このページの先頭です

サイクロスポラ感染症について

最終更新日 2018年7月23日

流行は?

2000年12月13-14日にドイツ南西部のあるレストランで、6人、6人、7人、20人の計4グループ計40人が午餐をとりました。この40人の内から2000年12月29日から2001年1月18日にかけて、長引きぶり返す胃腸炎症状で医療機関を受診した人たちがいました。通常の細菌・ウイルス・寄生虫検査では、病原体は検出されませんでした。胃腸炎症状に改善がなく、熱帯医学診療所の外来部門を紹介されて、腸内原虫の検査を受けた人がいました。便の検査で Cyclospora cayetanensis が検出されサイクロスポラ感染症と判明しました。40人中34人でサイクロスポラ感染症の発病が見られました。潜伏期は、5-14日でした。症状としては、1日に4回以上の便通がある下痢が大部分の患者(96.0%)で見られました。水様の下痢が95.8%で多く、粘液便が61.1%で見られ、血便は見られませんでした(0.0%)。他には、鼓腸が95.5%で、体重減少が92.0%で、吐き気が91.7%で、腹の痙攣性の痛みが79.2%で、嘔吐が52.6%で、発熱が42.9%で見られました。有症状期間は15-42日間でした。サイクロスポラ感染症の診断が確定次第、ST合剤による7日間の治療が行われました。レストランで出されたサラダが原因と考えられました。サラダの材料の野菜かハーブが病原体のサイクロスポラで汚染していたものと考えられました(参考文献1)。発展途上国などでは、レタスなどの野菜からサイクロスポラのオーシスト(卵)が検出されることがあります。サイクロスポラのオーシスト(卵)は患者の便の中に出てきますが、発展途上国などでは、野菜に与える水が便で汚染されている可能性も考えられます。交通・運送手段の発達した現代では、発展途上国などのそのような汚染のおそれのある野菜や果物が、国境を越えて遠方の他国の食卓に載ることもありえます。このドイツの例では、サラダの材料は、ドイツだけでなく南フランスや南イタリアで作られたものも使われていました。また、野菜がクリプトスポロジウムのオーシストやサイクロスポラのオーシストで汚染していた場合、野菜を洗うことはクリプトスポロジウムのオーシストやサイクロスポラのオーシストをある程度除去するものの、野菜を洗うことによっては完全にはクリプトスポロジウムのオーシストやサイクロスポラのオーシストを除去しきれないと考えられています(参考文献6)。

アメリカ合衆国におけるサイクロスポラ感染症の集団発生では、ラズベリー(きいちご)、生のバジル、メスクラン・レタスといった食物を介したものが起こっています。このうち、ラズベリー(きいちご)については、1996年にグアテマラから輸入されたラズベリー(きいちご)が原因でアメリカ合衆国だけでなくカナダにも患者が発生し、総計1465人の患者発生となっています。グアテマラの農場でラズベリー(きいちご)に殺虫剤か殺菌剤をスプレーした際に、殺虫剤か殺菌剤を希釈するのに使った水がサイクロスポラのオーシストで汚染していたとする説があります。加熱することなく生で食べられるような食物については、注意が必要です。アメリカ合衆国におけるラズベリー(きいちご)によるサイクロスポラ感染症の集団発生では、ラズベリー(きいちご)を一粒食べた人からもサイクロスポラ感染症患者が発生しています。

どんな病気?

サイクロスポラは、顕微鏡で観察しないとわからないような単細胞の小さな寄生生物です。小腸の粘膜の細胞に寄生し、消化器症状を起こします。症状としては、爆発的な水様の下痢が長期にわたって繰り返され(下痢と便秘とが交互に繰り返される場合もあります)、吐き気、疲労感、食欲不振、体重減少が見られます。症状は7週間、エイズ患者では4ヶ月にも及ぶことがあります。一方で、感染しても何の症状もない人もいます。潜伏期は約1週間です。治療にはST合剤(trimethoprim-sulfamethoxazole)が使われます。ST合剤による治療をすることにより、有症状期間短縮と症状再燃防止とが期待されます。下痢症状のある人は、安静にして、消化のよいものを食べ、水分をよく補給しましょう。

患者の便の中に未熟なオーシストが出てきます。この未熟なオーシストは、そのままでは感染を起こすことはありません。成熟したオーシストが人間に摂取されることで感染を起こします。便の中に出てきた未熟なオーシストが成熟したオーシストとなるまでには、日数がかかります。その日数は、温度によって左右されます。Smithらは、温度条件を変えてオーシストの成熟を観察しました(参考文献3)。22度あるいは30度で保温した場合のほうが37度で保温した場合よりも成熟(spoturation)が早く、その成熟したものの割合も高かったです。摂氏4度では、2ヶ月待っても成熟したものは出現しませんでした。しかし、1-2ヶ月4度で保温した後、30度で保温すると、6-7日で成熟したものが出現しました。便の中に出てきた未熟なオーシストが成熟したオーシストとなるまでには、日数がかかるため、人から人への直接の感染の可能性は少なく、成熟したオーシストで汚染された飲食物を介しての感染が大部分と考えられています。また、クリプトスポロジウムやサイクロスポラは、発展途上国においてこどもたちによく下痢を起こす病原体ですが、Caryn Bernらの南米ペルーでの研究(参考文献4)によれば、クリプトスポロジウムによる感染は相対危険度1.9(p<0.0001)で、特にサイクロスポラによる感染は相対危険度3.3(p<0.0001)で涼しい季節(6-11月)に比べて暖かい季節(12-5月)に多いです。さらに、Caryn Bernらの南米ペルーでの研究(参考文献4)によれば、こどもたちは、サイクロスポラに何度も感染することがあり1年間に平均0.20回の頻度で感染しますが、感染例の中には、下痢症状なしに感染し便にオーシストが出てくる場合がかなりあり、その割合は、1995年2月から1998年12月までの期間で、1回目の感染では73%、2回目の感染では81%、3回目の感染では90%、4回目以後の感染では100%と回数を重ねるごとに増加しました。

病原体は?

サイクロスポラの仲間が最初に記述されたのは、1870年のことです。モグラの腸内の微生物としてEimerによって記述されました。サイクロスポラの仲間は、Eimerの名に因んだEimeriidae科に属します。その後、他のげっ歯類(ネズミの仲間)やヘビでサイクロスポラの仲間が認められました。 Cyclospora cayetanensis が人の下痢の原因となる病原体として注目されるようになったのは、20世紀も終わりに近づいてからのことです。人以外の動物が Cyclospora cayetanensis に感染して Cyclospora cayetanensis を放出して人のサイクロスポラ感染症の原因となっているかどうかについては、まだよくわかっていません。そのような動物はまだ見つかっていないので、人獣共通感染症というわけではありません。Cyclospora は、Cyclo+sporaで、Cycloはギリシア語のkyklosに由来し円(circle)、sporaもギリシア語に由来し種(seed)を意味します。 Cyclospora の由来は、便の中に排出されてよく観察される、いわばサイクロスポラの種に相当するオーシスト(卵)が円形をしていることによると思われます。一方、 cayetan ensis は、この病原体について精力的に研究しているペルーの大学の名称Universidad Peruana Cayetano Heredia に由来します。Ortegaらによって、1994年に Cyclospora cayetanensis は命名されています(参考文献5)。日本でも、最近になって注目されるようになったため、 Cyclospora の日本語表記のカタカナ書きについては、サイクロスポラ、サイクロスポア、サイクロスポーラ、サイクロスポラー、シクロスポーラなど種種使われていて混乱が見られます、この文章では、一般に比較的よく使われているサイクロスポラを採用しています。

予防のためには・・・

1. 便で汚染されている恐れのある飲食物は、飲食を控えましょう。生水は飲まないようにしましょう。

2. サイクロスポラ感染症がよく見られる国(中南米、カリブ海の島々、東欧の一部、東南アジアなど)では、生ものや生水は控え、よく加熱されたものを食べましょう。

3. トイレの後、調理の前、食事の前は、手をよく洗いましょう。

参考文献

  1. Peter C. Doeller, et al. ; Cyclosporiasis Outbreak in Germany Associated with the Consumption of Salad. ; Emerging Infectious Diseases ;Vol. 8, No. 9, September 2002. ;p. 992-994.
  2. Marilyn M. Marshall, et al. ; Waterborne Protozoan Pathogens ; Clinical Microbiology Reviews, Vol. 10, No. 1, Jan.1997, P.67-85.
  3. H. V. Smith, et al. ; Spoturation of Cyclospora sp. Oocysts ; Applied and Environmental Microbiology, Vol. 63, No. 4, Apr. 1997, p. 1631-1632.
  4. Caryn Bern, et al. ; Epidemiologic Differences Between Cyclosporiasis and Cryptosporidiosis in Peruvian Children ; Emerging Infectious Diseases ;Vol. 8, No. 6, June 2002. ;p. 581-585.
  5. Ortega YR, Gilman RH, Sterling CR. ; A new coccidian parasite (Apicomplexa: Eimeriidae) from humans. ; J Parasitol 1994 Aug;80(4):p. 625-9.
  6. Ortega YR, Roxas CR, Gilman RH, Miller NJ, Cabrera L, Taquiri C, Sterling CR. ; Isolation of Cryptosporidium parvum and Cyclospora cayetanensis from vegetables collected in markets of an endemic region in Peru. ; Am J Trop Med Hyg 1997 Dec;57(6): p. 683-6.
  7. Charles R. Sterling and Y.R. Ortega ; Cyclospora: An Enigma Worth Unraveling. ; Emerging Infectious Diseases ;Vol. 5, No. 1, January-February 1999. ;p. 48-53.
  8. Outbreak of Cyclosporiasis -- Ontario, Canada, May 1998 ; MMWR ; October 02, 1998/47(38);p. 806-9.

2002年10月18日掲載

このページへのお問合せ

健康福祉局衛生研究所感染症・疫学情報課

電話:045-370-9237

電話:045-370-9237

ファクス:045-370-8462

メールアドレス:kf-eiken@city.yokohama.jp

前のページに戻る

ページID:420-785-379

先頭に戻る