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細菌性赤痢について

最終更新日 2019年6月13日

はじめに

赤痢(dysentery)には、細菌性赤痢(bacillary dysentery)とアメーバ(性)赤痢(amoebic dysentery)とがあります。本稿では、細菌性赤痢を取り上げます。アメーバ赤痢については、当・横浜市衛生研究所ホームページ「アメーバ赤痢について」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

流行は?

細菌性赤痢は、衛生状態が良くない、熱帯から温帯の地域で流行が多く見られます。全世界では、年間で、8000万人から1億6500万人程度の患者が発生し、60万人が死亡していると推計されています。

細菌性赤痢は、日本の感染症法において、3類感染症とされています(医師による細菌性赤痢の届出基準はこちらのページから)。2011年の日本においては、300例の報告がありました(参考文献6)。

細菌性赤痢はサルにも感染が見られ、人への感染源となる可能性もあります。そのため、2004年10月1日施行の感染症法施行令の改正により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届出が義務付けられています。2004年には報告はなく、2005年に45例、2006年に45例、2007年に51例、2008年に29例、2009年に34例、2010年に59例、2011年に37例の報告がありました。報告例の多くは輸入時の検疫期間中に発見されています(獣医師による細菌性赤痢の届出基準はこちらのページから)。

どんな病気?

細菌性赤痢(Shigellosis)は赤痢菌(Shigella属の菌)によって引き起こされる腸の感染症です。患者の便中に出てきた赤痢菌が口から入ることで感染します(糞口感染)。人と人との直接の接触、あるいは、赤痢菌で汚染された食物・水・器具を介しての間接の接触によって人から人へと感染します。患者の便1gあたり100万個から1億個の赤痢菌が含まれます。10個という少量の赤痢菌でも感染を起こします。人間と霊長類だけが赤痢菌に感染します。飼っているサルから人が感染した例もあります。
アメリカ合衆国では、小さなこどもの保育施設等で、特にShigella sonnei(ソンネ赤痢菌)という赤痢菌が人から人へと感染し、赤痢の集団発生が起きることがあります。日本でも、大阪の保育園(参考文献4)や福岡の幼稚園(参考文献5)で、Shigella sonnei(ソンネ赤痢菌)による細菌性赤痢の集団発生が報告されています。また、赤痢菌に感染した料理人が扱った食物や、赤痢菌に汚染されていてそのまま食べられる食物などにより食中毒が起きることがあります。赤痢菌による飲料水の汚染、赤痢菌により汚染された水の中での水泳、男性間での性的接触などで、赤痢の集団発生が起きることがあります。日本の東京でも、男性と性行為のある男性におけるShigella sonnei(ソンネ赤痢菌)による細菌性赤痢の集団発生が報告されています(参考文献3)。 通常、赤痢菌に曝露して12-96時間後に発病します。軽症の場合も重症の場合もありますが、症状は4-7日間続きます。Shigella dysenteriae(志賀赤痢菌)の血清型1型(Sd1)による細菌性赤痢は重篤となることがありますが、Shigella sonnei(ソンネ赤痢菌)による細菌性赤痢は軽い下痢症に留まることもあります。水様、血性、あるいは粘液様の下痢、しぶり腹(テネスムス[tenesmus]:便意は強いがなかなか排便できないこと)、発熱、腹痛、及び、嘔気が見られます。嘔吐、痙攣(乳幼児)、あるいは、感染後の関節炎が見られることもあります。Sd1による細菌性赤痢では、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome: HUS)が見られることもあり、重篤な場合には死に至ることもあります。溶血性尿毒症症候群では、溶血性貧血、血小板減少、腎不全が見られます。
また、Shigella sonnei(ソンネ赤痢菌)などでは、感染しても症状が見られぬまま(不顕性感染)、便中に赤痢菌を排出して、感染源となることがありえます。
細菌性赤痢における下痢症状は、完全に軽快しますが、消化管の消化・吸収の働きが完全に正常化するまでに数ヶ月かかる場合もあります。ごく少数の人々では、排尿時痛(尿道炎)から関節痛(関節炎)や眼の痛み(結膜炎)、微熱が出現して、数ヶ月から数年持続することもあります。これは、ライター症候群(1881年生まれのドイツの細菌学者H.Reiterに因む。性感染型と赤痢型がある。性感染型の原因菌は、クラミジア-トラコマティス。赤痢型の原因菌は、赤痢菌、サルモネラエルシニアカンピロバクター。HLA-B27組織抗原を持つ人は、持っていない人と比較して、これらの原因菌に感染後、本症候群になりやすいです。)と呼ばれることがありますが、必ずしも全ての症状がそろうものではありません。そして、慢性の関節炎となることもあります。
細菌性赤痢は、抗生物質で治療されます。シプロフロキサシン、ホスホマイシン、アジスロマイシン、セフトリアキソン等の抗生物質で治療されることがあります。アンピシリン、ST合剤、テトラサイクリン、ナリジクス酸等の抗生物質については、近年、多くの赤痢菌で耐性が見られ、使用されません。適切な抗生物質による治療は、腸管内の赤痢菌を殺し、症状の持続期間を短縮します。
激しい下痢により脱水となることがあり、脱水の程度に応じて経口または経静脈的な補液が行われます。発展途上国等では、ORS(Oral Rehydration Salts、またはOral Rehydration Solution)と呼ばれる経口輸液の使用が勧められています。強力な止痢剤(ロペラミドなど)の使用は腸内容物を停滞させて除菌を遅らせることになるので、使用してはいけません。
世界保健機関(WHO)は、参考文献2において、簡易な経口輸液の作り方を紹介しています。1リットルの安全な飲料水に対して、茶さじ半分の食塩(2.5g)と茶さじすり切り6杯の砂糖(30g)とを入れてよくかき混ぜて溶かすというものです。当・横浜市衛生研究所ホームページ「フルーツジュース(果汁)と下痢について 」も参考にして下さい。
発熱に対して解熱剤(アセトアミノフェン等)、痛みに対して鎮痛剤(アセトアミノフェン等)が使われることがあります。
世界保健機関(WHO)とユニセフ(国連児童基金)は、赤痢などによる5歳以下の乳幼児の急性の下痢の治療のために短期間(10-14日)の経口的な亜鉛補充(亜鉛元素を毎日20ミリグラム、または6ヶ月未満の乳児であれば亜鉛元素を毎日10ミリグラム。硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、あるいは酢酸亜鉛として投与)を勧めています。この事により、下痢の重篤度と期間が減じ、また、その後2-3ヶ月間は下痢の発症頻度や重篤度も減じます。

病原体は?

Shigella(赤痢菌)の名前の由来は、この細菌を1898年に日本の微生物学者Kiyoshi Shiga(志賀潔[1870年誕生-1957年死去])が発見したことによります。 志賀潔博士が発見したのはShigella dysenteriaeの血清型1型(Sd1)であり、志賀菌(Shiga bacillus)とも呼ばれます。
志賀菌が産生する志賀毒素(Shiga toxin)はベロトキシン(verotoxin: VT)とも呼ばれ、Sd1(志賀菌)及び腸管出血性大腸菌が産生する毒素です。大腸菌は遺伝子的に赤痢菌に近い細菌です。腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)が産生する志賀毒素(Shiga toxin[Stx]: ベロトキシン)には、1型[Stx1: Verotoxin 1]と2型[Stx2: Verotoxin 2]とがあります。志賀毒素は、消化管、腎臓や肺に見られる小血管の内側の血管内皮に作用します。志賀菌はまず口から入って消化管から侵入するので、消化管の小血管が破壊され、便への血液の混入が起こります。また、血液を濾過して尿を作る構造である腎臓の糸球体の小血管が破壊されると、尿が作れない腎不全となり溶血性尿毒症症候群として死に至る場合もあります。
細菌性赤痢の病原体は、赤痢菌(genus Shigella: Shigella属)です。赤痢菌には、Shigella dysenteriae(志賀赤痢菌:A群赤痢菌)、Shigella flexneri(フレクスナー赤痢菌:B群赤痢菌)、Shigella boydii(ボイド赤痢菌:C群赤痢菌)、Shigella sonnei(ソンネ赤痢菌:D群赤痢菌) の四つの種があります。Shigella dysenteriae(1~13血清型)、Shigella flexneri(1~6血清型)、Shigella boydii(1~18血清型)については、更に血清型(serotype)で分類されます。Shigella sonneiは1血清型のみですが、さらに1相と2相とに分類されることがあります。近年、以上の血清型の分類では分類できない赤痢菌も知られていて、新血清型Shigella(赤痢菌)と呼ばれます。
Shigella sonneiは先進国で多く見られます。Shigella sonneiはアメリカ合衆国では大多数を占めます。Shigella flexneriは発展途上国で多く見られます。Shigella flexneriはアメリカ合衆国ではShigella sonneiに次いで多いです。Shigella boydiiによる感染は少なく、Shigella dysenteriaeによる感染はより少ないですが、サハラ砂漠以南のアフリカや南アジアでは25%以上を占めます。Shigella dysenteriaeによる感染はアメリカ合衆国では少ないですが、発展途上国では死亡者が出る大きな流行を起こすことがあります。
アメリカ合衆国では、海外渡航関連の感染が、Shigella dysenteriaeによる感染では56%、Shigella boydiiによる感染では44%、Shigella flexneriによる感染では24%、Shigella sonneiによる感染では12%を占めます。アメリカ合衆国では、海外渡航の場合、赤痢となる危険性はアフリカで最も高く、次いで、中央アメリカ、南アメリカ、アジアでも高いです。

日本の感染症発生動向調査によれば、2011年の細菌性赤痢の患者・感染者発生は300人でした(参考文献6)。感染地域について国内が47.0%、国外が52.7%を占めました。国外では、アジアが大部分で、インド、インドネシア、中国、カンボジア、フィリピン、バングラデシュ、ネパール、ベトナムでの感染が多いです。
2011年の日本における細菌性赤痢患者・感染者発生について菌種別に見ると、ソンネ赤痢菌(77.7%)とフレクスナー赤痢菌(17.7%)とで大部分を占め、特にソンネ赤痢菌が多かったです。志賀赤痢菌(0.0%)による患者・感染者発生は見られませんでした。

表1
2011年の日本における細菌性赤痢患者・感染者の感染地域別・菌種別集計(参考文献6より作成)
 感染地域計 
国内国外不明
赤痢菌A群(志賀)0000(0.0%)
B群(フレクスナー)2231053(17.7%)
C群(ボイド)19111(3.7%)
D群(ソンネ)135980233(77.7%)
菌種不明0303(1.0%)
158(52.7%)141(47.0%)1(0.3%)300(100.0%)

予防のためには・・・

ワクチンの開発に向けての努力が行われています。主にフレクスナー赤痢菌に対するワクチン等が開発中ですが、実地に用いられるのにはまだ年月を要するようです。

赤痢菌の広がりを防ぐためには・・・
○ 石けんを使い手をよく洗いましょう。
○ 小さな子が手をよく洗えるように手伝いましょう。
○ 使用済みのオムツは、付着している菌が広がらないように、適切に処理しましょう。
○ オムツを処理した後は、処理した場所を処理のたびに消毒しましょう。
○ 下痢症状のある人は、食品を調理しないようにしましょう。
○ 下痢症状のあるこどもは、集団の遊び場、保育所、学校を休ませましょう。
○ 池、湖、塩素消毒していないプール等の水を口に入れないようにしましょう。
〇 ハエを駆除しましょう。ハエが赤痢菌を運ぶことがあります。
〇 発展途上国での旅行では、生水、氷、生ものは避けましょう。屋台のヨーグルト飲料や氷などで赤痢菌に感染することもありますので、不衛生な飲食店、屋台などでの飲食も避けましょう。

消毒・滅菌には、消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、第四級アンモニウム塩などの消毒薬が有効です。患者便には3%クレゾール液を同量混合します。

参考文献

  1. 国立感染症研究所 赤痢菌検査・診断マニュアル 平成24年6月改訂。
  2. World Health Organization(WHO). Guidelines for the control of shigellosis, including epidemics due to Shigella dysenteriae 1. World Health Organization 2005. Geneva, Switzerland.
  3. Okame M, Adachi E, Sato H, Shimizu S, Kikuchi T, Miyazaki N, Koga M, Nakamura H, Suzuki M, Oyaizu N, Fujii T, Iwamoto A, Koibuchi T. Shigella sonnei outbreak among men who have sex with men in Tokyo. Jpn. J. Infect. Dis. 2012;65(3):p. 277-278.
  4. 岡本 優、宇治田尚子、漕江由佳、田代由希子、芝田元子、北島信子、笹井康典、大平文人、松井陽子、伊達啓子、熊井優子、勢戸和子、原田哲也、田口真澄: 保育園で発生した細菌性赤痢の集団感染事例(外部サイト)―大阪府 : 病原微生物検出情報 (IASR) 2012年9月号, Vol. 33 p. 245-247.
  5. 麻生嶋七美、本田己喜子、藤丸淑美、尾崎延芳、樋脇 弘: 幼稚園における細菌性赤痢の集団発生事例(外部サイト)―福岡市: 病原微生物検出情報 (IASR) : 2011年6月号, Vol. 32 p. 171-172.
  6. 感染症発生動向調査感染症週報: 速報 「細菌性赤痢2011年(2012年5月25日現在)」,IDWR(Infectious Diseases Weekly Report Japan) 2012年第25週(6月18日~6月24日):通巻第14巻第25号(PDF版)(外部サイト) [pdf:935KB] , p.11-20.

2015年4月16日掲載

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電話:045-370-9237

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