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■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
最終更新日 2019年7月17日
ヒト-パレコウイルス感染症は、日本では、夏から冬にかけて流行が見られます(参考文献3)。
横浜市の病原体定点機関で採取された検体でも、小児の患者からヒト-パレコウイルス(HPeV)がときどき検出されています。当・横浜市衛生研究所ホームページ「病原体定点からのウイルス検出状況」をご参照下さい。
2013-2015年に横浜市の病原体定点機関で採取された検体では、30検体でヒト-パレコウイルス(HPeV)が検出されています。夏を中心に4月から10月まで検出されています。4月に1検体、5月に1検体、6月に3検体、7月に9検体、8月に10検体、9月に5検体、10月に1検体と、6-9月の検出が多いです。急性胃腸炎や発熱、ヘルパンギーナ疑い等で検査された小児の検体から検出されています。生後6か月以下の乳児の検体からも検出されていて、発熱した新生児の検体からも検出されています。
ヒト-パレコウイルス(Human parechovirus : HPeV)には、1~16型がありますが、新生児や早期の乳児で重症の感染となることから、特に3型(HPeV-3)の発生動向が注目されています。全国的なヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)の検出状況については、全国の地方衛生研究所と検疫所から送られる病原体検出報告に基づき国立感染症研究所が週毎の検出件数をグラフ化して、国立感染症研究所のウェブページ(外部サイト)で公表しています。無菌性髄膜炎や手足口病の患者の検体から検出されることもあります。2015年の発生は少なかったですが、2016年の発生は多いです。2006年、2008年、2011年、2014年の発生も多く、ヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)については、日本において2-3年毎に流行を繰り返しています。
2015年9月、岩手県において、ヒトパレコウイルスによると思われる感染性胃腸炎の集団発生が報告されています(参考文献10)。盛岡市内の保育園(園児142名、職員39名)において、2015年8月11日(火曜日)から9月2日(水曜日)にかけ、0-6歳の園児24名に下痢、軟便などの症状が見られました。有症者8名について検査して、3名からヒトパレコウイルス及びサポウイルスを、1名からヒトパレコウイルスを検出しました。入院するような重症患者は発生しませんでした。
下痢を主症状とする乳児の感染性胃腸炎の集団発生事例でヒト-パレコウイルス1型(HPeV-1)が検出されることがあります(参考文献9)。大阪府内の保育園において2015年8月11日、0歳児クラス(15名)で2名の下痢症患者が発生しました。8月19日には、0歳児クラスでさらに4名の下痢症患者が発生しました。8月20日には、1歳児クラスで1名の下痢症患者が発生し、園児の累積患者7名となりました。そこで、0歳児4名、1歳児1名の検便を実施しました。0歳児4名からヒト-パレコウイルス1型(HPeV-1)、0歳児3名からコクサッキーウイルスB5型(CVB5)、1歳児1名からエコーウイルス18型が検出されました。0歳児クラス(15名)での乳児の感染性胃腸炎の集団発生の原因は、ヒト-パレコウイルス1型(HPeV-1)及びコクサッキーウイルスB5型(CVB5)と推測されました。下痢の持続が一週間以上で長かったのは、二つのウイルスの感染があったためと考えられました。2015年9月1日の時点では、0歳児クラス(15名)の累積患者数は8名であり、内1名にはまだ下痢症状がありました。
2011年6-8月、山形県内でヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)の流行がありました(参考文献11、12)。上気道炎、発疹症、口内炎、胃腸炎の小児から、ヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)が検出されました。同時期に、31-41歳の男性5人が、山形県立中央病院神経内科を受診し発熱や咽頭痛などの感冒症状に加え、腕や脚の筋肉痛・脱力を訴え、流行性筋痛症とされました。この成人男性5人全員からヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)が検出されました。この内の一人の成人男性については、当人の二人のこどもが当人の発症の直前に感冒様の症状を呈していたため検査したところ、二人のこどもともヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)が検出されました。二人のこどもから親である当人が感染したと考えられました。夏、保育園などで乳幼児の間でヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)の流行があり上気道炎、発疹症、口内炎、胃腸炎などが見られますが、感染した乳幼児から家庭などで成人への感染も見られ、感染した成人では症状なしの不顕性感染や軽い感冒様症状となることが多いが一部で感冒様症状に加え、腕や脚の筋肉痛・脱力を訴え、流行性筋痛症となると考えられます。
オランダにおいて、2000-2007年のヒト-パレコウイルス(Human parechovirus : HPeV)の1~5型の検出状況をまとめた調査研究があります(参考文献15)。HPeV1が55、HPeV2が2、HPeV3が89、HPeV4が1、HPeV5が8と、HPeV1とHPeV3の検出が多かったです。HPeV3については春から夏の発生が多く、7月、8月に発生のピークが見られました。また、2000年、2002年、2004年、2006年と偶数年の発生が多く、2年周期の流行が見られました。HPeV1については年による増減は少なく、月別では5-7月の発生が少なかったです。HPeV3はHPeV1よりも年少で感染していました。HPeV1は平均年齢9.2か月(0-35か月)の患者から分離され、HPeV3は平均年齢1.9か月(0-15か月)の患者から分離されました。患者の男女比は、HPeV1は1.12:1(男:女)、HPeV3は1.26:1(男:女)でした。HPeV1と比較して、HPeV3では発熱、髄膜炎、ウイルス血症がより見られました。HPeV3と比較して、HPeV1では下痢・嘔吐などの胃腸症状がより見られました。HPeV5では、胃腸症状、発熱、関節痛、発疹が見られました。
ヒト-パレコウイルスは、主として小さなこどもで、上気道炎や胃腸炎などを起こし、咳、鼻水、発熱、あるいは、下痢、嘔吐などといった症状が見られることがあります。大人も感染することがありますが、症状の見られない不顕性感染や軽い上気道炎となることが多いです。
ヒト-パレコウイルスには、1型から16型までありますが、1~6、8、10、11、13、15型は、下痢、嘔吐といった症状の急性胃腸炎を起こすことがあります。
ヒト-パレコウイルス3型による感染は、特に生後3か月未満の乳児において、髄膜炎や脳炎、敗血症など重症となることがあります。
ヒト-パレコウイルス3型による感染の防御には乳児が胎児のときに母親からお腹の中でもらった抗体(移行抗体)が役立つと考えられます(参考文献7,8)。正常に生まれた約180名の新生児の臍帯血においてヒト-パレコウイルス3型に対する抗体を調べたところ、約40%の母親から生まれた児がヒト-パレコウイルス3型に対する防御に十分な抗体を持っていませんでした。また、母親の年齢が高いほど、抗体陽性率が低かったです。抗体陽性率は、母親が16-24歳で100%、25-34歳で64%、35-44歳で49%でした。
ヒト-パレコウイルス3型に感染して抗ヒト-パレコウイルス3型抗体を獲得するのは、乳幼児期に保育園のような場が考えられますが、ヒト-パレコウイルス3型が比較的歴史の浅いウイルスであり、25歳以上の母親が保育園児の時代にはまだ保育園での流行はまだ多く見られなかった可能性もあります。ヒト-パレコウイルス3型については、日本では1998年の新潟県での分離ウイルスの報告が、ヨーロッパでは1994年のオランダでの分離ウイルスの報告が、それぞれ最古のものです。ヒト-パレコウイルス3型については、遺伝子の進化速度から1987年(1980-1992年)頃に出現したと推測されています(参考文献7)。
パキスタンで急性胃腸炎のこどものヒト-パレコウイルス10、13、15型について調べた研究があります(参考文献13)。ヒト-パレコウイルス10,15型については、生後1か月以内の急性胃腸炎の乳児からも検出されました。そのような乳児は母親からの移行抗体を十分に持っていなかったと考えられ、ヒト-パレコウイルス10、15型についてはパキスタンにおける流行は限定的であると推測しています。
ヒト-パレコウイルスに対する特効薬はありません。
但し、日本国内で販売されているヒト免疫グロブリン製剤のヒト-パレコウイルス3型に対する抗体を調べたところ、すべての製品で高い抗体価を認めたとのことであり、ヒト免疫グロブリン製剤のヒト-パレコウイルス3型感染症に対する予防や治療の効果が期待されます(参考文献8)。
パレコウイルス(Parechovirus )属(Genus)は、ピコルナウイルス(Picornaviridae )科(Family)に属します。ピコルナウイルス(Picornaviridae )は、大変小さい(pico: 「大変小さい」という意味の接頭辞)RNAウイルスであることから名づけられています。パレコウイルス(Parechovirus )属(Genus)は、パレコウイルスA(Parechovirus A )種(Species)とパレコウイルスB(Parechovirus B )種(Species)とに分類されます。以前は、パレコウイルスA(Parechovirus A )種(Species)はヒト-パレコウイルス(Human parechovirus )種(Species)、パレコウイルスB(Parechovirus B )種(Species)はLjunganウイルス(Ljungan virus )種(Species)と呼ばれていました。Ljunganウイルスの名称は、中央スウェーデンのLjungan川の岸辺のハタネズミ(Myodes glareolus ) から最初に分離されたことに由来します。パレコウイルスA(Parechovirus A )種(Species)には、ヒト-パレコウイルス(Human parechovirus )の1~16型が属します。パレコウイルスB(Parechovirus B )種(Species)には、Ljunganウイルスの1~4型が属します。Ljunganウイルスは、げっ歯類に感染するウイルスです。
ヒト-パレコウイルス1型(HPeV-1)は、1956年に小児夏季下痢症の病原体として分離され、エコーウイルス22型(Echo22)と命名され、エンテロウイルス属のエコーウイルスに属していました。ヒト-パレコウイルス2型(HPeV-2)については、胃腸炎や呼吸器感染症の患者の検体から分離されていますが、エコーウイルス23型(Echo23)と命名され、同じくエンテロウイルス属のエコーウイルスに属していました。1999年に、エコーウイルス22型(Echo22)とエコーウイルス23型(Echo23)とは、エンテロウイルス属のエコーウイルスから外れ、それぞれ、ヒト-パレコウイルス1型(HPeV-1)とヒト-パレコウイルス2型(HPeV-2)とされ、新たな属であるパレコウイルス(Parechovirus )属(Genus)とされました。パレコウイルス(Parechovirus )は、「para(パラ) + Echovirus (エコーウイルス)」であり、「para(パラ)」は「疑似の」あるいは「に準じた」の意味の接頭辞で、エコーウイルス(Echovirus )に似ていることから名づけられています。
ヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)については、主に胃腸炎や呼吸器感染症の患者の検体から分離されていますが、2004年に伊藤雅らが報告したウイルスです(参考文献3)。また、ヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)については、新生児や生後3か月以下の早期乳児に敗血症や髄膜脳炎等の重症感染を起こすことがあり、死亡したり神経学的後遺症を残したりすることもあります。感染すれば、症状が見られない不顕性感染の場合でも、便や咽頭からウイルスが排泄されます。
ヒト-パレコウイルスについて、日本では、1型(HPeV-1)と3型(HPeV-3)の検出が多いです。1型(HPeV-1)と3型(HPeV-3)とも、主に胃腸炎や呼吸器感染症の患者の検体から検出されていますが、1型(HPeV-1)は胃腸炎の患者の検体から、3型(HPeV-3)は呼吸器感染症の患者の検体から検出される傾向があります(参考文献3)。また、1型(HPeV-1)は秋から冬に、3型(HPeV-3)は夏から秋に、多く検出される傾向があります(参考文献3)。なお、エンテロウイルスに比較して、低年齢からの検出が目立ちます(参考文献3)。
ヒト-パレコウイルス感染症に対するワクチン(予防接種)は、ありません。
但し、日本国内で販売されているヒト免疫グロブリン製剤のヒト-パレコウイルス3型に対する抗体を調べたところ、すべての製品で高い抗体価を認めたとのことであり、ヒト免疫グロブリン製剤のヒト-パレコウイルス3型感染症に対する予防や治療の効果が期待されます(参考文献8)。
ヒト-パレコウイルス感染症を広げないあるいは、ヒト-パレコウイルス感染症にかからないためには、病原体(ヒト-パレコウイルス)を広げないあるいは、病原体をもらわない習慣を身に付けていることも大切だと思われます。呼吸器からの飛沫を少なくするには、マスクをする。咳・痰・くしゃみ・鼻水のときには、ティシュペーパーで口と鼻とをおおう。その後すぐに手をよく洗う。手を乾かすのは、使い捨てタオル、ドライヤー。タオルは自分専用にして他の人と共用しない。手が病原体を粘膜まで運び、粘膜から病原体が侵入する可能性も考えられます。眼・鼻・口などに触れるときには、事後だけでなく事前にも手をよく洗いましょう。トイレの後や食事の前にも手をよく洗いましょう。換気の少ない狭い空間で多人数で長時間すごすのは控えましょう。あいさつは、握手・抱擁・キスなどの身体接触を止めて、会釈や言葉だけで済ませましょう。多くの人が触る公共物に触るのは控えましょう。触ったら、すぐに手をよく洗いましょう。
ヒト-パレコウイルス感染症については、患者の便中に排出されたウイルスが口から入ることでも感染を起こします。予防のためには、トイレの後や食事の前などによく手を洗うことが大切です。
ヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)については、新生児や生後3か月以下の早期乳児に敗血症や髄膜脳炎等の重症感染を起こすことがあります(参考文献4、5、6)。親など大人や兄・姉などこどもが感染しても感冒などの軽い症状や無症状であったりします。新生児や生後3か月以下の早期乳児がいる家庭では、感冒症状のある人はマスクを着用し、皆で手洗いを徹底して、赤ちゃんのヒト-パレコウイルス3型(HPeV-3)の感染予防に努めましょう。
2016年10月14日掲載
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