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■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
最終更新日 2020年3月16日
A型肝炎(HA:hepatitis A)はA型肝炎ウイルス(HAV:hepatitis A virus )によって起こされる急性のウイルス性肝炎です。近年において、2003年まで、急性ウイルス性肝炎の年間発生患者数としては、アメリカ合衆国では、A型肝炎が1番多かったです。現在のアメリカ合衆国では、急性ウイルス性肝炎についてはB型肝炎が1番多くなっています。アメリカ合衆国では、免疫効果が高い新しいA型肝炎ワクチンが用いられる前の時代において、年間約3万人のA型肝炎の発生報告がありました。アメリカ合衆国のウイルス性肝炎調査(1993年)によれば、A型肝炎の感染の原因としては、不明47%、A型肝炎に感染した人との接触22%、こどもたちなどの世話をするデイ-ケア-センターでの感染の可能性17%、国際旅行6%、男性同性間の性行為5%、静脈注射での麻薬使用2%、食中毒あるいは水の汚染による発生の疑い2%、となっていました。下の図1のように、アメリカ合衆国では、新しいA型肝炎ワクチンが1995年に認可されてから、A型肝炎の年間発生報告数は減少しています。現在のアメリカ合衆国では、A型肝炎ワクチンは、こどもの定期予防接種の一つとなっています。
日本でも、感染症発生動向調査の届け出では、急性ウイルス性肝炎としてはA型肝炎はB型肝炎と並んで多かったです。日本における、近年の各種の急性ウイルス性肝炎の年間患者発生報告数推移は下の図2のとおりです。A型肝炎は日本の感染症発生動向調査では4類の全数把握の感染症です(A型肝炎の届出基準はこちらのページから)。なお、下の図2のグラフの「その他のウイルス性肝炎」としては、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどによるウイルス性肝炎が含まれます。近年、E型肝炎の年間患者発生報告数が増加しているのが目立ちます。2015年には、年間患者発生報告数について、A型肝炎243人、B型肝炎206人、E型肝炎212人で、E型肝炎が初めてB型肝炎を上回り、A型肝炎、B型肝炎、E型肝炎が同等レベルになっています。A型肝炎については、最近では2018年の急激な増加が目立ちますが、後述の「性感染症としてのA型肝炎」の項をご覧下さい。
日本におけるウイルス性肝炎年間患者発生報告数推移(感染症発生動向調査:2000-2018年)
日本の感染症発生動向調査において、2006-2008年の三年間に報告された645例(2006年320例、2007年156例、2008年169例)について、国立感染症研究所が分析しています(参考文献8)。
男性375例(58.1%)、女性270例(41.9%)と男性が多いです。年齢は、1-93歳で中央値は45歳でした。死亡例の報告はありませんでした。感染地域は、国内469例(72.7%)、国外173例(26.8%)、不明3例(0.5%)でした。
国外で感染した173例の内、国名の報告があったのは170例で、複数の国名の記載もあったため、国名の報告総数は190となりました。インド42例(24.3%)、フィリピン22例(12.7%)、韓国20例(11.6%)、インドネシア15例(8.7%)、中国13例(7.5%)、パキスタン10例(5.8%)など、アジアでの感染例が症例数として141例(81.5%)で多数を占めました。(なお、2002-2004年のアメリカ合衆国では、国外での感染の約75%は、メキシコや中南米への旅行者です。)国外173例の内、感染経路は、経口感染152例(87.9%)、性的接触2例(1.2%)、不明が19例(11.0%)でした。経口感染の感染源(原因食材・食品)の記載のあった50例では、複数の記載もあったため、感染源(原因食材・食品)の報告総数は56となりました。カキ以外の海産物が20例、水が19例、野菜・フルーツが10例、カキが5例、肉類が2例でした。
国内で感染した469例の内、感染経路は経口感染354例(75.5%)、不明が115例(24.5%)でした。経口感染の感染源(原因食材・食品)の記載のあった165例では、複数の記載もあったため、感染源(原因食材・食品)の報告総数は177となりました。カキ以外の海産物が74例、カキが73例、寿司が16例、肉類が7例、水が5例でした。
また、家族や同一施設内での患者からの感染とされる報告が18例(10.4%)ありました。
A型肝炎ウイルス(HAV:hepatitis A virus )は、A型肝炎ウイルスに感染している人の便の中に出てきます。この便の中に出てきたA型肝炎ウイルスが口から入ることで他の人が感染することになります。小さなこどもたちは、感染してもしばしば黄疸などの症状が出ない場合があり、また、衛生面でもこども本人は積極的でないので、しばしば感染した小さなこどもたちが知らない間に感染源となつてしまうことがあります。母親からもらった抗体が新生児をA型肝炎ウイルスの感染から守ることがありますが、母親からもらった抗体はだんだんと少なくなり幼児の内に感染し数週間から数ヶ月の間、A型肝炎ウイルスの感染源となることがありえます。衛生施設が十分でない発展途上国では、大部分の人が感染することになります。Chadhaらのインドでの研究によれば、インドにおいては、生後間もなくは、母親からもらった抗体により抗HAVのIgG抗体の陽性率は高いですが月齢とともに低下し、月齢11.67ヶ月で最低の陽性率9.25%になります。その後は、月齢とともに抗HAVのIgG抗体の陽性率は上昇し、月齢13-15ヶ月で28.9%、6歳までには90.9%となります。Chadhaらは、インドでA型肝炎の予防接種を乳幼児にする場合に、母親からの免疫抗体が消失する月齢9-10ヶ月で行うことができたら理想的だとしています。また、日本のようにA型肝炎が少ない国から、衛生施設が十分でない発展途上国に行くようなときには、A型肝炎の予防接種などのA型肝炎対策を考慮する必要があります。
A型肝炎患者が大量発生した例としては、1988年1-3月に中国の上海で292301人の患者が発生した例があります。32人の死者が出て、致死率は0.01%でした。Hallidayらによれば、罹患率は、4083/100000に及び、原因は、A型肝炎ウイルスで汚染された貝(clam)を生で食べたことでした。ハマグリ、カキ、トリガイ、ムラサキイガイなどの貝類を生で食べることでA型肝炎に感染することがあります。A型肝炎ウイルスは、海水中では長期間生存すると考えられています。便で汚染される可能性がある海における海産物には注意が必要です。また、A型肝炎ウイルスで汚染された、レタスなどのサラダの材料や冷凍イチゴなどを食べることで、A型肝炎が多発した例が、欧米で報告されています。貝類を中心に、十分加熱されることなく食べられる食物については、注意が必要です。
アメリカ合衆国では、飲み水を介しての感染は少ないです。井戸水がA型肝炎ウイルスで汚染されて患者発生が見られた例があります。水泳用プールが下水汚物で汚染されて感染源となりえることもあります。A型肝炎ウイルスは患者の便中に出てくるので、A型肝炎が下水汚物関係の従事者の仕事に伴う危険とみなされている国もあります。
A型肝炎の古い記述は、流行性の黄疸として記述したヒポクラテス(紀元前460年頃-370年頃;「医学の父」とも呼ばれるギリシャの医師)まで遡ることができます。
新しいA型肝炎ワクチンが用いられる前の時代において、アメリカ合衆国では、毎年、約100人が劇症のA型肝炎で亡くなっていました。報告された患者について致死率は約0.3%ですが、高齢の方が致死率は高く、40歳以上の患者では致死率は約2%です。
地域におけるA型肝炎ウイルスの蔓延状況により、世界保健機関(WHO)は、高レベル感染地域、中レベル感染地域、低レベル感染地域の三つの地域の分類をしています(参考文献12)。
高レベル感染地域では、衛生施設や衛生的な実践に乏しく、10歳未満で大部分のこどもが症状なしに感染してしまい、大きなこどもや大人は免疫を持っています。そのため、患者の発生や多発は少ないです。高レベル感染地域では、A型肝炎ワクチンの使用による便益は少ないとして、世界保健機関(WHO)はA型肝炎ワクチンのこどもへの定期予防接種を推奨していません。
中レベル感染地域では、衛生施設や衛生的な実践がまちまちで、地域によっては、感染することなく成長し、免疫のない大人も多数存在します。免疫のない人の間で感染が起こり、患者の多発に至ることがあります。中レベル感染地域では、世界保健機関(WHO)はA型肝炎ワクチンのこどもへの定期予防接種を推奨しています。
低レベル感染地域では、衛生施設や衛生的な実践が充実し、感染の機会が少ないです。感染することなく成長し、免疫のない大人が大多数です。これらの免疫のない人の間で感染が起こっても、充実した衛生施設や衛生的な実践により、患者の広がりを防ぎやすいです。低レベル感染地域では、世界保健機関(WHO)は、高レベル感染地域・中レベル感染地域への旅行者などへのA型肝炎ワクチンの予防接種を推奨しています。日本は低レベル感染地域と考えられます。
近年の日本では、上の図2に見るように、2018年のA型肝炎の年間発生報告数が926人(内、男833人、女93人)と非常に多かったです(参考文献21)。2015年が243人、2016年が272人、2017年が285人でした。2018年の都道府県別内訳では、東京都が421人(内、男406人、女15人)、神奈川県が95人(内、男88人、女7人)、埼玉県が41人(内、男38人、女3人)、千葉県が36人(内、男33人、女3人)と東京都が非常に多く、東京都近隣の県も多かったです。女性に比べて男性の患者が多いのも目立ちます。東京都健康安全研究センターでは、2018年の東京都におけるA型肝炎の流行の実態について、同センターに搬入され遺伝子検査によりHAV陽性となった患者検体319例の分子疫学的解析を行いました(参考文献18)。319例の遺伝子型の内訳はⅠAが317例(99.4%)、ⅠBが1例(0.3%)、ⅢAが1例(0.3%)でした。このⅠAの317例中、309例の配列は、近年台湾や欧州の男性同性間性的接触者の間で流行の見られたRIVM-HAV16-090株と同じクラスターに分類されました。また、3例の配列は、2017年から東京、長野、宮崎を中心に流行し輸入冷凍アサリとの関連が指摘されている2017年流行株(LC415421)と同じクラスターに分類されました。2018年の東京都におけるA型肝炎の流行の実態としては、同性間性的接触者を中心とした同一株の流行であることが明らかになりました。2012年からの東京都健康安全研究センターで得られたHAVの塩基配列データによれば、RIVM-HAV16-090株の属する系統は、2016年に初めて台湾渡航中に同性間性的接触歴のある患者から検出され、その後、台湾渡航歴のある患者からの検出が続き、2017年以後は同性間性的接触歴がある国内感染疑い患者からの検出が増加し、2018年の流行に至りました。
米国、カナダ、オーストラリアや欧州の都市部において、MSM(男性と性交渉のある男性)の間でA型肝炎の流行が繰り返されています。2017年3月9日には、米国ニューヨーク市健康精神衛生局が、MSM(男性と性交渉のある男性)の間でA型肝炎患者の発生が増えているとして警報を発し、すべてのMSMの人たちが、二回のA型肝炎のワクチン接種を受けるように強く推奨しました。1996年以来、米国の予防接種勧告委員会(ACIP)は、すべてのMSMの人たちに対して二回のA型肝炎のワクチン接種を勧奨しています。1回目の6-12か月後に2回目を接種します。二回のA型肝炎のワクチン接種で25年以上持続する免疫が獲得されるとされています。2005年からA型肝炎ワクチンは、米国のこどもの定期予防接種となっています。また、2015年に、ニューヨーク市では、A型肝炎ワクチンの定期予防接種を受けそこなったこどもでも18歳まで接種可能としました。
A型肝炎ウイルスが経口的に体内に入ってから発病に至るまでの期間、つまり潜伏期は通常15-50日、平均で28-30日です。まず、食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、気分不快、発熱、頭痛などの症状が見られる場合が多いです。タバコが嫌いになったり、悪寒、咳、下痢、便秘などが見られることもあります。この黄疸に先立つ前触れ症状の期間は、平均的には5-7日ですが1日から2週間以上にわたることもあります。しかし、15%の場合では、黄疸に先立つ前触れ症状は見られません。
通常、前触れ症状に続いて、黄疸が現れます。黄疸が明らかになる前に暗色の尿に驚かされることがあります。黄疸の出現とともに、前触れ症状は消える場合もありますが、長引く場合もあります。黄疸では、体全体が黄色く染まって見えます。普段は白い眼球の白目の部分が黄色く染まるのが目立ちます。患者は疲労を訴えることがあります。黄疸の期間は数日から1ヶ月間と人によってまちまちです。若い人の方が短い傾向があります。すべての症状は2ヶ月未満で消えるのが通常です。但し、症状が出た人の10-15%については、症状が、長引いたり、再発したりして6ヶ月に達することもあります。また、A型肝炎には、胆嚢炎・膵臓炎・腎臓炎などが伴うことがあります。
黄疸などの症状が現れなくてもA型肝炎になっている場合があります。A型肝炎ウイルスで汚染された食物を食べた人たちについて、血液中のAST、ALTなどの肝臓の検査や抗HAV抗体検査などをすることで、そのような場合が明らかになります。
A型肝炎ウイルスに感染して症状が出るか出ないかは、年齢に左右されます。6歳未満のこどもでは、通常は症状が見られず、黄疸が見られるのは10%程度です。大きなこどもやおとなでは、通常症状があり、70%以上で黄疸が見られます。日本では、死亡例はまれですが、報告されることがあります(参考文献13)。
A型肝炎ウイルスは、急性の肝炎を起こすことはあっても、長期にわたる慢性の肝炎にはならないと考えられています。一度感染して完治すれば、一生涯にわたる免疫を獲得します。また、いつまでも感染源としてA型肝炎ウイルスを持ち続けるようなことは、ありません。
病原体は、A型肝炎ウイルス(HAV:hepatitis A virus )です。A型肝炎ウイルスは、ピコルナウイルス科の中のヘパトウイルス属(genus Hepatovirus )に属します。ピコルナウイルス(Picornaviridae )は、小さな(ピコ:pico )、遺伝子がRNA(ルナ:rna)であるウイルスです。ピコルナウイルス科には、ライノウイルス(人の鼻カゼを起こすヒト-ライノウイルス)やエンテロウイルス(ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、ヒト-エンテロウイルス)も属します。A型肝炎ウイルスは、pH 1 の強酸性でも安定で、胃の中で胃酸によって不活化することはありません。また、A型肝炎ウイルスは、摂氏60度で60分の加熱にも安定です。
食物とともに飲み込まれたA型肝炎ウイルスは、胃や小腸から吸収され、腸管の粘膜で増殖し、血液の流れに乗って、肝臓にたどりつき、肝臓で増殖します。増殖したA型肝炎ウイルスは、胆汁や血液中に出てきます。胆汁中のA型肝炎ウイルスは十二指腸に出てきますが、再び小腸から吸収されるものもあれば、便と一緒に体外に排出されるものもあります。また、腸管の粘膜でもA型肝炎ウイルスの増殖が起こると考えられています。A型肝炎ウイルスについて、血液の流れに乗って腸から肝臓へ、胆汁の流れに乗って肝臓から腸へという、腸-肝臓循環(サイクル)ができますが、この腸-肝臓循環(サイクル)はA型肝炎ウイルスに対する免疫が働きだすまで続きます。
A型肝炎の名称は、1947年に F.O.MacCallum とD.J.Bauerとが、潜伏期が15-50日間と比較的短く経口感染する伝染性肝炎をA型肝炎、潜伏期が50日以上と比較的長く血液を介して感染する血清肝炎をB型肝炎と呼ぶことを提唱してからのことです。その後、A型肝炎・B型肝炎以外の感染性の肝炎については、非A・非B肝炎と呼ばれるようになりましたが、現在では、C型肝炎・D型肝炎・E型肝炎などの存在が知られています。これらのウイルス性肝炎について主要なものをまとめると下の表1の通りです。発見順にHAV、HBV、HCV、・・・と名前が付けられています。今後も新しい肝炎ウイルスが発見されるかもしれないとして、「はたして、肝炎ウイルスは何種類あるのか?」という問題に対しては「HAV、HBV、HCV・・・HGVまでで7種類である。なぜなら、HHVはヒト-ヘルペスウイルスで肝炎ウイルスではないから。」という冗談を言う研究者もいます。
感染者の感染力が強いのは、黄疸症状の出現の前の2週間です。この間の便中へのウイルスの排出は多いです。黄疸症状の出現の後は、便中へのウイルスの排出は減ります。発病の7-10日後までには顕著に減りますが、3週間後まで排出が続くこともあります。大人に比較すると、こどもたちの便中へのウイルスの排出は長く続き発症後10週間まで続くこともあります。
肝炎ウイルス | ウイルスの略称(英語名) | 遺伝子 | エンベロープ(ウイルスの外側の膜構造) | 感染経路 | 分類 | 感染症法での扱い(届出基準[PDF版]) |
---|---|---|---|---|---|---|
A型肝炎ウイルス | HAV (hepatitis A virus) | RNA | エンベロープなし | 糞便から経口感染 | ピコルナウイルス科のヘパトウイルス属 | 4類「A型肝炎」 |
B型肝炎ウイルス | HBV (hepatitis B virus) | DNA | エンベロープあり | 血液を介しての感染 | ヘパドナウイルス科(hepadnaviridae) | 5類「ウイルス性肝炎」 |
C型肝炎ウイルス | HCV (hepatitis C virus) | RNA | エンベロープあり | 血液を介しての感染 | フラビウイルス科のヘパキウイルス属 | 5類「ウイルス性肝炎」 |
D型肝炎ウイルス | HDV (hepatitis D virus) | RNA | HBVによるエンベロープあり | 血液を介しての感染 | HBVをヘルパーウイルスとする衛星ウイルス | 5類「ウイルス性肝炎」 |
E型肝炎ウイルス | HEV (hepatitis E virus) | RNA | エンベロープなし | 糞便から経口感染 | 以前は、カリシウイルス科 | 4類「E型肝炎」 |
いろいろな肝炎の中からA型肝炎と確定するため、血清中の抗HAV(A型肝炎ウイルス)IgM抗体の検査は有用です。HAV(A型肝炎ウイルス)に対するIgM抗体は、発病の5-10日前から検出され始め、6ヶ月近く検出されることがあります。一方、血清中の抗HAV(A型肝炎ウイルス)IgG抗体は、回復期に現れ、生涯保持されてA型肝炎に対する免疫に関与します。
また、PCR法によるA型肝炎ウイルスの検出は、A型肝炎の集団発生の感染源の特定のため有用です。
A型肝炎の予防のためには、手をよく洗うことを習慣づけましょう。トイレの後、食事の前、料理を作る前、オムツ替えの後などには、よく手を洗いましょう。また、料理はよく加熱して食べましょう。
条件によっても違いますが、A型肝炎ウイルスは、体外で数ヶ月生き残ることがあります。摂氏85度より高い温度で1分以上加熱することでA型肝炎ウイルスを不活化することができます。また、モノの表面の消毒ついては、次亜塩素酸ナトリウム溶液などでA型肝炎ウイルスを不活化することができます。
A型肝炎には、予防接種(ワクチン)があります。主な予防接種(ワクチン)は、細胞培養したウイルスを不活化したワクチンです。アメリカ合衆国で認可されているワクチン(販売名: HAVRIX, VAQTA)には、生後12ヶ月から18歳までを対象者とする小児用と、19歳以上を対象者とする成人用とがあります。二度の接種(1度目の接種の半年後に2度目の接種をします。)で20年以上にわたる長期の免疫が獲得できると考えられています。現在のアメリカ合衆国では、A型肝炎ワクチンは、こどもの定期予防接種の一つとなっています。これに対して、日本で認可されているワクチン(販売名:エイムゲン[Aimmugen])では、三度の接種(1度目の接種の2-4週間後に2度目の接種をし、さらに1度目の半年[24週]後に3度目の接種をします。)で約5年間の免疫が獲得できると考えられています。日本では以前は対象者は16歳以上でしたが、2013年3月から全年齢で接種可能となりました。日本で認可されているワクチン(販売名:エイムゲン[Aimmugen])は、日本で開発されたもので、海外では発売されていません。日本、英国、ニュージーランドでは、A型肝炎ワクチンは、こどもの定期予防接種とはなっていません。アメリカ合衆国(1歳の間に6ヶ月以上の間隔で2回接種)の他、パナマ(生後12ヶ月、18ヶ月に接種)、ギリシア(生後12ヶ月過ぎ、および、その6ヶ月後に接種)、イスラエル(生後18ヶ月、24ヶ月に接種)、サウジアラビア(生後18ヶ月、2歳に接種)などで、こどもの定期予防接種となっています。
劇症型のA型肝炎となることは少ないですが、慢性の肝臓疾患を持っている人の方が重症となりやすいです。慢性の肝臓疾患を持っている人で、A型肝炎の免疫を持っていない人では、A型肝炎の予防接種も考慮されます。アメリカ合衆国のCDC(疾病管理センター)では、西ヨーロッパ・スカンジナビア・カナダ・日本・オーストラリア・ニュージーランド以外の国への国際旅行者、男性と性交渉を持つ男性、違法薬物の使用者、感染の可能性のある職業の人、血液凝固因子の異常がある人、慢性の肝臓病がある人に、A型肝炎の予防接種を勧奨しています。
海外では、短期間の借り物の免疫を獲得するために免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)が使われることがあります。A型肝炎ウイルスとの接触から2週間以内であれば免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)の使用で防御効果が期待できます。A型肝炎の発病を防ぐことに80-90%有効です。A型肝炎の流行地への国際旅行に際して、免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)が使用されることもあります。また、免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)は、A型肝炎の他にも、麻疹やポリオの予防及び症状の軽減のために使用されることもあります。しかしながら、日本では、A型肝炎の発病を防ぐための免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)の使用は推奨されません(参考文献10)。日本においては、50歳以下のA型肝炎ウイルス抗体保有率はほとんど0%であることから、注射用の免疫グロブリンの原材料となる国内献血由来血漿中のA型肝炎ウイルス抗体の量が十分でないと考えられるからです(参考文献11)。2013-15年の広島県における抗A型肝炎ウイルス抗体保有率を調べたYamamotoらの研究があります(参考文献17)。20代、30代、40代、50代、60代、70代の抗A型肝炎ウイルス抗体保有率は、男性で0.0%、1.0%、0.0%、2.0%、28%、70%、女性で0.0%、2.0%、0.0%、2.0%、26%、71%でした。
なお、1-40歳の健康な人について、A型肝炎ウイルスとの接触から2週間以内での、免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)の使用とA型肝炎ワクチンの接種とでは、A型肝炎の発病を防ぐ効果に差がみられないとして、アメリカ合衆国ではA型肝炎ウイルスとの接触後2週間以内にA型肝炎ワクチンが発病を防ぐために接種されることがあります。また、アメリカ合衆国では、以前はA型肝炎の免疫がない人がA型肝炎の流行地に行くような場合には出発の4週間前にはA型肝炎の一度目の予防接種を終えている必要があるとされていましたが、現在では1-40歳の健康な人については出発の直前の接種でも構わないとされています(参考文献9)。40歳以上の人、免疫抑制のある人、慢性肝疾患の人などで2週間以内に出発する場合には、A型肝炎ワクチンに加え、免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)も考慮されます。A型肝炎ワクチンと免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)とは、違う注射器で離れた部位に接種します(参考文献7)。
免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)については、一般に、不活化ワクチン(三種混合ワクチン[DPT]、日本脳炎ワクチン等)に対する免疫反応に干渉しません。また、生ワクチンであっても経口ポリオワクチンや黄熱ワクチンに対する免疫反応にも干渉しません。しかし、他の生ワクチン(例えば、麻疹・風疹・流行性耳下腺炎[ムンプス]・水痘のワクチン)に対する免疫反応に干渉することがありえます。この干渉により生ワクチンによる十分な免疫が獲得されないことを避けるためには、麻疹・風疹・流行性耳下腺炎[ムンプス]のワクチン接種から2週間未満での免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)の使用は控える必要があります。あるいは、水痘のワクチン接種から3週間未満での免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)の使用は控える必要があります。早急な免疫獲得の必要性があって、麻疹・風疹・流行性耳下腺炎[ムンプス]のワクチン接種から2週間未満で、あるいは、水痘のワクチン接種から3週間未満で免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)を使用した場合には、生ワクチンを改めて再接種する必要があります。アメリカ合衆国では、免疫グロブリン(IgG:筋肉注射)の使用後に生ワクチンを接種する場合には、麻疹・風疹・流行性耳下腺炎[ムンプス]のワクチンであれば3ヶ月以上の間隔、水痘のワクチンであれば5ヶ月以上の間隔を空けての接種とします(参考文献5)。
A型肝炎ウイルスワクチンとしては、不活化ワクチン以外にも、弱毒生ワクチンが開発されて中国・インドで使用されています(参考文献14)。弱毒生ワクチンについては、1歳以上で一回の皮下接種です。妊婦や重症の免疫不全患者には接種できません。中国の弱毒生ワクチンについては、少なくとも3年間は、95%で発症予防に有効です。
2002年4月23日初掲載
2002年8月23日改訂
2010年2月2日増補改訂
2013年6月14日更新
2017年8月2日増補改訂
2019年6月12日増補改訂
2020年3月10日増補改訂
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