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肺炎球菌感染症について

■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。

最終更新日 2019年7月26日

始めに

肺炎球菌感染症は、アメリカ合衆国では、以前から、ワクチン(予防接種)によって予防できる病気(Vaccine-Preventable Diseases:VPD)の一つとされていました。そのため、肺炎球菌感染症のワクチン(予防接種)は、アメリカ合衆国では、すでに、以前から広く接種されているワクチン(予防接種)でしたが、近年まで日本ではあまり接種されていませんでした。また、アメリカ合衆国では、高齢者や免疫機能が弱い人等の重症の肺炎・髄膜炎・菌血症の予防が主目的となる第一世代のワクチンに留まらず、乳幼児の重症の肺炎・髄膜炎・菌血症等の予防が主目的となる第二世代のワクチンも広く用いられ、両者とも定期予防接種として予防接種の対象は以前から多かったです。日本では、近年まで、第一世代のワクチンは任意予防接種として高齢者や免疫機能が弱い人等に承認・使用されていましたが、2009年10月16日、ようやく、第二世代のワクチンが承認され、2010年2月24日(水曜日)より国内で発売され、任意予防接種として乳幼児に使用されるようになりました。第二世代のワクチンについて、日本は98番目に承認した国であり、世界ではすでに45の国や地域で定期予防接種とされていました。平成25(2013)年4月1日からは、第二世代のワクチンについて、日本でも、乳幼児の定期予防接種となりました。さらに、日本では、平成25(2013)年11月1日から、第二世代のワクチンについて、7価ワクチンから13価ワクチンに切り替えられました。また、平成26(2014)年10月1日からは、第一世代のワクチンについて、日本でも、高齢者の定期予防接種となりました。この肺炎球菌感染症について、ここでは、話題とします。
なお、高齢者や免疫機能が弱い人等の重症の肺炎・髄膜炎・菌血症の予防が主目的となる第一世代のワクチンに関する横浜市の制度、および、乳幼児の重症の肺炎・髄膜炎・菌血症等の予防が主目的となる第二世代のワクチンに関しての横浜市の制度については、このページの終わりの方で触れます。

流行は?

「日本における、三大死因は何でしょうか?」という問題には、「癌、心臓病、脳卒中」と答えてしまうかもしれません。以前なら正解なのですが・・・。近年、日本における死因順位に変化があり、平成23(2011)年からは、脳卒中に代わって肺炎が死因の第3位となりました。「癌、心臓病、肺炎」が正解です。詳しくは、当・横浜市衛生研究所ホームページ「死亡率・致死率(致命率)・死亡割合について」をご覧ください。日本では、肺炎で亡くなる方が増えています。特に高齢者において肺炎が死因となる場合が多いです。肺炎を起こす病原体には、細菌・ウイルス・リケッチャ・真菌(カビ)などがあります。このうち、肺炎を起こす細菌として多いものの一つが、肺炎球菌です。この肺炎球菌による重症の肺炎等を予防するため、アメリカ合衆国では、インフルエンザワクチンと並んで、肺炎球菌感染症のワクチン(予防接種)は、高齢者が受けるべきワクチン(予防接種)の一つとされています。
ところで、1999年4月からの日本の感染症発生動向調査では細菌性髄膜炎は5類感染症として基幹定点病院による把握疾患となっていて(細菌性髄膜炎の届出基準はこちらのページから)、以前は肺炎球菌等による細菌性髄膜炎もこの中で把握されていました。現在は、インフルエンザ菌、髄膜炎菌、肺炎球菌による髄膜炎は除外され、侵襲性[組織侵入性]感染症として別途、5類感染症として全数把握されています(侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症の届出基準はこちらのページから)。この日本の感染症発生動向調査において、1999年4月から2001年12月までに国に報告された細菌性髄膜炎患者数は763例(1999年4月から12月までに235例、2000年に256例、2001年に272例)でした。年齢層では0歳が29%、1-4歳が29%と、0-4歳で半数以上を占めています。男性456例に対して女性307例といずれの年齢層でも男性が多いです。763例中、病原菌名も国に報告されたものは約半数で、ヘモフィルス-インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)が143例と最も多く、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が90例でこれに次いでいます。以下、B群レンサ球菌(Group B Streptococcus :GBS)22例、大腸菌14例などでした(参考文献6)。なお、アメリカ合衆国では、乳幼児に対するヘモフィルス-インフルエンザb型菌の結合型ワクチン(予防接種)の導入後、ヘモフィルス-インフルエンザ菌による髄膜炎が激減し、肺炎球菌が髄膜炎の原因菌としては首位になりました。このことが、アメリカ合衆国では、乳幼児に対する肺炎球菌の結合型ワクチン(予防接種)の導入のきっかけともなりました。乳幼児に対する肺炎球菌の結合型ワクチン(予防接種)の導入前において、肺炎球菌による髄膜炎は、アメリカ合衆国では、1歳未満の乳児で最も罹患率が高く、10万人あたり10人程度でした。
肺炎球菌感染症は、呼吸器疾患が多い冬季・早春によく見られます。アメリカ合衆国では、例外的にアラスカ州のように夏に発生が多い州もありますが、冬に発生が多いのが通常です。アメリカ合衆国で、肺炎球菌による重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性[侵襲性]肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)の発生の季節的変動を調べたDorwellらの研究があります(参考文献9)。Dorwellらは、A群連鎖球菌(GAS : Group A Streptococci)、B群連鎖球菌(GBS : Group B Streptococci)による重症の感染症(組織侵入性感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で菌が分離された場合に言う。)についても発生の季節的変動を調べています。B群連鎖球菌については季節的変動を認めませんでした。A群連鎖球菌については、春に軽度の増加を認めました。肺炎球菌については、夏に発生が少なく、冬には夏の3.5倍程度の発生がありました。18歳未満のこどもでの発生の増加が、大人での発生の増加に先行して9月に見られ、18歳未満のこどもでの発生は冬も多いですが、むしろ秋に一番多いです。18歳以上の大人たちでは、冬の発生が多く、中でも年末の最終週から翌年の第1週にかけて発生の鋭いピークが認められました。初秋における18歳未満のこどもでの発生の増加は、長い夏休みを終えて学校に帰ってきたこどもたちがその地域にとって新たな血清型の肺炎球菌を持ち込むためと、Dorwellらは、考えています。こどもたちから大人たちが感染します。年末の最終週から翌年の第1週にかけての発生の鋭いピークは、高齢者中心に見られ、クリスマスから新年にかけて家族が集まり接触する中で、小さいこどもたちから高齢者が感染すると、Dorwellらは、考えています。
世界的に見ても、肺炎球菌感染症は、大きな問題です。WHOによれば、2005年には年間で、全世界で約160万人が肺炎球菌感染症で亡くなっていると推計されています。その中には、約70万-100万人の5歳未満のこどもたちが含まれ、発展途上国の小さなこどもたちが多いです。また、発展途上国では、2歳未満のこどもたちだけでなく、高齢者も肺炎球菌感染症で多数が亡くなっています。

どんな病気?

肺炎球菌感染症は、肺炎球菌による感染症です。肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、中耳炎、副鼻腔炎、菌血症(敗血症)などです。昔は、抗生物質のペニシリンによる治療がたいへん有効でしたが、最近は、ペニシリンによる治療が無効である(ペニシリン耐性がある)肺炎球菌(DRSP :drug resistant Streptococcus pneumoniae :薬剤耐性肺炎球菌)が増加しています。その実態を把握するため、日本の感染症法では、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症が基幹定点病院による把握の5類感染症とされています(ペニシリン耐性肺炎球菌感染症の届出基準はこちらのページから)。
肺炎球菌は、人の気道に定着していることが、よくあります。健康な大人でも鼻やのどから、5%-70%で分離されることがあります。肺炎球菌は、人の鼻や口から体内に入り、鼻やのどの粘膜に付着・増殖し定着します。肺炎球菌を鼻やのどの粘膜に持っている人などが咳をすることによって生じた飛沫を吸い込むことなどがきっかけとなると考えられます。鼻やのどの粘膜に定着した肺炎球菌は、そのまま何も起こさずに消滅してしまうことも多いのですが、肺炎球菌感染症を発病する場合もあります。鼻やのどの粘膜に定着している期間は、1-17ヶ月間程度です。鼻やのどの粘膜に定着している期間は、大人よりこどもの方が一般的に長いです。肺炎球菌感染症を発病するきっかけとしては、例えば、冬季にインフルエンザで気管の粘膜が損傷を受けるなど、体を守る障壁(barrier:バリア)が損傷を受けたようなときが考えられます。何の症状もなく肺炎球菌を鼻やのどの粘膜に持っている保菌者(キャリア: carrier)の割合は、こどもがいない大人たちでは、5-10%、学校や孤児院の生徒や孤児たちでは27%-58%です。
アメリカ合衆国では、小さなこどもたちが、病院外で感染した肺炎の17-28%が肺炎球菌によるものだったとする研究があります。また、大人たちの間では、肺炎が最もよく見られる肺炎球菌感染症です。肺炎球菌による肺炎の潜伏期は、1-3日です。発病は、突然で、発熱・悪寒・震えなどの症状が見られます。痰を伴う咳、息切れ、呼吸回数の増加、胸膜性の胸の痛み、低酸素状態などもよく見られます。アメリカ合衆国では、年間約175000人の患者が肺炎球菌による肺炎で入院すると推算されています。成人では、病院外で感染した肺炎の36%が肺炎球菌によるものです。また、病院内で感染した肺炎の50%が、肺炎球菌によるものです。インフルエンザや麻疹の合併症としても見られます。肺炎球菌による肺炎の致死率は、5-7%ですが、高齢者ではもっと高いと考えられています。肺炎球菌による肺炎の合併症としては、胸膜炎・膿胸・心膜炎などがあります。
アメリカ合衆国では、毎年、50000人以上の肺炎球菌による菌血症(敗血症)の患者が発生しています。肺炎球菌による肺炎患者の25-30%に肺炎球菌による菌血症(敗血症)が見られます。菌血症(敗血症)による全体の致死率は、20%ですが、高齢者では60%と高いです。解剖学的あるいは機能的に脾臓を持っていない人(脾臓を摘出した人や鎌状赤血球疾患などの原因で脾臓の機能不全がある人など)では、肺炎球菌による菌血症(敗血症)は重症となります。また、2歳未満の乳幼児では、肺炎球菌による菌血症であっても、身体のどの部位で肺炎球菌が増殖しているのかわからないことがよくあります。
アメリカ合衆国では、すべての細菌性の髄膜炎のうち、13-19%が、肺炎球菌によるものです。年間では、アメリカ合衆国では、2000-6000人の肺炎球菌による髄膜炎患者の発生があると考えられています。この肺炎球菌による髄膜炎患者の4分の1が、肺炎も併発しています。症状は頭痛、嘔吐、発熱、首の硬さ、痙攣、意識レベルの低下、昏睡などです。肺炎球菌による髄膜炎の致死率は、約30%ですが、高齢者では80%と高いです。肺炎球菌による髄膜炎の生存者には、神経障害が残ることがあります。
アメリカ合衆国では、急性中耳炎(AOM:acute otitis media)のこどもたちの鼓膜を穿刺して中耳の内容を調べたところ28-55%が、肺炎球菌によるものだったとする研究があります。小さなこどもたちの急性中耳炎の症状は、耳の痛み、のどの痛み、夜の落ち着きのなさ、発熱などです。

病原体は?

肺炎球菌感染症の病原体は、肺炎球菌です。肺炎球菌は、英語では、pneumococcusあるいは、Streptococcus pneumoniae と言います。1881年に、Pasteur が、狂犬病の患者の唾液から初めて分離しました。1883年に、FriedlanderとTalamonとが、肺炎球菌と肺炎との関係を記述しています。肺炎球菌は、短い鎖状の連鎖球菌(Streptococcus )の状態以外にも、二つの菌がくっついた双球菌の状態や、他の菌とくっつかない一つの菌だけの状態でも観察されます。肺炎球菌には、90種以上の血清型が認められています。よく知られた10種の血清型で、重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)の62%を起こしていると考えられています。アメリカ合衆国の6歳未満のこどもでは、血液や髄液から分離される肺炎球菌では、7価結合型ワクチン(PCV7)で採用されている7種の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B)の肺炎球菌が肺炎球菌感染症の80%を起こしています。アメリカ合衆国の6歳以上の人では、この7種の血清型で、肺炎球菌感染症の50%を起こしています。
肺炎球菌は、ポリサッカライドからなる莢膜(カプセル)を持つものと持たないものとがあります。このポリサッカライドからなる莢膜(カプセル)を持つものが人に対する強い病原性を持っています。

日本呼吸器学会(外部サイト)「成人市中肺炎診療ガイドライン」では、市中肺炎の初期治療に役立つ微生物検査で、結果が実施者の経験に左右されにくい簡便な検査として、迅速検査キットによる抗原検査を挙げています。鼻腔拭い液によるインフルエンザウイルス抗原検査、尿による肺炎球菌抗原検査・レジオネラ抗原検査です。
尿による肺炎球菌抗原検査については、尿中の肺炎球菌莢膜(カプセル)抗原を検出するものです。肺炎球菌による肺炎などでは肺炎球菌が体内で分解されて尿中に排泄されます。尿中に排泄された分解産物である莢膜(カプセル)抗原を検出するものです。
なお、肺炎球菌莢膜抗原が尿中に排泄されるのは、通常、肺炎症状発現後三日目以降とされます。一方、患者の炎症所見が改善しても、2ヶ月以上に亘って排泄されることがあります。また、月齢2-60ヶ月の乳幼児において、鼻咽頭に肺炎球菌が常在している場合には、尿中肺炎球菌莢膜抗原が陽性となることがあります。

予防のためには・・・

解剖学的あるいは機能的に脾臓を持っていない人(脾臓を摘出した人や鎌状赤血球疾患などの原因で脾臓の機能不全がある人など)は、ヘモフィルス-インフルエンザ菌や肺炎球菌などのカプセル(莢膜)を持った菌による重症の感染症にかかりやすいとされています。そのため、解剖学的あるいは機能的に脾臓を持っていない人は、ヘモフィルス-インフルエンザb型菌や肺炎球菌のワクチン(予防接種)の接種の対象と考えられています。脾臓の摘出手術が予定されている場合、肺炎球菌のワクチン(予防接種)の接種は、脾臓の摘出手術の2週間以上前に実施しておくべきだとされています。同様に、癌の化学療法や免疫が強く抑制されるような治療法の開始の2週間以上前に、肺炎球菌のワクチン(予防接種)の接種は、実施しておくべきだとされています。

キシリトールは、かばの木から採れる糖です。自然界では、プラムや、イチゴ、ラズベリー、やナナカマドの赤い実などが、キシリトールを含んでいます。このキシリトールは、いわゆる虫歯菌(Streptococcus mutans)の増殖を阻害するとされ、虫歯予防の甘味料として知られています。その一方、キシリトールは、肺炎球菌の増殖も阻害するとされています。肺炎球菌は、急性中耳炎の主要な原因の一つとされています。まず、ウイルスによる感染があってから、肺炎球菌のような細菌が鼻やのどから中耳へと上がって急性中耳炎を起こすと考えられています。1日量8.4-10グラムのキシリトールを5回に分けて摂取することで、中耳炎の予防に効果が見られています。キシリトール・シロップよりは、キシリトール・ガムの形での摂取の方が、効果が見られるようです(参考文献3、4、5)。集団における中耳炎の発生が減少することで、集団における抗生物質の総使用量の減少が期待できます。なお、キシリトールの副作用としては、大量に摂取すると下痢を起こす可能性があります。

肺炎球菌感染症のワクチン(予防接種)には、ポリサッカライド-ワクチンと結合型ワクチンとがあります。肺炎球菌の莢膜(カプセル)のポリサッカライド(多糖体)を精製して作られたのが、ポリサッカライド-ワクチンです。アメリカ合衆国では、14種の血清型(莢膜型)に対する14価ポリサッカライド-ワクチンが、1977年に認可されました(現在は、製造されていません)。さらに、23種の血清型(1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、および33F)に対する23価ポリサッカライド-ワクチン(PPV23あるいはPPSV23:PPVあるいはPPSVはpneumococcal polysaccharide vaccineの略称。)が、1983年に認可されました。筋肉注射あるいは皮下注射で投与されます。23価ポリサッカライド-ワクチンについては、日本でも市販されています。ポリサッカライド-ワクチンは、2歳未満の乳幼児では、接種によって有効な免疫を作ることができないため、2歳未満の乳幼児は接種対象とはなりません。また、1回の接種によって獲得された免疫の効果は、健康な成人では少なくとも5年間は持続するものの、接種の5-10年以降には減退していくと考えられています。ポリサッカライド-ワクチンの髄膜炎、菌血症(敗血症)などの重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)に対する予防の効果は、56%-81%とされています。しかし、上気道炎、中耳炎、副鼻腔炎などには、予防効果はなく、肺炎球菌の鼻やのどの粘膜への定着も阻害しないと考えられています。アメリカ合衆国では、65歳以上の成人に対して、13価結合型肺炎球菌ワクチンと23価ポリサッカライド-ワクチンの接種が定期予防接種として勧められています。当・横浜市衛生研究所ホームページ「アメリカ合衆国の大人の定期予防接種について」をご参照ください。また、アメリカ合衆国では、2歳以上の人に対しても、心臓病・呼吸器疾患・糖尿病・アルコール症・肝硬変・腎臓病(腎不全や人工透析を受けている人など)などの慢性疾患のある人、(機能的あるいは解剖学的に)脾臓を持っていない人(鎌状赤血球症や脾臓を摘出された人など。)、免疫が抑制されている人、HIV感染者、人工内耳の手術を受けた人、髄液漏の患者などについて、13価結合型肺炎球菌ワクチンおよび8週間以上の間隔での23価ポリサッカライド-ワクチンの接種が勧められています。脾臓摘出手術や人工内耳の手術が予定されている場合には、手術の少なくとも2週間以上前のワクチンの接種が勧められています。癌に対する化学療法など、免疫を抑制する治療が予定されている場合には、治療開始の少なくとも2週間以上前のワクチンの接種が勧められています。19歳以上の人に対しても、喘息の人や喫煙者に、ワクチンの接種が勧められています。アメリカ合衆国でのポリサッカライド-ワクチンの接種については、PPVあるいはPPSVという略称が使われることがあります。
ポリサッカライド-ワクチンの副反応としては、注射部位の腫れや痛み、発赤などが30%-75%で見られます。なお、日本で認可されている23価ポリサッカライド-ワクチンのニューモバックスNP(Pneumovax NP)については、「過去に、含有莢膜型の組成のいかんにかかわらず多価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンを接種されたことのある者では、本剤の接種により著しい副反応(注射部位の疼痛、紅斑、硬結等)が起こるので、接種を行ってはならない。同様の理由で本剤の追加免疫や再接種を行ってはならない。」(ニューモバックスNP添付文書、萬有製薬株式会社、2007年4月改訂第2版)とされていましたが、2009年10月に添付文書の改訂があり、「過去5年以内に、多価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンを接種されたことのある者では、本剤の接種により注射部位の疼痛、紅斑、硬結等の副反応が、初回接種よりも頻度が高く、程度が強く発現すると報告されている。本剤の再接種を行う場合には、再接種の必要性を慎重に考慮した上で、前回接種から十分な間隔を確保して行うこと。」(ニューモバックスNP添付文書、萬有製薬株式会社、2009年10月改訂第5版)となりました。2009年(平成21年)8月31日には、社団法人日本感染症学会肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会(大石和徳、川上和義、永井英明、砂川慶介、渡辺 彰[座長])が、「肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン」を提示しています。このガイドラインでは、再接種の対象者については、
「初回接種から5年以上経過した次に示すような肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険性が極めて高い者及び肺炎球菌特異抗体濃度が急激に低下する可能性のある者を対象とする。
1)65歳以上の高齢者
2)機能的または解剖学的無脾症(例 鎌状赤血球症、脾摘出)の患者
3)HIV感染、白血病、悪性リンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、全身性悪性腫瘍、慢性腎不全、またはネフローゼ症候群の患者、免疫抑制化学療法(副腎皮質ステロイドの長期全身投与を含む)を受けている患者、臓器移植または骨髄移植を受けたことのある者
ただし再接種時の年齢が10歳以下である鎌状赤血球症、脾臓摘出のような機能的無脾症又は解剖学的無脾症である小児、又はネフローゼ症候群、腎不全、腎移植のような初回接種後に抗体が急速に減少する小児については、前回の接種から3年後に再接種を考慮することが推奨される。なお、初回接種は2歳以上を対象としている。」としています。

図1.肺炎球菌ワクチンに含まれる血清型の違い。


結合型ワクチンは、アメリカ合衆国では、肺炎球菌の7種の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B)に対する7価のワクチン(PCV7 : PCVは pneumococcal conjugate vaccineの略称。)が2000年に認可され、アメリカ合衆国の乳幼児の推奨予防接種スケジュールに導入されました。10価(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F)・13価(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F、3、6A、19A)のものも開発され、13価結合型肺炎球菌ワクチンについては、2009年7月に南米のチリで世界で初めて承認されました。アメリカ合衆国では、2010年2月24日、13価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)が認可され、定期予防接種において7価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV7)から変更されることになりました(参考文献22、23)。また、英国でも、結合型肺炎球菌ワクチンについて、7価のワクチンから13価のワクチンへ2010年4月から変更されました(参考文献21)。アメリカ合衆国では、結合型肺炎球菌ワクチンは、筋肉注射で投与されます。肺炎球菌の莢膜(カプセル)を精製して作られたポリサッカライド(多糖体)をCRM197(CRM197は、毒性のない変種のジフテリア毒素です。CRMはcross-reactive materialの略称です。)という蛋白質に結合して作ったのが、結合型ワクチンです。蛋白質と結合させることにより、抗原性・免疫原性が高まり、乳児への接種でも免疫を作ることが可能となりました。血清型が一致すれば、髄膜炎、菌血症(敗血症)などの重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)に対する予防の効果は、95%以上とされています。結合型ワクチンは、肺炎球菌の鼻やのどの粘膜への定着も阻害することや、上気道炎、中耳炎、副鼻腔炎などの予防効果も、期待されています。7価結合型ワクチンは、肺炎球菌の7種の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B)に対する免疫だけでなく、近縁の5種の血清型(6A、9A、9L、18B、18F)に対する免疫も作る可能性があります。これらの12種の血清型で、アメリカ合衆国の1978-1994年の6歳未満の乳幼児の肺炎球菌感染症について、菌血症の86%、髄膜炎の83%、急性中耳炎の65%をカバーします。
アメリカ合衆国の乳幼児の推奨予防接種スケジュールでは、結合型13価肺炎球菌ワクチンを生後2、4、6ヶ月と12-15ヶ月の計4回接種します(参考文献22)。アメリカ合衆国での結合型肺炎球菌ワクチンの接種については、PCVという略称が使われることがあります。結合型肺炎球菌ワクチンの副反応としては、注射部位の腫れや痛み、39度以上の一過性の発熱などが見られることがあります。
英国の乳幼児の推奨予防接種スケジュールでは、結合型肺炎球菌ワクチンを生後2、4ヶ月と13ヶ月の計3回接種することになっています(参考文献21)。乳幼児の結合型肺炎球菌ワクチンは、英国でもアメリカ合衆国のように計4回の接種として認可されたのですが、英国では計3回の接種でも獲得される免疫については差がないとして、計3回の接種スケジュールとなっています。また、英国では、結合型肺炎球菌ワクチンについて、7種の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B)に対する7価のワクチンから13価(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F、3、6A、19A)のワクチンへ2010年4月から変更されることになりました。2006年9月の2歳未満の定期予防接種への7価のワクチンの導入とともに7種の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B)による組織侵入性肺炎球菌感染症は減少してきたのですが、7種の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B)に含まれず13価(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F、3、6A、19A)のワクチンには含まれる1、5、7F、3、6A、19Aの血清型による組織侵入性肺炎球菌感染症については増加している状況を踏まえての対応です(参考文献21)。
結合型肺炎球菌ワクチンについては、2007年1月現在で、世界において70か国以上で承認されていました。乳幼児の定期予防接種に導入している先進国は12か国ありました。2009年10月16日、日本でも承認され、2010年2月24日(水曜日)国内発売となりました。日本は98番目に承認した国です。2010年1月末現在で、世界において101の国・地域で承認されていて、45の国・地域で定期接種となっていました。平成25(2013)年4月からは、日本でも、乳幼児の定期予防接種となりました。
結合型ワクチンは、粘膜での免疫も引き出します。その結果、ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌の鼻やのどへの定着を少なくします。その結果、ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌による感染症は少なくなります。ところが、一方で、ワクチンの血清型と一致しない肺炎球菌の鼻やのどへの定着が増えるということも起こりえます。アメリカ合衆国では、毎年約600万人の肺炎球菌による中耳炎患者が発生します。結合型ワクチンの開始後、中耳炎患者の大きな減少が期待されましたが、減少が6-7%に留まったのは、ワクチンの血清型と一致しない肺炎球菌やヘモフィルス-インフルエンザ菌による中耳炎が増えたためと考えられています。しかし、ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌による中耳炎の再発や合併症については50%以上防ぐ効果が認められました。フィンランドの研究では、結合型ワクチンの中耳炎の予防効果は、肺炎球菌による中耳炎に対して34%、ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌による中耳炎に対して57%とされています。
アメリカ合衆国では、結合型ワクチンを導入して1年で、1歳未満のワクチンを受けたこどもたちでは、ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌による重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)は、87.3%減少しました。さらに、肺炎球菌による重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)の減少が、5歳未満のこどもたちで62.4%で、20-39歳の大人で58%で、60歳より高齢者で14%で見られました。大人たちでの重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)の減少は、結合型ワクチンを受けたこどもたちから大人たちが肺炎球菌に感染することが少なくなったためと考えられます。また、アメリカ合衆国では、2000年に結合型ワクチンが乳幼児の定期予防接種に導入されたことから、1998-1999年と2008年の組織侵入性肺炎球菌感染症の発生を比較した調査研究があります(参考文献26)。18-49歳で34%、50-64歳で14%、65歳以上で37%減少しています。7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型による組織侵入性肺炎球菌感染症に限ると、90-93%の減少でした。
アメリカ合衆国テキサス州ダラス郡における研究(参考文献13)で、喫煙の習慣と髄膜炎、菌血症(敗血症)などの重症の肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合に言う。)との関係が調べられています。25歳-64歳の喫煙者は、同年代の非喫煙者と比較して、組織侵入性肺炎球菌感染症となる危険性が2.6倍です(1.9倍-3.5倍:95%信頼区間)。65歳以上の喫煙者は、同年代の非喫煙者と比較して、組織侵入性肺炎球菌感染症となる危険性が2.2倍です(1.4倍-3.4倍:95%信頼区間)。禁煙しましょう。
なお、組織侵入性肺炎球菌感染症となる危険性について、鎌状赤血球性貧血では52倍(27倍-171倍:95%信頼区間)、HIV感染症では29倍(20倍-41倍:95%信頼区間)でした。

さて、日本において、2009年10月16日、7価肺炎球菌結合型ワクチン(製品名:プレベナー水性懸濁皮下注)が承認され、2010年2月24日(水曜日)より発売されました。細菌性髄膜炎、菌血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(組織侵入性肺炎球菌感染症:髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合の肺炎球菌感染症)を予防する小児用肺炎球菌結合型ワクチンです。2カ月齢以上6歳未満の小児に対して、接種されます。接種は、標準として、初回免疫を2カ月齢以上7カ月齢未満で開始し、27日間以上の間隔で合計3回接種します。3回目接種は12カ月齢未満までに完了します。追加免疫は、3回目接種から60日間以上の間隔をおき、通常、12~15カ月齢の間に1回接種します。初回免疫・追加免疫合わせて合計4回の接種です。また、この標準時期に接種できなかった場合、7カ月齢以上12カ月未満で接種を開始した際には合計3回の接種(初回免疫を27日間以上の間隔で合計2回接種した後、60日間以上あけて追加免疫を12カ月齢後に1回接種します)、12カ月齢以上24カ月齢未満で接種を開始した際には60日間以上の間隔で合計2回の接種、24カ月齢以上6歳未満で接種を開始した際には1回の接種を行います。なお、日本では、平成25(2013)年11月1日から、肺炎球菌結合型ワクチンについて、7価ワクチン(製品名:プレベナー水性懸濁皮下注)から13価ワクチン(製品名:プレベナー13水性懸濁注)に切り替えられました。
このワクチンの切り替えに関するQ&A(厚生労働省)については、こちら(外部サイト)をご確認ください。
また、2014年6月に、13価ワクチン(製品名:プレベナー13水性懸濁注)については、高齢者に対する肺炎球菌(血清型4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F、3、6A、19A)による感染症の予防の効能が追加されました。小児(2か月齢以上6歳未満)については皮下注射ですが、高齢者(65歳以上)については筋肉内注射です。

オランダでは、7価肺炎球菌結合型ワクチンが、2006年6月にこどもの定期予防接種に導入されました。2006年4月1日以後に生まれたすべての乳児を対象として、生後2、3、4、11か月での接種が行われます。オランダにおける、こどもの定期予防接種への導入の前後での組織侵入性肺炎球菌感染症(髄液・血液など本来は無菌の部位で肺炎球菌が分離された場合の肺炎球菌感染症)の発生状況についての研究報告があります(参考文献24)。ワクチン導入前(2004年6月-2006年6月)とワクチン導入後(2006年6月-2008年6月)とで2歳未満での組織侵入性肺炎球菌感染症の発生を比較すると、組織侵入性肺炎球菌感染症の発生は44%減少しました。ワクチンに含まれる血清型の肺炎球菌による組織侵入性肺炎球菌感染症の発生は90%減少したのですが、一方でワクチンに含まれない血清型の肺炎球菌による組織侵入性肺炎球菌感染症の発生が71%増加しました。ワクチン導入前(2004年6月-2006年6月)は血清型の14型と6B型が多かったですが、いずれも7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型でありワクチン導入後(2006年6月-2008年6月)は明らかに減少しました。ワクチン導入後(2006年6月-2008年6月)に多くなったのは、1型と7F型ですが、いずれも7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれない血清型です。しかし、13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型であり、13価肺炎球菌結合型ワクチンによる予防効果が期待されます。
なお、オランダの定期予防接種は、2011年5月に7価肺炎球菌結合型ワクチンから10価肺炎球菌結合型ワクチンに切り替えられました。2011年3月1日以後に生まれたすべての乳児を対象とします。1型と7F型とは、10価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型です。

表1.オランダにおけるPCV7の定期予防接種への導入による親子の鼻咽頭部における肺炎球菌の保有率の変化
対象者肺炎球菌児にPCV7接種せず児にPCV7接種
生後11-12か月の児PCV7に含まれる血清型38%8%
PCV7に含まれない血清型29%39%
すべての血清型67%47%
生後24か月の児PCV7に含まれる血清型36%4%
PCV7に含まれない血清型30%45%
すべての血清型66%49%
生後24か月の児の親PCV7に含まれる血清型8%1%
PCV7に含まれない血清型8%15%
すべての血清型17%16%

* 参考文献27により作成。

オランダでは、7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)が、2006年6月にこどもの定期予防接種に導入され、2006年4月1日以後に生まれたすべての乳児を対象として、生後2,3,4,11か月での接種が行われました。2006年6月のこどもの定期予防接種への導入から3年経過した2009年に、導入の前後での親子の鼻咽頭部における肺炎球菌の保有状況の変化を見るための調査研究が行われました(参考文献27)。7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の接種を受けたこどもたちについては、
(1) 3回(生後2、3、4か月)の初回免疫の接種を終え、まだ追加免疫(生後11か月)の接種を受けていないか、受けて一週間以内の健康な11か月児、
(2) 生後2、3、4、11か月での接種を受けた健康な24か月児及びその親(両親ではなく、一人の親のみを対象)
の2グループを対象として、鼻咽頭部の検体を採取し肺炎球菌の検査が行われました。7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の接種を受けていないこどもたちについては、2005年5月から2006年2月の間に生後6週間を迎えたこどもを対象として、生後24か月まで追跡調査しています。生後12か月、および、24か月の時点での児と24か月の時点での児の親(両親ではなく、一人の親のみを対象)から、鼻咽頭部の検体を採取し肺炎球菌の検査が行われました。結果は、上の表1のとおりです。オランダにおいては、PCV7のこどもの定期予防接種への導入により、こどもの鼻咽頭部における肺炎球菌の保有率は減少しています。特に、PCV7に含まれる血清型については、こどもだけでなく、親も含めて、著しく減少しています。しかし、一方で、PCV7に含まれない血清型については、保有率は増加しています。このため、親においては増減が相殺され、親の肺炎球菌の保有率はほぼ横這いで増減が見られません。PCV7に含まれない血清型で特に多く検出されるようになったのは、19A型および11A型です。それぞれ、11か月児では、10%および4%、24か月児では、6%および7%、24か月児の親では、2%および2%、検出されるようになりました。19A型は、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)および23価肺炎球菌ポリサッカライド-ワクチン(PPSV23 :PPSVはpneumococcal polysaccharide vaccineの略称。)に含まれます。11A型は、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)に含まれませんが、23価肺炎球菌ポリサッカライド-ワクチン(PPSV23)に含まれます。

アメリカ合衆国では、7価肺炎球菌結合型ワクチンが、2000年にこどもの定期予防接種に導入されました。導入後、5歳未満での細菌性髄膜炎、菌血症などの組織侵入性(侵襲性)肺炎球菌感染症(IPD :invasive pneumococcal disease)の発生は四分の一程度に減少しました。7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型による組織侵入性肺炎球菌感染症が減少する一方で、7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれない血清型、特に19A型による組織侵入性肺炎球菌感染症が増加しました。19A型は、13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型であり、13価肺炎球菌結合型ワクチンによる予防効果が期待されます。アメリカ合衆国における2007年の5歳未満の組織侵入性肺炎球菌感染症の調査研究(参考文献25)では、64.2%が13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型によるものでした(19A型が42.2%で最多)。13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型としては、3型、7F型、19A型の三つが95%を占めて多かったです(中でも19A型が65.7%と多いです)。3型、7F型、19A型は、7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれない血清型です。アメリカ合衆国における2008年の5歳未満の組織侵入性肺炎球菌感染症の調査研究(参考文献26)では、61%が13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型によるものでした(19A型が43%で最多)。7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれないで13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型六つの中では、3型、7F型、19A型の三つが99%を占めて多かったです。19A型には多剤耐性株も知られています。アメリカ合衆国で2010年2月24日にこどもの定期予防接種に7価肺炎球菌結合型ワクチンに替わって導入された13価肺炎球菌結合型ワクチンによる予防効果が期待されます。なお、2008年のアメリカ合衆国における推計では、5歳未満で4100人(10万人あたり20人の発生)の組織侵入性肺炎球菌感染症が発生し、その内、2500人(10万人あたり12人の発生)が13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型による組織侵入性肺炎球菌感染症とされています(参考文献26)。

Reinertらが、7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれない血清型で13価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型である、1型、3型、5型、6A型、7F型、19A型について発生状況等をまとめています(参考文献28)。
1型は、5歳未満の組織侵入性肺炎球菌感染症の原因菌の10%を超えることがあります。また、肺炎や膿胸を伴った肺炎の肺炎球菌感染症の原因の首位となることもあります。アフリカなどの発展途上国においては、1型、5型が流行型として、こどもの感染症の主因となっていて、世界的には1型、5型が多い血清型です。
3型による肺炎球菌感染症の報告が増えています。中東のイスラエル、中米のコスタリカ、欧州バルト三国のリトアニアでは、組織侵入性でない肺炎球菌感染症の多くを占めています。3型による組織侵入性肺炎球菌感染症は、年少のこどもよりは、年長のこどもで見られ、重症の肺炎で見られることがあります。アメリカ合衆国(特にユタ州)におけるこどもの肺炎球菌性膿胸の調査研究によれば、近年では3型が20%を占めています。3型が肺組織の壊死と関係しているとの研究があります。
7F型の組織侵入性肺炎球菌感染症が、ドイツや英国などで増えています。7F型が通常使われる抗生物質に耐性となることは、まれです。スペインでは7価肺炎球菌結合型ワクチンが使われる10年前の1990年台から増えていて、増加の原因は、よくわかりません。
6A型、19A型は、小さいこどもの鼻咽頭部に定着しやすいです。また、ペニシリンGやマクロライド系の抗生物質に耐性を獲得しやすいです。アメリカ合衆国では、19F型を含む7価肺炎球菌結合型ワクチンが、2000年にこどもの定期予防接種に導入されました。この導入の前後で、組織侵入性肺炎球菌感染症は、10万人あたり、肺炎球菌全体では、1998年の24.4人の発生から2005年の13.8人の発生へと減少しましたが、19A型については1998年の0.8人の発生から2005年の2.5人の発生へと増加しました。19F型のポリサッカライド抗原での免疫は、19A型に対する免疫として役立ちません。しばしば多剤耐性株による19A型の増加が報告されています。
6B型を含む7価肺炎球菌結合型ワクチンは、6A型に対するある程度の弱い免疫を与えます。しかし、7価肺炎球菌結合型ワクチンによって防げない6A型については、2008年までは多くの検査機関で6A型と区別できなかった6C型である可能性もあります。過去の6A型とされたデータについては、6C型の可能性を考えての再評価が必要と思われます。6A型を含む13価肺炎球菌結合型ワクチンは6C型に対する免疫も与えると考えられています。
ワクチンに含まれない血清型については、ワクチン使用により、ワクチンに含まれる血清型という競争相手が退場することで、優勢となり、今まで優勢だった競争相手に取って代ってしまうこと、つまり交代(replacement)がありえます。ワクチン使用による交代です。19A型や6A型の組織侵入性肺炎球菌感染症の増加は、このワクチン使用による交代かもしれません。しかし、一方で7価肺炎球菌結合型ワクチンが全く実施されていない国や少ししか実施されていない国でも観察されていることを考えあわせると、ワクチン使用による交代とも言い切れません。抗生物質がよく使われる国であれば、抗生物質使用により耐性株の19A型が生き残るというような、抗生物質使用による交代かもしれません。

2011年7月1日、ニュージーランドの乳幼児の推奨予防接種スケジュールでは、結合型肺炎球菌ワクチンが7価のもの(2008年6月導入)から、10価のものへと変更されました(参考文献29)。この変更によって、7価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれない血清型で10価肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる血清型に対する予防効果が期待されています。また、この変更によって、10価肺炎球菌結合型ワクチンにおいて肺炎球菌ポリサッカライドに結合する蛋白として新たにNTHi(nontypeable Haemophilus influenzae :分類不能型ヘモフィルス-インフルエンザ菌)由来のD蛋白を用いることで、ヘモフィルス-インフルエンザ菌(分類不能型)による中耳炎に対する予防効果も期待されています。こどもの急性中耳炎・副鼻腔炎の30-52%をヘモフィルス-インフルエンザ菌(分類不能型)が起こします。試行では、ヘモフィルス-インフルエンザ菌(分類不能型)による急性中耳炎が35.5%(95%信頼区間:1.8-57%)減少しました。
10価肺炎球菌結合型ワクチンは、オランダの定期予防接種ブラジルの定期予防接種でも採用されています。
なお、ニュージーランドの定期予防接種では、2014年7月1日から、結合型肺炎球菌ワクチンが10価のものから、13価のものへと変更されました。

2010年、アメリカ合衆国で、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13: 商品名Prevnar 13)が、米国医薬食品局(FDA: Food and Drug Administration)によって、生後6週から71ヶ月のこどもの13の型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F、3、6A、19A)の肺炎球菌による侵襲性[組織侵入性]肺炎球菌感染症(IPD: invasive pneumococcal disease)の予防について認可され、米国予防接種勧告委員会(ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices)によって推奨されました。この13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)が、2011年12月30日、アメリカ合衆国で、米国医薬食品局(FDA)によって、50歳以上の大人の13の型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F、3、6A、19A)の肺炎球菌による肺炎及び侵襲性[組織侵入性]肺炎球菌感染症(IPD: invasive pneumococcal disease)の予防について認可されました。2014年8月13日には、65歳以上の大人に対する定期予防接種への導入を米国予防接種勧告委員会(ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices)が勧告しました。アメリカ合衆国での65歳以上の大人に対する肺炎球菌ワクチンの定期予防接種では、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)と23価肺炎球菌ポリサッカライド-ワクチン(PPSV23)とが接種されます。以下のとおりです。なお、この、65歳以上の大人に対する13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)の定期予防接種の勧告は、2018年に見直され必要があれば改訂されることになっています(参考文献32)。
肺炎球菌ワクチンを接種したことがない65歳以上の大人は、まず13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)を接種します。その後、6-12か月の間隔で23価肺炎球菌ポリサッカライド-ワクチン(PPSV23)を接種します。6-12か月の間隔が無理であれば、それ以上の間隔でも構いません。PCV13とPPSV23とを同時に接種してはいけません。PCV13とPPSV23との最短接種間隔は8週間です。PCV13、PPSV23の順番での接種の方が、PPSV23、PCV13の順番での接種よりも免疫効果が高いことが分かっています。
すでにPPSV23接種を受けたことがある65歳以上の大人は、PCV13接種を受けたことがなければ、最近のPPSV23接種から1年以上経過した時点で、PCV13を接種します。更に、最近のPPSV23接種から5年以上経過した時点で、PCV13の接種から6-12か月の間隔で、必要があればPPSV23を接種します。6-12か月の間隔が無理であれば、それ以上の間隔でも構いません。

横浜市では、平成22年10月1日(金曜日)から、肺炎にり患した場合に重症化のおそれが高い重度の内部機能障害者の方に対し、23価肺炎球菌ワクチン(23価ポリサッカライド-ワクチン:製品名ニューモバックスNP)の接種費用の一部助成を開始しました。平成26年9月30日までは、平成25年10月1日時点で内部機能障害1級の手帳を所有している方が対象でした。平成26年10月1日から予防接種法施行令改正により、高齢者及び特定の障害がある方を対象に、「成人用肺炎球菌ワクチン予防接種」が「定期接種」として開始されました。そのことに伴い、平成26年10月1日から制度の見直しを行い、対象者が次のように変更されました。

【 平成26年10月1日から 】
対象者は、平成26年10月1日時点で横浜市内に住所を有し、次の(1)又は(2)に該当する方です。
(1)満5歳以上60歳未満で、身体障害者手帳を有し、心臓、じん臓若しくは呼吸器又はぼうこう若しくは直腸、小腸、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫、肝臓のいずれかの機能の障害に該当する方。
(2)満60歳以上65歳未満で、身体障害者手帳を有し、
(ア)ぼうこう若しくは直腸、小腸、肝臓のいずれかの機能の障害に該当する方。
(イ)心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫のいずれかの機能の障害に該当する方のうち、2級から4級までに該当する方。
※ただし、脾臓摘出患者の方または公害医療手帳の交付を受けている公害被認定患者の方は対象外です。
なお、65歳以上の方及び特定の障害のある方は、定期接種の対象になります。定期接種については、下記の「成人用肺炎球菌ワクチンの定期予防接種」をご覧ください。

横浜市23価肺炎球菌ワクチン接種助成事業について、詳しくは、こちら(横浜市健康福祉局障害福祉部障害福祉課ウェブページ)をご覧ください(下線部をクリックして下さい)。

小児用肺炎球菌ワクチンの定期予防接種・・・

実施対象者 生後2か月~4歳

平成25(2013)年4月からは、日本でも、乳幼児の定期予防接種となりました。詳しくは横浜市保健所ホームページを御覧ください。

成人用肺炎球菌ワクチンの定期予防接種・・・

実施対象者 1.平成26~30年度:各年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳になる方

※平成26年度のみ101歳以上となる方も対象
平成31年度以降:65歳の方
2.接種日現在で60歳以上65歳未満の方で、心臓、じん臓、呼吸器の機能、又はヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に1級相当の障害のある方
平成26(2014)年10月からは、日本でも、高齢者の定期予防接種となりました。詳しくは横浜市保健所ホームページを御覧ください。

パンフレット

参考文献

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2002年5月13日初掲載
2003年5月6日増補
2007年5月2日増補改訂
2009年10月20日増補改訂
2009年11月6日増補改訂
2010年2月24日増補改訂
2010年3月8日増補改訂
2010年5月14日増補改訂
2011年2月2日増補改訂
2011年4月11日増補改訂
2013年4月11日部分改訂
2013年7月12日改訂増補
2013年11月7日改訂増補
2014年12月11日改訂増補

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