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■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
最終更新日 2019年6月28日
黄熱(おうねつ: yellow fever: YF)は、サハラ砂漠以南のアフリカおよび南アメリカの熱帯で見られます。年間で全世界で約20万人の患者が発生し、約3万人が死亡すると推計されています(参考文献4, 7)。媒介する可能性がある蚊が生息するにもかかわらず、アジアの熱帯で見られない理由はよくわかっていません。
媒介する可能性があるAedes aegypti (ネッタイシマカ)が生息する南欧、北アフリカ、北アメリカ、アジア、オーストラリア、オセアニアは、黄熱が侵入する恐れがある地域とみなされています。
黄熱が見られるアフリカおよび中南米の47か国の人たちが黄熱の脅威を受けています(参考文献3)。アフリカについては、34か国の人たちが黄熱の脅威を受けています。残りの13か国は中南米で、ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルーで発生が多いです。
病原体である黄熱ウイルスに感染しているAedes 属(ヤブカ属)あるいはHaemagogus 属などの蚊に刺されることで、人間は感染します。Aedes 属あるいはHaemagogus 属などの蚊は、感染している霊長類(サル・人間)を刺すことで感染します。黄熱ウイルスの感染経路としては、下の図1のように、ジャングル・森林においてジャングル(森林)型感染サイクルがあり、このジャングル(森林)に立ち入った人間が蚊にさされ感染して黄熱ウイルスを人間社会に持ち帰ることで都会型感染サイクルが始まり人間での黄熱の多発が起こると考えられます。ジャングル(森林)型感染サイクルの蚊は、アフリカではAedes africanus 、南アメリカではHaemagogus 属およびSabethes 属の蚊です。都会型感染サイクルの蚊は、Aedes aegypti (ネッタイシマカ。黄熱蚊とも呼ばれますが、デング熱・チクングニヤ熱・ウエストナイル熱の病原体も媒介します)です。なお、アフリカのジャングル(森林)の周辺境界部では、サル・人間と蚊との間の感染サイクルが見られ中間型(サバンナ型)感染サイクルと言います。
南アメリカでは、雨が多く、湿度が高く、温度が高い1-5月に黄熱の発生が多いです。
アフリカでは、流行の報告の多くは西アフリカからのものでした。中央アフリカや東アフリカからのものは少なかったです。この理由については、はっきりしていませんが、以下のような、いくつかの推論がなされています。
1. 西部の方が、人間もAedes aegypti (ネッタイシマカ)も密集しているので。
2. 東部と西部では蔓延している黄熱ウイルス株の遺伝子型(genotype)が違うので。
3. 東部においては黄熱ウイルス以外の近縁のフラビウイルス(ウエストナイルウイルスなど)に対する抗体の存在が黄熱ウイルスに対する免疫にも役立つ可能性があるので。
4. 東部においては黄熱ウイルスを媒介する蚊がより人間を刺さない傾向があるので。
近年起こった黄熱の大きな流行としては、後で「予防のためには・・・」の項でも触れますが、2015年12月にアフリカのアンゴラで始まった流行や2016年12月に南米のブラジルで始まった流行があります。アンゴラでの流行とブラジルでの流行とでは、流行の広がり方に差異が見られました。アンゴラでは都市部に始まって農村部に広がりましたが、ブラジルでは農村部で始まって都市部に広がりました。
日本の感染症法では、4類の感染症とされています。1999年4月から2016年末までの日本における黄熱患者発生の届け出は0人です(黄熱の届出基準はこちらのページから)。媒介蚊であるAedes aegypti (ネッタイシマカ)については、日本では、南西諸島で昔生息していましたが、現在は生息が確認されていません。なお、米国や日本でも生息しているAedes albopictus (ヒトスジシマカ)については、媒介する可能性があると考えられています。
病原体である黄熱ウイルスを持っている蚊(ネッタイシマカなど)に刺されてから発病するまでの潜伏期間は3-6日間です。突然に悪寒戦慄とともに高熱がでます。嘔吐、筋肉痛、出血(鼻出血・歯齦出血・黒色の嘔吐物・下血・子宮出血など)、蛋白尿、比較的徐脈(高熱にもかかわらず48-52/分と脈拍数が遅く、Pagetの徴候と呼ばれます。発病して2日目までに見られます)、黄疸等が見られます。このうち、黄疸・出血・蛋白尿が三徴候とされます。「黄熱(yellow fever)」の「黄(yellow)」については、黄疸で患者が黄色くなることに由来します。発病して7-8日目から快方に向かい治癒することも多いですが、発病して5-10日目に乏尿・心不全・肝性昏睡などから約10%が死亡します。治癒後は終生の免疫が獲得されます。
一方、軽症例では、発熱・頭痛で突然発症し、悪心・嘔吐・結膜充血・蛋白尿が見られることがあるものの、1-3日で回復します。
なお、病原体である黄熱ウイルスを持っているネッタイシマカなどに刺されて感染しても、必ずしも発病せず、無症状の場合もあると考えられています。西アフリカの流行においては、地域人口の30%までが感染し3-4%が発病します。
黄熱は、ウイルス性出血熱の一つです。ウイルス性出血熱とは、arenavirus(アレナウイルス:ラッサ熱)、filovirus(フィロウイルス:エボラ出血熱およびマールブルグ出血熱)、bunyavirus(ブンヤウイルス:クリミアコンゴ出血熱・リフトバレー熱・腎症候性出血熱)、flavivirus (フラビウイルス:黄熱・デング出血熱)の4つのウイルスのグループに属する種種のウイルスによって起こされる発熱と出血を主症状とする感染症の総称です。詳しくは、当・横浜市衛生研究所ホームページ「ウイルス性出血熱について」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。
黄熱に対する特効薬はありません。症状に応じた対症療法が中心になります。
病原体は、フラビウイルス属に属する黄熱ウイルス(yellow fever virus: YFV)です。フラビウイルス属に属するウエストナイルウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルスなどと抗原的に近縁です。フラビウイルス属に属するウエストナイルウイルスやデングウイルスなどによる感染でも黄熱ウイルスに対する抗体反応が陽性になることがあり、診断に際しては注意が必要です。
発病初期においては、血液・尿からのPCR(Polymerase chain reaction) 法による黄熱ウイルス遺伝子の検出がしばしば診断に役立ちます。
ウイルス血症を起こしている霊長類(サル・人間)から蚊が吸血してから、蚊の体内でウイルスが増殖し蚊が感染力を獲得するまで4-10日とされ、その間は蚊に感染力はありません。
黄熱ウイルス(yellow fever virus)の属するflavivirus(フラビウイルス)属については、属の代表ウイルスが、黄熱ウイルス(yellow fever virus: YFV)であることに因んで命名されました。flavivirus(フラビウイルス)のflavi(フラビ)の部分はラテン語で黄色を意味するflavusに由来します。
日本の医学者の野口英世博士は1876年11月24日に福島県猪苗代に生まれ、アメリカ合衆国で細菌学者として活躍し、1928年5月21日に西アフリカのガーナのアクラ(Accra)で51歳で亡くなりました。野口英世博士は黄熱の病原体に関する研究中に黄熱を発病し亡くなっています。
黄熱ウイルス(yellow fever virus)は、もともと、アフリカ大陸に存在するウイルスでした(参考文献14)。大西洋をはさんだ奴隷交易の時代にアフリカ大陸からアメリカ大陸に運び込まれました。アメリカ大陸での黄熱の流行の最初の記述は、1648年のユカタン半島での流行です。その後200年以上に亘り、アメリカ大陸の熱帯や北アメリカの沿岸部の町や欧州などで流行が見られていました。1793年には米国フィラデルフィアで流行が見られたこともあります。19世紀末、米国はスペインとの戦争でキューバに侵攻しましたが、このとき、黄熱で13人が死亡しています。米国のGeorge Sternberg軍医総監は、Walter Reedらを、キューバに送り、黄熱の原因を探らせました。Walter Reedは、黄熱が患者の血液中のろ過性病原体が原因でAedes aegypti (ネッタイシマカ)が媒介することを明らかにしました。
このWalter Reedの研究成果により、ハバナ市の衛生部長のWilliam Gorgas米国陸軍軍医は都市部の蚊を駆除することで1902年にキューバのハバナの黄熱の発生を抑え込みました。ハバナでの功績により、William Gorgas米国陸軍軍医は大佐に昇進しました。1904年に米国によるパナマ運河建築計画の衛生部長となったWilliam Gorgas陸軍大佐(軍医)はパナマでも同様の取り組みをして、黄熱やマラリアの発生を抑え込みパナマ運河の完成に貢献しました。William Gorgasは、後に米国医師会長(president of the American Medical Association[AMA] )(1909-1910年)や第22代軍医総監(Surgeon General of the Army)(1914-1918年)となりました。
予防のためのワクチン(予防接種)があります。日本では検疫所などで黄熱の予防接種を実施し国際証明書(ICVP: International Certificate of Vaccination or Prophylaxis)を発行していますので、アフリカや南アメリカなどに渡航する方は、検疫所にご相談ください。黄熱の汚染地域がある国に入国するときには、黄熱ワクチンの接種証明書を求められることがあります。以前、接種証明書は、黄熱ワクチンの初めての接種の10日後から10年間有効とされていました。この10年間に再度接種すると、最後の接種から10年間有効とされました。2016(平成28)年7月11日以降は、黄熱の予防接種証明書(イエローカード)の有効期間について、「接種10日後から10年間」から、「接種10日後から生涯有効」へと変更されました。現在、既にお持ちの10年間の有効期間が経過した予防接種証明書も生涯有効なものとして取り扱われます。また、更新手続は不要です。取得した予防接種証明書は紛失しないように、生涯大切に保管してください。
黄熱ワクチンに禁忌があって黄熱ワクチンを接種できない人が入国に当たって黄熱ワクチンの接種証明書を要求される国に行かなければならない場合には、医師に医学的免除証明書(Medical Waivers[Exemptions])を書いてもらう必要があります。入国に当たって黄熱ワクチンの接種証明書を要求される国に到着した際に、黄熱ワクチンの接種証明書や医学的免除証明書を持っていないと、検疫所に6日間まで留め置かれ黄熱を発病しないか健康観察(検疫: quarantine)を受ける可能性や、入国を拒否されたり、その場で接種されたりする可能性があります(参考文献13)。
日本の厚生労働省検疫所ホームページ(外部サイト)
検疫所ホームページ「黄熱について(外部サイト)」
:「黄熱ワクチン接種機関一覧」や黄熱の予防接種証明書(イエローカード)等についての情報が見られます。
黄熱ワクチンは、弱毒生ワクチンです。発育鶏卵に接種して作られるので、卵アレルギーのある人では禁忌です。
接種後の副反応(adverse events following immunization: AEFI)については、肝臓、腎臓、神経系などを損ない入院する率は、接種10万人あたり0.4-0.8人です。
ナイジェリアでは、1960年代には、黄熱ワクチンについて、良好な接種率でした。1980年代には、大きな流行が見られ、1986-1991年に16230人の患者発生と3633人の死亡とが報告されています。黄熱の患者発生は黄熱ワクチンの非接種者にのみ見られました。黄熱ワクチンを何十年も前に接種した人でも発病は見られませんでした(参考文献4)。
1970年から2015年までの間に、アメリカ合衆国とヨーロッパとから黄熱ワクチンを接種しないで渡航した人たちで、10人(内、西アフリカが5人、南アメリカが5人)の黄熱患者の発生が報告されています(参考文献13)。10人の内、8人が死亡しています(致死率80%)。一方、黄熱ワクチンを接種して渡航した人たちでは、一人の黄熱患者の発生が報告されていますが、1988年に西アフリカの数カ国を歴訪した37歳のスペインの女性であり、死亡していません。
2016年の初めには、15人を超えるアフリカやアジアの長期旅行者が、アンゴラ訪問後に黄熱を発病しました。アンゴラでは、都市型の黄熱の大流行が見られていました。患者となった長期旅行者たちは、黄熱ワクチン接種を受けていませんでした。
黄熱ワクチン接種を一回受ければ、99%を超えて30日以内に十分な免疫が獲得されます。生涯持続する免疫が獲得され、追加接種は必要ありません。一方で、黄熱ワクチン接種を一回受けても十分な免疫を獲得しない場合が1%未満であります。黄熱が発生する地域では、他にもデング熱・マラリアなどの蚊が媒介する感染症が見られることがあります。予防接種を受けても、蚊に刺されないように注意が必要です。長袖・長ズボンを着用しましょう。せっかく肌をおおっても、薄手の肌にピッチリな服だと、服の上から刺されてしまう可能性があるので、肌にピッチリではない、厚手のゆとりのある服を着ましょう。また、虫よけスプレーやローションなどを使用しましょう。国内で販売されているものは、虫よけの有効成分DEET(ディート)の濃度が低めです。海外で販売されている有効成分DEET(ディート)が高濃度の製品の方が虫よけの効果が強く持続時間も長いと思われます。
Aedes 属(ヤブカ属)は日中に吸血するので、殺虫剤処理した蚊帳の効果はあまり期待できません。
英国では、以下の人たちに黄熱ワクチン接種を勧めています(参考文献2)。
1. 黄熱ウイルスを扱う可能性のある検査室従事者。
2. 入国にあたって黄熱ワクチンの接種証明書を求められる国への生後9か月以上の渡航者。
3. 入国にあたって黄熱ワクチンの接種証明書を求められなくても黄熱の汚染地域がある国・地域への生後9か月以上の渡航者・居住者。
初めて黄熱ワクチンを接種するのであれば、渡航の10日前までに接種を済ましておく必要があります。また、以前は、黄熱ワクチンによる免疫効果は少なくとも10年以上持続するとされ、黄熱に感染する危険が続く限り接種後10年ごとに再接種を繰り返し黄熱に対する免疫を維持することとされていました。現在では、黄熱ワクチンによる免疫効果は生涯持続するとされ、生後9か月以上で一回接種すれば良く、再接種の必要はありません。
黄熱の汚染地域がある国について、生後9か月以上で乳幼児の定期予防接種とすることを世界保健機関(WHO)は勧告しています(参考文献4)。
なお、アメリカ合衆国のACIP(予防接種勧告委員会)は、次のような場合には、黄熱ワクチンを再接種することを勧告しています(参考文献7)。
・黄熱ワクチンの初回投与を受けたときに妊娠していた女性は、黄熱ウイルス感染のリスクがある次回旅行の前に黄熱ワクチンを1回追加接種する。
・黄熱ワクチン接種後に造血幹細胞移植を受け、安全にワクチン接種するために十分な免疫能がある者は、黄熱ウイルス感染のリスクがある次回旅行の前に黄熱ワクチンを1回追加接種する。
・黄熱ワクチンの最終投与を受けたときにヒト免疫不全ウイルスに感染していた人は、黄熱ウイルス感染のリスクが継続している限り、10年ごとに黄熱ワクチンを1回追加接種する。
・過去10年以上前に黄熱ワクチンを最後に投与していて、季節、場所、活動、および旅行期間に基づいて黄熱ウイルス感染の高リスクの状態にある者には、10年ごとに黄熱ワクチンを1回追加接種することも考慮する。これには、患者発生のピーク時に西アフリカの農村地帯や流行が続いている地域などに長期間滞在する予定の旅行者などが含まれます。
・野生型黄熱ウイルスを日常的に扱う研究室の従事者は、黄熱ウイルス特異的中和抗体価を少なくとも10年ごとに測定して、黄熱ワクチンの追加接種を行うべきかどうかを判断する必要があります。中和抗体価を測定できない研究室従事者の場合、黄熱ワクチンは、リスクがある限り、10年ごとに投与する必要があります。
地域における黄熱の流行対策として、短期間に多数の住民に対しての接種を行う際に、通常のワクチン接種量を減量して接種することがあります(参考文献10、11、12)。通常の接種量では、対象人数分が確保できないような場合に行われます。通常接種量の五分の一に減量して接種することが行われます。五分の一の用量の接種でも、12か月以上持続する免疫が獲得されると考えられています。なお、五分の一の用量の接種は定期予防接種としては推奨されず、2歳未満では全量接種が原則です。また、五分の一の用量の接種では黄熱予防接種の国際証明書は発行できず、国際証明書を必要とする海外旅行の際には、改めて全量接種を受けなおす必要があります。
2015年12月にアンゴラで始まった黄熱の流行は隣国のコンゴ民主共和国にも広がり大きな流行となりました。この流行の終息のために、両国では多数の住民に対して黄熱ワクチンの接種を行いましたが、このとき、通常接種量の五分の一に減量して接種することが行われました。但し、生後9か月から2歳までのこどもには、通常接種量を接種しました。
また、南米のブラジルでは、2016年12月以来、黄熱患者が多発し、リオデジャネイロやサンパウロなど人口密度が高い地域でも患者が発生しています。そこで、ブラジルでも、限られた地域において、多数の住民に接種するためワクチン接種量を減量しての接種が行われています。
2010年8月11日掲載
2018年5月9日改訂増補
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