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■この記事は教科書的、文献的な内容についてまとめ、多くの方が参考にしていただけるよう掲載しています。必ずしも最新の知見を提供するものではなく、横浜市としての見解を示すものではありません。■なお、本件に関して専門に研究している職員は配置されていないため、ご質問には対応しかねます。また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
最終更新日 2019年6月25日
アデノウイルス( Adenovirus : AdV )には、1型から51型まで51の血清型があり、血清型により気道炎や胃腸炎、結膜炎、膀胱炎、発疹などを起こすことがあります。また、アデノウイルスは、ライノウイルス等とともに、「かぜ症候群」を起こす主要病原ウイルスの一つと考えられています。
アデノウイルスの1型、2型、3型、4型、5型、7型などによる気道炎は、温帯地方では秋から初春にかけての寒い季節に発生が多いです。熱帯地方では雨期で比較的涼しい時期に発生が多いです。こどもの患者発生が多いですが、アメリカ合衆国では新兵たちの間で主に4型、7型によるARD( acute respiratory disease : 急性呼吸器疾患)の流行が冬季を中心に見られることがありました。アメリカ合衆国の新兵を調査対象とした研究(参考文献1)では、4型に対して66.0%、7型に対して72.6%の新兵が発病を防ぐのに充分な免疫を持っていませんでした。
咽頭結膜熱は、プール熱の呼称もあり、アデノウイルスの3型を中心に、4型、7型、14型などでも起こり、夏に発生が多いです。また、8型、19型、37型などが起こす流行性角結膜炎( EKC : epidemic keratoconjunctivitis )も、夏に発生が多いです。この両者は、まとめてアデノウイルス結膜炎と呼ばれることがあります。咽頭結膜熱も流行性角結膜炎も感染症法下で5類感染症の定点把握疾患ですが、咽頭結膜熱は小児科定点把握疾患(咽頭結膜熱の届出基準はこちらのページから)、流行性角結膜炎は眼科定点把握疾患です(流行性角結膜炎の届出基準はこちらのページから)。
胃腸炎を起こす40、41型は、腸管アデノウイルス( enteric adenovirus : EAdV )とも言われます。年中発生が見られ季節による変動は少ないですが、涼しく乾燥した時期にやや発生が多いです。
アデノウイルスの1型、2型、3型、4型、5型、7型などによる気道炎は、人によって症状に差が見られます。鼻炎、咽頭炎、扁桃炎などを起こし、発熱、咳や結膜炎が見られる場合もあります。3歳未満のこどもの溶血性レンサ球菌によらない浸出性咽頭炎については、アデノウイルスが主要な病原体です。喉頭炎やクループ、気管支炎、肺炎などを起こす場合もあります。ARD(急性呼吸器疾患)では、気道炎、発熱、疲労感、筋肉痛が見られます。咽頭炎と結膜炎とが見られる咽頭結膜熱については、当・横浜市衛生研究所ウェブページ「咽頭結膜熱について」をご覧ください。また、アデノウイルスの14型が重症の呼吸器感染症を起こすことがあることが、アメリカ合衆国で報告されています(参考文献3)。このアデノウイルスの14型については、後述します。
アデノウイルスによる気道炎の潜伏期は1日-10日。発病の直前から、他の人への感染の可能性があります。患者の咳による飛沫、鼻汁、眼からの分泌物や便などに含まれて出てきたウイルスが口や眼などから入って、あるいは、ウイルスを含む飛沫が鼻から吸い込まれて感染します。ハンカチ、タオル、食器、おもちゃや手などが、患者の飛沫、分泌物や便などに接触して汚染されウイルスを口や眼まで運ぶ可能性があります。
8型、19型、37型などによる流行性角結膜炎については、急性濾胞性結膜炎、角膜上皮下混濁、耳前リンパ節腫脹が見られます。
40、41型による胃腸炎については、下痢、嘔吐、嘔気、気分不快、微熱、腹痛などが見られます(参考文献2)。ロタウイルスによる胃腸炎と似た症状です。こどもたちに多く見られ、乳幼児で重症となることがありますが、感染しても無症状の者もいます。潜伏期は3日-10日。患者あるいは症状のない感染者の便の中に出てきたウイルスが口から入り感染しますが、気道炎と同様に患者・感染者の気道からの飛沫などにより感染することもありえます。
11、21型が血尿・排尿障害・尿意頻発が見られる膀胱炎を起こすことがあります。尿中のウイルスが主な感染源となります。また、腎臓に無症状のまま感染を持続し数ヶ月から数年の間、尿中にウイルスが排出されることがあります。
19、37型が性行為により感染し、尿道炎や子宮頸部炎を起こすことがあります。
アデノウイルスに対する特効薬はありません。治療は、症状に応じた対症療法が中心となります。嘔吐、下痢がひどいときには点滴注射による輸液療法が行われることがあります。
検査としてアデノウイルス抗原を検出する迅速診断キットが使われることがあります。現在使われている迅速診断キットでは血清型別の判定はできません。
アデノウイルスの同じ血清型であっても、患者によって咽頭炎が主であったり、結膜炎が主であったり、下気道炎が主であったりすることがあります。ウイルスの体内への侵入部位と症状の出現とが関連していると考えられています。例えば、7型については、細かい飛沫を深く吸い込んだような場合には、重症の下気道炎・肺炎となる可能性も考えられます。また、手などに付着して鼻や口に入った場合には、軽いかぜ症状やのどの炎症を起こしたり、塩素消毒が不充分なプール水中で眼に感染すれば結膜炎となる可能性があります。
アデノウイルスが病原体です。アデノウイルス( Adenovirus )は、1953年に切除したアデノイド( adenoid:咽頭部の肥大した扁桃腺)から分離されたことから名付けられました。Adenoはドングリを意味するギリシア語に由来し「腺」を意味します。感染症でぐりぐりと腫れたリンパ腺を触ったギリシア人は「まるでドングリだ!」と感じたのかもしれません。
アデノウイルスには51の血清型がありますが、それらはAからFまでの亜属(subgenus)に分類されます。下記の表の通りです。病気を起こすのは、51の血清型の内の約半数です。
亜属 | 血清型 |
---|---|
A | 12, 18, 31 |
B1 | 3, 7, 16, 21, 50 |
B2 | 11, 14, 34, 35 |
C | 1, 2, 5, 6 |
D | 8-10, 13, 15, 17, 19, 20, 22-30, 32, 33, 36-39, 42-49, 51 |
E | 4 |
F | 40, 41 |
アデノウイルスは体外でも長期に生残することがあります。3型は紙の上で10日間生残することがあり、2型は室温でモノの表面で3-8週間生残することがあるとのデータがあります。
1, 2, 5型は、扁桃やアデノイドや腸などに無症状のまま感染を持続し何ヶ月も何年もウイルスの排出を続けるようなことがあります。ウイルスの便中への排出は、最初は持続的ですがやがて間欠的になります。
免疫不全の患者では、7型などが、肝炎、腸炎、脳炎、肺炎など多彩な感染症を引き起こすことがあります。免疫不全の患者の感染症の研究の中から、新たな血清型のアデノウイルスがいくつか発見されました。免疫不全の患者の尿中や便中にアデノウイルスが排出されていることがあります。
ハンカチ、タオルなどの貸し借りは止めて、自分専用のものか使い捨てのものを使いましょう。
帰宅時、トイレの後、食事の前、自分の眼・鼻・口に触れる前と後などには、手をよく洗いましょう。
アデノウイルス感染症である咽頭結膜熱と流行性角結膜炎は、ともに学校保健安全法で学校感染症とされています。咽頭結膜熱と流行性角結膜炎の学校での出席停止の期間の基準などについては、当・横浜市衛生研究所ウェブページ「学校感染症について」を参考にしてください。
アメリカ合衆国では新兵たちにおける4、7型によるARD(急性呼吸器疾患)の流行を防ぐために、両型のワクチンを新兵たちに投与しています。このアデノウイルス4、7型のワクチンについては、後述します。また、このワクチンについては、当・横浜市衛生研究所ウェブページ「咽頭結膜熱について」でも触れていますので、ご覧ください。
アデノウイルス14型( Adenovirus serotype 14 : Ad14 )は、アデノウイルス( Adenovirus : AdV )の51の血清型の一つです。このアデノウイルス14型による重症の肺炎や死亡が最近、アメリカ合衆国で報告されました(参考文献3)。報告された患者は、2006-2007年にアメリカ合衆国国内の4カ所で発生しました。2006年5月に、ニューヨーク市で、生後12日の新生児(女児)がアデノウイルス14型による呼吸器感染症で死亡しました。2007年2-6月には、オレゴン州(31人)、ワシントン州(3人)、テキサス州(106人)で、総計140人のアデノウイルス14型による呼吸器感染症の発生が確認されました。これらの患者の内、53人(38%)が入院し、内24人(17%)が集中治療室で治療を受け、9人(5%)が死亡しました。ニューヨーク市、オレゴン州、ワシントン州、テキサス州の計4カ所の患者から分離されたウイルスは、遺伝子的に同一のものでしたが、4カ所を結びつける共通の感染源は見つかっていません。
アデノウイルス14型が初めて認められたのは、1955年にオランダで新兵においてでした。英国では、1955年夏、5月から7月にかけて、英国の南イングランドの西サセックス、Lancingの寄宿制の男子校 (1971年から男女共学。生徒は13-18歳。)であったLancing Collegeで咽頭結膜熱の集団発生がアデノウイルス14型によって起こりました(参考文献5)。408人中116人と28.4%の発病が見られました。患者では、咽頭痛、頭痛、発熱、結膜炎、頸部リンパ節腫脹、咽頭炎などが認められました。水泳プールでの感染の広がりが考えられましたが、水泳プールは5月28日に閉鎖されて、それ以降の感染経路は明らかでありません。
アデノウイルス14型は、呼吸器系の感染症を起こしますが、近年までアメリカ合衆国国内で分離同定されることは、まれでした。日本国内でも分離同定は少なく、「病原微生物検出情報(国立感染症研究所)」では、2007年までの27年間でアデノウイルス14型の分離同定は2株とのことです(参考文献4)。
最近アメリカ合衆国で報告された重症の肺炎や死亡を起こす病原性の強いアデノウイルス14型については、1950年台に報告されたアデノウイルス14型の標準株とは遺伝子的に違う株であり、アデノウイルス14型の新しい強毒変異株と考えられます。新しい強毒変異株が初めてアメリカ合衆国国内で認められたのは2005年のことでした。アメリカ合衆国の新兵訓練の基地ではアデノウイルスによる呼吸器感染症の集団発生が認められることがあり、2007年にはテキサス州のSan AntonioのLackland空軍基地の新兵の間でアデノウイルス14型の新しい強毒変異株による集団発生がありました。この集団発生の中では、重症で入院となる患者が一部発生する一方で、発熱を伴うカゼのような中等度の症状から軽い症状の患者が大部分でした。
アデノウイルス14型には、アデノウイルス11型とアデノウイルス7型とが、遺伝子的に近いアデノウイルスと考えられています。2007年のアメリカ合衆国の新兵訓練の基地でのアデノウイルス14型感染症の集団発生では、アデノウイルス7型に対する抗体を持っていた人は症状が軽かったとする報告があります(参考文献8,9)。軽症あるいは無症状のアデノウイルス14型感染者19人中7人(37%)がアデノウイルス7型に対する抗体を持っていたのに対して、入院したアデノウイルス14型感染者16人中0人(0%)がアデノウイルス7型に対する抗体を持っていました。米軍においては、アデノウイルス7型のワクチン接種による重症のアデノウイルス14型感染症の予防効果が期待されています。
2008年9月22日、アメリカ合衆国アラスカのPrince of Wales島の内科医が、アラスカの衛生局に成人の肺炎患者の多発を報告しました。10人の肺炎患者が発生し、その内3人が入院し、1人は死亡していました。アラスカの衛生局とCDC(米国疾病管理・予防センター)とが協力して対処して、レポート(参考文献10)をまとめています。
この肺炎患者の多発は、アデノウイルス14型の新しい強毒変異株によるものでした。2008年9月1日から10月27日にかけて46人の患者が確認されました。男性が32人(70%)、アラスカの先住民族が28人(61%)でした。患者の年齢は、2-95歳で、中央値は47歳でした。65歳以上の患者12人中7人(58%)入院、65歳未満の患者34人中4人(12%)入院と、65歳以上の患者では入院が多かったです。咳(100%)、息切れ(87%)、発熱(74%)などが認められました。有症期間は、1-41日で、中央値は14日でした。11人(24%)の患者が入院しましたが、その内3人は集中治療を必要として、1人は人工呼吸器による呼吸管理が必要でした。死亡した患者は一人でした。死亡した患者は慢性閉塞性肺疾患(COPD)があり酸素療法を必要としていましたが、入院を拒絶し十日の内に死亡しました。46人の患者中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・喘息・肺がん等の肺疾患がある者が20人(43%)、喫煙者は22人(48%)でした(アラスカでは一般人で22%、先住民族で38%の喫煙率)。
原因のはっきりしない呼吸器感染症の多発があった場合には特に、アデノウイルス14型による感染症を鑑別診断の一つとするべきであると、アメリカ合衆国の医師たちにCDC(米国疾病管理・予防センター)は勧めています。
アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)が、2011年3月16日水曜日、アメリカ合衆国で認可されました。日本では認可されていません。このワクチンは錠剤です。アデノウイルス4型を含む錠剤とアデノウイルス7型を含む錠剤とを、一錠ずつ、それぞれ、かむことなく、まるごと飲み込んで服用します。錠剤をかんでしまうと、錠剤の中心部に含まれている生きているアデノウイルス4型・7型が上気道内を広がってしまう恐れがありますので、錠剤をかんではいけません。生きているアデノウイルス4型・7型が上気道内を広がると急性上気道炎を発病する可能性があります。嘔吐や下痢の見られる場合は、服用を延期します。ワクチンのアデノウイルス4型・7型が消化管内で増殖することで、免疫が獲得されます。アデノウイルス4型を含む錠剤が100錠入った瓶とアデノウイルス7型を含む錠剤が100錠入った瓶とがあります。アデノウイルス4型を含む錠剤とアデノウイルス7型を含む錠剤とでは、錠剤の色が違います。摂氏2-8度で保存することで、製造日から2年間(24か月間)有効です。ワクチンの効能としては、アデノウイルス4型・7型による発熱性の急性呼吸器疾患の予防です。17-50歳の兵士に推奨されます。
ワクチンを服用してはいけない人は、
(1)妊娠している人、
(2)ワクチンの成分に対して強いアレルギー反応が見られる人、
(3)ワクチンの錠剤を、かむことなく、まるごと飲み込んで服用することができない人、
です。
アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)を妊婦が服用してはいけません。また、ワクチン服用後6週間は妊娠を避ける必要があります。アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)が妊娠に悪影響を与えるかどうかは明らかでありません。
先天性あるいは後天性の免疫不全の人たちでは、安全性や有効性が評価されていません。
アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)は、16歳以下の小児について、安全性や有効性が評価されていません。また、臨床試験の対象に65歳以上の人が含まれていなかったため、65歳以上の人についても、安全性や有効性が評価されていません。
ワクチンを服用した人からは28日間以内での便中へのウイルスの排泄がありえますので、ワクチンを服用した人や身近な人は、便中へ排泄されたウイルスが広がらないように注意しましょう。便中へ排泄されたウイルスが、ワクチンを服用した人を含めて、口や鼻から入ると急性上気道炎等を発病する可能性があります。ワクチンを服用した人はトイレの後、しっかり手を洗いましょう。ワクチンを服用してから28日間以内においては、7歳未満のこどもや、免疫不全の人(HIV感染症患者、癌患者、免疫抑制剤で治療中の患者等)、妊婦との接触には特に注意しましょう。
よく見られる副反応としては、上気道炎、頭痛、鼻詰まり、のどの痛み、咳、関節痛、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などです。
アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)のウイルスは、弱毒化されていない、病原性のあるウイルスです。飲みこまれた錠剤はそのまま胃を通過し、小腸でウイルスを放出します。ワクチンを服用した人の小腸内でウイルスが増殖することで、発病することなく免疫が獲得されます。1739人を対象としたアデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)の臨床試験で、アデノウイルス4型に対して一回の服用で94.5%で免疫抗体が獲得されました。1051人を対象としたアデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)の臨床試験で、アデノウイルス7型に対して一回の服用で93.8%で免疫抗体が獲得されました。アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)のウイルスが小腸内でウイルスが増殖する限りでは発病しませんが、ウイルスがウイルスに対して免疫がない人の眼・鼻・口から侵入すると発病する恐れがありますので注意が必要です。
アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)については、以前はWyeth社が製造していました。1971年から米軍の新兵での接種が行われていましたが、1996年にWyeth社が製造を停止して、米軍の新兵での接種は1999年始めまでで中止に至りました。その後、2001年に、アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)の復活について、米国バージニア州のBarr Laboratories社に任せられることになりました。アデノウイルス4型・7型ワクチン(経口・生ワクチン)については、現在はBarr Laboratories社が製造し、米軍の新兵での接種が行われています。
アデノウイルス4、7型のワクチンについては、当・横浜市衛生研究所ウェブページ「咽頭結膜熱について」でも触れていますので、ご覧ください。
2004年11月9日掲載
2008年3月4日増補改訂
2008年6月30日増補改訂
2010年1月15日増補改訂
2011年4月4日増補改訂
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