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■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
最終更新日 2019年7月17日
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という微生物によって引き起こされます。このマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の感染は、咽頭炎・気管支炎・肺炎(マイコプラズマ肺炎:しばしば非定型肺炎と呼ばれます。)などをおこすことがあります。マイコプラズマに対する抗体検査によって、マイコプラズマの感染の実態が明らかになりつつあります。1歳の誕生日までに40%のこどもがマイコプラズマの感染を受けています。5歳までに65%のこどもがマイコプラズマの感染を受けています。大人まででは97%がマイコプラズマの感染を受けています。何回も感染することがあり、重症の感染を繰り返すこともあります(Textbook of Pediatric Infectious Diseases, WB Saunders, 1998, p. 2259-2286)。但し、5歳未満の幼児では、マイコプラズマの感染を受けても、症状が軽いか無症状の場合が多いです。大人では、マイコプラズマの感染を繰り返すことは少ないですが、4-7年後に再度マイコプラズマの感染を受けマイコプラズマ肺炎を起こしてしまうことがあります。マイコプラズマ肺炎に対する免疫は、一生続くものではないので注意が必要です。
アメリカ合衆国では、マイコプラズマの感染によって、毎年、200万人の患者が発生し、10万人のマイコプラズマ肺炎の入院患者が発生していると推計されています。
流行は、若い人たちの間でよく起こります。欧米では、寄宿舎・兵舎・サマースクールなどでよく見られます。そのような施設での流行が起こると、施設での流行は数ヶ月続くことがあります。マイコプラズマ肺炎の発生は、年間をとおして見られますが、流行は晩夏や初秋が多いです。3-7年毎に大きな流行が見られ、特に日本では、4年毎のオリンピック(夏季)の年に流行が見られ「オリンピック病」とまで呼ばれたこともありましたが、1988年(ソウルオリンピック)の流行以降はそのような規則的な流行ではなくなっています。
マイコプラズマ肺炎は、5-35歳の年齢層の肺炎の大きな部分を占めています。
マイコプラズマ肺炎がだんだんと認識され出したのは1930年代からのことでした。当時よく見られた肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)による肺炎とは、明らかに違った種類の肺炎であるということから、非定型肺炎(atypical pneumonia:異型肺炎とも言います。)と呼ばれました。肺炎球菌による肺炎が主に老人たちに見られたのに対し、非定型肺炎は寮制の学校の寄宿生や軍隊の新兵たちといった若い人たちで多く見られました。また、抗生物質のペニシリンが非定型肺炎には無効でした。また、胸部X線写真で見られる陰影の割に非定型肺炎の症状が軽く見えました。この非定型肺炎の大部分をマイコプラズマ肺炎が占めていると考えられています。
マイコプラズマ肺炎の症状としては、まず、発熱や頭痛を伴った気分不快が3-4日続きます。その間に咳がだんだんひどくなって来ます。最初は乾いた咳で痰もすくないですが、だんだんと痰も出るようになります。痰に血液が混ざってくることもあります。発熱や他の症状が消えても、咳はひどくなってきます。咳は、なかなか改善を見せず、4週間も長引きます。咳が1番ひどいのは2週目です。咳が長引く感染症としては、他に百日咳などが知られています。
但し、マイコプラズマ肺炎の症状にはかなり個人差があり、2-3日で治ってしまう人もいれば、治るのに1ヶ月以上かかる人もいます。有効な抗生物質(エリスロマイシンやテトラサイクリンなど)による治療は、症状の期間を短縮し、治るのを早める効果が期待されます。
マイコプラズマ肺炎の患者の気道の分泌物中に、発病の2-8日前からマイコプラズマが出てきます。このマイコプラズマ肺炎の患者の気道の分泌物が咳によって飛沫となります。この飛沫を吸い込むことなどによって人から人へとマイコプラズマが感染すると考えられます。有効な抗生物質(エリスロマイシンやテトラサイクリンなど)による治療を行った場合でも、これらの抗生物質はマイコプラズマの増殖の邪魔はしてもマイコプラズマを殺すわけではないので、症状の軽快後も患者の気道からマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)が数週間から数ヶ月(13週間)にわたって分離されることがあります。そのような患者が感染源となり、とくに家族の感染を起こしてしまうと考えられます。
潜伏期は、だいたい2-3週間(14-21日間)ですが、4-32日の範囲内でも見られます。マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)に接触してから1ヶ月経過した時点でマイコプラズマ肺炎が発病することもあるのです。このように比較的に潜伏期が長いため、施設での流行が起こると、施設での流行は数ヶ月続くことがあります。
例えば、米海軍艦艇ボクサー(USS Boxer(外部サイト))では、2007年2月1日から5月23日の16週間に、1074人の人員中、179人(17%)の急性呼吸器疾患の発生を見ましたが、これはマイコプラズマによるものと考えられました(参考文献2)。
アメリカ合衆国では、マイコプラズマ肺炎のことを「歩く肺炎(walking pneumonia)」と呼ぶことがあります。それは、肺炎の中では症状が軽く、入院を必要としない場合が多いからです。歩いて通院治療を受ける患者が多いのです。しかしながら、重症の肺炎となることもあります。
マイコプラズマ感染症となったこどもの25%が、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状を起こします。また、耳の痛みを訴える者もいて、中耳炎・鼓膜炎などの耳の炎症を起こしている場合があります。また、筋肉痛・関節痛・発疹などが出現する場合もあります。合併症として、鼻炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などが見られることもあります。
よく見られるマイコプラズマ感染症は、急性の気管支炎、咽頭炎などの気道の炎症、あるいは、中耳炎・鼓膜炎などの耳の炎症です。こどもの約10%、若い成人の約2%で、肺炎が見られます。無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症の症状が見られる率は低いです。
2006年12月、アメリカ合衆国ロードアイランド州衛生局が、州内の小児科紹介患者専門病院から、2006年11月から12月にかけての2週間の間にマイコプラズマ感染によると考えられる脳炎あるいは急性散在性脳脊髄炎(ADEM: acute disseminated encephalomyelitis)の患児3人の発生があったとの報告を受けました(参考文献5)。この3人の内の2人は、A小学校二年の級友で、内一人は死亡しました。この3人の内の残りの1人は、A小学校と同じ地域のD中学校の生徒でした。問い合わせたところ、A小学校でもD中学校でも生徒の間に肺炎が流行していました。11月下旬には、A小学校・D中学校から5マイルの範囲内にあるB小学校・C小学校でも生徒の間に肺炎が流行していることが報告されていました。マイコプラズマ感染による重篤な神経系疾患の多発が考えられ、2006年12月31日および2007年1月1日、2日に、A小学校の生徒・教職員、家庭での接触者など1200人に対し、発病予防のため、抗生物質のアジスロマイシン(マクロライド系抗生物質)あるいはドキシサイクリン(テトラサイクリン系抗生物質)が配布されました。また、三つの小学校区内の学校の二日間の学校閉鎖も行われました。2007年1月初旬には、手の衛生や咳エチケット等を推進するキャンペーンが州内で行われました。また、発病したこどもを登校させないよう親や保護者に要請し、手を消毒するためのアルコール性消毒用ゲルのディスペンサー(dispenser: ポンプ式で押すと消毒液が出てくる)を州内のすべての学校に計2万個配置しました。
A小学校・B小学校・C小学校・D中学校において肺炎患者の調査が行われました。最初に肺炎患者が発生したのは、C小学校で2006年9月中旬に一人の発生でした。C小学校では、その三週間後の週に三人の肺炎患者が発生し、マイコプラズマ感染が広がって行きました。C小学校の後は、D中学校、B小学校、A小学校の順で肺炎患者が発生していきました。肺炎患者の発生は、2007年1月に減少し、A小学校・B小学校・C小学校・D中学校におけるマイコプラズマ肺炎の流行は2007年2月中旬までで終息しました。2006年9月から2007年2月までの各学校の生徒の肺炎罹患率は、C小学校(6.4%)、B小学校(5.6%)、A小学校(4.0%)、D中学校(1.8%)の順でした。A小学校については、生徒数276人で11人が肺炎に罹患しました。この11人は6家族に属していました。この6家族の全構成員数は31人で、その内、肺炎に罹患した者に咳症状で受診した者も加えると23人(74.2%)になりました。6家族の内、家族内の初発患者がはっきりしているのは4家族で、その初発患者は10歳が3人、11歳が1人でした。6家族の内、少なくとも5家族のこどもたちには、学校外での濃厚な社会的接触があったことが面接調査で明らかになりました。また、6家族の内、4家族についてはお互いに半径1ブロック以内に住んでいました。
2011年10月28日、アメリカ合衆国ウェストバージニア州衛生局が、田園地帯の二つの郡(Gilmer郡とCalhoun郡)における、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)が原因として疑われる学齢期の肺炎患者の増加をCDC(米国疾病管理センター)に報告しました(参考文献6)。ウェストバージニア州衛生局がCDCに送付した患者の鼻咽頭部から採取した6検体の内3検体からPCR法でマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)が検出され、マイコプラズマ感染症の多発が確認されました。その後のマイコプラズマの遺伝子の検査では、11検体中2検体(18%)でマクロライド系抗生物質に対する耐性を認めました。
2011年8月29日から12月14日までの間に、125人のマイコプラズマによる呼吸器疾患の患者が発生しました。最初の患者の発症は2011年8月29日でしたが、患者の発症の大部分は10月下旬から11月中旬でした。発熱と咳以外の症状としては、咽頭痛(57%)、悪寒(55%)、筋肉痛(54%)、鼻水(50%)、喘鳴(ゼエゼエ)(50%)、痰が絡んだ咳(49%)、などが見られました。患者は0-65.3歳で、中位数は、10.2歳でした。83人(70%)の患者は、学校に通学するか、学校で働いていました。学校に通学せず、学校でも働いていない患者の内、55%の患者は、家庭内に、学校に通学するか、学校で働いている接触者がいました。二つの郡の中の八つの学校の全てで患者が発生しました。Gilmer郡の四つの学校の罹患率は3.5-8.0%で平均5.2%でした。Calhoun郡の三つの学校の罹患率は1.5-7.7%で平均3.6%でした。
公衆衛生面での対策としては、学校において手の消毒液を多く配置し、手を消毒させました。手の衛生、呼吸器の衛生(咳エチケットや発病したら家に留まること等)やマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)についての手紙を保護者宛てに11月3-22日に送りました。また、Gilmer郡衛生部は、11月3日と16日とに手や呼吸器の衛生について記者発表を行いました。マイコプラズマ感染症が疑われる患者には、積極的に治療を行うよう推奨しました。また、症状が長引く患者については検出された耐性株に有効と考えられたドキシサイクリンによる治療を推奨しました。11月19-27日の通常の感謝祭休みの間、学校は閉鎖されました。12月初めには患者発生は減少し、冬休み前に、マイコプラズマによる呼吸器疾患の流行は終息しました。結局、マイコプラズマによる重症の合併症や死亡の報告はありませんでした。
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という微生物によって引き起こされます。マイコプラズマは、ウイルスなみに小さいです。マイコプラズマは、細菌に見られる細胞壁を持たず、そのため形が整っていません。いろいろな形が見られます。マイコプラズマは、ウイルスのように他の生物の細胞の力を借りて増殖するのではなく、細菌と同様に自分の力で増殖します。マイコプラズマは、ウイルスと細菌との中間に位置する微生物です。マイコプラズマをウイルスに近い細菌と位置づけることもあります。細菌に見られる細胞壁を持たないために、細菌の細胞壁の合成を邪魔することによって効く種類の抗生物質(たとえば、ペニシリン)は無効です。
マイコプラズマの仲間には、他には、尿道炎や子宮頚管炎を起こす性感染症の病原体として、Mycoplasma hominisとUreaplasma urealyticumとが知られています。
培養で見られるマイコプラズマの形は、基本的には球形です。また、培養では、細長い糸状の形態となることもあり、細長い糸が枝状に連なって「カビ(真菌)の形」のように見えることもあります。ギリシア語でキノコ(mushroom)を意味するmykesから由来して「カビ(真菌)の」という意味のmyco -と、ギリシア語で「形作られた物」を意味するplasmaとに、mycoplasmaという名称は、由来します。なお、マイコプラズマの増殖の仕方には、下の図1に示すように二通りあります。二つに分裂する方法と、長く伸びて細長い糸状の形態となってから数珠(じゅず)状に分裂する方法です。
マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の消毒については、1%次亜塩素酸ナトリウムや70%エタノールなどが有効です(参考文献3)。
細かい飛沫に含まれるマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の大気中での生存時間は、相対湿度によって違います。摂氏27度の下、細かい飛沫となって4時間での生存率は、相対湿度10%で50%、相対湿度25%で35%、相対湿度60%、80%で10%未満、相対湿度90%で20%でした(参考文献4)。
マイコプラズマ肺炎に対するワクチン(予防接種)は今のところ、ありません。
人ごみはできるだけ避けましょう。
鼻をほじくるんだったら、手を洗ってからにしましょう。汚染した指を鼻の中に入れることによって、鼻の粘膜まで病原体を運んでしまう可能性があります。鼻をほじくるよりは、鼻をかんだ方が良いです。鼻をかんだ後のティッシューなどは、すぐにきちんと自分で始末しましょう。また、鼻をかんだ後にも手を洗いましょう。
他の人に向けて咳をするのは、やめましょう。咳の出る人はマスクを装着しましょう。
マイコプラズマ肺炎の患者と同じ部屋で眠るのは控えましょう。
マイコプラズマ肺炎の患者の側で眠るとマイコプラズマに感染する危険性が高いことを指摘する調査研究があります(参考文献7)。中国のある寄宿学校に4-6歳の45人の幼児(30人が男児、15人が女児)が入学しました。学校が部分的に改築中であり、この45人の幼児は2011年5月10日から一時的に学校の建物の北端部の一つの部屋を仮の共同寝室にしていました。仮の共同寝室は換気が悪く湿っぽい部屋で45の寝台が隣り合って並べられていました。この45人の幼児から18人が呼吸器疾患を発病する集団発生が起こりました。発病した18人中15人でマイコプラズマの感染が確認されました。第一例の患児は、2011年5月24日に急性呼吸器疾患を発病しましたが、二日間、寄宿学校に留まっていました。第一例の患児は、摂氏40度の発熱、咳、咽頭痛が見られ、解熱剤で様子を見ていたところ、改善なく、2011年5月27日に北京の総合病院に入院しました。この第一例の患児から他の17人に感染が広がったと考えられました。第二例の患児は6月2日に発病し、胸部X線写真で有所見で入院しました。第三例以後の患児16人は、6月7-12日に発熱、咳、咽頭痛、喀痰などの同様の症状で発病しました。潜伏期間は、9-19日で中位数は15日でした。第一例の患児の寝台は、仮の共同寝室の中央にありました。他の17人の患児の寝台は第一例の患児の寝台から3メートル以内にありました。第一例の患児の寝台から3メートルより離れた位置の寝台を使った27人の幼児は発病することはありませんでした。親や教師でも発病は見られませんでした。6月7日から寄宿学校は閉鎖され、教室や共同寝室等は消毒されました。患児たちの治療には最初、エリスロマイシン(マクロライド系抗生物質)という抗生物質が使われましたが改善がほとんど見られず、他の抗生物質に変更することで軽快しました。患児たちから検出されたマイコプラズマの遺伝子の分析ではマクロライド系抗生物質耐性で見られる変異を認めました。
病院内でマイコプラズマ肺炎の患者が発生した場合の院内感染対策としては、患者のコホーティング(cohorting: マイコプラズマ肺炎の患者の病室を他疾患の患者の病室と別にすること等)、マスクの着用・手洗い・アルコール消毒の徹底などが挙げられます。
また、接触者の発病を防ぐための予防投薬(prophylaxis)については、アジスロマイシンの投与(5日間:1日目500mg/日、2-5日目250mg/日)が試みられていて、効果が見られています(参考文献8、9)。
非喫煙者に比べ喫煙者の方がマイコプラズマによる呼吸器感染症にかかりやすいです(参考文献10)。禁煙しましょう。
2001年9月7日初掲載
2003年10月6日増補
2012年6月15日増補改訂
2013年3月15日増補改訂
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