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最終更新日 2019年11月8日
1歳未満の乳児が突然に死亡して死因がはっきりしないとき、死亡時の状況や過去から死亡に至るまでの病歴を調査し死因を確定するための解剖などを行っても、なお死因がはっきりしない場合に、米国ではSIDS( sudden infant death syndrome )と言います。日本では、SIDSを「乳幼児突然死症候群」と呼んでいますが、米国と違って、1歳以上の幼児の場合も「乳幼児突然死症候群」に含めています。日本の人口動態統計によれば、平成17年(2005年)には、196人が乳幼児突然死症候群で亡くなっています。その内174人(88.8%)が1歳未満の乳児期でした。乳児期の死亡原因としては「先天奇形、変形及び染色体異常」1025人(出生1000あたり0.965、乳児死亡の34.7%)、「周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害」414人(出生1000あたり0.390、乳児死亡の14.0%)に次いで、「不慮の事故」174人と並んでの第3位(出生1000あたり0.164、乳児死亡の5.9%)となっています。なお、第5位は、「胎児及び新生児の出血性障害及び血液障害」159人(出生1000あたり0.150、乳児死亡の5.4%)でした。一方、米国の人口動態統計によれば、2000年には、2522人の乳児がSIDSで亡くなっています。乳児期の死亡原因としては「先天奇形、変形及び染色体異常」5756人(出生1000あたり1.418、乳児死亡の20.6%)、「他に分類されない早産、低出生体重に関連した異常」4401人(出生1000あたり1.084、乳児死亡の15.7%)に次いで、第3位(出生1000あたり0.621、乳児死亡の9.0%)となっています。米国では生後1ヶ月から6ヶ月までの間はSIDSが死因の1位です。大部分のSIDSは生後6ヶ月までに見られます。早産や低出生体重の乳児の方がSIDSとなる危険性が高く、女児よりも男児での発生が多いです。秋から早春にかけての寒い季節に発生が多く、大部分の場合は、健康に見える睡眠中の乳児に突然に死が訪れます。厚生労働省は、平成11年度から毎年11月を乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策強化月間と定め、SIDSに対する社会的関心を喚起するため、発症率を低くするポイントなどの重点的な普及啓発活動を実施しています。
なお、日本の人口動態統計によれば、平成23年(2011年)には、148人が乳幼児突然死症候群で亡くなっています。その内132人(89.2%)が1歳未満の乳児期でした。乳児期の死亡原因としては「先天奇形、変形及び染色体異常」862人(出生1000あたり0.820、乳児死亡の35.0%)、「周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害」322人(出生1000あたり0.306、乳児死亡の13.1%)、「不慮の事故」199人(出生1000あたり0.189、乳児死亡の8.1%)に次いで第4位(出生1000あたり0.126、乳児死亡の5.4%)となっています。なお、第5位は、「胎児及び新生児の出血性障害及び血液障害」85人(出生1000あたり0.081、乳児死亡の3.5%)でした。一方、米国の人口動態統計によれば、2010年には、2063人の乳児がSIDSで亡くなっています。乳児期の死亡原因としては「先天奇形、変形及び染色体異常」5107人(出生1000あたり1.277、乳児死亡の20.8%)、「他に分類されない早産、低出生体重に関連した異常」4148人(出生1000あたり1.037、乳児死亡の16.9%)に次いで、第3位(出生1000あたり0.516、乳児死亡の8.4%)となっています。
また、日本の人口動態統計によれば、平成29年(2017年)には、77人が乳幼児突然死症候群で亡くなっています。その内69人(89.6%)が1歳未満(0歳)の乳児期で、男児が45人、女児が24人でした。乳児期の死亡原因としては「先天奇形、変形及び染色体異常」653人(出生10万人あたり67.1、乳児死亡の36.1%)、「周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害」236人(出生10万人あたり24.9、乳児死亡の13.4%)、「不慮の事故」77人(出生10万人あたり8.1、乳児死亡の4.4%)に次いで第4位(出生10万人あたり7.3、乳児死亡の3.9%)となっています。なお、第5位は、「胎児及び新生児の出血性障害及び血液障害」64人(出生10万人あたり6.8、乳児死亡の3.6%)でした。一方、米国の人口動態統計によれば、2016年には、1500人の乳児がSIDSで亡くなっています。乳児期の死亡原因としては「先天奇形、変形及び染色体異常」4816人(出生10万人あたり122.1、乳児死亡の20.8%)、「他に分類されない早産、低出生体重に関連した異常」3927人(出生10万人あたり99.5、乳児死亡の17.0%)に次いで、第3位(出生10万人あたり38.0、乳児死亡の6.5%)となっています。乳幼児突然死症候群(SIDS)については、日本においても米国においても、近年、年間発生数は減少傾向にあります。
米国内では、発生率に人種による差が見られます。MacDormanら(文献1)によれば、1990-1991年の米国内では、出生1000あたり、アメリカインディアンで3.0、非ヒスパニックの黒人で2.2、非ヒスパニックの白人で1.1、ヒスパニックで0.8、アジア及び太平洋諸島の人たちで0.8でした。なお、妊娠中の母親の喫煙率は、アメリカインディアンで20.5%と高く、ヒスパニックで5.9%、アジア及び太平洋諸島の人たちで4.7%と低かったです。アジア系での発生率が低いですが、Davies(文献2)は、香港で発生率が低い理由として、人口密度が高く乳児を見守る家族・親族が多い環境などとともに、乳児をあお向けで寝かせる習慣が考えられるとしています。Leeら(文献3)によれば,香港では1986年12月1日から1987年11月30日までの間に21人のSIDSが発生し、出生1000あたり0.29の発生率であったとのことです。また、同じくLeeら(文献3)によれば,香港では乳児を眠らせるときの姿勢については、うつ伏せ寝が、SIDS群では16人中7人(44)、対照群では32人中2人(6%)でした。一方、米国では、乳児を眠らせるときの姿勢については、うつ伏せ寝が、1992年には70%、1998年には17%、2000年には14%でした(文献4、5)。この間に米国では、SIDSの発生は、1992年に出生1000あたり1.2だったのが、1998年に0.72、2000年に0.62と減っています。なお、米国のアフリカ系アメリカ人では、うつ伏せ寝が、1992年には82%、1998年には32%でした(文献4)。アフリカ系アメリカ人では以前より減ったもののうつ伏せ寝が少なくないため、SIDSの発生は、出生1000あたり1.4であり、白人では出生1000あたり0.6となっています(文献4)。
SIDSの発生の減少にともなって、死亡時に死因がはっきりしない乳児の死亡( SUIDs : sudden, unexplained infant deaths )に占める事故や虐待などによる死亡の割合が相対的に増える可能性があります(文献6、7)。SUIDsを減らすためには、SUIDsが見られた場合には解剖などを含めた詳しい調査を行って原因を追求し、SIDSだけでなく事故や虐待などによる死亡も減らす必要があります。
乳幼児突然死症候群となる危険性を減らすためには、健康な乳児が眠る際、硬い寝床に、背中を下にして、あお向むけで寝かせることが有効であることが知られています。ただし、あお向けで寝かせることで気道の閉塞を起こしやすいというような状態の乳児の場合や、先天性の障害などがあって吐きやすかったり呼吸器や心臓の問題があるような乳児の場合などには、乳児を眠らせる際の姿勢について、小児科医によく相談しましょう。なお、あお向け寝の乳児は、うつ伏せ寝の乳児と比べると運動面の発達が最初はやや遅れることがあるとされますが、徐々に追いつき、1歳6ヶ月の時点ではその差は見られなくなると言われています。また、乳児が起きている間にある程度のうつ伏せの時間を設けることは、運動面の発達の上からも、後頭部の扁平を予防する上でも勧められます。頭の形がいびつになるのを予防するためには、眠るときは一週間ごとに顔の向きを変え、乳児が興味を示す方向(例えば、部屋の入り口の方向)もベットの位置や向きを変えるなどしてときどき変えましょう。頭の形がいびつになるとしても大抵は一時的なもので乳児が座るようになると頭の形は徐々にいびつでなくなってきます。
乳児の頭の形に合わせて形が変わってしまうような柔らかい寝床では、うつ伏せ寝により窒息の可能性が増します。硬い寝床に、カバーはぴったりフィットしたものが良いです。
近年、全国的なキャンペーンにより、うつ伏せに乳児を眠らせることを減らすことで、米国や日本、オーストラリアなどでは乳幼児突然死症候群の発生が減っています。米国では、SIDSは、1990年に出生1000あたり1.30の発生だったのが、2000年に0.62、2001年に0.56、2010年に0.52、2016年に0.38の発生となっています。日本の人口動態統計によれば、乳幼児突然死症候群の年間発生は、平成7年(1995年)に579人、平成17年(2005年)に196人、平成23年(2011年)に148人、平成29年(2017年)に77人となっています。オーストラリアでは、1990年に485人(1歳以上の11人を含む)、2000年に134人(1歳以上の9人を含む)、2012年に58人、2013年に61人、2014年に49人、2015年に40人となっています。
乳幼児突然死症候群の事例では、おなかを下にして、うつ伏せで、顔・鼻・口が、枕、キルト、羽根布団、羊の毛皮などの柔らかい寝具で被われた状態で発見される場合があります。呼吸の妨げとなりえるような柔らかい寝具で乳児を眠らせないようにしましょう。同様に呼吸の妨げとなりえるような柔らかいオモチャと一緒に乳児を眠らせないようにしましょう。生後3か月以後は、寝返りによって柔らかい寝具に入り込むことが、死亡時に死因がはっきりしない乳児の死亡( SUIDs : sudden, unexplained infant deaths )の危険性を増すので、乳児の周囲にも注意しましょう。カーテンの開閉用のヒモや電気コードなどのヒモ状のものも、首を絞めて窒息の原因となる可能性もあるので危険です。
また、背中を下にして、あお向けで寝ているけれども、毛布、羽根布団などの柔らかい寝具で頭が被われた状態で乳幼児突然死症候群の事例が発見される場合があります。乳児の睡眠中は、乳児の頭が寝具や帽子などで被われないようにしましょう。
乳児が環境中のタバコの煙に曝露されることで、乳幼児突然死症候群の危険性が高くなるだけでなく、気管支炎や肺炎にもなりやすくなります。家庭内で環境中のタバコの煙に曝露されている乳児は、曝露されていない乳児に比べて、乳幼児突然死症候群の危険性が2倍です。また、妊娠中に喫煙していた母親から生まれた乳児は、妊娠中に喫煙しなかった母親から生まれた乳児に比べて、乳幼児突然死症候群の危険性が3倍です。妊娠中の母親の喫煙により胎児の受け取る酸素の量が減っててしまうことが影響を与えているのではないかとも考えられています。母親は産後だけでなく妊娠中も禁煙しましょう。乳児と一緒に部屋にいる人はタバコを吸うのを控えましょう。乳児の周囲を禁煙ゾーン( smoke-free zone)にしましょう。受動喫煙の危険性については、当・横浜市衛生研究所ウェブページ「こどもの受動喫煙について」を参照してください(下線部をクリックしてください)。なお、乳児と一緒に成人の喫煙者が寝ていると、喫煙者がベッドで吸わない場合でも、乳児の乳幼児突然死症候群の危険性が高くなります。
乳児をできるだけ母乳で育てましょう。乳幼児突然死症候群の引き金となるような感染症を防ぐのに、母乳による栄養が役立っているとも考えられています。
乳児と一緒のベッドに眠らないようにしましょう。乳児と一緒のベッドに眠ることは、乳幼児突然死症候群の危険性ばかりでなく窒息死の危険性も高めます。乳児と一緒のベッドに眠った人が乳児の上に重なって乳児の窒息死を起こす危険性があります。特に飲酒した人や睡眠薬など意識を抑制する薬物を服用した人の場合、そのような事故は起こりやすいです。また、授乳中に親は眠ってしまうことがしばしばあります。ベッドで授乳する場合には特に眠らないように注意しましょう。乳児のベッドの場所は、親の寝室と同室で親のベッドの近くが望ましいです。
うたた寝や睡眠時におしゃぶりを与えるのも良いです。その機序はよく分かっていませんが、おしゃぶりの使用が乳幼児突然死症候群の発生を抑制することが報告されています。乳児が眠るときにおしゃぶりを与えますが、おしゃぶりが口から落ちても、口に戻す必要はありません。また、乳児が嫌がるようならおしゃぶりを強要する必要はありません。おしゃぶりにヒモや付属物が付いていると窒息の原因となる可能性があります。乳児の指しゃぶりが乳幼児突然死症候群の発生を抑制するかどうかについては分かっていません。
乳児が暖まりすぎると乳幼児突然死症候群の危険性が増加することが、特にうつ伏せ寝の乳児の場合に明らかになっています。乳児の体が着物や毛布などで厚くおおわれているような場合には、頭部、特に顔が体内の熱の逃げ出す通路になりますが、うつ伏せ寝で下向きの顔や頭が寝具でおおわれたりすると熱が逃げ出しにくくなり熱が体内にこもることになります(文献9)。乳児に熱がこもり過ぎることのないように、着物や毛布は重ねすぎないようにしましょう。室温も暑すぎないようにしましょう。冬季の暖房での室温の設定は、軽装の大人が心地良いぐらいの暖かさが良いとされています。暖房、厚着、厚い毛布などのため冬季に乳児の暖まりすぎが起こりやすいことが、冬季に呼吸器感染症が多いこととともに、冬季に乳幼児突然死症候群が起こりやすい一つの原因とも考えられています。
さて、乳幼児突然死症候群(SIDS)に関するガイドラインについて、厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)「乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断のためのガイドライン作成およびその予防と発症率軽減に関する研究」(主任研究者:坂上正道北里大学名誉教授)において、平成17年3月、とりまとめが行われました。
この乳幼児突然死症候群(SIDS)に関するガイドラインにおいては、「それまでの健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査および解剖検査によってもその原因が同定されない、原則として1歳未満の児に突然の死をもたらした症候群」を乳幼児突然死症候群(SIDS)としています。
また、乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断に際しての留意事項として、以下の四つの事項があげられています。
平成24年度の厚生労働科学研究(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)「乳幼児突然死症候群(SIDS)および乳幼児突発性危急事態(ALTE)の病態解明および予防法開発に向けた複数領域専門家による統合的研究」(研究代表者:戸苅創名古屋市立大学長)において、「乳幼児突然死症候群(SIDS)診断ガイドライン(第2版)」を作成し、平成24年10月公表しました。SIDSの診断がより適切に行われることを目的に、第2版では、問診・チェックリストにSIDSの除外診断に必要な検査項目や寝返りの状況等詳細分析を行う場合に必要な項目の追加等が行われ、問診・チェックリストの記入要領が作成されました。詳しくは、下記の厚生労働省のウェブページをご参照ください(下線部をクリックしてください)。
厚生労働省ウェブページ「乳幼児突然死症候群(SIDS)診断ガイドライン(第2版)(外部サイト)」
2004年11月24日初掲載
2005年4月25日増補
2006年12月1日増補
2012年11月7日増補
2018年10月31日増補
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