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野兎病について

■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。

最終更新日 2019年7月16日

流行は?

野兎病( Tularemia )は、野生の動物の病気で、ヒトも感染することがあります。北半球で北アメリカ・北ヨーロッパ・北アジアに広く見られます。南半球では見られません。野兎病( Tularemia )の病原体である野兎病菌を持った虫にかまれたり、刺されたりして、あるいは、野兎病菌に汚染したものや動物に接触してヒトは感染することがあります。野や山で感染することが多いため、野兎病( Tularemia )の患者は男性の方が女性より多いです。患者の発生は散発的におこりますが、ときに流行を示すことがあります。2000年にはスウェーデン・フィンランドで蚊の媒介による流行がありました。また、野兎病菌は、10-50個の菌だけでも、皮膚に植え付けたり、吸いこんだりすると、感染・発病する可能性があります。野兎病菌は、このようにたいへん感染しやすく、重症の病気を起こし、死者も出すことがあることから、生物兵器として使われる可能性が、心配されています。

日本では野兎(やと)との接触で感染する者が多く見られ野兎病(やとびょう)と名づけられています。北海道・東北・関東地方で多く見られ、季節的には冬と晩春に多いです。海外では、現地の媒介生物を呼称に取り入れて、rabbit fever(ウサギ熱)、hare fever(野兎熱)、lemming fever(タビネズミ熱)、deerfly fever(メクラアブ熱)などの呼称もあります。

アメリカ合衆国において、1985-1992年には、1409人の患者発生と20人の死亡の報告がありました。1年間に171人の患者発生であり、患者の致死率は、1.4%でした。季節的には、年間を通して発生が見られますが、ダニやサシバエなどの虫刺されによる(こどもなどの)感染がよく見られる6-9月が多いです。冬季には、ウサギ狩りなどで感染した動物の死体と接触する猟師たちで患者の発生が多いです。

フランスにおいては、欧州茶色野兎(European brown hare)が人間への主要な感染源となっています。野兎の野兎病はフランスの大部分の地域で報告されていますが、発生が多いのは、フランスの北部です。フランスにおいて、野兎の野兎病の発生の増加が2007年と2008年とにありましたが、人間の野兎病の発生の増加も2007年と2008年とに認められています。フランスの年間患者発生報告数が、2003-2006年の平均が23人であったのに対して、2007年が48人、2008年が96人と増加しました。野兎はダニや蚊の媒介により感染することが知られていますが、野兎病で死亡した野兎では、気道に病変を認め、野兎病菌を吸い込んでの感染も考えられました。

野兎病菌は、日本の細菌兵器研究部隊が1932-1945年に中国の満州で扱っていた細菌の一つでした。1950年代、1960年代には、アメリカ軍が、野兎病菌を噴霧する兵器の開発を進めました。1970年にアメリカ合衆国の生物兵器開発は中止されますが、それまでのアメリカ合衆国の生物兵器開発と同様の努力を旧ソビエト連邦は行い続け、さらに、抗生物質やワクチンが効きにくい野兎病菌の株を生産しようとしました。

平成20年(2008年)3月4日、千葉県健康福祉部疾病対策課から、野兎病患者発生についての発表がありました。患者は千葉県山武郡の74歳の無職の男性です。平成20年1月30日に、近隣知人からもらった野ウサギを喫食するために自宅で処理しました。その後、2月7日頃から39度台の発熱があり、山武郡内の2ヶ所の医療機関を受診したが軽快しないため、2月18日に千葉県旭市内の医療機関を受診しました。その際、左腋窩リンパ節の腫れに気付き、ウサギを調理していることから、野兎病を疑い、血液検査を行ったところ野兎病と診断され、2月29日に同医療機関から千葉県海匝保健所に患者発生の届出があったものです。患者は、既に回復し、また、野ウサギを提供した知人及び患者家族の健康状況に異常はないとのことです。野兎病の国内発生状況については、国立感染症研究所によると、日本では1924年の初発例以降、1994年までの間に合計1,372例の患者が報告され、東北地方全域と千葉県・茨城県が本病の多発地でした。発生の季節性は、吸血性節足動物の活動期(4~6月)と狩猟時期(11~1月)の2つのピークを示していました。第二次世界大戦前は年平均13.8件であったが、戦後は食糧難のために野兎を捕獲・解体する機会が増加し1955年まで年間50~80例と急増しました。その後減少傾向を示し、1999年の千葉県での1例以降、今回の千葉県での野兎病患者発生の報告まで報告されていなかったとのことです。

どんな病気?

野兎病( Tularemia )は、主として野生の動物の病気です。野兎病( Tularemia )の病原体である野兎病菌を持ったダニや蚊や刺すハエが、動物やヒトを感染させます。他の感染源としては、野兎病菌で汚染した干草や水、野兎病で死んだ動物の死体、感染している動物などがあげられています。感染する動物としては、ネズミ、野ネズミ、リス、ウサギ、野ウサギなどがあります。また、生物兵器として使われる可能性が、心配されています。

野兎病( Tularemia )は、ペストに似た病気です。しかし、病気の初期においては、特徴がなく、しばしば誤った診断をつけられます。最初の症状は、突然の悪寒、発熱、頭痛、気分不快です。潜伏期は2-10日(1-14日のこともあります。)です。野兎病菌は粘膜からだけでなく皮膚からも侵入するのが特徴です。野兎病菌が侵入した部位で、野兎病菌は増殖し、通常、潰瘍を形成します。さらに、野兎病菌が侵入した部位からリンパの流れに乗って、近接のリンパ節で炎症を起こし、また、さらに他のリンパ節へと炎症を広げて行きます。最初に病変が出た部位によって野兎病は分類されます。潰瘍・リンパ節型が45-80%、リンパ節型が10-25%と多いですが、他にも目・リンパ節型(汚染した手で目をこすったのが原因と考えられます。)が5%未満、敗血症型が5%未満、口・咽頭部型が5%未満、胸膜・肺型が5%未満あります。発病は突然です。38-40度の発熱で、悪寒・頭痛・全身の痛み(特に背部痛)・鼻かぜ・咽頭炎・咳・胸痛などが伴います。治療を行わないと、これらの症状が何週間も続き、発汗・悪寒・体力消耗・体重減少が見られます。どの型でも野兎病菌がさらに広がって、肺炎、敗血症、髄膜炎(まれ)などを起こす可能性があります。

テロリストによる野兎病菌の生物兵器としての使用については、人が多数いる場所で、野兎病菌を噴霧するといったようなことが想定されます。野兎病菌の噴霧をあびたような場合、どうなるのでしょうか。1966-1967年にスウェーデンの農業地帯で600人以上の患者が発生した野兎病の流行がありました。感染したネズミによって汚染された野積みの干草の山を納屋に移す際に、野兎病菌を含む細かい粒子が舞い上がり農夫たちに降りかかったのが原因と考えられました。血液検査で野兎病と確認した140人の患者について、息苦しさや胸痛といった肺炎を思わせる症状があったのは10%でした。結膜炎が26%、皮膚の潰瘍が約12%、咽頭炎が31%、口の中の潰瘍が9%、紅い斑が32%で見られました。

野兎病( Tularemia )は、抗生物質で治療可能です。今のところ、自然界では、抗生物質が効きにくい、耐性のある野兎病菌は少ないです。しかし、生物兵器研究の中では、ストレプトマイシンが効かない悪性の野兎病菌の株などが扱われていました。バイオテロ(生物兵器を使ってのテロ)などで野兎病菌に多くのヒトが汚染された恐れがあるような場合、アメリカ合衆国においては、治療・予防のためには、抗生物質として Doxycycline や Ciprofloxacin の14日間の服用が勧められています。

ヒトからヒトへの直接の感染はありません。患者の隔離は必要ありませんが、患者の潰瘍からの浸出物などは、感染源として注意が必要です。

アメリカ合衆国ではハムスターが野兎病の感染源となったと考えられる症例が報告されています(参考文献3)。

アメリカ合衆国コロラド州公衆衛生・環境局が2004年4月、ハムスターにかまれて野兎病になったと思われる3歳の男子についての報告を受けました。コロラド州公衆衛生・環境局が中心となって調査が行われました。この男の子は、家族がコロラド州の首都デンバーのペット店で購入した6匹のハムスターと2004年1月2日から2月8日の間、接触がありました。いずれのハムスターも購入から1週間以内に下痢を起こし死んでいます。そのうちの1匹のハムスターが、この男の子の左手の薬指を死ぬ直前にかみました。ハムスターにかまれてから7日後、発熱、気分不快、左のわきの下のリンパ節の腫脹が男の子に見られました。病原体がはっきりしないまま抗生物質 amoxicillin clavulanate による治療が試みられましたがリンパ節の腫脹が続き発熱を繰り返すため、発病から49日後、男の子の左のわきの下のリンパ節の組織を採取しての検査が行われました。培養によりB型の野兎病菌( Francisella tularensis )が分離されました。野兎病菌に対する抗体価は4096倍と上昇が見られました。野兎病と診断され、抗生物質 ciprofloxacin の投与により男の子は軽快しました。

ペット店の店員たちの話によれば、1-2月にハムスターが多数死亡したとのことでしたが、検査のためのハムスターの死骸は入手できませんでした。ペット店でペットとして飼われている2匹の猫のうちの1匹が野兎病菌に対する抗体価が256倍と陽性でした。ハムスターの仕入れ先の調査では野兎病の発生は認められませんでした。ハムスターの販売先の調査では、販売から2週間以内に死亡したハムスターが多数存在しましたが死骸はすでに廃棄されていて検査のための死骸は入手できませんでした。

感染した野生のネズミがハムスターの飼育かごの上で糞尿することでハムスターを感染させたと推測されました。また、感染した野生のネズミが一匹の猫に食べられることで猫も感染したが猫は症状がはっきりしないまま治癒したと推測されました。ペット店主は、野生のネズミを駆除すること、および、動物の死亡や顧客・店員の発病があったらすぐにコロラド州公衆衛生・環境局に通報することを指導されました。その後、新たな患者は発生しませんでした。この事例をきっかけに、アメリカ合衆国ではハムスターが野兎病の感染源となる可能性があるとされるようになりました。

病原体は?

野兎病( Tularemia )の病原体は、 Francisella tularensis という細菌です。McCoy によって1911年に、アメリカ合衆国のカリフォルニアのリスのペストのような病気の記述がなされました。この病原体として、カリフォルニア州の内陸の中央部のTulareという町で分離されたことから、最初、 Bacterium tularense と名づけられました( McCoy and Chapin, 1912)。ヒトにも感染することが確認され、tularemia という病名で Edward Francis によって記述されました( Francis, 1921)。Francis の名前に因んで、今度は、野兎病( Tularemia )の病原体は、現在のように Francisella tularensis と名づけなおされました。 Francisella tularensisは、一般には、野兎病菌( tularemia bacteria )と呼ばれることが多いです。

野兎病については、日本では、福島県の大原八郎博士が、先駆的研究をしています。現在でも、大原綜合病院付属大原研究所(大原医療センター内野兎病研究室:(http://www.ohara-hp.or.jp/kenkyu/frame.html(外部サイト))が大正14年(1925年)の設立以来、野兎病研究・医療の中心的役割を果たしています。大原八郎博士の名前に因んで、野兎病は大原病と呼ばれることもあります。

野兎病(Tularemia)の病原体の Francisella tularensis という細菌にはいくつかの型があります。症状を比較すると、北米で見られる型が重症であり日本で見られる型は軽症です。北米で見られる型の方が生物兵器として使われる可能性があります。

予防のためには・・・

野兎病については、弱毒生ワクチン(予防接種)があります。アメリカ合衆国では、実験室で感染の危険がある人に1959年から使用されています。0.06ccを皮膚を刺して接種します。3週間以内に抗体の値が上がります。この弱毒生ワクチンで数ヶ月から数年は持続する免疫が成立しますが、1000人に1人程度、接種しても感染・発病してしまう人もいます。野兎病菌に曝露後にこの弱毒生ワクチンを接種しても、感染・発病を防ぐことはできません。

一度野兎病にかかると、長期にわたる免疫ができると考えられていますが、再び野兎病にかかった例も報告されています。

野兎病菌は、水や土や死体や皮の中で何週間も生存可能です。但し、熱には弱く、55度で10分の加熱で不活化します。

野兎病菌で飲用水の水源地が汚染されても、塩素殺菌などの通常の処理で、飲用水による感染は防げると考えられています。

一般の場で野兎病菌で汚染されたものの表面の消毒のひとつの方法としては、まず、0.5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液をスプレーします。10分後に今度は70%のアルコールを使用します。アルコールはよく燃えますので火気に注意する必要があります。次亜塩素酸ナトリウム溶液についても塩素ガスを発生したり、脱色作用があったりします。薬品の使用にあたっては、注意が必要です。

参考文献

  1. David T. Dennis, et al. ; Tularemia as a Biological Weapon ; JAMA. June 6, 2001. Vol.285, No.21 : pp2763-2773.
  2. Basic laboratory protocols for the presumptive identification of Francisella tularensis ; CDC ; 4/18/2001.
  3. CDC. Tularemia Associated with a Hamster Bite --- Colorado, 2004. MMWR 2004;Vol. 53/Nos. 51 & 52:p. 1202-1203.
  4. Jill Ellis, Petra C. F. Oyston, Michael Green, and Richard W. Titball ; Tularemia ; CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS, Vol. 15, No. 4, Oct. 2002, p. 631-646.
  5. Decors A, Lesage C, Jourdain E, Giraud P, Houbron P, Vanhem P, Madani M. Outbreak of tularaemia in brown hares (Lepus europaeus) in France, January to March 2011. Euro Surveill. 2011;16(28):pii=19913. Available online: http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19913

2001年10月31日掲載
2005年1月24日増補
2008年3月12日増補
2011年8月15日増補

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