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■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
最終更新日 2019年7月17日
百日咳は、世界中で見られる感染症です。一年を通じて発生が見られますが、春から夏、秋にかけての発生が比較的多いです。流行の周期は2-5年とされています。百日咳の予防接種が広く行われるようになると、流行と流行との間隔は広がる傾向が見られます。英国の大都市では、流行と流行との間隔は1950年代には2-2.5年でしたが、1960年代、1970年代に百日咳の予防接種が広く行われるようになると、流行と流行との間隔は4年に広がりました。
アメリカ合衆国では、20世紀初めには、こどもの主要な病気の一つであり、こどもの主要な死因の一つでもありました。1920年代から百日咳ワクチンが使用され始めましたが、百日咳ワクチンが広く使われていなかった1934-1943年には、アメリカ合衆国では、年間で平均200,752人の百日咳の患者の発生と年間で平均4,034人の百日咳関連の死者の発生が、報告されていました。アメリカ合衆国では、百日咳ワクチンが広く使われるようになってからは、百日咳の発生報告数は、98%以上減少し、1980-90年には平均で年間2900人の患者発生の報告数となりました。しかし、1990年代に入ってから、患者発生の報告数の増加が見られ、1999年には年間6031人の患者発生の報告数となっています。さらに、2004年には年間25,827人の患者発生の報告数があり1960-2007年の最大値となっています(2005年には年間25,616人でした)。アメリカ合衆国における近年の患者発生報告数の増加の原因については、思春期の人及び大人での百日咳が認識されるようになり、思春期の人及び大人で百日咳と診断される患者が増加していることも一因として考えられます。思春期の人の患者発生については、乳幼児期の三種混合による百日咳ワクチンの接種から5-10年経過して百日咳に対する免疫力が低下することで、思春期の人は百日咳にかかりやすくなってしまうことが考えられました。そこで、アメリカ合衆国では、思春期の人及び大人に用いられる、百日咳を予防するための三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)が米国食品医薬品局(FDA)によって認可されました。アメリカ合衆国では、2005年6月30日には、米国予防接種勧告委員会(ACIP)が11-18歳の人に思春期の人用の三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)の1回の追加接種を勧告しました。2007年の米国予防接種勧告委員会(ACIP)の勧告(参考文献3)以後は、11-12歳でのTdapの1回の追加接種を勧告しています。アメリカ合衆国においては、2006年の患者発生報告数は、年間15,632人、2007年の患者発生報告数は、年間10,454人と減少を見せました。
ところが、アメリカ合衆国における百日咳患者発生年間報告数は、その後、再び増加し、2010年には27,550人、2011年には15,216人(暫定値)、2012年には41,880人(暫定値)と1960-2012年の最大値となりました。2012年には百日咳によって生後12か月未満の乳児も年間14人死亡していて、百日咳を発症すると死に結びつきやすい乳児をいかに百日咳から守るかがアメリカ合衆国では大きな課題となっています。アメリカ合衆国では2011年10月にTdapを受けたことのない妊婦へのTdapの1回の追加接種を勧告しました(参考文献20)。妊婦から胎盤を通じ胎児へ受け渡された百日咳の抗体により、誕生からしばらくの間、乳児が百日咳から守られることを期待してのものです。しかし、Tdapの1回の追加接種を受けた妊婦は9か月間で約2.6%程度と少なく、また、Tdapの1回の追加接種を受けた母親が百日咳の抗体を多く産生する期間は短く次の妊娠まで十分な抗体産生は持続しないことが明らかになりました。そこで、2012年10月、米国予防接種勧告委員会(ACIP)は、妊娠の度に妊婦がTdapの1回の追加接種を受けることを勧告しました(参考文献17、18、19、21)。
また、アメリカ合衆国では、2009年の19歳以上の人に対する予防接種の勧告(参考文献14)において、米国予防接種勧告委員会(ACIP)が19-64歳(2013年の勧告では19歳以上)の人に対して大人用の二種混合ワクチン(Td:破傷風とジフテリアのトキソイド。dTとも表記)の10年毎に1回の追加接種を勧告しています。ただし、大人用の三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)を接種したことがない19-64歳(2013年の勧告では19歳以上)の場合には、一回目については、大人用の二種混合ワクチン(Td)の代わりに大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を接種します。
なお、日本においては、思春期の人及び大人に用いられる、百日咳を予防するための三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)は認可されておらず、また、日本で用いられている乳幼児用の三種混合ワクチン(DTaP:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)をその代用とすることもできません。思春期の人及び大人に用いられる、百日咳を予防するための三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)については、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、フランス、オーストリア、ドイツで入手可能です。
世界中の、予防接種を受けていない人々の間では、百日咳は、こどもたちの主要な健康問題の一つです。全世界で、百日咳による死者は、発展途上国を中心に、2001年には年間285,000人(参考文献10)、2002年には年間294,000人(参考文献11)と推計されています。全世界で、2003年には、百日咳による患者は、年間約1760万人発生し、その90%は発展途上国であり、百日咳による死者は年間約279,000人と推計されています(参考文献16)。世界保健機関(WHO)によれば、2008年の百日咳による死者は、発展途上国のこどもを中心に、年間約195,000人と推計されています(参考文献1)。
横浜市では、一年を通じて発生が見られますが、春の発生が比較的多いようです。
近年、日本においては、乳幼児期の百日咳の予防接種の効果が減弱した青年・成人の百日咳の罹患が注目されています。2007年の春には香川大学の学生・職員での集団感染および、高知大学医学部・付属病院の学生・職員での集団感染が発生し、休講、マクロライド系抗菌薬の予防投薬等の対策が行われました。
日本においては、百日咳は、以前、感染症法での5類の小児科定点把握疾患であり、全国約3000の小児科定点医療機関で患者発生が把握されていました。2000-2006年の全国の小児科定点医療機関あたり百日咳患者年間年齢別発生報告数は、下のグラフのとおりです。年齢別では0歳が最も多く、次いで1歳に多くみられます。0歳では生後6か月未満の発生も多いです。1歳以降、小児では年齢を重ねるとともに発生は減少します。一方、20歳以上の発生報告もあり、20歳以上では、2000-2006年の後半の2004年(0.07人)、2005年(0.06人)、2006年(0.12人)の発生が多いことから、その後の発生の増加も懸念されました。
なお、20歳以上の発生報告数については、下のグラフのとおり、その後、2007年(0.30人)、2008年(0.82人)、2009年(0.70人)、2010年(0.86人)と増加が見られています。
百日咳の潜伏期は、だいたい7-10日ですが、4-21日のこともあり、まれに最長42日のこともあります。症状の経過は、三期に分けることができます。
第一が、カタル期です。鼻水、微熱、くしゃみや咳といったカゼ症状が強まります。咳は、だんだんとひどくなり、1-2週間後に、第二の痙咳期(咳発作期)に入ります。カタル期に、他の原因による上気道炎と区別して、百日咳と診断することは、難しいです。しかしながら、他の感染症についても言える事ですが、「家族が百日咳にかかっている」、「友人が百日咳にかかっている」、「学校で百日咳がはやっている」、「職場で百日咳がはやっている」といった患者の周囲の情報あるいは横浜市感染症発生動向調査の感染症委員会報告などからの「横浜市某区で百日咳の発生が多いです」といった情報があると、診断・治療のために大いに参考になります。
第二が、痙咳期(咳発作期)です。この時期に百日咳に特徴的な咳の発作が見られます。濃い粘液を気管支から追い出すために、速くて頻回の息を吸い込む間もないほどの連続した咳の発作(スタッカート:staccato) が起こります。連続した咳の終わりには、粘りっこい痰が出て来ますが(こどもでは痰を飲み込んでしまう場合もあります)、通常、特徴的な高音を伴った長い息の吸い込み(笛を吹いた様な音:whoop;なお、英語では百日咳をwhooping coughとも言います)もあります。この一連の咳の発作を連続して繰り返すことをレプリーゼ(reprise)と言います。但し、6か月未満の乳児については、息を吸い込む力が弱いため、連続した咳の発作はあっても咳の終わりの息の吸い込みに高音は伴いません。咳発作の間、患者は青くなる(チアノーゼ)こともあります。咳発作の終わりには、嘔吐を伴うこともあります。そのため、脱水・栄養不良となることもあります。咳発作は、夜の方が起こりやすいです。このため、不眠となることもあります。24時間で平均15回の咳発作が起こります。最初の1-2週間は、一日あたり咳発作回数は増加してきます。その後2-3週間は同程度に留まります。その後だんだんと咳発作回数は減ります。痙咳期(咳発作期)は、1-6週間(最長10週間)続きます。強い咳にもかかわらず、多くの場合、発熱は見られません。一回の咳発作は、400m徒競走の消費エネルギーに相当すると言われます。このための疲労、さらに不眠、脱水、栄養不良等から入院治療が必要な場合もあります。咳発作時に、尿失禁、肋骨骨折、失神を起こす人もいます。激しい咳き込みにより、胸腔内圧が上昇し、頭部の静脈圧が上昇し、顔面の浮腫や点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることもあります。なお、マイコプラズマ、アデノウイルス、クラミジア等による呼吸器感染症でも百日咳と同様の咳の発作が見られることがあり、鑑別診断において注意が必要です。
第三が、回復期です。徐徐に回復します。咳はだんだん発作的ではなくなり、2-3週間で咳が見られなくなります。しかし、何ヶ月か経ってから、呼吸器の病気をきっかけに咳発作が再燃することもありますので、しばらくはカゼをひかないように注意しましょう。
思春期の人及び大人では、百日咳は、通常、こどもより軽症となります。そのような場合、7日以上続く咳が主症状で、息を吸い込むときの高音は通常は伴いません。このため、百日咳と他の上気道炎とを区別することは難しいです。7日以上続く咳の症状を示す大人の25%以上から百日咳菌が分離されたという研究がいくつかあります。家族の中で多くの百日咳の患者の発生があったときには、大人が最初にかかって、他の家族を感染させている場合がしばしばあります。1999-2002年にアメリカ合衆国の四つの州(ジョージア、イリノイ、ミネソタ、マサチューセッツ)で百日咳となった生後12か月未満の乳児616人の調査研究(参考文献7)では、感染源について、不明が57%でしたが、母親が14%、兄弟姉妹が8%、父親が6%、祖父母が4%、その他が11%でした。また、1998年にカナダのケベック州で百日咳となった12-17歳の思春期の280人と18歳以上の大人384人の調査研究(参考文献8)では、感染源について、12-17歳の思春期の人の場合、学校友達39%、友人12%、家庭での接触者9%でした。18歳以上の大人の場合、家庭での接触者が32%と多かったです。なお、家庭での初発例に患者を限ると、感染源について、12-17歳の思春期の人の場合、学校43%、不明36%、友人14%、親類5%、その他2%でした。18歳以上の大人の場合、不明42%、職場32%、親類14%、友人6%、その他6%でした。
アメリカ合衆国では、2004年の百日咳の年間患者発生報告数は、25827人でした。その内、生後12ヶ月未満の乳児が3357人(13%)、1-10歳のこどもが5441人(21%)、11-18歳の思春期の人が8897人(34%)、19歳以上の大人が7481人(29%)、年齢不詳が2.5%でした。
生まれた直後から百日咳にかかる可能性があります。咳が続いている人は、百日咳等の可能性も考えて、赤ちゃんに近づかないようにしましょう。
生後12ヶ月未満の乳児は、百日咳で、合併症を起こしやすく、また、入院しやすいです。アメリカ合衆国では、2000-2004年に、生後12ヶ月未満の乳児について平均で年間2488人の百日咳の患者発生報告がありました。その内、63%が入院し、入院期間は1-152日間で、その中央値は5日間でした。また、アメリカ合衆国では、2000-2004年に、100人の百日咳関連の死亡報告がありました。その内、90人(90%)は生後4ヶ月未満で、76人(76%)は生後2ヶ月未満です。生後2ヶ月未満の百日咳の患者の致死率は、1.8%でした。アメリカ合衆国では、生後12ヶ月の間に、百日咳(aP)・破傷風(T)・ジフテリア(D)の3種が一緒になった三種混合ワクチン(DTaP)を生後2、4、6ヶ月で計3回受けることになっていますが、2回以上接種を受けていると生後12ヶ月の間の重症の百日咳は防げるようです。
なお、アメリカ合衆国では、2004-2008年に百日咳による死者が111人報告されていますが、そのうち92人(83%)が生後3か月未満の乳児でした。
百日咳の合併症については、アメリカ合衆国の1990-96年の35508人の百日咳の患者の報告の内、9.5%で肺炎、1.4%で痙攣、0.2%で脳症、0.2%で死亡(死者のうち84%が6か月未満の乳児)が見られ、32%が入院治療を受けていました。アメリカ合衆国の1997-2000年の28187人の百日咳の患者の報告の内では、5.2%(6か月未満の乳児では11.8%)で肺炎、0.8%で痙攣、0.1%で脳症、0.2%で死亡が見られ、20%が入院治療を受けていました。
咳の発作を誘発しないような注意が必要です。低温は咳を誘発するので、室温は20度以上とします。加湿器・スチーム等で室内の湿度を上げ、水分を十分摂取し、粘りっこい痰を出しやすくします。食事は消化が良く、刺激の少ないものとします。乾燥した食物あるいは粉末状の食物も咳を誘発する可能性があるので控えた方が良いでしょう。タバコ、煙、ホコリ等は避けます。
百日咳に対する治療としては、エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられます。咳発作に対しては鎮咳去痰剤や気管支拡張剤等が使われることがあります。カタル期に適切な抗菌薬による治療が開始できれば、百日咳の重症化を防げる可能性があります。適切な抗菌薬による治療の開始が痙咳期(咳発作期)であれば、患者自身の百日咳の重症化を防げる可能性は低いですが、患者の周囲の人たちへの感染力を弱める効果が期待できます。
ところで、百日咳は、英語では、whooping coughあるいは、pertussisと表記されます。pertussisはラテン語に由来し、per-は「過度の-」、「ひどく悪い-」を意味し、tussisは「咳(cough)」を意味します。また、百日咳では、頻回の強い咳により、下の前歯(門歯)・糸切り歯(犬歯)との頻回の強い接触から舌に潰瘍を生じることがあります(咳性潰瘍: tussive ulcers)。
百日咳の病原体は、百日咳菌( Bordetella pertussis )という細菌です。1906年に、Jules-Jean-Baptiste-Vincent Bordet が、Octave Gengou とともに発見したため、Bordet-Gengou 菌( ボルデ・ジャング菌; Bordet-Gengou bacillus; bacillus of Bordet and Gengou )とも呼ばれます。Jules Bordet は、ベルギーの内科医・細菌学者・免疫学者で1870年6月13日、ベルギーのSoigniesに生まれ、1961年4月6日首都ブリュッセルで亡くなりました。1907年から1935年までブリュッセル自由大学細菌学教授でした。1919年に、細菌を破壊する血清中の因子の発見によりノーベル生理学賞を受賞しています。
百日咳菌に対する免疫は、一生続くというものではなく、百日咳に二回かかることがあることが知られています。しかし、その場合、二回目は、かかっても通常は軽症です。
百日咳菌( Bordetella pertussis )が属する Bordetella 属には咳症状を起こす菌として、 Bordetella parapertussis (パラ百日咳菌)や発生は少ないですが Bordetella bronchiseptica (気管支敗血症菌)、 Bordetella holmesii などが属します。Bordetella parapertussis (パラ百日咳菌)については、典型的な百日咳と同様な症状を起こすことがあります。しかし、 Bordetella parapertussis (パラ百日咳菌)は、百日咳毒素(PT: pertussis toxin)を産生しないので、百日咳よりは軽症となるのが通常です。百日咳菌( Bordetella pertusis )以外の Bordetella 属の菌には、百日咳ワクチンによる免疫は残念ながら予防に役立ちません。
百日咳菌は、人間の呼吸上皮の繊毛に定着します。百日咳菌は、鼻やのど、気管・気管支の粘膜を侵し、気道の掃除をする繊毛の活動を麻痺させる毒素を産生し、気道に炎症を起こします。気道の分泌物の排除がうまく行かなくなり、肺炎を起こす可能性が出て来ます。
細菌検査としては、鼻咽頭部からの百日咳菌の分離同定が行われることがありますが、百日咳菌の培養には、ボルデ・ジャング(Bordet ‐Gengou)培地やCSM (cyclodextrin solid medium )などの特殊培地が用いられます。百日咳菌はカタル期後半に検出されますが、痙咳期に入ると検出されにくくなります。百日咳菌に有効な抗菌薬の投与を受けていたり、百日咳ワクチン接種済みであったりすると、さらに検出されにくくなります。百日咳菌のDNA遺伝子を検出するPCR法については、咳が出始めてから最初の3週間以内に鼻咽頭部から検体を採取して行います。咳が出始めてから4週目に入ると、鼻咽頭部の百日咳菌のDNA遺伝子の量は急速に少なくなっていきます。
血清検査では百日咳菌凝集素価の測定が行われることがありますが、東浜株および山口株が用いられ、ペア血清(2週間以上の間隔)で4倍以上の抗体価上昇を認めれば、百日咳が考えられます。
百日咳では、日本における病名のとおりに、百日にわたり咳が見られることがあります。
1992-1995年、スウェーデンで、長く咳が続くこどもについて、病原体として、百日咳菌(Bordetella pertussis )、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis )、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae )、クラミジア(Chlamydia pneumoniae )を検査したスウェーデン感染症管理研究所(Swedish Institute for Infectious Disease Control)の研究があります。100日以上咳が続いたこども78人中の65人(83%)で百日咳菌が認められました。また、100日未満咳が続いたこども155人中の99人(64%)で延べ115の病原体が検出されました。延べ115の検出病原体中、56%が百日咳菌で、百日咳菌による咳持続期間の中央値は51日。26%がマイコプラズマで、マイコプラズマによる咳持続期間の中央値は23日。17%がクラミジア(Chlamydia pneumoniae )で、クラミジア(Chlamydia pneumoniae )による咳持続期間の中央値は26日。2%がパラ百日咳菌でした。複数の病原体が検出された場合の咳持続期間の中央値は約60日でした(参考文献12)。
百日咳にかかったら、職場や学校を休んで、通院以外の外出を控えましょう。学校保健安全法での登校基準は、「特有な咳が消失するまで又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで出席停止とする。ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。」です。
百日咳は、周囲の人に感染しやすいです。患者の家族に、百日咳に免疫がない人がいた場合、70-100%の確率で感染します。周囲の人に感染する可能性がある時期は、カタル期の始めから痙咳期(咳発作期)に入って3週間の時点までの間です。その間のカタル期に咳によって生じた飛沫を吸い込んで、患者の周囲の人が感染する場合が多いです。しかし、カタル期に百日咳と診断することは難しいので、周囲の人たちへの感染の広がりを防ぐことは難しいです。なお、適正な抗菌性物質製剤による治療を開始すると、周囲の人に感染する可能性がある時期は、カタル期の始めから適正な抗菌性物質製剤開始後五日間までの間に短縮されます。
百日咳には予防接種(ワクチン)があります。日本では、百日咳(aP : acellular pertussis : 無菌体百日咳ワクチン)・破傷風(T : tetanus)・ジフテリア(D : diphtheria)の3種が一緒になった三種混合ワクチン(DTaP)の形で通常は接種されます。定期接種ですので、かかりつけの小児科医師に相談しましょう。日本では生後3か月から三種混合ワクチン(DTaP)を接種することができます。百日咳は生後12か月までの乳児期に感染すると重症になりやすいので、生後3か月になったら早めに接種を受けましょう。
標準的な接種としては、第1期初回接種として、生後3か月から12か月までの間に3-8週間隔で三種混合ワクチン(DTaP)を3回接種します。さらに、第1期初回接種を終了してから12-18か月後に第1期追加接種として、三種混合ワクチン(DTaP)を1回接種します。その後、第2期接種として標準的には11歳中に1回接種する二種混合ワクチン(DT)は、破傷風とジフテリアの混合トキソイドであり、百日咳ワクチンは含まれていません。
なお、日本においては、百日咳の免疫強化のため、標準的には11歳中に1回接種する二種混合ワクチン(DT:0.1ml)を三種混合ワクチン(DTaP:0.2ml)に変更することが検討されています(参考文献23)。
現在、日本で使われている三種混合ワクチンは、精製された「無菌体の百日咳ワクチン(aP : acellular pertussis )」を用いた三種混合ワクチン(DTaP)ですが、海外では、過去に日本でも使われていた発熱等の副作用が強い「全菌体の百日咳ワクチン(wP : whole-cell pertussis) 」を用いた三種混合ワクチン(DTwP)が使われている国もあり、注意が必要です。
日本での乳幼児期の三種混合ワクチン(DTaP)の接種は、通常、総計4回ですが、アメリカ合衆国での乳幼児期の三種混合ワクチン(DTaP)の接種は、通常、総計5回で、標準的には、生後2か月、4か月、6か月、15-18か月、4-6歳で接種されます。また、アメリカ合衆国では、標準的には、11-12歳で、思春期の人用の三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)の追加接種が一回行われます。さらに、アメリカ合衆国では、19歳以上で、大人用の二種混合ワクチン(Td:破傷風とジフテリアのトキソイド。dTとも表記)の追加接種が、標準的には、10年間隔で一回行われます。ただし、大人用の三種混合ワクチン(Tdap:百日咳ワクチン及び、破傷風とジフテリアのトキソイド)を接種したことがない19歳以上の場合には、一回目については、大人用の二種混合ワクチン(Td)の代わりに大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を接種します。
なお、アメリカ合衆国では、妊婦については、妊娠毎に一回、大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を接種します(参考文献17、18、19、21)。母親から胎盤を通じ赤ちゃんに伝達された抗体が赤ちゃんを生まれてからしばらくの間、百日咳から守ります。たとえば、胎盤を通過した百日咳毒素(PT: pertussis toxin)特異的IgG免疫グロブリンの赤ちゃんにおける半減期は、36日程度とされます。できるだけ多くの抗体を効率良く赤ちゃんに伝達するためには、妊娠27-36週での接種が勧められています。以前に大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を接種したことがなく妊娠中にも接種できなかった場合には、出産後速やかに大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を母親に接種します。
また、米国予防接種勧告委員会(ACIP)は、赤ちゃんの周囲の人たちをワクチンの接種で百日咳に対する免疫を高めることにより百日咳の脅威から赤ちゃんを守ることを"cocooning(繭[まゆ]で包むこと)"と称して推奨しています(参考文献20、21)。子どもたちについては三種混合ワクチン(DTaP)の接種を急ぎます。大人たちについては、以前に大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を接種したことがない場合には、遅くとも赤ちゃんに接触し始める2週間前までに大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を一回接種します。
アメリカ合衆国の定期予防接種の標準的なスケジュールについては、当・横浜市衛生研究所ホームページの「アメリカ合衆国のこどもの定期予防接種について」および「アメリカ合衆国の大人の定期予防接種について」もご参照ください。
家族などの患者との濃厚接触者にはエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬を10日から14日間、予防的に投与して百日咳の発病を防ぐこと(予防投薬)が勧められます。予防的な投与(化学予防: chemoprophylaxis)を受けない場合でも、感染がありえるような濃厚な接触から21日間は、百日咳の発病がないか、毎日の観察が必要です(参考文献22)。発病を認めればすぐに治療を開始します。なお、すでに百日咳菌に感染している人に百日咳ワクチンを接種しても百日咳の発病を防ぐ効果は期待できません。
2000年10月3日掲載
2007年10月29日改訂増補
2008年4月8日改訂増補
2008年6月25日改訂増補
2008年8月4日改訂増補
2008年10月1日改訂増補
2009年6月8日改訂増補
2012年5月1日改訂
2013年2月15日改訂増補
2013年2月28日改訂増補
2013年3月7日増補
2019年6月20日改訂
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