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腸チフス・パラチフスについて

最終更新日 2019年6月13日

はじめに

サルモネラ( Salmonella )は、人に主に下痢症状を起こす細菌で、食中毒を起こすことで良く知られていますが、数多くの種類があります。腸チフスの病原体であるSalmonella typhi(チフス菌)やパラチフスの病原体であるSalmonellaparatyphi(パラチフス菌)も、サルモネラの仲間です。しかし、これらのチフスの病原体は、人から人への感染が多いこと、潜伏期の長さや、症状、重症が多いことなどの点で、他のサルモネラとはかなり異なります。ここでは、腸チフス・パラチフスについて取り上げます。これらのチフスの病原体以外のサルモネラ(非チフス性サルモネラ: non-typhoidal-Salmonella serovars: NTS)の感染症(食中毒)については、当・横浜市衛生研究所ホームページ「サルモネラ感染症(食中毒)について」をご覧下さい(下線部をクリックして下さい)。

流行は?

世界保健機関(WHO)によれば、全世界で、毎年、学齢期のこどもや若いおとなを中心に、2200万人(1600万人~3300万人)の腸チフス患者が発生し、216,000人が死亡していると推計されています。アジア、特に東南アジアやインド亜大陸での発生が多いです。バングラデシュのダッカ、パキスタンのカラチ、インドのカルカッタやインドネシアの北ジャカルタなどの都市のスラムのこどもたちでの患者発生が多いことが知られています。アジアの国々での腸チフスのワクチンの定期予防接種への導入はたいへん有益と思われますが、今のところ、導入は中国やベトナムインド(デリー州)など一部の国々(地域)に留まっています。
先進国での腸チフスの患者発生は、アジアなどの流行国からの輸入例が大部分です。

2004年9月27日から2005年1月初めまでのコンゴ民主共和国での腸チフスの流行では、42564人以上の患者が発生し、696人が腹膜炎や腸管穿孔を起こし、214人が死亡しています。

紀元前430-424年、ギリシアのアテネで、疫病の大流行があり、アテネの人口の三分の一が失われ、指導者のPericlesも亡くなりました。この結果、ギリシアにおいて、アテネは衰退し、スパルタが優勢となりました。この疫病が腸チフスだったと考えられています。歴史家のThucydidesもこの疫病に罹りましたが、生き伸びてこの疫病に関しての記述を残しました。

腸チフス・パラチフスは、いずれも感染症法の3類感染症です。いずれも、患者および無症状病原体保有者が届け出対象です。診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。ただし、パラチフスの病原体であるパラチフス菌には、A、B、C の三つの血清型があって、Salmonella paratyphi A(パラチフスA菌)によるパラチフスだけが、感染症法の3類感染症です。日本における腸チフス・パラチフスの年間患者発生報告数(人)推移(2000年-2014年)は、下のグラフのとおりです。

グラフ:日本における腸チフス・パラチフスの年間患者発生報告数(人)推移(2000年-2014年)

2005-2008年の日本における腸チフスの患者発生報告数227人において、推定感染地は、アジア78.4%(インド34.8%、インドネシア13.2%、ネパール6.1%、フィリピン3.5%、バングラデシュ2.6%、パキスタン2.2%など)、日本国内16.3%でした(参考文献5)。また、2005-2008年の日本におけるパラチフスの患者発生報告数95人において、推定感染地は、アジア86.3%(インド36.8%、バングラデシュ8.4%、インドネシア7.3%、ネパール7.3%、中国6.3%、ミャンマー5.2%、カンボジア2.1%など)、日本国内9.4%でした。

医師による腸チフス・パラチフスの報告のための基準は下記を参照してください。
腸チフスの届出基準はこちらのページから
パラチフスの届出基準はこちらのページから

米国においては、毎年、約5750人ほどの腸チフス患者の発生が推定されています(参考文献10)。大部分は海外旅行中に海外で感染したものです。
米国において、検査で診断を確定しての腸チフス患者の発生報告は、2007-2011年で年間平均で約400人程度です(参考文献10, 11)。約90%が、海外旅行からの帰国者です。旅行先の75%以上をインド、バングラデシュ、パキスタンが占めます。この旅行者の旅行目的の55%以上は、友人や親類の訪問です。たとえ短期間であっても発生が多い地域を訪れることが、腸チフス患者となるリスクが高いです。アジア、アフリカ、中南米の多くの国への旅行者について、米国CDCは、腸チフスのワクチンの接種を推奨しています。
米国コロラド州では、2009-2014年に年間で平均で、6人の腸チフス患者の発生が報告されています(参考文献8)。海外旅行関連の感染あるいは、保菌者からの家族や接触者などの感染です。

米国コロラド州における保菌者からの感染による腸チフス集団発生事例(3人)をご紹介します(参考文献8)。
2015年9月11日、コロラド州公衆衛生環境局に腸チフスとして患者Aが報告されました。患者Aは、9月2日に発症していて、発症の60日前に4日間の海外旅行をしていました。そのため、海外での感染も考えられました。
2015年10月1日、コロラド州公衆衛生環境局に腸チフスとして患者Bが報告されました。患者Bは、9月20日に発症していて、最近の海外旅行はありませんでした。
2015年10月19日、コロラド州公衆衛生環境局に腸チフスとして患者Cが報告されました。患者Cは、9月15日に発症していて、最近の海外旅行はありませんでした。
患者A, B, Cについて、調査や検査が行われました。PFGE(パルスフィールドゲル電気泳動)法によるチフス菌の分析では、分離されたチフス菌について、患者B, Cについては同一でした。患者Aについては、患者B, CとPFGEパターンにわずかな差異が見られましたが、患者A, B, Cについて、同一の感染源からのチフス菌の曝露が考えられました。患者A, B, Cについて、クレジットカードの使用明細なども活用して、同一の感染源からのチフス菌の曝露の機会がないか、検討されました。共通の食料品店からの食品の購入はなかったものの、8月16-20日に共通のレストランで食事をしていたことが明らかになりました。この共通のレストランについて従業員等の調査が行われ、保菌者からの排菌は間歇的であることから10月28日と11月3日との2回、従業員の検便が行われました。コロラド州衛生研究所の検査で、一人の健康な従業員の便からチフス菌が分離されました。PFGE法によるチフス菌の分析では、腸チフスの患者Aのものと同一のチフス菌でした。レストランの従業員の健康保菌者から排菌されたチフス菌による腸チフス集団発生事例(3人)と考えられました。
健康保菌者の従業員は、15年前に腸チフスの流行国に旅行していましたが、現在は無症状で、具合が悪い人との接触もありませんでした。この従業員は、食品を扱う業務から外れ、抗生物質のアジスロマイシンを28日間服用しました。1か月以上の間隔での便検査で3回連続のチフス菌陰性を確認できるまで便検査を続けます。レストランは、この従業員の食品を扱う業務を欠員として、保菌者でなくなればこの従業員を元の食品を扱う業務に復帰させることを約束しました。

どんな病気?

腸チフス(typhoid fever : TF)は、チフス菌による感染症です。パラチフス(paratyphoid fever)は、パラチフス菌による感染症です。腸チフスもパラチフスも、チフス菌やパラチフス菌に感染している人の便や尿によって汚染された食物や水を飲食することによって主に感染します。チフス菌やパラチフス菌に曝露してから、たいてい1-3週間(5-21日)後に発病します(参考文献9)。潜伏期としては、長くて60日、短くて3日の場合もあります(参考文献8)。 軽症の場合も、重症の場合も、また、死亡する場合もあります。症状が軽快した後も菌を排出し続ける健康保菌者も少ないながら存在して、感染源となることもあります。症状としては、摂氏39-40度の発熱、気分不快、頭痛、腹痛、嘔気、食欲不振、便秘、ときに下痢、胸部のバラ色の発疹、脾臓腫大、肝臓腫大、などです。主要な症状は、発熱の持続であり、発熱以外にはっきりした症状が見られない場合もあります。未治療の場合の発熱の経過は,体温が2-3日かけて次第に上昇し,続く10-14日間は高熱(39.4-40°C)が持続し,3週目の終わり頃からだんだんと下がり4週目に正常の体温となります。高熱のわりに脈拍数増加が見られない比較的徐脈、高熱時に出現して数時間で消えてしまう胸部・腹部のバラ疹、および、脾臓腫大が三主徴とされますが、これらの症状の出現率も30-50%程度とされます。便秘は年長のこどもや大人、下痢は年少のこどもで見られることがあります。腸管出血や腸管穿孔、腹膜炎を起こすことがあります。髄膜炎が見られる場合もあります。致死率は、治療が行われないと30-10%に上ることがありますが、ニューキノロン系などの抗生物質による適切な治療により、4-1%未満に下げることが可能です。こどもにおける致死率は、4歳以下のこどもの致死率(4%)は、4歳より年長のこどもの致死率(0.4%)の10倍です(参考文献9)。ニューキノロン系などの抗生物質によって治療されますが、ニューキノロン系などの抗生物質に対する耐性菌も見られます。多剤耐性株の存在も知られています。
パラチフスについては、腸チフスと同様な症状を示しますが、一般的に、腸チフスと比較して軽症です。

チフス菌が摂取されると、チフス菌は腸管から侵入しリンパ節などの細網内皮系(reticuloendothelial system: RES)のマクロファージ内で増殖します。チフス菌がマクロファージ内でも増殖できるのは、チフス菌のきょう膜多糖体(capsular polysaccharide: CPS)の毒性抗原(virulence antigen: Vi抗原)の存在と関係しているようです。腸チフス発病初期において、血液、骨髄、腸液などの細菌培養検査でチフス菌が検出されます。血液培養では通常発病から2週間陽性となり,糞便培養では通常3-5週目の間陽性となります。

腸病変は、3週目に顕著となり鮮紅色の下痢を起こすことがあり,糞便に血液が混入することもあります(潜血便20%,肉眼的血便10%)。患者の約2%において,3週目に激しい出血となることがあります。3週目には,患者の1-2%で主に回腸末端部の腸穿孔を起こすことがあります。出血や腸穿孔は死因ともなりえます。

腸チフスでは、チフス菌が体内にある限り、その人は感染源となりえます。抗生物質による治療が行われなかった患者では、三か月間に亘り、チフス菌が排出されることがあります。 なお、抗生物質による治療が行われなかった患者の2-5%が、胆のうにチフス菌を保持している一生涯に亘る保菌者になりえます。このような保菌者からの便中へのチフス菌の排出は間歇的に起こりえます。保菌者になる確率は、高齢の方が高く、女性の方が高く、胆石など胆道系に異常がある方が高いです。

通常、腸チフスを発病し治癒すると、生涯に亘る免疫が獲得されます。早期の抗生物質での治療により最初の感染が中断されたような状況でない限りは、再感染はまれです。感染後、特異抗体が血清や腸で検出されます。

健康保菌者として、米国では、Mary Mallon が有名です。「腸チフスのMary(Typhoid Mary)」として知られています。1907年、米国人の健康保菌者(healthy carrier)の第一号として確定され、経過が追われました。
Maryは、1869年9月23日、英国のアイルランド(現在は北アイルランド)のCookstownで生まれました。1884年、Maryは、アイルランドから米国に移住しました。Maryは、1900-1907年の間、米国ニューヨーク市のマンハッタンやロングアイランドで料理人として働きました。この間、Maryは22人の腸チフス患者発生と内1人(少女)の死者発生とに関係していました。なお、Maryは、たいへん腕の良い料理人であり、特にMaryの作る桃のアイスクリームは絶品だったそうです。
Maryと腸チフスの患者発生との関わりが疑われたのは、ニューヨーク市近郊のロングアイランドの北岸の避暑地ニューヨーク州Oyster Bay町における腸チフス患者集団発生についてのGeorge Soperによる調査によってです。1906年の夏、夏休みにOyster Bay町に避暑で訪れていたニューヨークの投資銀行家Charles Henry Warrenの家族4人・使用人7人の計11人中6人が1906年8月27日から9月3日までに発病しました。ニューヨーク州Oyster Bay町の公衆衛生当局がこの集団発生の原因を明らかにできなかったことから、このニューヨークの銀行家に家を貸し出した家主George Thompsonにより、腸チフス患者集団発生への対応の経験もある高名な衛生技師のGeorge Soper博士は雇用され調査を進めました。Maryは、最初の患者が発生する23日前の1906年8月4日にこのニューヨークの銀行家の家族の料理人として雇われ、腸チフス患者集団発生が始まったすぐ後に辞めました。Maryは、それ以前に7軒の裕福な家族に雇われていましたが、その内6軒でMaryが雇用されている期間に腸チフスの患者発生がありました。Maryについては、ドイツでの研究によりすでに指摘されていた、健康であっても保菌していて腸チフスを広げてしまう可能性がある腸チフスの健康保菌者ではないかとGeorge Soper博士は考えました。George Soper博士は何か月もMaryを執拗に追跡し、7か月後にMaryが料理人として雇われているPark AvenueのWalter Bowenの家において腸チフスの集団発生(2人)が起こったことを確認します。1907年3月、腸チフスの検査(便・尿・血液)にMaryの協力を得られなかったGeorge Soper博士はニューヨーク市衛生局に連絡し情報提供します。ニューヨーク市衛生局のSara Josephine Baker医師は、腸チフスの検査を受けてもらうようMaryの説得を試みますが、Maryは拒否します。結局、ニューヨーク市衛生局のSara Josephine Baker医師は、三人の警察官と二人の研修医の協力でMaryを拘束し救急車でWillard Parker病院に運び込み腸チフスの検査を実施します。Maryの便からチフス菌が検出され、Maryは米国人の健康保菌者の第一号として確定されました。Maryの便からいつもチフス菌が検出されたわけではありません。2年間に163回の便検査が行われ、内120回でチフス菌が検出されました。1907年、MaryはWillard Parker病院から北ブラザー島(ブロンクス区)のリバーサイド病院に移送されました。ニューヨーク市衛生局は、チフス菌を持っている胆のうを除去する手術を受けるか、さもなくば北ブラザー島(ブロンクス区)のリバーサイド病院で検疫下に置かれるようにMaryに指示しました。当時、胆のうを除去する手術は、生命に関わるような危険な手術でした。Maryは、胆のうを除去する手術を受けずに、リバーサイド病院で検疫下に置かれることになりました。Maryは、囚人扱いを受けているとして裁判に訴えましたが、1909年、裁判の結果はニューヨーク市衛生局の措置を正当としました。しかし、翌1910年、ニューヨーク市衛生局は、条件付きでMaryに自由を与えることにしました。条件とは、他の人々に対して料理を作ったり給仕をしないこと、住所の変更があればすぐに報告すること、便検査に協力すること、および、三か月毎にニューヨーク市衛生局に現状を報告することでした。Maryは、リバーサイド病院から退院することができました。退院後、Maryは料理人の仕事を辞めていましたが、やがて、ニューヨーク市衛生局との連絡も絶ち、後には、Mary Brownという偽名を使って、マンハッタンのSloane産科病院で再び料理人の仕事を始めました。1915年1月、Sloane産科病院で25人の腸チフス患者が発生し内2人が死亡しました。料理人が感染源とされ、料理人がMary Mallonであることをニューヨーク市衛生局は明らかにしました。Maryは拘留され、1915年3月27日から、北ブラザー島(ブロンクス区)のリバーサイド病院で再び検疫下に置かれ、残りの生涯をそこで過ごすこととなりました。1918年、Maryはリバーサイド病院で看護師として働き始め、後には検査室の検査助手となりました。1923年には北ブラザー島内でリバーサイド病院の病棟から独立した特別の家屋がMaryのために建てられました。Maryはその家屋に一匹の犬と一緒に住みました。許可されて、ニューヨーク市内のマンハッタン区やクイーンズ区の友人を訪ねたこともありました。1932年のクリスマスに脳卒中を起こしてからは、部分的麻痺のため働けなくなり、リバーサイド病院の小児科病棟のベッド上の生活となりました。1938年11年11日、Maryは69歳で気管支肺炎により死亡しました。解剖により、胆のう中に胆石とともにチフス菌が確認されました。葬儀はニューヨーク市内のブロンクス区の広々とした教会で行われましたが、参列者は九人でした。Mary Mallon は火葬とされ、その遺灰はブロンクス区のSaint Raymond墓地に埋葬されました。なお、ニューヨーク市衛生局は、Mary Mallon が死亡するまでに、400人以上のチフス菌の健康保菌者を見出していますが、Mary Mallon のように強制的に収容され続けた健康保菌者は他にいません。また、Mary Mallonは47人の腸チフス患者発生と内3人の死者発生とに関係していましたが、122人の腸チフス患者発生と内5人の死者発生とに関係していた健康保菌者Tony Labellaの例など、多くの患者発生に関係していたと思われる健康保菌者の例も知られています。
下の地図に示すように、ニューヨーク市は、マンハッタン区、ブルックリン区、ブロンクス区、クイーンズ区、スタテンアイランド区の五つの区からなりますが、ブロンクス区とクイーンズ区の間のイースト川(川と呼ばれるものの実際は海峡)に浮かぶ島の一つに北ブラザー島(ブロンクス区)があります。1885年、ニューヨーク市における感染症の治療のためにリバーサイド病院が北ブラザー島に建てられました。天然痘・腸チフス・結核・麻疹・ジフテリア・猩紅熱ポリオといった感染症の治療をリバーサイド病院は行いました。1892年の腸チフスの流行時には、約1200人をリバーサイド病院は収容しました。「腸チフスのMary(Typhoid Mary)」として知られるMary Mallon は、総計で二十六年間、リバーサイド病院に入院していました。
なお、現在は北ブラザー島のリバーサイド病院は廃院となり、廃墟となっています。人影はなく、野鳥の棲みかとなっています。

地図:ニューヨーク市の5区と北ブラザー島(ブロンクス区)

病原体は?

腸チフスの病原体は、チフス菌(Salmonella enteritica serovar Typhi、略してSalmonella typhi、あるいは typhoid bacillus)です。
パラチフスの病原体は、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)です。パラチフス菌(Salmonella paratyphi)には、A、B、C の三つの血清型があります。
チフス菌もパラチフス菌も人にしか感染しません。

予防のためには・・・

食物を扱う前やトイレの後には、そのたびに手をよく洗いましょう。

チフス菌・パラチフス菌が体内から消えるまで、チフス菌・パラチフス菌に感染している人は、食事を準備したり給仕したりしてはいけません。患者だけでなく、保菌者も、食事を準備したり給仕したりしてはいけません。

腸チフスのワクチンとしては、そのワクチン効果が高くて、副作用の少ないワクチンが二種類知られています(参考文献6, 9, 11)。経口生ワクチンのTy21aと、チフス菌のポリサッカロイド-ワクチンのViCPSとです。日本においては、いずれのワクチンとも未認可です。経口生ワクチンのTy21aは、2歳以上(カプセルは5歳以上)の者が接種対象ですが、妊婦や免疫抑制状態にある者は対象外となります。経口生ワクチンのTy21aの副作用としては、微熱、頭痛、腹部の不快、胃腸症状です。チフス菌のポリサッカロイド(多糖体)-ワクチンのViCPSは、0.5mlを筋肉内に1回注射します(出血傾向がある場合は皮下注射)。接種対象者は2歳以上です。チフス菌への曝露の可能性がある時期よりも2週間以上前に本ワクチンを接種しておく必要があります。本ワクチンを接種した成人での抗体陽転率は88~96%と報告されています。ワクチン接種により産生された抗体は年月の経過で減弱するため、腸チフス流行地に長期間滞在する者には3年間隔で追加接種(1回)を繰り返すことが勧められています(米国では、腸チフス流行地に長期間滞在する者には2年間隔で追加接種[1回]を繰り返すことが勧められています[参考文献11])。チフス菌のポリサッカロイド(多糖体)-ワクチンのViCPSの副作用としては、発熱(0%-1%)、頭痛(1.5%-3%)、注射部位の1cmを超える発赤・腫脹(7%)です。抗生物質に対するチフス菌の耐性化が進行しつつある現在、腸チフスのワクチンの予防効果への期待が高まっています。

ViCPS(あるいはViPS)は、チフス菌のきょう膜多糖体(capsular polysaccharide: CPS)の毒性抗原(virulence antigen: Vi抗原)を用いた不活化ワクチンです。チフス菌のポリサッカロイド-ワクチンのViCPSの初回接種の7日後、Vi抗原に対する抗体価は、4倍に上昇しました。抗体価は、初回接種の一か月後に最大値に達し、約3年間は高い値を維持しました。Vi抗原に対する抗体価は、時間の経過とともに低下します。防御効果を維持するためには再接種が必要です。初回接種で得られた抗体価のレベルに再接種により達します。ViCPS(あるいはViPS)は、推奨保存温度は摂氏2-8度ですが、摂氏22度では2年間、摂氏37度では6か月間、安定です(参考文献9)。
チフス菌のポリサッカロイド-ワクチンのViCPSについては、ネパールで5-44歳を対象にして20か月の観察で75%の防御効果が見られました。南アフリカで5-16歳を対象にして21か月後で64%の防御効果が見られましたが、3年後では55%の防御効果に低下しました。ViCPSについては、少なくとも三年間は防御効果が持続するようです。アジアでは、こどもの定期予防接種として導入する国も見られています。英国では、A型肝炎の不活化ワクチンとViCPSとの混合ワクチン(HepatyrixおよびViATIM)も認可されていて使用されています(参考文献6)。
ViCPSによる防御効果は完璧ではなく、大量にチフス菌を摂取したときには無効になる可能性もあり、手をよく洗うことや料理の加熱などの腸チフス予防のための注意は必要です。
ViCPSの接種対象者は2歳以上ですが、チフス菌の高度の蔓延地など感染の可能性が非常に高い場合においては、1歳以上2歳未満でも接種対象とすることがあります(参考文献6)。

ViCPS(あるいはViPS)は、チフス菌のきょう膜多糖体(capsular polysaccharide: CPS)の毒性抗原(virulence antigen: Vi)を用いた不活化ワクチンです。このポリサッカロイド(きょう膜多糖体)-ワクチンは乳児に免疫をつくる力は弱く、二歳未満では使われません。乳幼児に免疫をつくる力が強いと考えられる結合型ワクチン(Vi-rEPA)を米国衛生研究所が遺伝子組み換えの(recombinant: r)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa: PA)の外毒素(exotoxin A: E)を担体タンパク質としてチフス菌のきょう膜多糖体の毒性抗原(virulence antigen: Vi)に結合させることで作成しました。この他にも、担体タンパク質としてジフテリア-トキソイドやチフス菌のOmpCタンパク質を用いたVi結合型ワクチンの作成が他の機関により試みられています。

チフス菌の野生株Ty2を弱毒化して、チフス菌の初の経口生ワクチンTy21aは作られました。Ty21aは以前は液体の剤形でしたが、現在はカプセルの剤形があります。液体の剤形は2歳以上で、カプセルの剤形は5歳以上(英国・米国では6歳以上)で服用されます。カプセルについては、一日おきに一カプセルを0日、2日、4日の計三回服用します(米国では、0日、2日、4日、6日の計四回服用します)。カプセルは噛んではいけません。口の中に入れたら、すぐに飲み込んでください。食事の約一時間前に、冷たい、あるいは、摂氏37度を超えない生温い湯とともに飲みこんでください。弱毒生ワクチンのCVD103-HgRコレラ-ワクチンと同時接種も可能です。アフリカや南北アメリカ、アジア、ヨーロッパの56か国で認可されています。4日目の3個目のカプセルを服用後、7-10日で免疫力が出て来ます(米国では、6日目の4個目のカプセルを服用後、1週間で免疫力が出て来るとしています)。腸チフス流行地に長期間滞在する者には3年間隔で追加接種(初回と同様の三カプセルのコース)を繰り返すことが勧められています(米国では、腸チフス流行地に長期間滞在する者には5年間隔で追加接種[初回と同様の四カプセルのコース]を繰り返すことが勧められています[参考文献11])。経口生ワクチンTy21aは、摂氏2-8度での貯蔵を要しますが、摂氏25度では約14日間に亘り効能を保ちます(参考文献9)。
急性胃腸炎の場合には、軽快するまで接種は延期します。また、抗生物質の服用中の場合には、服用終了して三日以上経過してから接種します(参考文献6)。
なお、チリ(サンティアゴ)では、パラチフス菌のB型によるパラチフスについても、Ty21aは、42-56%の防御効果を認めました(参考文献9)。

経口生ワクチンのTy21aは、チフス菌の初の経口生ワクチンです。Ty21aに続いて、Ty800、CVD909、ZH09などの経口生ワクチンが開発途上にあります。

腸チフスのワクチンとして、以前は、ViCPS(あるいはViPS)で行われているような精製が行われていない、チフス菌の全細胞をつかった不活化ワクチン(チフス菌全細胞不活化ワクチン : whole-cell typhoid vaccine)が使われていましたが、副反応が強く、現在では使われなくなってきています。しかし、他の腸チフスのワクチンと比較して安価であるため、一部の発展途上国で使われています。副反応として、発熱などが9-34%で見られ、副反応のため、仕事や学校を休む者もいます。四週間間隔での二回接種(皮下接種)により、三年間で70%の防御効果があり、五年間までの防御効果が期待されます。四週間間隔での二回接種の後、流行地では、三年間隔で一回接種を繰り返します。

ネズミ・ハエ・ゴキブリは駆除しましょう。

参考文献

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  2. DONALD C. BLAIR; A Week in the Life of a Travel Clinic. ; CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS, Oct. 1997, Vol. 10, No. 4, p. 650-673.
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  5. The Topic of This Month: 腸チフス・パラチフス 2005-2008年、病原微生物検出情報(IASR) 2009年4月号(外部サイト)、Vol. 30, No. 4(No. 350), p.91-92.
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  8. Jessica Hancock-Allen, Alicia B Cronquist, JoRene Peden, et al. Typhoid Fever Outbreak Associated with an Asymptomatic Carrier at a Restaurant --- Weld County, Colorado, 2015. MMWR Morb Mortal Wkly Rep /June 17, 2016;65(23)(外部サイト) [pdf:397KB] : p. 606-607.
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  10. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). National Typhoid and Paratyphoid Fever Surveillance(外部サイト) Overview. Atlanta, Georgia: US Department of Health and Human Services, CDC, 2011.
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2012年8月15日初掲載
2016年6月23日増補改訂

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