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ぐるっとSTORY(2021年夏号)

最終更新日 2021年8月3日

横浜市交通局の広報誌「ぐるっと」では、”わたしのまちの地産地消STORY”と題して、市営地下鉄・バス沿線で行われている地産地消の取り組みにフォーカスしています。誌面に入り切らなかった”つくる人”、”とどける人”それぞれの思いやこだわりをWEB限定記事としてご紹介します。

Vol.1 戸塚区「住宅地で育まれたこだわりのミルクをアイスに」

つくる人 「小野ファーム」乳用牛事業部 主任 榎本紀子さん

戸塚の住宅街に牧場があることをご存知だろうか。「小野ファーム」では、現在肉牛約350頭、乳牛約50頭を飼育。ブランド牛・横濱ビーフが高く評価されるほか、ミルクを使ったアイスクリームを提供する「横濱アイス工房」も大人気だ。今回は、同牧場の乳用牛事業部主任・榎本さんにお話を伺った。

【地元の酪農に出会うまで】
小野ファームが運営する「横濱アイス工房」のこだわりは、なんといっても牧場直送の新鮮なミルクにある。自社牧場は、戸塚の住宅街のなかに位置していながら、神奈川県有数の規模をもつ。ここで日々牛たちと向き合っているのが榎本さんだ。


小野ファームの外観


小野ファームに勤めて7年ほどになる榎本さん。農業学校などで専門的に学んだわけではなかったが、若い頃に北海道で3〜4ヶ月ほど牧場のアルバイトをしたのがきっかけとなり酪農の道へ。その後は長野の牧場などを経て、地元・川崎に帰るタイミングで横浜にも牧場があることを知り、現在にいたる。

現在小野ファームでは、榎本さんを入れて4名のスタッフが約40頭の乳牛の世話をしている。ほとんどが横浜や東京の出身で、酪農を専門的に学んだ人もいれば、そうでない人も。「経験のないスタッフには、優しく触りながら牛との接し方を覚えてもらいます。牛が驚けば人がケガをしてしまうこともあるので、まずはそこが一番大事です。技術的な面では、掃除と乳搾りなど、毎日絶対にしなければいけない部分から学んでもらいますね」。


乳牛の牛舎の様子


【一日の仕事の流れ】
牧場の朝は早い。榎本さんたちは5時に仕事を始め、まずは牛たちのエサを入れる「飼槽(しそう)」をきれいにして、新しいエサをあげる。フンを片付け、子牛にはミルクをあげる。朝が一番忙しい時間帯だ。その後も残り3回のエサやりや掃除、牛舎の修繕、獣医の訪問など、スタッフたちは休みなく動き回っているという。

乳搾りは、9時からと16時半からの一日2回。乳搾りは早くて1時間ほどで終わるが、病気や産後すぐの場合など、牛の体調によっても変動がある。「乳牛は1日を通して乳が張ってくるので、本当は12時間おきに乳搾りをするのがベストだと言われています。ただそれは難しいので、できるだけ牛のリズムに合わせながら人間もそれなりに休めるように、絞る時間を決めています」。


搾乳に用いる機械。牛の乳房に取り付け、空気に触れずにミルクをタンクに流し込める仕組み


仕事について、「やったほうがいいかなと思うことは、やったほうがいい。やらないと後悔することが多いです」と榎本さん。「例えば、乳は基本的に機械で絞りますが、その前に一度手で搾って乳の状態を見て、綺麗に拭いてから機械を付けるようにしています。そういう手間を省かないこと、面倒臭がらないことが大事ですね」。

一般的に牛乳は「量より質」な部分があるというが、小野ファームでは、エサが余ってしまうようなら多めにあげたり、質が悪い牛乳は思い切って処分したりと、自社牧場だからこそ質を第一に考えている。

【毎日牛に触れ、愛情をもって接する】
日々大変な仕事の連続だが、それもミルクを生み出す牛の存在があってこそ。「牛もみんな従業員なんです」と言う榎本さんは、牛たちとどのように関係を築いているのだろうか?


牛をなでる榎本さん


「牛には毎日触って毎日体調を確かめます。この子はお腹を壊しやすいとか、それぞれの特徴もだいたい把握していますね。ミルクも、エサや水分が足りないと質が変わります。衛生面はもちろん薬液などで検査していますが、気になるときは自分でも舐めて確かめたり、五感を使う仕事です」。牛たちも個性はそれぞれで、しっかり見ていればそれだけ違いがわかってくるという。ひとつの正解がないからこそ、毎日の経験の積み重ねを大切にしていることが伺える。

もちろん愛情をもって接しているが、やはりその関係はペットとは少し違うようだ。「牛たちと毎日付き合う仕事ですから、穏やかに、気持ちよく過ごしていてくれるほうが、私たちも楽なんです。なので、できるだけ牛舎を綺麗にしたり、栄養状態を良くしたりと、長生きしてくれるようにいつも考えています」。


ある牛は「おばあちゃん」と呼ばれているよう。札には「12才!」「あごなでて!」の文字が…


大切なのは「人間がイラっとしない」こと。「この仕事を始めた頃は、子牛がミルクを飲まないと仕事が進まないし、『なんで飲んでくれないんだろう』と思っていたんです。でも、生まれて数日の子にそんなことを思っても仕方ないなと考えられるようになって(笑)。だから新しいスタッフにも、まず優しく接してね、ということを伝えています」。

【地域や人との関わり】
牧場で気になるのは、匂いや音の問題。住宅地のなかにある小野ファームは、このふたつの点にとくに気を配っている。具体的には、出産のときにできるだけ牛が鳴かないような工夫や、フンは一日2回綺麗に掃除し、堆肥専用の小屋に早めに持っていくなどの対策を行っているという。「ただ気温や風向きによってどうしてもカバーできない部分もあるので、近隣の皆さまにはご理解・ご協力いただいているのだと思います」。

また小野ファームでは以前、近くの小学校に向けた見学なども行っていた。コロナ禍や保健所の指導もあり、現在牛舎に外部の人を入れるのはなかなか難しい状況だが、牛の見学は子どもにとって貴重な体験になったようだ。

「牛を間近に見ることってなかなかないですよね。色々と制約がありますが、ぜひ機会があれば牛を見て、触れてほしいなと思うんです。普段飲んでいる牛乳はこの牛さんからもらっているんだ、というふうに、牛乳と生き物のイメージがつながったらすごくいいなと思いますね」。

なかには「ここで働く!」という子もいるのだとか。「その気持を忘れないでいてほしいです。私も、酪農って別世界だと思っていたので入るのが遅かったんですが、意外と身近にあるということをもっと知ってもらえたら」。

牛たちと育てる人がよい関係を築けるよう、日々牛に触れ、試行錯誤を繰り返している榎本さん。その姿勢からは、ミルクやお肉を通じて「よい関係」を消費者にまで広げたいという思いが伝わってきた。

【小野ファーム】
所在地:戸塚区上倉田町1408
お問合せ:045-881-3287

とどける人 「横濱アイス工房 戸塚店」梨本君子さん

神奈川県有数の規模を持つ牧場・小野ファームが運営する「横濱アイス工房」。戸塚とゆめが丘に店舗を構え、牧場直送のミルクを使ったソフトクリームやジェラートが大人気だ。今回は、戸塚店のスタッフ・梨本さんにお話を伺った。

【行列のできるアイス屋さん】
舞岡公園の散歩道を抜けてすぐのところにある戸塚店。駅からは少し離れているが、散歩がてら立ち寄る人も多く、とくに休日は家族連れで賑わっている。店内にはミルクやチョコ、ストロベリーのほか、夏にはラムネやマリンソルト、秋にはマロングラッセなど、ミルクの美味しさを生かした季節ごとのメニューが並ぶ。なかには「あの味が食べたい!」と電話で確認してから来店する人や、年配の常連さんも。子どもからお年寄りまで、幅広い層に愛されていることが伺える。


「横濱アイス工房 戸塚店」の外観。外のベンチに腰掛けてアイスでひと休み


「横濱アイス工房」では、ソフトクリームとジェラートという2種類のアイスを提供している。ソフトクリームは、ミルクの濃厚な味わいを感じられる1種類だけ。ジェラートは常時10数種類ほどを揃え、様々なフレーバーや食感を楽しむことができる。

2年ほど前には、ソフトクリーム用の最高級マシン「カルピジャーニ」を導入。梨本さんは、「ミルクベースと混ぜる空気の量やバランスが絶妙で、通常の機械とは滑らかさがまったく違います。自社牧場のミルクの美味しさを最大限味わってほしいという社長のこだわりですね」と話す。


ミルクの味を楽しむなら「ソフトクリーム」(350円・税込)


【お店で練り上げるジェラート】
いっぽうのジェラートは、工場直送のものをお店に立つスタッフが練ってから提供している。ソフトクリームと違い、練り上げる程度によって食感や見た目の美しさが変わってくるため、一番気をつかっているという。「工場から-6〜7℃で送られてきたジェラートを、ある程度の温度に落として練り上げることで、滑らかさが出て食べやすくなります。あまり練りすぎるとすぐ溶けてしまうし、逆に硬いとポロポロ落ちてしまう。種類によっても変わってきて、例えば『三浦のかぼちゃ』などはどうしても繊維質が出やすいので、しっかり練ってかぼちゃの甘味を出すようにしています」。

また、季節や環境によっても練り具合を変えている。「いまはコロナ禍で、クーラーを入れていても換気のためにドアを開けています。そうするとどうしてもジェラートが溶けやすくなってしまうので、練り具合をいつもの8〜9割くらいに抑えておくなど、温度にあわせて調節しているんです」。


ケースに並ぶ色とりどりのジェラート


ジェラートは、そのままはもちろん、上にソフトクリームをトッピングした「ソフトトップ」もオススメ。例えばミルクのジェラートとソフトクリームを食べ比べてみれば、同じミルクベースでもまったく食感が違うことに驚くはず。何度も通ってお気に入りの組み合わせを見つけてみてほしい。

【ミルクの良さを生かした豊富なメニュー】
牧場直送のミルクだけでなく、工場では神奈川県内の農作物を使った地産地消メニューの開発にも力を入れている「横濱アイス工房」。レモンや湘南ゴールドといった柑橘類から、津久井のきなこ、足柄のお茶を使った足柄緑茶まで、カップアイスやジェラートで味わうことができる。なかでも海老名のいちごをふんだんに使った「えびーにゃ」は、農家と独自の契約を結び、何回もの試作の末にできあがったものだ。


地産地消のジェラートはカップでも販売


メニューは、店舗のスタッフが中心となって考えることもあるのだとか。「『苺のミルフィーユ』は、パイ生地を乗せた三層で食感を楽しんでいただけます。最近では霧笛楼さんのクッキーなど、横浜市内のものをチョイスしてジェラートに使っています。でも一番のポイントは、ミルクそのものの味を生かすことですね」。

また小野ファームは、ブランド牛「横濱ビーフ」でも知られている。「横濱アイス工房」では、この横濱ビーフの上品なコクと旨みが詰まった特製ビーフカレーをソフトクリームとセットで提供。レトルトでも販売されているため、お土産にも最適だ。

【お客さまの笑顔に触れて】
梨本さんは、日々お店に立ち、真心を込めてアイスの美味しさを届けている。「色々なお客さまがいらっしゃって、美味しいと感動してくださるのは何よりも嬉しいです。とくにお子さんは、カップやコーンにアイスを盛っているところを真剣な目で見ていて、うまく盛れると『わあ、美味しそう』と言ってくれます。お客さまの反応を身近で感じられるのが、とても楽しくて幸せですね」。

お客さまとの触れ合う時間があまり多くないからこそ、「お久しぶりです」「今日は何になさいますか?」という何気ない会話を大切にしているという。


笑顔が素敵な梨本さん


「お客さまには、できるだけ色んな種類を味わっていただきたいんです」と梨本さん。オススメから季節限定のものまで、ケースに並んだアイスはどれも美味しそうで目移りしてしまう。そんなときには、ワンスプーンで試食することができる。これも嬉しいポイントのひとつだ。

地元で丹精込めて育てられた”牛の恵み”を、お客さまの一番近くで届けている梨本さん。そこにはこだわりと責任感を持って商品と向き合う姿勢や、さりげない心づかいがあった。アイスが美味しくなる季節、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。


店内の様子


【横濱アイス工房 戸塚店】
所在地:戸塚区上倉田町1457
アクセス:ブルーライン舞岡駅から舞岡公園まで徒歩約16分、散歩道を抜けて徒歩約5分
営業時間:10:00〜18:00
定休日:無休(4月〜9月)、月曜(10月〜3月)
お問合せ:045-862-9753

このページへのお問合せ

交通局総務部総務課

電話:045-671-3671

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ファクス:045-322-3911

メールアドレス:kt-koho@city.yokohama.jp

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