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アルゼンチン出血熱について

■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。

最終更新日 2019年7月4日

流行は?

アルゼンチン出血熱(Argentine haemorrhagic fever : AHF)は、感染症法において一類感染症である南米出血熱の一つです。診断した医師は直ちに届け出しなければなりません(南米出血熱の届出基準はこちらのページから)。2007年4月1日から2011年末までの日本全国における南米出血熱の発生患者の届け出数累計は0人です。アルゼンチン出血熱の患者発生は、アルゼンチン国内で見られています。アルゼンチン出血熱ワクチン(Argentine haemorrhagic fever vaccine : AHFV)は、アルゼンチンの定期予防接種の一つとなっています。流行地で15歳を超える男女が接種対象となります。弱毒生ワクチンの一回接種で筋肉内注射です。
アルゼンチンにおけるアルゼンチン出血熱の年間患者発生数は、年によって変動が見られ3,500人に達した年もありましたが、300-1,000人程度で推移し、近年は年間30-50人程度が患者として確定されています。患者の発生は4-7月に多く、農作業が活発な時期と一致します。患者の75%が農作物の収穫に関わる男性農作業者です。

病原体であるフニンウイルス(Junin virus: JUNVあるいはJV)の自然界における宿主はCalomys musculinus という野ネズミです。フニンウイルスに感染したこの野ネズミとの直接の接触や、野ネズミの排泄物や分泌物を吸い込んだりして、フニンウイルスに人間は感染すると考えられています。Calomys musculinus という野ネズミの分布地域でアルゼンチン出血熱の患者発生は見られますが、この野ネズミは、アルゼンチンの中央部及び北西部に広く分布しています。

人から人への感染はまれですが、高度のウイルス血症となった患者からの院内感染は起こりえます(参考文献4)。

どんな病気?

フニンウイルスに感染しても、はっきりとした症状が出ない人も20%程度いるようです。しかし、たいていの場合は発症し、潜伏期間は通常7~14日です(5-21日の場合もあります)。緩徐な発症で中等度の発熱(摂氏38-39度)、頭痛、筋肉痛、背部痛、悪寒、食欲不振などが見られます。3~4日後には嘔気・嘔吐・胃痛、便秘・下痢、めまいなどが出現し、重症例では高熱、出血傾向、ショックが認められます。歯肉縁の出血が特徴的とされていますが、その後、皮下や粘膜からの出血に進展することがあります。歯肉縁の出血が見られなくても、歯肉の圧迫で出血が確認できる場合もあります。女性では月経の時期ではないのに子宮からの出血が見られることがあります。神経症状が見られることもあり、舌や手の振戦から、せん妄、こん睡、痙攣に至ることがあります。有効な治療が行われなければ、致死率は10-30%とされます。回復例では発症後10~13日頃から寛解傾向が見られますが、最終的な回復には数ヶ月かかることが多いとされます。
神経症状や出血が見られ重篤化するのは、20-30%の患者で、通常、発病から8-12日後です。
治療としては、回復期の患者の血清の投与や、抗ウイルス剤のリバビリンの投与が行われることがあります。これらの治療法の発病早期からの実施により、致死率は1%に下がるとされます。なお、回復期の患者の血清の投与を受けた人の10%で軽快後に一過性の頭痛や、振戦、脳神経麻痺などを認めることがあります(晩発性神経学的症候群: late neurologic syndrome: LNS)。また、フニンウイルスに曝露したと考えられる人に対して、これらの治療法が予防的に行われることもあります。

病原体は?

アルゼンチン出血熱の病原体はアレナウイルス科(family Arenaviridae)アレナウイルス属(genus Arenavirus )のフニンウイルス(Junin virus: JUNVあるいはJV)です。同じくアレナウイルス科アレナウイルス属に属して、南米で出血熱を起こすウイルスとしては、他に、サビアウイルス(Sabia virus: SABV: ブラジル出血熱[Brazilian haemorrhagic fever]の病原体)・ガナリトウイルス(Guanarito virus: GTOV: ベネズエラ出血熱[Venezuelan haemorrhagic fever : VHF]の病原体)・マチュポウイルス(Machupo virus: MACV: ボリビア出血熱[Bolivian haemorrhagic fever : BHF]の病原体)・チャパレウイルス(Chapare virus: CHPV: ボリビアにおけるチャパレ出血熱[Chapare hemorrhagic fever]の病原体)などがありますが、これらのウイルスによる出血熱を総称して、南米出血熱と呼びます。
アレナウイルスの仲間は、ウイルス性出血熱を起こすウイルスとして知られていますが、南米で出血熱を起こす新世界のグループとアフリカで出血熱を起こす旧世界のグループとに大別されます。南米出血熱を起こすフニンウイルス・サビアウイルス・ガナリトウイルス・マチュポウイルス・チャパレウイルスは新世界のグループ(New World arenaviruses)に属し、ラッサウイルス(ラッサ熱の病原体)・Lujoウイルス(Lujo出血熱[Lujo hemorrhagic fever: LUHF]の病原体) は旧世界のグループ(Old World arenaviruses)に属します。

表.出血熱を起こすアレナウイルス
分類ウイルス(発見年)出血熱
旧世界アレナウイルスラッサウイルス(1969年)ラッサ熱
Lujoウイルス(2008年)Lujo出血熱
新世界アレナウイルスフニンウイルス(1958年)アルゼンチン出血熱
サビアウイルス(1993年)ブラジル出血熱
ガナリトウイルス(1989年)ベネズエラ出血熱
マチュポウイルス(1963年)ボリビア出血熱
チャパレウイルス(2004年)チャパレ出血熱

予防のためには・・・

予防のためには、病原体を保有する野ネズミと接触しないようにすることが重要です。したがって、アルゼンチン国内の流行地域など、病原体の存在が知られている地域には近寄らないようにしましょう。

アルゼンチンでは、"Candid #1"(C#1)というアルゼンチン出血熱の弱毒生ワクチンがあり、アルゼンチンの定期予防接種の一つとなっています。流行地で15歳を超える男女が接種対象となります。一回接種で筋肉内注射です。15歳未満には接種できないため、アルゼンチン出血熱患者に占める15歳未満の患者の率が相対的に高くなっています。また、アルゼンチン出血熱のワクチンは、アルゼンチン出血熱の流行地がアルゼンチン国内に限定されアルゼンチン以外の国での販売が期待薄であること、危険性の高いウイルスを扱うための設備投資が大きいこと等のため、その開発にはアルゼンチン政府が大きく関わりました。アルゼンチン出血熱に対する"Candid #1"ワクチンの予防効率は95%(95%信頼区間:82-99%)です(参考文献2)。20年間に約257,000人が接種を受けて、その中では、12人の軽症の患者発生が見られたとのことです。なお、アカゲザルを使った動物実験では、遺伝子的にフニンウイルスに近いマチュポウイルスによるボリビア出血熱の予防も示唆されたとのことです。

治療として、回復期の患者の血清の投与や、抗ウイルス剤のリバビリンの投与が行われることがありますが、フニンウイルスに曝露したと考えられる人に対して、これらの治療法が予防的に行われることもあります。

フニンウイルスについて、70%アルコールや1%次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です(参考文献4)。ホルマリン、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等による消毒も有効です。摂氏56度で30分の加熱や、pH5.5未満の酸性、pH8.5を超えるアルカリ性、ガンマ線照射、紫外線照射等による消毒も有効です。

参考文献

  1. アルゼンチン厚生省(外部サイト)(MSAL: Ministerio de Salud)、Calendario Nacional de Vacunacion 2013(外部サイト) . :(スペイン語).
  2. Ana Ambrosio, Saavedra M.C, Mariani M.A, Gamboa G.S and Maiza A.S, Argentine hemorrhagic fever vaccines; Human vaccines; June 2011; volume 7 issue 6, p. 694-700.
  3. アルゼンチン厚生省(外部サイト)(MSAL: Ministerio de Salud)、Manual del vacunador 2011.(外部サイト) p. 1-86. :(スペイン語).
  4. Public Health Agency of Canada(外部サイト)(カナダ公衆衛生局); Pathogen Safety Data Sheets and Risk Assessment(外部サイト). ("Junin virus(外部サイト)"の項をご覧ください):(英語).

2013年12月6日掲載

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電話:045-370-9237

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ファクス:045-370-8462

メールアドレス:kf-eiken@city.yokohama.jp

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