果てぬ夢です。」 以上、ブリッジブック国際人権法〔第2版〕(信山社、平成27年)より引用。 イ国内の動向 国内においても、人権侵害の解消は大きな課題となっており、様々な人権課題の解決に向けて取組が進められています。平成12年(2000年)に「人権教育・啓発推進法」が制定され、人権教育・啓発に関する理念が明示されるとともに、国・地方公共団体・国民の責務が明確化されました。この中で、地方公共団体の責務として「地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と明記されました。これを受け、平成14年(2002年)には「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定され、人権教育・啓発について総合的・計画的な取組が進められています。 また、国は日本国憲法に定められた基本的人権を具体的に保障するため、また、人権関連の条約批准・加入に伴い、法整備などを行ってきました。(巻末資料2参照。)最近では、「アイヌ民族支援法」(平成31年(2019年))が整備されました。また、「部落差別解消推進法」(平成28年(2016年))、「ヘイトスピーチ解消法」(平成28年(2016年))、「女性活躍推進法」(平成27年(2015年))、「リベンジポルノ被害防止法」(平成26年(2014年))、「障害者差別解消法」(平成25年(2013年))、「生活困窮者自立支援法」(平成25年(2013年))、「いじめ防止対策推進法」(平成25年(2013年))などの人権に関する法令が整備されています。 (2)横浜市の現状 横浜市では、市民の人権に関する意識を把握するため、概ね5年ごとに「人権に関する市民意識調査」(巻末資料1参照。)を実施しています。令和2年度(2020年度)に行った調査では、「あなたは、どの人権問題に関心がありますか」という問いに対して、「インターネットによる人権侵害」、「女性の人権」、「障害児・障害者の人権」、「子どもの人権」、「感染症・疾病の患者等の人権」が上位5位を占めました。 関心のある人権問題(複数回答)についてのグラフがあります。 今回調査の回答率が高い順に、関心のある人権課題の項目が棒グラフで記載されています。 棒グラフは、今回調査(令和2年度)の回答率(回答数は、2301票)と前回調査(平成27年度)の回答率(回答数は、2021票)の2列です。 インターネットによる人権侵害 今回調査 59.0%、前回調査 45.6% 女性の人権 今回調査 51.2%、前回調査 44.2% 障害児・障害者の人権 今回調査 49.6%、前回調査 44.1% 子どもの人権 今回調査 46.6%、前回調査 44.3% 感染症・疾病の患者等の人権 今回調査 44.2%、前回調査 19.6% 高齢者の人権 今回調査 35.9%、前回調査 42.2% 北朝鮮による拉致被害者等の人権 今回調査 33.9%、前回調査 35.5% 犯罪被害者等の人権 今回調査 33.1%、前回調査 35.8% 職業差別 今回調査 32.3%、前回調査 26.4% 性的少数者の人権 今回調査 27.6%、前回調査 15.9% 外国人の人権 今回調査 27.2%、前回調査 16.0% 大規模災害時の避難生活などにおける人権侵害 今回調査 26.4%、前回調査 31.4% 性的搾取等を目的とした人身取引 今回調査 23.9%、前回調査 21.1% 自死(自殺)・自死遺族の人権 今回調査 21.2%、前回調査 17.5% 同和問題(部落差別) 今回調査 19.1%、前回調査 13.9% アイヌ民族の人権 今回調査 17.3%、前回調査 11.8% 刑を終えて出所した人の人権 今回調査 17.1%、前回調査 13.7% ホームレスの人権 今回調査 15.7%、前回調査 13.1% その他 今回調査 1.8%、前回調査 2.3% 特にない 今回調査 5.0%、前回調査 5.2% 不明 今回調査 1.2%、前回調査 3.3% ここでグラフは終わりです。 このグラフは、令和2年度「人権に関する市民意識調査」結果から抜粋しています。 平成27年度(2015年度)の調査では、「インターネット」、「子ども」、「女性」、「障害児・障害者」、「高齢者」の順番でした。前回調査に引き続き、インターネット上の人権問題が最も多くなっていますが、この5年間でおよそ13ポイント増加しています。近年、インターネット上の掲示板やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス) 等での誹謗中傷などがたびたび起きていることから、市民の関心の喚起につながったことがうかがえます。 また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響もあり、「感染症・疾病の患者等の人権」が前回調査からおよそ25ポイントと大幅に増加しました。誰もがなり得る感染症だからこそ、自分ごととして捉え、関心が持たれていることがうかがえます。さらに「性的少数者」「外国人」などについても、前回と比べ10ポイントを超える関心が寄せられています。人権に関する社会全体での取組が進展するとともに、これらが報道される機会が増えていること、差別や偏見に苦しんでいる人たちが勇気を持って社会に訴える姿に数多く接するようになったことなどが、市民の関心を高めていると考えられます。 一方、「あなたは、今の日本は『基本的人権』が尊重されている社会だと思いますか」という問いに対しては、「どちらとも言えない」という回答が約5割となっています。前回調査から大きな変化が見られないことから、引き続き、効果的かつ継続的な取組が必要であることがうかがえます。 今の日本は「基本的人権」が尊重されている社会か。についてのグラフがあります。 今回調査(令和2年度)(回答数、2301票)、前回調査(平成27年度)(回答数2021票)の2列です。 今回調査 そう思う 29.0%、どちらとも言えない 52.6%、そう思わない 17.5%、不明 0.9% 前回調査 そう思う 32.0%、どちらとも言えない 49.8%、そう思わない 15.9%、不明 2.4% ここでグラフは終わりです。 このグラフは、令和2年度「人権に関する市民意識調査」結果から抜粋しています。 コラム 偏見や差別の要因 人権問題には、それぞれ固有の歴史や背景があり、また、その実態や事象にも違いが見られますが、市民や有識者で構成された「ゆめはま人権懇話会」は「人権を尊重する社会をめざして −人権施策推進への提言−」(平成8年(1996年))において、どの人権問題にも偏見や差別の底流には、@知識不足からくる誤解や一方的決め付け A異質なものを排除する心理 B異なる価値観の否定 C固定化した観念などの心理が働いていると指摘しています。 これらの意識や心理は、その社会における多数者(マジョリティ)や優越的な立場にある人々の間で、それが当然であるかのように意識化され、少数者(マイノリティ)や弱い立場の人々に向けられるために、偏見や差別であると気づきにくくなっています。また、差別的なものの見方や偏見は、往々にして差別される側に問題や原因があるかのごとく考えられがちです。「提言」が指摘した偏見や差別が生み出される構造は、今日においても変わっていません。 最近では新型コロナウイルス感染症に関連して、グテーレス国連事務総長は、2020年5月8日のビデオメッセージで、医療従事者等への攻撃と並んで、外国人排斥の感情や、移民・難民に対する差別が横行していることを指摘し、このような状況を「憎しみのウイルス(virus of hate)」と表現しました。差別や偏見が、新型コロナウイルスの感染拡大に対する不安とあいまって私たち一人ひとりの中で増幅され、周囲に拡散していく様は、正にウイルスの感染拡大と同じです。一方で、事務総長はビデオメッセージの中で、憎しみのウイルスに立ち向かうための「社会の免疫(immunity of our societies)」となるのは、連帯や社会の結束であると訴えています。誤解や偏見に基づいて一部の人たちを排斥したり、侮辱したりするなどの、差別は決してあってはなりません。 4改訂の趣旨 平成10年度(1998年度)の指針策定後、人権に関する法整備の状況などの社会情勢や、「人権に関する市民意識調査」の結果等を踏まえ、平成23年度(2011年度)と平成28年度(2016年度)に改訂を行ってきました。これまで、指針を踏まえて人権に関する取組を行ってきましたが、女性や子ども、高齢者、障害者に対する差別などが依然として存在しており、ヘイトスピーチを含む外国人への差別や性的少数者への偏見・差別、ハラスメントなどの人権問題も大きな社会問題となっています。 また、インターネットやSNSの普及により、世界中の人々とつながることが可能になると同時に、個人に対する誹謗中傷やプライバシーの侵害といった深刻な問題が起きています。 特に最近では、新型コロナウイルス感染症が感染拡大する中で、感染者・濃厚接触者、医療従事者やその家族、外国人などに対する差別や誹謗中傷がなされ、インターネット上の悪質な書き込み、心ない言動などが広がりました。 令和3年(2021年)には、「多様性と調和」をコンセプトの1つに掲げている東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されました。「オリンピック憲章」の「オリンピズムの根本原則」では、人権への配慮が謳われており、これまで以上に人権尊重の理念の実現が求められる契機となりました。今後もこれを着実に定着させていく必要があります。 このような最新の社会情勢や、「人権に関する市民意識調査」の結果等を踏まえ、改訂を行います。