犯罪被害にあうということ 犯罪被害者の手記 2000年10月16日に、当時22歳の私の長女が帰宅途中に被害に遭い、家まで150mほどの場所で遺体となって発見されました。その日を境に我が家の生活は一変しました。  犯人は3年後に逮捕され、裁判で無罪を主張しましたが、一審では求刑通り無期懲役の判決でした。犯人が、退廷時に傍聴席の私に向かって言い放った、「お前が迎えに行かなかったから娘は死んだんだよ!」という言葉は一生忘れません。裁判は最高裁まで行き、私たちは死刑を望んでいましたが、無期懲役が確定しました。  事件後、妻はPTSDと診断され、薬が手放せなくなり、いつの間にかリストカットも始まり、精神が病んでいき、事件から6年後の2006年8月1日に、心神耗弱状態で踏切内に入り、電車に接触して亡くなりました。  犯人の身勝手な犯行で私は大切な家族2人を奪われ、一家4人のささやかな幸せを理不尽に壊されたのです。  悲しみ苦しみ無念さは、何年たっても癒やされません。時間は解決してくれないのです。 殺人事件被害者遺族 犯罪被害にあうということ 犯罪被害者の手記   2002年に、交通事故で息子を亡くしました。  息子との別れで一番辛かったのは、どうしても息子の死を受け入れられない事でした。周囲と自分の間に何か見えない壁ができたように感じていました。  自分は悪夢の中にいて、翌朝目が覚めたら、息子は帰っているはず…。ところが、朝になっても、やはり息子はいない。夢は覚めないままでした。  クリスマス、お正月などの行事が祝えなくなりました。小学校、中学校の入学式を思い出させる桜の花は、好きな花ではなくなりました。   こうして、もがきながら年月を重ねてきましたが、仲間の存在が何よりの支えでした。  ずっと後になって、被害者や家族・遺族は、当初、程度の差はあっても、共通して「非現実的な感覚」に襲われたり、「罪悪感」を抱いたり、「誰かを強く非難」したりすることがあると知りました。  こうしたことを、当時、誰かが教えてくれれば、どれほど、気持ちが楽であったことか、と今更ながらに感じています。  被害者にとって周囲の支えは大きな力になります。同情や憐れみではなく、共感し、理解する気持ちで接して頂きたいと心から願っています。 交通事故被害者遺族   犯罪被害者の理解のために  私たちは、普段「自分は、犯罪の被害にはあわない」、「犯罪被害とは関係ない」と思い、無意識のうちに安心感を得ようとします。   そのため、犯罪被害者に対して、「不運な人」、「かわいそうな人」、さらには「被害にあったのは、被害者にも落ち度があったのではないか」などの先入観を持ってしまうことが、少なくありません。  被害者に否定的なイメージを抱き、私たちから遠ざけ、特別な人として扱うことは、被害者にとっては、大変辛く、孤立感を感じることです。  犯罪は、社会に対する安心感や人に対する信頼感を破壊する行為です。  被害者が、犯罪によって奪われた安心感や信頼感を回復し、自らの生活を取り戻すために、私たちはもっと被害者の話に耳を傾け、共に考えていく姿勢が必要です。   どうか、被害者を特別な目で見ないでください。 被害者の助けになること  被害者の置かれた状況は、一人ひとり異なり、被害からの回復もさまざまです。  被害にあった人は、とても傷ついており、周りの人もどうしていいか分からないことも多いと思います。当事者でなければ理解できないこともあるかも知れません。  それでも、あなたにも何かできるかもしれません。  被害者が一人で苦しまなくていいように、どんなことで困り、何を必要としているのか、被害者の話に耳を傾けてください。  そして、実際に困っていることが分かったら、あなたができること、少しでも助けになることをしてください。日常生活の何気ないことでも、助けになることはたくさんあります。  ただし、あなたがしてあげたい気持ちと、被害者が望んでいることは、違うかもしれません。その時は、自分の気持ちを押し付けないで、相手の気持ちを尊重してください。 犯罪被害者等の支援について  犯罪被害者等の権利利益の保護を図るため、平成17年4月に「犯罪被害者等基本法」が施行されました   法の基本理念として、「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する。」と規定し、被害者の権利が明記されました。  そして、国や地方公共団体には被害者等のための施策の策定・実施を、国民には被害者等の名誉又は生活の平穏を害することがないよう十分配慮することなどが求められています。  また、同法に基づく犯罪被害者等基本計画では、国民の理解を深めることを目的として毎年11月25日から12月1日までを「犯罪被害者週間」と定め、啓発のための取組を行っています。 ※犯罪被害者等基本法においては、犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為を「犯罪等」と定義しています。  また、犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族を「犯罪被害者等」と定義しています。  このタペストリーでは、読みやすいように犯罪被害者等を「被害者」と表現しています。 犯罪被害者等支援シンボルマーク 愛称「ギュッとちゃん」 横浜市犯罪被害者相談室  横浜市犯罪被害者相談室では、市民の身近な窓口として、犯罪被害にあったことによって起こる、さまざまな困りごとについて、ご相談に応じています。   また必要に応じて、被害者支援に精通している機関の紹介、行政サービス窓口の情報提供、連絡調整を行います。 ・生活上の困りごとが発生している方 ・医療、福祉に関する情報や窓口を知りたい方 ・誰に(どこに)相談して良いか、わからない方 ・警察に届けられずに、一人でお悩みの方 ・専門機関を紹介してもらいたいと、お思いの方 ・こんな事を相談して良いのかと、お悩みの方 電話番号 045-671-3117 受付時間 月曜日から金曜日まで(祝日年末年始を除きます。)9時から17時 ひとりで悩まず、まずはお電話ください。 犯罪被害者やその家族に生じるさまざまな問題 (二次被害について)  犯罪被害にあうと、被害そのものだけではなく、被害にあったことにより二次的被害に直面します。 1.心身の不調  私たちは、あまりに突然で予期できないことには、上手く対処できません。そのため、体も心も一時的に麻痺したような状態になります。   その結果、周りの人からは、ぼうっとして見えたり、逆に冷淡で落ち着いて見えたりすることがあります。また、記憶があいまいになったり、話が理解できなくなるなどの状態になることもあります。  これらの心身の不調は、犯罪被害にあった多くの人が経験しています。   被害直後のショックが落ち着いた後も、心身の不調が続く人もいます。長く続く時は、カウンセリングの利用や心療内科、精神科などの医療機関への相談が有効な場合もあります。 2.生活上の問題 ・仕事や学校などの困難  精神的・身体的被害のために、仕事や勉強で能率が落ちたり、職場の同僚や学校の友人との関係がうまくいかなくなることがあります。  また、警察や検察の捜査、裁判の度に仕事や学校を休まなければならないこともあります。  特に性犯罪・性暴力被害については、周囲に被害を打ち明けられず、職場や学校に行けなくなるなど問題がさらに深刻になることもあります。 ・経済的な問題  生計維持者を失ったり、怪我や精神的ショックが原因で仕事をすることができなくなったために、収入が途絶え、経済的に困窮することがあります。  被害直後に、警察や病院に急行するための交通費や亡くなった場合の葬祭費、治療のための費用などが発生します。事件後、長期療養や介護が必要な場合には、さらに経済的な負担がかかることもあります。  たとえ民事裁判で損害賠償請求に勝訴しても、加害者に支払能力がない場合には、損害賠償金を受け取れないこともあるのです。 ・不本意な転居など住居の問題  自宅が事件現場になった場合は、捜査のためすぐに帰れないことがあります。また事件現場の原状回復作業も被害者が自ら行う必要があります。  近隣の噂などによる精神的苦痛がある場合、また、加害者から再被害の恐れがある場合などは、住み慣れた自宅を離れ、転居を余儀なくされることもあります。 ・家族関係の変化  犯罪被害にあうと、本人だけでなく、家族もショックを受けて、お互いを支え合うという精神的な余裕を失いがちです。また、家族によって、ストレスの感じ方や被害の受け止め方は異なり、感情の表し方や対処方法も違います。そのため、家族関係がぎくしゃくすることも少なくありません。  また、親が子どもに十分に関わる余裕がなくなってしまうこともあります。  このように被害者は、被害直後から事件の対応を迫られる一方で、仕事や家事・育児など、今までの生活も維持しなければならず、さまざまな生活上の問題に直面することが少なくありません。 3.周囲の人の言動による傷つき   周囲の人たちからの中傷や興味本位の質問、事実とは異なる噂、被害者側に何か落ち度があったのではと言われたりすることで、被害者は、とても傷つきます。  事件の真実を明らかにしたいという思いから民事裁判を起こしても、周囲の人たちから「お金が欲しいのでは」などと配慮のない見方をされると、被害者はさらに傷つけられてしまいます。 4.捜査・裁判に伴うさまざまな負担  捜査や裁判では、被害者は事件について何度も説明せざるを得ないため、その度に事件のことを思い出し、辛い気持ちになることがあります。  被害にあった場所によっては、事件を担当する警察、検察、裁判所が遠方となり、捜査や裁判への参加に伴う時間的、身体的負担が重くのしかかります。その結果、仕事を辞めざるを得ない場合もあります。  また刑事裁判では、「加害者からの謝罪が全くない」、「裁判で加害者が責任逃れを主張する」、時には「加害者の弁護人から、被害者に問題があるといった主張を聞かされる」などの場面に直面すると、被害者の苦痛は更に大きくなります。 「横浜市犯罪被害者等支援条例」に基づく支援  横浜市では、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる地域社会の実現に向け、犯罪被害者等への支援の充実や、市民の理解促進、支援のための関係機関等との連携強化などを目的として「横浜市犯罪被害者等支援条例」を制定しました。条例に基づいて、次のような支援を行っています。  ひとりで悩まず、まずは、横浜市犯罪被害者相談室に御相談ください。 条例に基づく主な支援(支援には一定の要件があります) 電話・FAX・電子メールなどによる相談・情報提供 家事や介護、一時保育への支援といった日常生活支援 弁護士による法律相談 専門資格を持つカウンセラーによる精神的被害への支援 転居、緊急避難場所の提供などによる住居支援 犯罪などに起因する経済的負担への支援   そのほかにも ・支援に関係する様々な機関と連携協力し、犯罪被害者等の支援を円滑に行うことができるよう、総合的な支援体制の整備を行います。 ・犯罪被害者等が地域で孤立することのないように、犯罪被害者等が置かれている状況や二次被害・再被害の防止の重要性などについて、市民の皆様の理解を深められるよう啓発活動を行います。