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Bウイルス病(Bウイルス感染症)について

■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。

最終更新日 2019年12月13日

流行は?

 令和元年(2019年)11月28日(木)、鹿児島市内の医療機関から鹿児島市保健所にBウイルス病の発生の届け出がありました。患者は、平成31年(2019年)2月に、頭痛、発熱等で医療機関を受診していて、令和元年(2019年)11月28日(木)現在も治療中です。患者は、実験動物施設の従事者1名であり、カニクイザルとアカゲザルとを飼育する実験動物施設内での感染と考えられます。患者は防護服を着て作業し、サルに咬まれたり引っかかれたりしたことはないとのことです。サルの唾液や尿などに接触して感染した可能性が考えられています。実験動物施設では、防護服の機能を強化するなどして、感染症対策を進めているとのことです。Bウイルス病は、日本では、感染症法上、4類感染症に属しますが、これまで届け出がなく、今回の届け出が日本における第一例となります。Bウイルスの人への感染事例は世界的にも少なく、全世界でも累計50例程度とされています。届け出基準はこちらをご覧下さい。

どんな病気?

 唾液等にBウイルスが排出されているサルによる咬傷が主たる感染経路です。咬傷後、局所でBウイルスが増殖し、水疱性あるいは潰瘍性皮膚粘膜病変を生じることがあります。さらに、ウイルスは、末梢神経を経て、中枢神経組織に到達し、接触部位の感覚異常、麻痺等を起こすことがあります。さらに、上行性に、脊髄、延髄、橋と徐々に感染が広がり、横断性脊髄炎、上行性脊髄炎、脳脊髄炎を起こし、死に至ることがあります。
 人がBウイルスに曝露してから発病するまでの潜伏期間は、2日から5週間ですが、多くは5-21日です。但し、曝露から10年後に発病したと考えられる例もあります(参考文献9)。
 Bウイルスは、ヘルペスウイルスの仲間であり、マカク属(マカカ属)のサル(カニクイザル、アカゲザル、タイワンザル、ニホンザル、ボンネットザル、ブタオザル、ベニガオザル等)では、初感染の後、多くは不顕性感染の経過をとり、後根神経節に潜伏感染を引き起こします。ストレスや免疫抑制などの要因により潜伏感染から再活性化を繰り返します。再活性化の過程で唾液、結膜(涙液)、陰部粘膜(尿)からウイルスが分泌されて感染源となり、咬傷や引っ掻き傷などの接触感染により伝播するものと考えられています。サルの糞尿が右目にはねての人の感染例も知られています(参考文献11)。感染サルでは軽症(不顕性感染、口腔内潰瘍)なのですが、ヒトやマカク属以外のサルが感染すると脳脊髄炎症状を呈し、死に至ることがあります。致死率はヒトで約50%程度です。薬物治療を行った場合の致死率は20%と低く、薬物治療を行わなかった場合の致死率は70-80%と高いです。
 抗ウイルス薬のアシクロビル(バラシクロビル[アシクロビルの経口薬])、ガンシクロビル(バルガンシクロビル[ガンシクロビルの経口薬])が有効です。マカク属サル(macaque monkeys)を扱った後に、水疱性あるいは潰瘍性皮膚粘膜病変や、接触部位の感覚異常、麻痺等があった場合は、抗ウイルス薬投与を可能な限り早期に開始します。

病原体は?

 Bウイルス病の病原体は、Bウイルスです。Bウイルスは、ヘルペスウイルス科アルファヘルペスウイルス亜科Simplexvirus属に属します。1932年に米国でカナダ出身の29歳のDr. William Bartlet Brebner(1903年3月9日~1932年11月9日)がポリオウイルスの研究中に外見上は健康なアカゲザルに2本の指を咬まれ、急性進行性髄膜脳炎で死亡したのがBウイルス病の第一例です(参考文献7)。1932年10月22日、Brebner医師は実験中に外見上健康なアカゲザルに左手の2本の指(薬指と子指)を咬まれました。指の傷は表面的なもので、Brebner医師は最初にヨードチンキで、次いでアルコールで消毒して、仕事を続けました。3日後、咬傷部に発赤、腫脹、痛みが見られ、リンパ管炎、所属リンパ節腫大が出現しました。6日目に発熱、10日目に神経症状(上行性麻痺)が出現し、脳脊髄液の単核細胞上昇、蛋白質増加が認められました。外傷部の皮膚には水疱性病変も出現しました。17日目に痙攣・昏睡状態となり、1932年11月9日に呼吸不全(呼吸筋麻痺)にて死亡しました。剖検時、神経系組織には急性横断性脊髄炎と、前頭葉、橋、延髄にも炎症性変化が認められました。1933年にBrebner医師の脳組織からウイルスが分離され、Brebner医師に因み、Bウイルスと呼ばれています(参考文献6)。
 Bウイルスは、単にBウイルスと呼ばれるだけでなく、サルBウイルス(monkey B virus)、ヘルペスBウイルス(herpes B virus)、猿ヘルペスウイルス(herpesvirus simiae)などと呼ばれてきました。Bウイルスの正式名(ICTV[国際ウイルス分類委員会]による)については、下の表1のような変遷が見られています(参考文献10)。

【表1】ICTVによるBウイルスの正式名の変遷
ICTVによるBウイルスの正式名
1995Herpes virus B
1999Cercopithecine herpesvirus 1
2008Macacine herpesvirus 1
2015Macacine alphaherpesvirus 1


 Bウイルス病は、日本では、感染症法上、4類感染症に属します。Bウイルス病が疑われる場合は最寄りの保健所に報告して下さい。必要に応じて、国立感染症研究所ではBウイルス感染に関するウイルス学的検査を実施します。最寄りの保健所を通じて、または国立感染症研究所に相談して下さい。
 抗体については、感染後7-10日の内にIgM抗体が出現し、感染後14-21日の内にIgG抗体が出現します。ウイルスが分離されるのに抗体がない場合もまれにあります。抗原的にBウイルスによく似ているHSV-1やHSV-2に以前に感染した人の場合には、初感染であっても以前に感染していたかのような既往の抗体反応が見られることがあります。

予防のためには・・・

 Bウイルス病に対するワクチンは存在しません。マカク属のサル(macaque monkeys)を扱う際は、手袋、マスク、ゴーグルを含めて防護具を着用します。サルによる咬傷を受けた場合には、傷口をできるだけ早く15分以上流水あるいは石鹸水により洗浄します。0.25%次亜塩素酸溶液による洗浄を薦める報告もあります。目の結膜を洗浄する場合は流水あるいは滅菌水を用います。予防投与として、バラシクロビルの経口投与も考慮し、その場合、外傷部からのウイルス分離、ウイルスゲノム検出、外傷を加えたサルの抗体検査、サルの唾液、結膜擦過、外陰部擦過にウイルスゲノムが存在するかどうかの解析結果がでるまで投与を続けます。結果が陽性である場合、予防投与は最低でも14日間行います。なお、外傷部位の検体採取、患者の血清採取は必ず外傷部あるいは曝露粘膜の洗浄後に行います。患者ならびに患者の家族にはBウイルス病の臨床症状を説明し、その兆候が現れた場合にはすぐに医療機関に連絡するように指示します。
 発症した患者は外傷部、結膜、唾液からウイルスが分離されることが報告されています。これらの部位の治療の際には必ず手袋をし、マスク、ゴーグル等により粘膜を保護することが必要です。外傷部への塗布薬(ハイドロコルチゾンクリーム)のチューブを他の人(患者の妻)と共有し、外傷部(水疱病変)から他の人の皮膚病変部(接触性皮膚炎)へとウイルスが運ばれ、他の人が感染した症例もあります。
 国立大学動物実験施設協議会バイオハザード対策小委員会による「サルを使用した動物実験における人獣共通感染症(特にBウイルス)の防止に関する留意事項」によれば、サルの入手に当たっては、「新に入手したサルの一般的健康状態の把握」及び「Bウイルス抗体の有無」に留意することとしています。同小委員会の報告によれば、日本の動物実験施設協議会傘下31施設について、平成8年8月~12月にマカカ属のサル(Macaca spp.)の947検体を調べたところ、380検体(40.1%)が陽性でした(参考文献5)。
 Bウイルスで汚染されている可能性がある場所では、受傷しないように注意しましょう。サルの檻(おり)で擦り傷を負ってBウイルスに感染した症例があります。次亜塩素酸溶液など有効な消毒剤で環境等の消毒に努めましょう。

参考文献

  1. 本藤 良(日本獣医畜産大学・獣医公衆衛生学教室)「Bウイルス感染症(外部サイト)」:わが国への侵入/蔓延が危惧される動物由来感染症(外部サイト)日本獣医学会(外部サイト)).
  2. Bウイルス病とは(外部サイト)」(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  3. Jeffrey I. Cohen, David S. Davenport, John A. Stewart, Scott Deitchman, Julia K. Hilliard, Louisa E. Chapman, B Virus Working Group, Recommendations for Prevention of and Therapy for Exposure to B Virus (Cercopithecine Herpesvirus 1)(外部サイト), Clinical Infectious Diseases, Volume 35, Issue 10, 15 November 2002, Pages 1191-1203, https://doi.org/10.1086/344754(外部サイト)
  4. 厚生労働省「Bウイルス病について(外部サイト)
  5. 文部省学術国際局学術情報課長通知「大学等における実験動物の取扱いに関する安全管理の徹底について(外部サイト)」平成九年五月二十三日。
  6. Jason D. Pimentel, Herpes B virus --- “B” is for Brebner: Dr. William Bartlet Brebner (1903-1932(外部サイト)), CMAJ(Canadian Medical Association Journal), March 11, 2008, 178(6), 734. DOI:10.1503/cmaj.071098 https://doi.org/10.1503/cmaj.071098(外部サイト)
  7. Albert B. Sabin and Arthur M. Wright; ACUTE ASCENDING MYELITIS FOLLOWING A MONKEY BITE, WITH THE ISOLATION OF A VIRUS CAPABLE OF REPRODUCING THE DISEASE(外部サイト). J Exp Med(THE JOURNAL OF EXPERIMENTAL MEDICINE), 1 February 1934, 59 (2): 115-136. DOI link: https://doi.org/10.1084/jem.59.2.115(外部サイト)
  8. Barkati, Sapha & Bin Taher, Hashim & Beauchamp, Elizabeth & Yansouni, Cedric & Ward, Brian & Libman, Michael. (2019). Decision Tool for Herpes B Virus Antiviral Prophylaxis after Macaque-Related Injuries in Research Laboratory Workers(外部サイト). Emerging infectious diseases. 25(9), September 2019, 1-6. https://doi.org/10.3201/eid2509.190045(外部サイト)
  9. FIERER J, BAZELEY P, BRAUDE AI. Herpes B Virus Encephalomyelitis Presenting as Ophthalmic Zoster: A Possible Latent Infection Reactivated. Ann Intern Med. 1973;79:225-228. doi: https://doi.org/10.7326/0003-4819-79-2-225(外部サイト) (潜伏期10年と考えられる症例)
  10. ICTV(国際ウイルス分類委員会: International Committee on Taxonomy of Viruses)ウイルス分類(外部サイト)
  11. CDC, Fatal Cercopithecine herpesvirus 1 (B Virus) InfectionFollowing a Mucocutaneous Exposure and Interim Recommendations for Worker Protection(外部サイト), MMWR, December 18, 1998 / Vol. 47 / No. 49 / Pg. 1073-1076.
  12. Julia Hilliard, Chapter 57 Monkey B virus(外部サイト); Human Herpesviruses: Biology, Therapy, and Immunoprophylaxis, Arvin A, Campadelli-Fiume G, Mocarski E, et al.,editors, Cambridge University Press: 2007.

2019年12月13日初掲載

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