【2ページ】 序章 1節 計画作成の背景・目的 本市では、文化財保護法等に基づき、文化財の保存・活用を進めるとともに、1987(昭和62)年に制定した「横浜市文化財保護条例」に基づき、歴史上、学術上の価値を有する文化財の指定制度の他、地域住民が大切に守ってきたもの及び地域を知る上で必要な文化財を緩やかな規制で幅広く保護する登録制度を運用しています。この他、無形民俗文化財保護団体の認定制度を運用し、地域に結びついた特色ある民俗芸能の保護団体の育成にも取り組んでいます。 また、文化財保護条例が施行された1988(昭和63)年には、「歴史を生かしたまちづくり要綱」を施行し、「文化財保護」と「歴史を生かしたまちづくり」の制度を相互に補完しながら、それらの保護に努めてきました。同要綱では、景観上重要な歴史的建造物等を魅力あるまちづくりの核として保全活用する取組を進め、歴史的建造物の認定・登録制度を運用しています。 この他、横浜市魅力ある都市景観の創造に関する条例(以下、「景観条例」と言う。)に基づく特定景観歴史的建造物制度の運用、公園内における歴史的建造物の公開・活用、横浜港に関する文化財を活用した賑わいの創出、各地域の歴史文化を生かしたイベントなど、他の行政分野においても様々な取組が行われています。また、関係団体、市民団体、NPO法人、市民ボランティアなど、行政以外の主体による取組も行われています。2018(平成30)年には、これまで法や条例で保護されてきた文化財と、価値付けが明確でなかった未指定文化財も含めて、まちづくりなどに生かし、地域社会総がかりでその継承に取り組むことを趣旨とした文化財保護法の改正が行われ、都道府県による文化財保存活用大綱の策定、市町村による文化財保存活用地域計画の作成が可能となりました。文化財の保存・活用を進めるにあたっては、高齢化や自然災害の増加、その他社会状況の変化に伴い、文化財の維持管理や保存・活用の担い手育成などの面で課題が生じています。また、法や条例で保護された文化財の他、まだ価値付けが明確になっていないものも多くあります。そこで、本市の文化財の保存・活用に関する現状や課題を整理するとともに、保存・活用の基本的な方向性や取組を可視化し、多様な主体が連携して文化財の保存・活用の取組を計画的、継続的に推進するため、2019(令和元)年に策定された神奈川県文化財保存活用大綱を勘案し、文化財の保存・活用に関する総合計画として「横浜市文化財保存活用地域計画」を作成することとしました。 【3ページ】 2節 本計画における「文化財」と「歴史文化」 ◆文化財  本計画における文化財とは、横浜の歴史や文化を知る手がかりとなるものや地域で大切に守られてきたものを指します。文化財保護法や条例に基づく指定等文化財だけでなく、埋蔵文化財、文化財の保存技術の他、「歴史を生かしたまちづくり要綱」で認定された「認定歴史的建造物」※1、本市で認定された無形民俗保護団体、未指定文化財※2も含みます。 ◆歴史文化  本計画における歴史文化とは、文化財が置かれている自然環境・周囲の景観など、文化財の周辺環境も含め、文化財とそれに関する様々な要素が一体となったものを指します。 脚注※1 認定歴史的建造物の一部は、認定歴史的建造物への認定後に国の重要文化財に指定された旧横浜船渠株式会社第二号船渠のように、指定等文化財に該当するものも含む。 脚注※2 未指定文化財は、調査により把握・整理されている文化財のうち、指定・登録等されていないものを指し、文化財保護法で規定される有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群の6類型以外の文化財も含む。 【4ページ】 3節 本計画の位置付け  本計画は、本市における文化財の保存・活用に関する中長期的な目標(マスタープラン)と具体的な取組内容(アクションプラン)を示すもので、神奈川県文化財保存活用大綱と整合を図る他、本市の計画の関連する部分との整合・連携を図り、文化財保護法第183条の3で規定する法定計画として作成しました。また、個別の文化財保存活用計画についても、本計画との整合・連携を図るものとします。 ① 関連計画の概要 ㋐文化財の保存・活用に関する計画 ◆神奈川県文化財保存活用大綱 [2019(令和元)年11月]  神奈川県における文化財の保存・活用の基本的な方向性を明確にし、県や市町村、県民など、地域全体で連携・協力しながら、文化財の保存・活用に取り組む共通の基盤として策定しています。 「文化財を守り、伝え、活用し、歴史や文化、自然を感じる魅力あふれる神奈川へ」を基本理念とし、「文化財の価値に関する意識の共有」、「県民が共に支える文化財の保存・継承」、「文化財を活用し、人を引きつける地域の魅力づくり」の3つを基本的方向性として示しています。 <計画期間>特定の期間は設定しない。※3 脚注※3 社会状況の変化、本県の総合計画の改定及び市町村の状況等も踏まえ、より望ましい文化財の保存・活用を図るために必要が生じた場合は、随時見直しを行う。 【5ページ】 ㋑本市の総合計画 ◆横浜市中期計画2022-2025[2022(令和4年)年12月]  2040(令和22)年頃の横浜のありたい姿「共にめざす都市像」の実現に向け、全ての政策分野の基軸に据える上位指針として、基本戦略「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」を掲げ、9つの中期的な戦略を定めるとともに、戦略をふまえて、計画期間の4年間で重点的に取り組む38の政策を取りまとめたものです。文化財の保存・活用に関する取組は、政策30の主な施策3「歴史と創造性を生かしたまちづくり」に位置付けられています。 計画期間 2022(令和4)年度~2025(令和7)年度(4年間) 関連箇所 政策30 市民に身近な文化芸術創造都市の推進 主な施策3 歴史と創造性を生かしたまちづくり …創造界隈拠点などの歴史的建造物等を活用した魅力的なまちづくりを推進します。あわせて、都心臨海部の景観を先端技術による光と音楽で演出するなど、横浜ならではの夜景をまちぐるみで創出します。また、「横浜市文化財保存活用地域計画」に基づき、横浜に残る多様な文化財等の保存・活用を効果的に進め、市民の学びの機会の充実を図ります。 ㋒本市の教育に関する総合計画 ◆第4期横浜市教育振興基本計画[2023(令和5年)年2月]  2030(令和12)年頃の社会を見据えて、横浜の教育が目指すべき姿を描いた「横浜教育ビジョン2030」(2018(平成30)年策定)のアクションプランです。また、教育基本法第17条第2項に基づく「地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画」として位置付けています。  計画では、「横浜教育ビジョン2030」が示す教育の方向性に基づき、8つの柱とそれに連なる各施策を示しています。  文化財の保存・活用に関する取組は、柱8の施策3「横浜の歴史に関する学習の場の充実」に位置付けられています。 計画期間 2022(令和4)年度~2025(令和7)年度(4年間) 関連箇所 柱8 市民の豊かな学び 施策3 横浜の歴史に関する学習の場の充実 ・行政のみならず、市民、企業、学校などと協働、連携して横浜の歴史を学ぶ上で欠かせない文化財の保存・活用に取り組みます。 ・児童生徒や市民が、横浜の歴史文化を身近に感じ、学ぶことで、愛着を感じられるよう、学習機会の充実を図ります。 【6ページ】 ㋓本市の防災に関する総合計画 ◆横浜市防災計画  災害対策基本法に基づき、本市における災害に対処するための基本的かつ総合的な計画として、横浜市防災会議が策定する地域防災計画です。災害の種類に応じて、「震災対策編」(令和5年4月)、「風水害等対策編」(令和4年4月)、「都市災害対策編」(令和5年4月)の3編で構成しています。文化財の防災対策については、「震災対策編」に位置付けられています。 計画期間 毎年検討を加え、必要があると認めるときは、修正します。 関連箇所 第2部 災害予防計画(第1章 地震に強い都市づくりの推進) 第10節 文化財等の防災対策 過去の大震災では、多数の文化財等が被災しました。 本市においても、歴史的に重要な文化財等が多数あり、震災時を考慮した以下の対策を実施しています。 1 防災訓練の実施 文化財防火デー(毎年1月26日)を中心として、文化財の所有者・管理者、消防機関、 地域住民等の協力の下で防災訓練を実施しています。 2 文化財の所在情報等の充実・整備 横浜市文化財保護条例(昭和62年12月条例第53号)に基づき、文化財の所在や員数、形式、構造等の情報を整理・把握しています。 3 歴史的建造物等の防災対策 本市では、「歴史を生かしたまちづくり要綱」(昭和63年4月1日実施)を定め、歴史的建造物等の保全と活用を推進しています。 この要綱に基づき、歴史的建造物等の維持管理、耐震改修、防災施設などの助成をしています。 ㋔その他の計画 ◆横浜市環境管理計画 [2018年(平成30)年11月]  「横浜市環境の保全及び創造に関する基本条例」に基づく環境の総合計画として、環境に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための計画で、環境分野の中長期的な目標や方針を示しています。 関連箇所 5章 環境側面からの基本施策 基本施策2 生物多様性 ~身近に自然や生き物を感じ、楽しむことができる豊かな暮らし~ [生物多様性横浜行動計画(ヨコハマbプラン)] 3 取組方針 (2)保全・再生・創造~地域の特性に応じた保全・再生・創造の取組を進めます~ ●生き物の生息・生育環境の保全を中心とした取組 ●動物園における種の保全の取組(生育域外保全) ●再生を中心とした取組 ●創造を中心とした取組 【7ページ】 ◆横浜市都市計画マスタープラン全体構想[2013(平成25年)年3月]  本市の都市計画に関する長期的な基本方針であり、都市計画法第18条の2に規定されている「市町村の都市計画に関する基本的な方針」として位置付けられています。 基本的な目標年次:2025(令和7)年 関連箇所 目標⑥ 横浜らしい水・緑環境の実現と、都市の魅力を生かしたまちづくり 歴史的建造物や美しい街並み、海辺の倉庫等といった横浜特有の地域資源を生かした都市空間の保全・整備といった都市デザインによる魅力あふれる都市空間の形成を継続します。それとともに、それらの空間をアーティストやクリエーター等による創造的活動の拠点として活用するといった創造都市の取組を推進し、交流拠点都市としての魅力を更に高めます。多くの市民に親しまれている緑地・農地や古民家などの地域資源を生かし、各地域が持っている魅力的な景観を今後とも維持保全し、更に高めます。(一部抜粋) ◆横浜市景観計画[2023(令和5)年1月]  景観法に基づき、地域の景観形成に応じて、区域や良好な景観の形成のための方針、建築物の建築等に対する基準(景観形成基準)等を定めています。市域全体を景観計画区域としていますが、そのうち、地区に応じた良好な景観を形成する地区(景観推進地区)を、4区域指定 ※4し、行為制限や必要な手続きについて定め、景観形成を図っています。 脚注※4 景観推進地区:関内地区、みなとみらい21中央地区、みなとみらい21新港地区、山手地区 関連箇所 第2 良好な景観の形成に関する方針 2 良好な景観形成の考え方 「横浜らしい景観をつくる10のポイント」と、地形や歴史、都市機能、計画上の位置づけ等から景観の特徴で6つのエリアに分類した「地域ごとの景観づくりの方向性」を手がかりに、その場所ならではの景観の将来像を考え、良好な景観形成を図ります。 【横浜らしい景観をつくる10のポイント】(一部抜粋) ③歴史的景観資源の保全と活用による景観づくり ④水と緑の保全・活用と創出による景観づくり ⑩想像力がかきたてられ、物語性が感じられる景観づくり 第3 景観重要建造物の指定の方針 豊かな水・緑と歴史的建造物や先進的なまちづくりが織り成す景観は、横浜の特徴かつ最大の魅力であり、「横浜らしさ」の重要な要素となっています。 このような都市景観を構成する次のような建造物を景観重要建造物として指定するものとします。 (1)港町や異国の文化を伝える建造物 (2)横浜の発展の歴史を伝える建造物 (3)谷戸や里山などの自然景観を構成する形態意匠の建造物 (4)地域独自の個性と魅力ある街並みを構成する形態意匠の建造物 第4 景観重要樹木の指定の方針 豊かな水・緑と歴史的建造物や先進的なまちづくりが織り成す景観は、横浜の特徴かつ最大の魅力であり、「横浜らしさ」の重要な要素となっています。 このような都市景観を構成する次のような樹木を景観重要樹木として指定するものとします。 (1)公共施設の緑を補完し、緑の連担を形成している樹木 (2)木陰をつくり、やすらぎや憩いの空間を創出している樹木 (3)地域の歴史を伝える樹木 (4)地域の特徴的な街並みを構成する樹木 【8ページ】 ②SDGs(持続可能な開発目標)との関連  2015(平成27)年9月、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、2030(令和12)年に向けた国際社会全体の行動計画である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。同アジェンダでは、宣言に加え、169の関連ターゲットを伴う17の目標が掲げられました。  SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」という考え方は基礎自治体にも求められ、本市では、「横浜市SDGs未来都市計画(2022~2025)」を策定し、あらゆる施策においてSDGsの実現に向けた取組を進めています。  本計画においても、SDGsの基本理念をふまえた取組の方針や施策を通じて、教育やまちづくり、観光など様々な分野と連携を図りながら、「持続可能な文化財の保存・活用」を進めていくことを目指します。 なお、本計画の方針や施策とSDGsの目標との関連は、第5章1節に記載しています。 図序-4 本計画に関する主なSDGs(持続可能な開発目標)※5 目標4 すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する 4.7 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。 目標8 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用( ディーセント・ワーク) を促進する 8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。 目標11 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する 11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。 目標12 持続可能な生産消費形態を確保する 12.8 2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする。 目標13 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる 13.1 すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靭性(レジリエンス)及び適応力を強化する。 13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。 目標15 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する 15.9 2020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む。 目標17 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する 17.17 さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する。 脚注※5 外務省ホームページに掲載されている、「持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳)」を参照し、関連する箇所を抜粋した。また、下線は本計画に関連する事項。 【9ページ】 4節 本計画作成の体制・経過と計画期間・進捗管理 ①本計画作成の体制・経過  文化庁の「文化財保護法に基づく文化財保存活用大綱・文化財保存活用地域計画作成等に関する指針」に基づき、学識経験者、文化財所有者、行政関係者、文化・まちづくりに関する団体、市民団体等で構成する「横浜市文化財保存活用地域計画作成に関する協議会」、文化財に関する有識者で構成する「横浜市文化財保護審議会」からご意見をいただくとともに、文化庁による指導・助言、神奈川県による助言、公益財団法人 横浜市ふるさと歴史財団による専門的助言や監修のもと、作成しました。また、2020(令和2)年に文化財の所有者・管理者向けのアンケート、2023(令和5)年12月~2024(令和6)年1月に市民意見募集を行いました。 【資料編1】横浜市文化財保存活用地域計画作成に関する協議会 【資料編2】横浜市文化財保護審議会 ②計画期間  前述の指針では、地方公共団体が作成する文化財保存活用地域計画の計画期間を概ね5年から10年とすることとされています。本市では、「横浜市中期計画2022〜2025」及び「第4期横浜市教育振興基本計画」の計画の周期(4か年)に合わせ、2024(令和6)年度から2029(令和11)年度の6年間を計画期間とします。  なお、社会情勢や関連計画の内容等、本計画を取り巻く環境に大きな変化が生じた場合は必要に応じて見直しを行い、軽微な変更※6を行う場合には県を通じて文化庁へ報告し、軽微ではない変更が必要な場合には文化庁長官による変更の認定を受けます。 脚注※6 軽微な変更とは、「計画期間の変更」、「市町村の区域内に存する文化財の保存に影響を及ぼすおそれのある変更」、「地域計画の実施に支障が生じるおそれのある変更」以外を指す。 ③本計画の進捗管理と自己評価の方法  本計画では、文化財の保存・活用を、より効果的に進めるため、3つの方針と12の施策を設定するとともに、各施策を実現するための取組のうち主要なものを「主な取組」として提示しています。  各施策においては、主な取組によってもたらされる効果や成果を測るため、客観的・定量的に把握できるものや、施策の中で重点的に取り組む事業の実績を表すものを、指標として設定します。  これらの施策・取組については、年度ごとにその実施状況を把握・評価し、本計画の実施報告書としてまとめ、横浜市文化財保護審議会への報告等を行います。  また、計画期間の最終年度には計画期間後の取組等についても検討します。