このページの先頭です

香港のアモイガーデン(Amoy Gardens)におけるSARSの集団発生について

■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。

最終更新日 2019年7月11日

香港では、ある高層住宅でSARSの発生が増え、2003年3月31日には、10日間の隔離命令が出される事態となりました。香港の九龍湾の牛頭角道にある高層住宅「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のE棟に対し、2003年3月31日の早朝から4月9日の夜まで、10日間の隔離命令が出されました。隔離は衛生局・社会福祉局・警察などの行政職員が協力して行います。「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のE棟では、10日間、住民が隔離されます。許可ある者以外、E棟に出入りすることはできません。香港の衛生局の医療スタッフがE棟住民の健康チェックを続けます。食事は1日に3食ずつ無料でE棟住民に配給されます。E棟住民はE棟の清掃・消毒について当局から助言・援助を受けます。このような隔離命令が出されたのは、高層住宅「淘大花園」から213人のSARS疑いでの入院患者が出て、その内、E棟住民から107人のSARS疑いでの入院患者が出たことによります。しかも、この107人の居室の大部分は各階の7号室か8号室で、垂直方向に重なった位置関係にあります。このSARSの集団発生について、当局の調査が続いています。調査は水道・下水など建物構造にも向けられています。建物構造の詳細な調査のためにも、E棟住民は他の宿泊施設での隔離が行われることになり、2003年4月1日の夜、E棟から他の宿泊施設へとE棟住民は移送され、移送先の宿泊施設で隔離されました。

そして、E棟の調査と消毒後、4月9日の夜、隔離が終了し宿泊施設からE棟住民はE棟に戻りました。

4月17日には、香港の衛生局から「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のSARSの流行についての発表(参考文献1)がありました。流行の発端となった第1例は、「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のE棟に住んでいる兄弟を訪れた33歳の男性でした。この第1例は、2003年3月14日に、SARSを発病しましたが、3月14日と19日にE棟の兄弟宅を訪問しました。訪問時には下痢症状があり兄弟宅のトイレを使用しています。後に兄弟夫妻はSARSを発病しました。2003年4月15日の時点で、高層住宅「淘大花園」では、321人のSARSの患者が発生しています。高層住宅「淘大花園」15棟の内、患者の分布は、E棟で患者総数の41%、C棟で15%、B棟で13%、D棟で13%、その他の11棟で18%でした。E棟は33階建てでそれぞれの階の部屋は1号室から8号室まであります。患者の発生した部屋は8号室で73%、7号室で42%に達しています。8号室の住民でのSARSの罹患率は78%です。低い階に比べて10階以上での発生が多かったです。発病の日で見ると、流行は2003年3月24日にピークに達して、速やかに減少しています。E棟の患者発生は流行の初期に見られました。他の棟での患者発生は、E棟の患者発生に3日ほど遅れて見られました。症状については、下痢が患者の66%に見られたのが特徴的でした。患者の調査では、2003年3月17-23日に、SARSの患者と接している者が4%、中国本土を訪れている者が8%でした。

水道・下水など建物構造ですが、E棟には、8本の下水管が垂直方向に走っています。各階の8号室は垂直方向に走る下水管でつながっています。各階の7号室も垂直方向に走る下水管でつながっています。各号室の下水管には、各号室のトイレ、流し、洗面台、風呂おけ、バスルームの床等の排水が集まります。使った水の下水管への入り口である排水口の部分には、U字型水トラップ(Uトラップ)という排水菅の構造があります。下の図3を参照して下さい。U字型水トラップでは、U字型に排水管が曲がっていてUの字の底の部分に流された排水の一部が溜まることにより、下水からの臭気・虫・飛沫の流入を防ぎます。但し、使われない排水口ではU字型水トラップから水が蒸発し、水なしのU字型水トラップとなり、排水口経由で下水から臭気・虫・飛沫等が流入する可能性があります。淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)では、バスルームの床の清掃は水を流すのではなく、モップがけを行っている家庭が多く見られました。そのため、バスルームの床の排水口のU字型水トラップから水が蒸発し、水なしのU字型水トラップとなり、バスルームの床の排水口経由で下水から臭気・虫・飛沫等が流入した可能性があります。淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)では、トイレでの悪臭の苦情が多く認められました。実地の実験でも、バスルームのドアを閉めてバスルームの換気扇のスイッチを入れたときに、バスルームの床の排水口経由で下水からの空気の流入が認められました。SARS患者の多くが便中に病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)を排出していること、および便中では通常より病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)は長生きすることがわかっています。E棟の患者の発生が8号室と7号室とに集中したことは、SARS患者の便中の病原体のコロナウイルスによって8号室の下水管と7号室の下水管とが病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)に汚染され、病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)を含んだ下水の小さな飛沫がバスルームの床の排水口経由で8号室や7号室のバスルームを汚染したためと考えられます。淘大花園(Amoy Gardens)の住民に対して、排水口のU字型水トラップから水がなくならないように注意するように指導が行われました。

バスルームの換気扇は、建物の明かり取りの吹き抜けへとつながっています。さらに、この建物の明かり取りの吹き抜けを通じて他の部屋も汚染した可能性があります。下水のパイプには漏れは認めませんでした。しかし、E棟の4階で下水管内の圧力を調整するためのパイプに大きな割れ目を認めました。トイレが使われる度に、下水の飛沫が大きな割れ目から建物の明かり取りの吹き抜けへと出て行ったと考えられました。宿泊施設からE棟住民がE棟に戻る前にこの大きな割れ目は修繕されました。油の飛沫を使った実験で建物の明かり取りの吹き抜けの煙突効果が実証されました。風の状況にもよりますが、飛沫は横に広がりながら33階建ての建物の高さを数分で上昇しました。

空気・水・環境から検体を採取し、病原体のコロナウイルスの検査がなされました。空気や水からは病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)は検出されませんでした。SARS患者の使っていた便器の内側のへり、ネズミの糞、ゴキブリの体からコロナウイルス(SARSウイルス)が検出されました。コロナウイルス(SARSウイルス)で汚染された環境下ではネズミやゴキブリはコロナウイルス(SARSウイルス)を物理的に運搬する可能性があります。

淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)関連の患者の方が淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)関連でない患者より重症に見えます。淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)関連の患者では20%が集中治療を必要としていて、淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)関連でない患者では10%が集中治療を必要としています。また、老人や慢性疾患がある人だけでなくより若く健康体だった人からも今や死者が出ています。さらに、淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)の患者では約66%が下痢症状を示していますが、淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)関連以外の流行では2%から7%が下痢症状を示すのみであるという差異が見られます。これらの差異は何によるのでしょうか。コロナウイルスは、遺伝子の変異が頻繁に見られることが知られており、淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)では遺伝子の変異を起こしたより悪性の株が流行したのかも知れません。あるいは、悪性化への遺伝子の変異ということではなく、単に、淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)の患者は、より高濃度の病原体ウイルスの曝露を受けていたということによるのかも知れません。

さて、香港においては小中学校・幼稚園等の4月6日までの休校が4月21日まで延長されました。4月22日に一部の学校は再開されましたが、小学校・幼稚園等は、休校がさらに1週間延長されました。また、4月10日には、SARSと確定された患者の家庭内での接触があった家族は10日間まで家庭に留まり外出しないようにとの香港の衛生局からの発表がありました。10日間、家族に対して、衛生局が健康面での医学的チェック、警察が外出しないかのチェックを続けます。

図3

2003年4月17日に香港の衛生局から「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のSARSの流行についての発表(参考文献1)があってから、約1ヶ月後、今度はWHOの調査チームから「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のSARSの流行についての報告が出されました(参考文献2)。1ヶ月前の香港の衛生局の発表とほぼ同様の結論でした。なお、WHOの調査チームの報告書では、E棟の8号室のトイレの便器のフラッシュの水が、2003年3月21日の夕方から16時間にわたって断水となったことが指摘されています。トイレの便器のフラッシュの水には海水がつかわれていて、水道水とは別系統のトイレの便器のフラッシュの水を8号室に供給するパイプに破損が認められ修繕するのに時間がかかったためです。この間は、便器のフラッシュの水の替わりに水道水をバケツに汲んで大小便を流すようなことが行われました。このことは、E棟の8号室の下水管への大小便の貯留を多くし、大小便の飛沫を生成しやすくしたとも考えられます。また、バケツの水を大小便に向かってかけることが、トイレ内で大小便の飛沫を生じさせた可能性もあります。「淘大花園(Amoy Gardens : アモイガーデン)」のE棟では、病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)を含んだ患者の大小便の飛沫が感染を広げた可能性があります。

参考文献

  1. Department of Health(香港); Outbreak of Severe Acute Respiratory Syndrome(SARS) at Amoy Gardens, Kowloon Bay, Hong Kong. Main Findings of the Investigation. ; 17 April 2003. ; p.1-6.
  2. Regional Office for the Western Pacific, WORLD HEALTH ORGANIZATION. ; WHO Environmental Health Team Reports on Amoy Gardens. ; Friday, May 16, 2003. ; p.1-3.

2003年6月24日増補

このページへのお問合せ

健康福祉局衛生研究所感染症・疫学情報課

電話:045-370-9237

電話:045-370-9237

ファクス:045-370-8462

メールアドレス:kf-eiken@city.yokohama.jp

前のページに戻る

ページID:185-618-015

先頭に戻る