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トリコモナス感染症について

■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。

最終更新日 2019年7月11日

はじめに

広義のトリコモナス感染症(トリコモナス症 : trichomoniasis)は、膣トリコモナス、腸トリコモナス、口腔トリコモナス、ウシ胎仔トリコモナスなどのトリコモナスによって起こされる感染症です。狭義のトリコモナス感染症(トリコモナス症)は、膣トリコモナスが男女の性器に感染して起こされる感染症です。両者が混同されないように、本稿では、狭義のトリコモナス感染症(トリコモナス症)を膣トリコモナス感染症(膣トリコモナス症)と表記するようにします。
本稿では、主に膣トリコモナス感染症について触れますが、膣トリコモナス感染症以外のトリコモナス感染症についても、「病原体は?」の項で触れていきます。

流行は?

アメリカ合衆国では、毎年約500万人の男女が、新しく膣トリコモナス感染症に感染しています。膣トリコモナス感染症は、男性も女性もかかる性感染症(STD : Sexually transmitted disease : 性交渉によって感染する病気)ですが、症状が女性で目立つこともあり、性的に活発な若い女性でよく見られます。また、女性は感染した男性あるいは感染した女性から感染しますが、男性は通常感染した女性からのみ感染します。男性と男性との間の性交渉では通常感染しないのが、他の性感染症(STD : Sexually transmitted disease : 性交渉によって感染する病気)と比較しての特徴です。

膣トリコモナスに感染している母親から生まれた新生児へと感染することがあります。尿路あるいは膣の感染を起こします。膣トリコモナスに感染している母親から生まれた女の新生児では、2%-17%で感染を起こします。

どんな病気?

膣トリコモナス感染症は、単細胞の原生動物に属する寄生生物である膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)によって起こされる感染症です。女性では主に膣に感染して膣炎を、男性では主に尿道に感染して尿道炎を起こします。

膣トリコモナスに感染しても、大部分の男性で、何の症状も徴候も現れません。男性で症状が出る場合には、陰茎内部の刺激、尿道からのうみの排出、排尿あるいは射精後の焼けるような感じなどです。男性で症状が出た場合でも、通常2、3週間で症状は消えることが多いです。しかしながら、そのようにして自然に症状が消えた場合でも、最初から何の症状がなかった場合でも、治療を受けない限り、性交渉の相手女性に膣トリコモナスを感染させる可能性があります。

多くの女性で、感染すると症状・徴候が現れます。膣トリコモナスが体内に入ってから通常5-28日以内に症状が出現します。強い匂いの黄緑色の泡立った膣からの排出物があります。性交時や排尿時の不快感があります。陰部の刺激やかゆみがあります。まれに、下腹部痛が起こることもあります。

妊娠中に女性が感染すると、早期破水や早産を招くことがあります。また、女性が感染した場合、性交渉の相手からHIV(エイズの病原体)を受け取る危険性を増しますし、性交渉の相手にHIVを受け渡す危険性も増します。

膣トリコモナス感染症は、有効な抗生物質を用いて治療されます。治療が完了するまで性交渉は控える必要があります。また、決まった性交渉の相手が感染していれば、自分だけ治療してもまた感染してしまうので、決まった性交渉の相手もいっしょに治療することが大切です。

人間の膣トリコモナス感染症の病原体は、単細胞の原生動物に属する寄生生物である膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)です。膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)については、1836年にDonneが初めて記述しました。
正常な膣内のpH は、4.5で強い酸性です。膣トリコモナスは、pH が5.0を超えるような酸性度が弱い状態にならないと活発に活動しません。膣トリコモナス感染症では、膣内で、酸性度を高めるLactobacillus acidophilus(アシドフィルス菌という乳酸桿菌)が減少あるいは消滅し、嫌気性の細菌が増加し、pH が上昇します。

トリコモナスの仲間には、人間に感染する膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)のほか、ハトなどの鳥に感染するハトトリコモナス(Trichomonas gallinae )、牛・水牛や羊に感染するウシ胎仔トリコモナス(Trichomonas foetus )などがあります。また、通常は非病原性のものとしては、人間・猿・犬・猫の大腸で見られることがある腸トリコモナス(Trichomonas hominis あるいはPentatrichomonas hominis)や人間の口の中や気管・気管支で見られることがある口腔トリコモナス(Trichomonas tenax)があります。
口腔トリコモナスが人の口の中に存在する率は、性別・年齢階層別でみると、50歳以上の男性で多いです。口腔トリコモナスは、pH 5.0未満の酸性の環境では生存できず、胃酸や胆汁は口腔トリコモナスに対して殺菌的に働くので、飲みこまれたとしても、胃腸の中で口腔トリコモナスは通常は死滅します。唾液の中の口腔トリコモナスが、咳・くしゃみによる飛沫やキス、唾液が付着した皿・コップ・手などを介して、人から人へと広がっていくものと考えられます。口腔トリコモナスは、水の中では、数時間から数日、生存します。通常は4%-53%の人の口の中に存在して何の症状も起こさない口腔トリコモナスですが、慢性的な化膿性あるいは壊死性の肺の病変(肺癌・肺膿瘍・気管支拡張症など)を持った人で、口の中の口腔トリコモナスが吸い込まれて、肺のトリコモナス感染症を起こすことがあります(参考文献3)。口の中の衛生が保たれていない患者が多いです。また、肺のトリコモナス感染症は、まれに膣トリコモナスや腸トリコモナスの感染で起こることもあります。抵抗力が弱まっていない健康な人がトリコモナスを吸い込んでも肺のトリコモナス感染症を起こさないと考えられ、肺のトリコモナス感染症は日和見(ひよりみ)感染であると考えられます。日和見(ひよりみ)感染とは、体力・免疫力に問題のない人では病気を起こすことがほとんどないような微生物が、体力・免疫力の弱まった人に感染して病気を起こすような場合を言います。旅人はその日の日和(ひより)を見て晴れなら出発、雨なら今日も宿で雨宿りと決めたりします。日和見(ひよりみ)感染の微生物は、その時の人の体力・免疫力を見て、問題のない人に対しては静かにして、弱まった人に対しては襲いかかっているようにも見えます。

ハトトリコモナス(Trichomonas gallinae )による鳥のトリコモナス感染症では、鳥の口や食道・気管に病変が形成されます。口の中の病変により、鳥は食べようとしても、飲み込みにくくなります。呼吸も難しくなります。鳥は体力が弱まり、サルモネラなどのようなありふれた病原体に命を奪われることになります。ハトトリコモナスは、水飲み場で汚染された水を介して鳥から鳥へと広がります。感染したハトなどの鳥を食べたタカなどの猛禽へと広がることもあります。ハトトリコモナスは、何の症状も起こすことなく、ハトの消化管内に認められることがあります。
ハトトリコモナスの仲間には、多くの系統があり、感染しても病原性が弱く何の症状も起こさないものの、他の強い病原性のある系統に対する免疫を作り上げる、まるでワクチンのような系統もあります。そのような免疫を持っていない鳥が初めて強い病原性のある系統に感染すると、口の中や、食道、胃(餌袋)などの上部消化管に壊死性の潰瘍を生じます。タカの仲間では、中咽頭部に大きな病変を形成し、また、骨を侵食する病変が形成されることもあります。

さて、ティラノサウルス(Tyrannosaurus )は、太古の白亜紀の肉食の恐竜ですが、その骨格標本では、しばしば片側あるいは両側の顎(あご)の骨に穴がいくつも開いているものが見られます。このティラノサウルスの顎(あご)の骨の穴の原因について、放射菌(ウシ放射菌[Actinomyces bovis] など)による骨の感染症(放射菌症[actinomycosis])あるいは、他のティラノサウルスのような肉食の恐竜による咬み傷によるのではないかとも考えられてきました。たとえば、人間の顎部の放射菌症は、口腔内の嫌気性常在菌である放射菌(イスラエル放射菌[Actinomyces israelii ]など)が、虫歯、歯周囲炎、外傷等をきっかけに、顎の深部に入って起こることがある深在性の感染症です。人間の顎部の放射菌症では、下顎部のX線写真で下顎骨に開いた穴が確認されたり、顎部の皮膚にろう孔が開いたりすることがあります。他のティラノサウルスのような肉食の恐竜による咬み傷とする説は、ティラノサウルスの顎(あご)の骨の穴の縁が平滑であるため否定的です。
このティラノサウルスの顎(あご)の骨の穴の原因について、アメリカ合衆国ウィスコンシン州Madisonのウィスコンシン大学獣医学部病理生物学科のEwan D. S. Wolffらが、ハトトリコモナス(Trichomonas gallinae )のような寄生生物による感染症であるとする説を新しく提起しました(参考文献1)。Ewan D. S. Wolffらは、アメリカ合衆国シカゴのThe Field Museum(外部サイト)(フィールド博物館)に展示されているSue(スー)という愛称で呼ばれているTyrannosaurus rexを始め、多くのTyrannosaurusの仲間の顎の骨を分析しました。また、現代のタカの仲間で顎の骨にハトトリコモナスの病変が出現したものの顎の骨と比較し、類似していることを指摘しました。

ウシ胎仔トリコモナス(Trichomonas foetus ; ウシ流産トリコモナスとも呼ばれます)は牛や羊の雌雄の生殖器に寄生する鞭毛虫です。牛や羊の交配時に感染し、牛や羊の生殖器粘膜(子宮内膜)に炎症を起こし牛や羊の流産や不受胎を起こします。ウシ胎仔トリコモナスの人体寄生例はまれですが、ウシ胎仔トリコモナスが原因と推定される人間の髄膜脳炎症例が日本で報告されています(参考文献2)。報告された症例では、生殖器系に寄生していたウシ胎仔トリコモナスが、骨髄移植でのステロイド継続投与による宿主の免疫能低下に伴い全身感染をおこし、その結果として髄膜脳炎および脳室炎を併発したものと推定されました。
ところで、日本においては、家畜の伝染性疾病の発生の予防、まん延の防止により畜産の振興を図るために、家畜伝染病予防法が制定されています。家畜伝染病の発生を予防するため届出、検査等が定められていて、家畜伝染病のまん延を防止するため発生時の届出、殺処分、移動制限等が行われます。また、家畜の伝染性疾病の国内外への伝播を防止するための輸出入検疫が行われています。監視伝染病として、家畜伝染病と届出伝染病があります。家畜伝染病は口蹄疫、ヨーネ病、伝達性海綿状脳症、豚コレラ、高病原性鳥インフルエンザ など26疾病で発生時には法に基づく強制的措置が行われます。届出伝染病は、アカバネ病、牛伝染性鼻気管炎、オーエスキー病、豚繁殖・呼吸障害症候群、伝染性気管支炎、トリコモナス病など71疾病で発生状況把握や予防措置指導が行われます。また、監視伝染病以外で、家畜の生産や健康に重大な影響をおよぼす恐れのある疾病が出現した場合に「新疾病」として扱われることがあります。国は、家畜伝染病の発生予防やまん延防止の推進のため、飼養衛生管理基準と、重要な伝染病が見つかった場合の対応に関する特定家畜伝染病防疫指針を策定、公表します。発生予防として衛生管理の徹底や届出、検査による発生状況の把握、ワクチン接種指導等を実施します。まん延防止として定期的な検査や発生があった場合の感染家畜の処分や移動制限などを実施します。特定家畜伝染病防疫指針については、口蹄疫(H16.12)、BSE(H16.11)、高病原性鳥インフルエンザ(H16.11)、豚コレラ(H18.3)の4疾病について作成されています。
ウシ胎仔トリコモナス(Trichomonas foetus ; ウシ流産トリコモナスとも呼ばれます)による牛・水牛の「トリコモナス病」(trichomonosis)については、家畜伝染病予防法における届出伝染病の一つです。2008年の届出は0件ですが、1963年以降、日本では発生していません。

予防のためには・・・

性交渉時にはいつも、コンドームを最初から最後まで正しく使いましょう。

感染している可能性があれば、性交渉を控え、医療機関を受診しましょう。受診して膣トリコモナス感染症あるいは他の性感染症(STD : Sexually transmitted disease : 性交渉によって感染する病気)に感染していることが分かった場合には、今までの性交渉の相手に告げて医療機関の受診を勧めましょう。

参考文献

  1. Wolff EDS, Salisbury SW, Horner JR, Varricchio DJ (2009) Common Avian Infection Plagued the Tyrant Dinosaurs. PLoS ONE 4(9): e7288. doi:10.1371/ journal.pone.0007288.
  2. 田邊將信、竹内 勤、岡本真一郎、池田康夫、福島佐知子、山田健人、秦 順一; 急性骨髄性白血病に合併したTritrichomonas foetus が原因と推定される脳脊髄膜脳炎症例; 病原微生物検出情報月報(IASR) Vol.18 No.5 May 1997.
    http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/207/dj2076.html(外部サイト)
  3. S. M. HERSH, PULMONARY TRICHOMONIASIS AND TRICHOMONAS TENAX, J. MED. MICROBIOL.-VOL. 20 (1985), p. 1-10.
  4. DINO PETRIN, KIERA DELGATY, RENUKA BHATT, AND GARY GARBER, Clinical and Microbiological Aspects of Trichomonas vaginalis, CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS, Vol. 11, No. 2, Apr. 1998, p. 300-317.

2001年5月9日掲載
2009年11月25日改訂増補 

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