第1章 教育センターの整備に向けて 1.歩み (1)横浜市教育研究所 1)黎明期≪昭和 22(1947)年〜昭和 35( 1960)年≫ 横浜市教育センターの前身である横浜市教育研究所が、昭和 22(1947)年 10月に、市長告示により、石川小学校(現、南区)の3階の一画で活動を開始している。 その後、昭和 25(1950)年に幸ケ谷小学校(神奈川区)に移転した。 昭和 31(1956)年には、教育研究所の設置根拠となる「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が施行され、横浜市は「横浜市教育研究所条例」の制定を行い、創立 10周年記念の研究発表会を行っている。 「横浜市教育研究所条例」では、実施事業を次のように規定し、「同条例施行規則」において研究所の設置の趣旨、事業内容、事業推進の諸条件等について明らかにしている。 横浜市教育研究所条例(抜粋) (事業) 第2条 横浜市教育研究所は、本市教育の向上をはかるため、教育に関する専門的、技術的事項の調査研究および市立学校教職員の研修等を行う。(「横浜市教育研究所条例」) 横浜市教育研究所条例施行規則(抜粋) (事業) 第2条研究所は次に掲げる事業を行う。 (1)学校教育及び社会教育に関する専門的、技術的事項の調査、研究に関すること (2)教育関係職員の研修に関すること (3)教育相談に関すること (4)教育研究活動に対する指導、助言、援助に関すること (5)教育図書館、教育資料室および教科書センターの運営に関すること (6)研究物の出版に関すること (7)教育広報活動に関すること (8)その他教育研究のための事業に関すること 戦災によって焦土となった市街地の復興が接収により著しく遅れるなかで、市民の地域復興の意欲が盛り上がり、市民による文化活動が一斉に開始されることになる。 昭和 24(1949)年に青少年指導対策委員会や PTA協議会が、さらに昭和 26(1951)年には婦人団体連絡協議会が発足し、文化事業や社会教育活動が一段と活発化し、事業を行うための会場の不足を受け、県立図書館と県立音楽堂が昭和 29(1954)年に開館し、横浜市の文化事業や社会教育活動はさらに盛況をみせていく。 2)横浜市教育研究所時代≪昭和 35( 1960)年〜昭和 49( 1974)年≫ 研究所は、昭和 35(1960)年に、現横浜吉田中学校(中区)敷地内に設置された新庁舎に場所を移し、昭和 49(1974)年に中区万代町の赤レンガビルに移るまでの間、ここで活動を継続している。 研究所の活動が軌道に乗り始めた昭和 38(1963)年の記録によると、研究所内に教育図書館が設置され、教育相談業務、調査研究業務(当時の研究フレームは、非行少年、学習指導法、学力、マスコミ、特殊教育)、教職員研修業務、所員研修業務が組織的に営まれていたことがわかる。 昭和 39(1964)年に横浜市民ギャラリーが中区桜木町の旧中区役所の庁舎を活用してオープンし、美術発表、自主企画展開催の場として、その後 10年間に渡り多くの市民に親しまれた。 (2)横浜市教育文化センター 1)横浜市教育文化センター時代@≪昭和 49( 1974)年〜平成 10( 1998)年≫ 昭和 49(1974)年、横浜市教育研究所は、中区万代町にギャラリー、ホールを併設する多目的利用施設として市民の期待を担ってオープンした「横浜市教育文化センター」に移ることになり、これに伴って同研究所は改組された。 「横浜市教育研究所条例」は廃止となり、新たに「横浜市教育文化センター条例」が制定された。 同条例に示された設置目的と事業は次の通りである。 横浜市教育文化センター条例(抜粋) (設置) 第1条教育に関する専門的、技術的事項の調査研究、教育関係職員の研修等を行うとともに、市民に教養及び文化活動並びに芸術の創造と普及の場を提供し、もって教育の振興及び文化の向上に寄与するため、横浜市教育文化センター(以下「教育文化センター」という。)を設置する。 (事業) 第2条 教育文化センターは、次の事業を行う。 (1)教育に関する専門的、技術的事項の調査研究及び相談に関すること。 (2)教育関係職員の研修に関すること。 (3)視聴覚資料の収集及び提供に関すること。 (4)音楽、演劇等の発表会等の開催及び市民の集会の場所の提供に関すること。 (5)その他前各号に準ずる事業 (施設及び位置) 第3条教育文化センターに次の施設を設け、その位置は、次のとおりとする。 施設…横浜市教育センター、横浜市視聴覚センター及び横浜市教育文化ホール(以下「ホール」という。) 位置…横浜市中区 施設…横浜市社会教育コーナー(以下「コーナー」という。) 位置…横浜市磯子区 「教育」の側面からは、「教育に関する専門的、技術的事項の調査研究」「教育相談」「教職員の研修」を担うとともに、時代要請に基づき、視聴覚資料の収集及び提供を行う機関として位置付けられている。 「教育センター」は、本市の教育の在り方を総合的に研究する組織として位置付けられ、国の審議会答申や学習指導要領改訂の動きを読み取り、本市の実態に照らしつつ先進的な横浜の教育を生み出すための諸種の研究と、これに連動する教職員の研修、学校指導・支援が行われた。 その主な成果として、子どもを学習の主体者として捉えなおす「横浜プラン(昭和 50(1975)年)」、生涯学習の基礎を培うことをテーマとする「開発プラン(昭和63(1988)年)」等の教育プランの策定と、これに基づく学校の実践支援の試みがある。 「視聴覚センター」は、開館当時、全国でも最新の設備を設け、学校教育・社会教育・一般行政等に必要な視聴覚教材の制作・収集・貸出を行うとともに、視聴覚教育研修も行っていた。 「教育相談」については、昭和 49(1974)年の開館時に「横浜市教育センター教育相談室」を設置し、昭和 60(1985)年に、現在の「いじめ 110番」の前身となる有人電話を開設した。 昭和 61(1986)年には、病理的傾向に対応するため、セラピストや精神神経科医師を配置して専門相談を開始した。 一方、特別支援教育に関するニーズが高まる中、「教育に関する専門的、技術的事項」における「特別支援教育に関わる専門的、技術的事項」及び「特別支援教育に関わる教育相談」については、昭和 56(1981)年に保土ヶ谷区仏向町に設置された「養護教育総合センター(現特別支援教育総合センター)」が担うこととなった。 昭和 57(1982)年、磯子区浜小学校東分校跡に「横浜市社会教育コーナー」が、社会教育活動の指導者研究の場、市民の教養・文化活動等の場として、教育文化センター条例に位置付けられ設置された。 幼児教育の調査研究、指導、研修等を担う「幼児教育センター」が教育文化センター内に昭和 58(1983)年に設置された。 これは市民の幼児教育に対する関心が一層高まり、幼稚園等の民間幼児教育機関の協力体制も整いつつあった中で、幼児教育の総合的な研究・研修の体制を確立し、内容を一層充実向上させることを目的とした。 一方、「文化」としての側面に着目すると、「教育文化センター」は、戦後復興の時からの市民の夢と願いに支えられた文化事業や社会教育活動の拠点であり、社会的インフラストラクチャーとして長きにわたり活用されてきていた。 教育文化センターに併設された「教育文化ホール」と「市民ギャラリー」は、市民が様々な文化を享受し、発信・発表する場として、横浜市立学校の児童生徒、教職員の学びを支える大切な役割を果たしていた。 教育文化センター開館当時のリーフレットでは、教育文化センターを「教育と文化の創造の殿堂」と表現し、「文化とは価値の創造であり、教育はその創造力を培い支える根本のはたらきであり(中略)教育と文化は一体となって(中略)人間性を豊かにするもの」「教育と文化の両面にわたって大きな役割を果たそうとするもの」と期待と希望を込めた記述がみられる。 教育文化センターには、その他に、市政展示室や資料室を備えた広報センター(市民局所管)や、消費者センター(経済局所管)が設けられた。 2)横浜市教育文化センター時代A≪平成 10( 1998)年〜平成 22( 2010)年≫ 平成 10(1998)年の学習指導要領改訂は、教科中心主義から学習者中心主義へのカリキュラム観の転換を図るドラスティックな動きであり、これを学校で実現するために、全国の教育センターは、「カリキュラム・センター」としての機能の充実が求められるようになった。 <カリキュラム・センター機能とは> ・自治体としての教育課程開発・研究 ・教育課程策定・運営・改善に資するコンサルテーション ・教育課程開発・授業改善のための情報の収集、調査研究 ・シラバス・学習指導案の作成や教材コンテンツの作成等学校支援機能 ・教育課程策定・運営・改善を軸とする教員の育成・研修 本市では、それまでの教育プランの中でも、学習者の主体性や生涯にわたって学ぶ意欲を大切にしてきていたが、こうした動きに連動し、教育課程開発のための研究推進が一層強化されることとなり、「新横浜教育プラン(平成 11(1999)年3月)」、「横浜版学習指導要領総則(平成 20(2008)年2月)」等の策定と、これに基づく各学校の教育課程支援および指導が進められた。 「横浜版学習指導要領総則(平成 20(2008)年2月)」の策定とその実施は、平成 16(2004)年から平成 17(2005)年にかけて開催された「横浜教育改革会議」での協議に基づいて平成 18(2006)年に策定された「横浜教育ビジョン」と、このビジョンを実現するための総合計画である「横浜市教育振興基本計画」における主要な取組に位置付けられている。 また、授業改善支援員を配置し、図書資料や学習指導案、各種教材の提供や「授業づくり」講座の実施を行うことで個々の教職員の学びを支える機能として、授業改善支援センター「ハマ・アップ」の整備が進められ、平成 17(2005)年6月に第一号のハマ・アップが教育文化センター内に設置された。 平成 20(2008)年8月には、センター北駅付近に北部ハマ・アップが、同年 10月には二俣川に西部ハマ・アップが、同年 11月には上大岡に南部ハマ・アップが開設された。 幼児教育センターは幼児教育に係る助成・支援も所管する形で平成 13(2001)年に再編され、平成 16(2004)年には幼児教育課に名称が変更され、平成 18(2006)年にはこども青少年局に移管された。 3)教育文化センター最終年≪平成 22( 2010)年〜平成 23( 2011)年3月まで≫ 本市は、27万人の児童生徒と、約2万人の教職員を擁する全国最大の基礎自治体であり、500校を超える市立学校がある。 これを関内の教育委員会事務局と教育センターが一極集中で指導・支援・管理することが困難であったため、平成 22(2010)年に、学校教育事務所を市内4箇所に開設し、教育委員会事務局の再編と分権が進めることで、より学校に近い場所から学校経営について的確、迅速、きめ細かな支援を実現した。 この教育委員会事務局の組織再編・分権化によって、教育センターのカリキュラム・センター機能のうち、教育課程開発機能を指導主事室(当時の名称。現在は教育課程推進室)が担うこととなり、教職員研修は教職員育成課、指導企画課(当時の名称。現在は小中学校企画課)及び方面別学校教育事務所が、そして専門分野の研修は各事業所管課が、それぞれの立場で実施することになった。 また、授業改善支援センター機能は方面別学校教育事務所が所管することとなった。 さらに、カリキュラム・センター機能とは別に教育センター機能として確立していた教育相談機能も人権教育・児童生徒課と方面別学校教育事務所が相互補完的に担う形とした。 このような教育委員会事務局の組織再編後も、教育文化センターでは、研修や研究、東部学校教育事務所による学校支援、視聴覚センターでの視聴覚機材の貸し出し、ホールやギャラリーを使用した児童生徒の成果発表等が実施されてきた。 <旧教育文化センターの概要> ・所在横浜市中区万代町1丁目1番地(関内駅徒歩3分) ・敷地面積2,646u ・建築面積2,225u ・延床面積21,025u ※交通局分(約6,400u)を除くと約14,600u ・階数地上11階、地下2階 ・竣工年度昭和49(1974)年度 (3)教育総合相談センターと特別支援教育総合センター いじめ、不登校等の相談に対応する教育総合相談センターと、特別支援教育に関わる教育相談等を行う特別支援教育総合センターの経緯について整理する。 教育相談は、教育文化センターの前身の横浜市教育研究所時代から、教育研究・開発や研修と並ぶ主要な機能であった。 昭和 27(1952)年に横浜市教育研究所内に教育相談室を開設し(「横浜市教育研究所条例」昭和31(1956)年制定時に業務として明記)、昭和 49(1974)年の教育文化センター開館時に同センター内に教育相談室が移転している。 昭和56(1981)年の国際障害者年には、「心身障害児教育」の中心的機関としての役割を果たす「養護教育総合センター」(現在の「特別支援教育総合センター」)が保土ヶ谷区仏向町に開所した。 教育広報紙「教育よこはま」200号には「このセンターは、心身に障害を持つ子どもに対する教育・医学・心理学等各専門分野からの総合的な相談・検査・診断を行います。 また心身障害児の就学相談並びに職能評価・進路指導を行うほか、心身障害児に携わる教員の養成・研修・指導の内容や方法、教材・教具等の研究開発も実施していきます。」と記述されている。(原文のまま引用。) 当時、このような機能を備えた施設は全国的にみても例がないと言われていた。 平成9(1997)年4月、教育総合相談センターが教育文化センター内に設置され、一般・専門教育相談のほか、養護教育総合センターで行っていたいじめ 110番、不登校対策事業が移管された。 所管課である教育相談課(当時の名称。現在は人権教育・児童生徒課)の事務室、一般電話相談といじめ 110番、専門相談、ハートフルスペースが設置され、教育にかかわる様々な相談といじめや不登校対策事業が展開された。 <年表> 昭和49(1974)年 教育文化センター開館。教文センター内に教育相談室が移転 昭和56(1981)年 保土ケ谷区仏向町に養護教育総合センター(現特別支援教育総合センター)開所 平成8(1996)年 養護教育総合センター内に適応指導教室(現ハートフルスペース)を設置 平成9(1997)年 教育文化センター内の教育相談室が教育総合相談センターに改編。 この時、養護教育総合センターが行ってきた不登校の相談業務を教育総合相談センターに移管 平成19(2007)年 国通知「特別支援教育の推進について(通知)」により、特殊教育を特別支援教育に、養護教育相談センターを特別支援教育総合センターに、養護学校を特別支援学校等の名称変更が行われる 平成22(2010)年 機構改革により、教育総合相談センターの所管を教育相談課から人権教育・児童生徒課に移管 ※参考文献 ・『教育文化センターのあゆみ−戦後文化事業史年表−』横浜市教育委員会教育文化センター/編[1986] ・『横浜市教育文化センターパンフレット』横浜市教育委員会教育文化センター[出版年不明] ・『横浜市教育史』横浜市教育委員会/編[1978] 【表】教育総合相談センターと特別支援教育総合センター (4)現在の教育センター ≪平成 23(2011)年3月〜現在≫ 平成 23(2011)年3月の東日本大震災後の平成 25(2013)年3月、耐震能力に問題があるとされていた関内駅前の赤レンガの建物である「教育文化センター」が全面閉鎖された。 これにより教育課程開発や研修企画を行う執務室、教員が教職専門性を高めるための研修室を使うことができなくなった。 また、子どもたちが芸術文化を享受したり、学びの成果を発信したりする拠点であり、横浜市立学校全校の代表教職員が一堂に会して情報共有を図ったり、協議を行ったりする拠点であった教育文化ホールも失われることになった。 視聴覚センターは廃止され、視聴覚教材・機材の貸出等の業務は、横浜市中央図書館に移管された。 横浜市民ギャラリーは西区宮崎町に移転し、現在は文化観光局が所管する単独施設として稼働している。 教育センターの「カリキュラム・センター機能」「教職員の研修機能」は分権後も教育文化センターに多く残されていたが、令和元年度現在、関内駅前第一ビル、方面別学校教育事務所、横浜花咲ビル等、関内駅周辺の複数の民間施設に分散され、平成 22(2010)年の事務局再編に伴って機能を分担することになった各所管によって営まれている。 現在の教育センター機能の分散状況は以下のとおりである。 なお、令和2(2020)年、横浜市庁舎が中区本町6丁目に移転する。それに伴い、関内駅前第一ビルに入居している各課は新市庁舎に移転する。 【表】旧教育文化センターの施設概要(平成22年4月時点) 【表】現在の教育センターの施設概要(令和元年10月時点) 2.現状 教育センターにおける教育研究、研修、教育相談、成果発表、その他会議等について、活動実績と新たな教育センターの利用意向を整理する。 (新たな教育センターの施設確保に向けた調査検討報告書(平成 31年3月)より) (1)活動実績と新たな教育センターの利用意向 1)教育研究、研修及び成果発表 教育研究、研修、成果発表、その他会議等については、平成 30(2018)年度調査(※)より、教育相談については平成 29(2017)年度の相談件数より把握する。 ※平成 29(2017)年度の活動実績及び今後実施が予定されている活動を把握した調査。 調査対象は、行政(教育委員会事務局、こども青少年局)、横浜市立学校(小学校、中学校、義務教育学校、特別支援学校、高等学校)及び各学校種の校長会、副校長会、教育研究会、横浜市中学校体育連盟(以下、中体連)、横浜市 PTA連絡協議会である。 まず、学校が主催する行事を除く、調査研究、研修及び成果発表に関する活動等の合計をみると、活動数は 4,651回であり、延べ参加人数は 400,636人であった。 このうち新たな教育センターの利用意向がある活動は、4,024回(総計 4,651回に対して約 87%)で、参加人数は 344,303人(総計 400,636人に対して約 86%)であった。 【表】活動実績と新たな教育センターの利用意向(学校主催行事を除く) 次に、学校が主催する行事(以下、学校行事)については、市立学校 509校のうち 176校が新たな教育センターを利用したいとの意向を示した。 中でも、市立中学校 146校中 134校(約 92%)が「新たな教育センターを利用する可能性がある」との回答をしている。 市立学校が行っている計 273回の学校行事において新たな教育センターを利用したいとの意向があった。 なお、学校行事は、成果発表に該当する活動である。 【表】学校行事の活動実績と新たな教育センターの利用意向 以上より、新たな教育センターの利用意向がある活動数の合計は 4,297回、参加人数の合計は578,191人となった。 【表】新たな教育センターの利用意向がある活動の回数と参加人数 なお、新たな教育センターの利用意向がある活動を活動主体別に整理すると、活動数では約4割、参加人数では5割以上の活動が、学校の他、教育研究会や校長会・副校長会、中学校体育連盟等、教職員により組織された団体による自主的、主体的な活動であることが分かる。 【表】活動主体別にみた新たな教育センターの利用意向がある活動(活動数) 【表】活動主体別にみた新たな教育センターの利用意向がある活動(参加人数) 2)教育相談 教育相談については、平成 29(2017)年度の相談件数を、新たな教育センターの利用意向がある活動数とする。 平成 29(2017)年度の相談件数は以下の通りである。 なお、来所による相談の場合、当該児童生徒のほか、保護者等も来所するため、実際の来所人数は来所による相談件数の2〜2.5倍と推定される。 【表】教育相談に関する平成29(2017)年度の相談件数 3)活動実績と新たな教育センターの利用意向のまとめ 〇教育研究や研修、成果発表に関する活動のうち、新たな教育センターで実施したいとする意向を示した活動は8割以上である(活動数 87%、参加人数 86%、※学校主催行事を除く)。 〇市立学校については、509校中 176校が、児童生徒の学習成果の発表のために新たな教育センターを利用したいという意向を示した(273回、233,877人)。 中でも、中学校が 146校中 134校と(92%)と多くの利用意向を示している。 〇新たな教育センターの利用意向は高く、その事業規模も大きい(年間活動数 4,297回、参加人数は 578,191人)。 〇教育委員会事務局主体の活動だけでなく、学校と、校長会・副校長会・教育研究会・中体連といった教職員で構成する団体による、主体的・自主的な活動が全体数のうち多くを占める(活動数 39.0%、参加人数 53.6%)。 〇教育相談は来所による相談を中心に行っている(相談件数 11,884件のうち、来所による相談は 6,953件、58.5%)。 本市では、教育研究や研修、成果発表、教育相談のいずれも、事業規模が大規模であることがわかる。 また、学校や、教育研究会等の教職員組織による主体的・自主的な活動がその多くを占め、教職員はもとより、児童生徒や保護者等も参加していることが明らかになった。 (2)機能別にみた活動実績 以下では、教育研究、研修、教育相談及び成果発表、その他の会議等について、その概要と新たな教育センターの利用意向があった活動の内容について整理する。 1)教育研究の活動実績 @概要 教育委員会事務局(主に教育課程推進室)が研究事業や教育関係職員の研究支援を行っている。 研究内容は、教科ごとに教育課程の編成・実施の参考とすることを目的として行う実践的な研究(教育課程研究等)やグローバル化や ICT、英語力の強化等を目的として行われる研究(教育課題研究等)、よりよい授業づくりに向けた研究(授業改善等)等である。 また、小・中・高・特別支援学校の学校種ごとに自主的に組織する教育研究会による教育研究も活発に行われている。 A実績 年間の活動数は 1,936回、参加人数は 82,471人である。 利用施設は、学校(756回、約 39%)、学校教育事務所(396回、約 20%)、公会堂以外の市内施設(396回、約 20%)、花咲研修室(131回、約7%)の順に多い。 活動内容をみると、教育研究会が学校種ごとに行っている教科別研究が 1,046回(全体の約 53%)と最も多い。 次いで、教育課程推進室が行っている活動が 869回(全体の約 45%)と多く、その内訳をみると、教育課程研究委員会・協議会 *1(660回、21,792人)や市学状作問委員会 *2(209回、1,919人)が行われている。 【図】利用施設別にみた活動数 【表】活動内容例(活動主体別) *1…各学校における教育課程の編成・実施の参考となるよう、学習評価、学習指導等教育課程に関わる実践的研究を行い、その成果を研究協議会や参考資料の発行を通じて学校に広める。 *2…横浜市学力・学習状況調査を実施するため、作問委員会は教職員及び指導主事による調査問題の作成を行う。 2)研修の活動実績 @概要 教育関係職員の資質・能力の向上を目指し、初任者研修や新任主幹研修等のキャリアステージに応じた年次研修は教職員育成課が、教職員の専門性を高めることを目的とした教科別研修は小中学校企画課(情報教育担当)が、特別支援教育に関する研修は特別支援教育相談課が、教育相談や専門分野に関する研修は各課・室が行っている。 主に横浜花咲ビル(花咲研修室)や関内周辺の会議室、特別支援教育総合センター等を利用しており、花咲研修室の利用調整は教職員育成課が行っている。 また、各方面の学校教育事務所が、教職員の授業力向上等を目的とした授業づくり講座を行っている。 A実績 年間の活動数は 1,183回、参加人数は 121,807人である。 利用施設は、公会堂以外の市内施設(388回、約 33%)、花咲研修室(385回、約 33%)、学校(145回、約 12%)、学校教育事務所(94回、約8%)の順に多い。 活動内容をみると、教職員育成課が行っている初任者研修や教育課題研修等の活動が 196回(全体の約 17%)と最も多く、次いで、こども青少年局保育・教育人材課が行っている乳幼児の保育に関する研修等が 187回(全体の約 16%)、特別支援教育相談課が行っている特別支援に関する研修等が 174件(全体の 15%)と多い。 【図】利用施設別にみた活動数 【表】活動内容例(活動主体別) 3)教育相談にかかわる活動実績 @概要 【教育総合相談センター】 教育総合相談センターでは、市内在住・在学の児童生徒及び保護者を対象とし、教育全般に関する相談を行っている。 相談には、不登校や友人関係、学習や進路に関する相談を受け付けている「一般教育相談」、いじめ等に関する相談を電話で 24時間受け付ける「いじめ 110番」、心理や医療等に関して専門家による相談やカウンセリングを行う「専門相談」がある。 「一般教育相談」、「いじめ 110番」は関内 STビルで、「専門相談」は関内山本ビルで対応している。 【特別支援教育総合センター】 特別支援教育総合センターでは、市立小中学校に在学中又は就学予定の特別な支援を必要とする児童生徒を対象とし、その子どもにとってふさわしい学びの場(学校種・学級種)に関する相談等を行っている。 相談には「就学相談」と「教育相談」の2種類がある。 「就学相談」は小学校に入学予定で特別な支援を必要とする幼児の就学に関する相談、「教育相談」は学級種・学校種の判断に向けた特別支援教育等に関する相談となっている。 相談方法は、原則、本人・保護者との面談と、幼児・児童・生徒の発達検査等となっている。 所在地は保土ケ谷区仏向町である。 A実績 教育総合相談センターにおける教育相談の平成 29(2017)年度の実績は、一般教育相談、いじめ 110番が 3,891件、専門相談が 3,672件であった。 特別支援教育総合センターにおける特別相談の平成 29(2017)年度の実績は 4,321件であった。 【再掲】教育相談に関する平成29(2017)年度の相談件数 4)成果発表にかかわる活動実績 @概要 成果発表として、児童生徒の音楽発表会、合同学芸会、各学校の文化祭、合唱コンクール等の発表や作品展示を行っている。 発表については、市内の公会堂や各学校、市外施設等を利用しており、展示については横浜市民ギャラリー等を利用している。 また、教職員の研究の成果発表を行う教育研究会も開催している。 A実績 年間の活動数は 500回、参加人数は 330,468人である。 このうち、学校行事は 273回で参加人数は 233,888人、教育委員会事務局による活動は 227回で参加人数は 96,580人である。 利用施設は、公会堂以外の市内施設(193回、約 39%)、学校(131回、約 26%)、公会堂(123回、約 25%)、市外施設(47回、約9%)の順に多い。 活動内容をみると、市立中学校が行っている活動が 222回(全体の 44%)と最も多く、次いで、指導企画課(現:小中学校企画課)が行っている横浜市立学校総合文化祭等の活動が 187回(全体の約 17%)と多い。 【図】利用施設別にみた活動数 【表】活動内容例(活動主体別) 5)その他会議等の活動実績 @概要 前述の活動のほか、校長会・副校長会や PTA連絡協議会、中学校体育連盟による活動、指導主事・人事主事全体指導主事会議等を行っている。 A実績 年間の活動数は 678回、参加人数は 43,445人である。 利用施設は、公会堂以外の市内施設(448回、約 66%)が最も多く、次いで学校(92回、約 14%)、花咲研修室(79回、約 12%)が多い。 活動内容をみると、校長会・副校長会が 309回(全体の約 46%)と最も多く、次いで、 PTA連絡協議会が 78回(全体の約 12%)、中学校体育連盟による活動が 44回(全体の約6%)、指導主事・人事主事全体指導主事会議が 37回(全体の約5%)と多い。 【図】利用施設別にみた活動数 【表】活動内容例(活動主体別) 【表】≪活動実績総括表(平成30(2018)年度調査より)≫新たな教育センターの利用を希望する活動〈活動数〉 【表】≪活動実績総括表(平成30(2018)年度調査より)≫新たな教育センターの利用を希望する活動〈参加人数〉 3.新たな教育センターの必要性 (1)教育文化センターが閉館したことによる課題 1)施設分散による業務の効率低減 @教職員や関係各課の連携の非効率化 教育文化センターが閉館し、施設が分散したことにより、教職員が直接的にコミュニケーションをとる機会が少なく、研究に必要な情報等を一元的に得ることが困難になり、自主研究や教科等横断的な研究を効果的・効率的に推進することが難しい。 関係各課の連携については、教育委員会事務局の教育センター事業を行う部署が、連絡調整や打ち合わせ等のためにその都度集合しており、往来に時間を要している。 また、民間オフィスビルの賃料等が発生している等、業務、コストともに非効率な状況となっている。 <具体的な状況> ・研究を行う拠点施設がなくなったため、教職員同士の教育研究に関する議論やコミュニケーションの機会を自然と得ることが難しくなった。 ・教育図書、教材、指導案等の情報を一元的に収集・管理できていない。 ・研究発表に向けた会議等を行う際に、関係課・室の指導主事が花咲ビルに集まって連絡・調整を行っている。 ・学校・教育研究会・教育委員会の各所属で行った研究の成果を集め発信する拠点がなくなり、発信力の低下が指摘されている。 ・分散した民間オフィスの賃料等は年間約1億5千万円を要している。 (((平成 30(2018)年度実績) A教育総合相談センターにおける課題 教育総合相談センターは、一般相談を関内 STビル、専門相談を関内山本ビルで実施しており、いじめ等、相談事案に対する迅速な対応や関係機関との緊密な連携体制に課題が生じている。 <具体的な状況> ・人権教育・児童生徒課の担当職員は関内 STビルと関内山本ビル、関内駅前第一ビル間を1日に何回も往復しなくてはならない等、非効率な状況となっている。 ・施設が分散しており、かつ狭隘であるため、活動的なプレイセラピーが行えない、相談室及び職員の待機場所が不足している、待合スペースでプライバシーの確保が困難である、教育相談の研究が行えない等の課題がある。 ・教育総合相談センターには、様々な相談に応え、対応方法を実践的に研究することによりその専門性を高め、児童生徒指導と連携しながら学校で行われる教育相談を支える役割が求められているが、現在の分散した状況ではその期待に十分応えることが難しい状況にある。 2)設備が整った研究・研修スペースの不足 @賃貸オフィスビルの限界 教育文化センター閉館後に移転した花咲ビルは民間の賃貸オフィスビルであるが、多人数を収容する研修施設としての利用には不都合な面がある。 また、教職員が研究に専念できる場やクリエイティブな思考が生まれる場がない。 花咲ビルでは無線 LAN等の ICT設備環境が整っていない。 <具体的な状況> ・通常、大規模な研修室では、スライド資料が会場後列からも見えるように、可動式スクリーンやモニターを会場の中間や後列の天井にも設置するが、天井高の制約により設置ができない。 よって、現在は研修室を横長に使用し、スライドを左右に映す方法で実施するため、プロジェクターが2〜3台必要となる。 ・アイランド形式の研修や個人でも大人数でも利用できるフレキシブルな空間がない。 ・トイレの数が少なく、研修では休憩時間に行列ができてしまう。 ・Wi-Fiが研修に使えない。 A実技系研究、研修への支障 教育文化センター閉館後に移転した花咲ビルは民間の賃貸オフィスビルであり、火気や水が使用できる設備等が不足しているため理科、音楽科、図画工作科、美術科、家庭科、技術・家庭科の実践的な研究や研修が行えなくなった。 そのため、外部施設や学校を利用しているが、外部施設を借り上げる際には賃料を負担する必要があり、学校を利用する際(特に、教育研究会の開催時)は、授業終了後に行われるため会場校の副校長等が戸締りのため研究会終了まで残っている必要がある。 実技を伴う教科研究や研修場所が毎回変わるため、研究や研修のために会場を確保することが教職員の負担になっている。 また、旧教育文化センターには、教科の研究や研修で用いる備品等が保管されていたが、現在は、複数の施設に分散して保管され、貸し出しにおける手間が増えたこと、十分な管理やメンテナンスができないこと等が問題である。 <具体的な状況> ・約 350名の小学校の初任者を対象とした理科の安全研修は、平成 30(2018)年度までは國學院大学たまプラーザキャンパスの施設で5部屋を借りて実施していたが、令和元(2019)年度はこれらの施設を借りることができなくなり、市立小学校2校で、午前・午後の計4回に分けて実施した。  また、薬品や火気の管理、身の回りの危険生物や飼育動物への対応等、理科実験の基礎・基本について学ぶ初任者にとって重要な研修であり、参加人数も多いが、施設不足のため、開催において関係者の手間や時間、費用を要しているという状況である。 ・各教科の備品は、複数の施設に分散して保管されている。具体的には、方面別学校教育事務所に近い小学校を各1校ずつ、計4校を「理科研修拠点校」として指定し、教育文化センターに保管していた理科の実験器具や標本等を移転した。  また、その他の教科の備品(例:楽器等)や教育研究会が所有する様々な教科の研究成果品についてもこれらの学校に移した。 ・研究会等でこれらの備品等を使用する場合、保管している学校から会場校に持ち出し、終了後に返却する必要があり、貸し出しにおける手間が増えている。  理科の研究では薬品を使用することもあり、保管や持ち出しの管理は厳重に行う必要がある。 3)教育センター専用のホール、展示場がない @児童生徒の発表の場の不足 各学校では、合唱コンクール等、児童生徒の日頃の学習成果の発表に力を入れている。 本市の児童生徒数は減少傾向にあるが、保護者や地域の方々の参観人数は増加傾向にあり、十分なキャパシティの施設を確保することが容易ではない。 また、会場を確保するために教職員の負担が大きい。 また、児童生徒の作品の展示スペースが不足している。 <具体的な状況> ・児童生徒の発表は、主に公会堂等を利用している。 平成 30(2018)年度調査では、公会堂等の利用回数が年間 123回に上り、公会堂の市民利用に影響を与えている。 ・市内公会堂の定員を超える生徒数(605人以上)の中学校では、市内の大規模施設が限られているなか、全校生徒が一堂に会して行う場所の確保ができない状況になっている。 ・平成 30(2018)年度調査より、約 92%の中学校が、学校行事等で新たな教育センターのホールを使用したいという意向があること、中学校の合唱コンクールや吹奏楽発表会で中学校の5校に1校が川崎市や横須賀市、鎌倉市、大和市、厚木市、東京都大田区等の市外施設を使用していることが把握されている。 ・横浜市内外の公会堂等を利用して成果発表を行っており、教職員が会場の確保に事前予約、下見、打ち合わせ、減免申請等の手間と時間を要している。 ・また、公会堂等の予約が取れないため、学校の体育館で、学年入れ替え等で発表会を運営している学校も多い。 ・公会堂は教育関連の活動でのみ利用する施設ではなく、6箇月ほど前からしか予約できないので、予約がとりにくく、活動計画が立てづらい。 ・現在利用している横浜市民ギャラリーでは、市内全校の代表者の作品の展示のみ行っており、旧教育文化センターの市民ギャラリーに比べて子どもたちの作品を限定して展示せざるを得ず、発表の機会が限られた状況になっている。  また、交通の便が悪く、会場が狭隘である。 ・市内のホールは、車いすスペースが限定的で使いにくい、ストレッチャー対応ができていない等、肢体不自由の児童生徒が使える施設が少ない。 A教育委員会事務局主催の行事や会議・研修等における会場確保が困難 教育委員会事務局が主催している大規模な発表会や会議、研修等の会場の確保が困難である。 <具体的な状況> ・教育委員会事務局が主催している横浜市立学校総合文化祭や、全体校長会議、教職員への研修や説明会でも大人数の会場が必要となるが、会場の確保は容易ではない。 ・現在は公会堂等の外部会場を確保するか、最大 300人定員の花咲研修室を活用して、本来、1回で済む会議や研修を、数回に分けて実施することで対応している。 ・教科等ごとに行っている「教育課程研究」は各学校や公会堂が会場となっているので、会場校の教職員の準備や公会堂の予約等が負担になっている。 B研究発表大会等への影響 ホールで大規模研修を行った後に、研修室等を利用した小規模研修を行う際は、参加者が円滑に会場を移動できるよう、場合によっては主催者が会場案内を行う等の工夫を強いられている。 研究発表大会は、全体会(大規模研修)で全体目標を共有し、分科会(小規模研修)で議論を深めた後、再度全体会で内容を共有しているため、全体会のためのホールと5〜20程度の分科会で使用する複数の会議室が必要となる。 <具体的な状況> ・教育委員会事務局が主催している大規模な教育研究大会を本市で開催する場合、主催者は複数の会場を確保する必要があるが、コスト等の制限があるため会場確保に大変苦労している。  参加者が会場を移動する際は、参加者が迷わないよう、主催者は会場案内を丁寧に行い、道案内に立つ等の工夫を強いられている。  分科会のあとの全体会の開催も制限されてしまう。 ・公会堂や関内ホールには分科会を開催できる部屋がなく、花咲ビルでは分科会は開催できるが全体会が開催できるホールは備えていない。  例えば、県が主催する教育研究大会では、西公会堂と花咲ビルが会場となり、西公会堂で全体会を行った後、花咲ビルで分科会を実施した。 ・全国規模の教育研究大会を開催できる会場がない。 (2)横浜市における教育センターの役割 〜横浜の教育が目指す人づくりに向けて〜 複雑で変化の激しい時代の中で、解が一つでない課題にも柔軟に向き合い、持続可能な社会の実現に向けて、自分たちができることを考え、他者と協働し、解決していくことが重要となる。 変化し続ける社会情勢やそれを踏まえた学習指導要領、人口減少社会の到来やグローバル化の一層の進展、インクルーシブ教育の充実の必要性等、横浜市の置かれている状況を踏まえ、常に新しい技術や文化を積極的に取り入れていく進取の精神を持って、絶えず研究と研鑽に努めることが求められる。 1)次世代を見据えた教育研究の推進 学校を取り巻く社会情勢が複雑化・多様化するなか、いじめや不登校、日本語支援などの課題への理解や対応力が教職員に求められるなど、今後も新たに表出される教育課題や教育ニーズ等に的確に対応するため、実践的な研究活動のさらなる充実が必要である。 学校とともに迅速かつ適切な対応を行っていくためには、現在の教育センターが担っている機能の拡充はもとより、500校を超える市立学校、教育研究会、教育委員会事務局における多種多様な研究や取組を結集できる中核的な研究拠点の設置が求められている。 さらに、 Society5.0(*3)の到来による社会構造の変化、学びの個別最適化、 ICT技術の急速な進歩等を見据えて、学校の教職員を中心とする調査や研究活動のみならず、企業・大学等の様々な活動主体と連携しながら、先進的かつ高度で多角的な視点から常に新たな調査研究活動に取り組んでいく必要がある。 学校教育の一層の充実を図るには、教職員の指導力・資質の向上とともに、教育課題や学校運営、教育課程、児童生徒指導等に関する調査研究を、学校単位を超えて多様な主体と連携・協働しながら、多角的な視点や社会全体・市全体の視点から、継続的・専門的に研究を行い、その成果を学校に提供し、支援していくことが重要である。 2)客観的な根拠に基づく教育政策の推進(EBPM *4) これまでの教育活動は、教職員の個人の経験やノウハウに頼ってきた部分が多く、それらを共有する仕組みは構築されていない。 また、各種の教育統計や国や市の学力・学習状況調査等は行われているものの、その結果を分析し、調査・研究・開発や人材育成を通して教育現場に効果的に反映できているとはいい難い。 教職員のなり手が減少している中、新学習指導要領では、小学校での英語の教科化やグローバル人材の育成、プログラミング教育・デジタル教科書等、時代のニーズに対応した新たな教育内容が求められている。 また、いじめ、不登校や日本語支援等複雑化・多様化している子どもたちが抱える課題への対応も求められている。 そのためには、約500校の市立学校から得られる課題やデータを大学、企業、教育関係機関等と連携しながら一元的に集約、分析した上で教育研究や教職員の育成等に役立て、教育現場に反映していくことが求められる。 *3…サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会 *4… Evidence Based Policy Makingの略称 3)主体的に学び続ける教職員の育成 社会情勢や子どもを取り巻く環境が変化しているなかで、教職員の指導力、専門性、資質・能力の向上がより求められており、企業、大学等と連携し、それぞれが持つ専門分野と連携・協働しながら、経験年数(年次研修等)だけではなく、役割別等に合わせた細かなキャリアステージ分けや研修体系を整えるとともに、教職員一人ひとりが自ら主体的にキャリア形成ができる環境を整える必要がある。 技術革新により定型的業務の AI技術等への代替が可能となることが想定される。 産業や働き方が変化していく Society5.0の社会を見据え、様々な分野において、 AIやデータの力を最大限活用し、展開できる人材が求められている。 教育においても、スタディ・ログ等を蓄積した学びや、デジタル教科書・教材等による ICT環境の整備充実など、一斉一律授業から、個人の進度や能力、関心に応じた個別最適化された学びの実現に向けて、学びの先端技術や新たな教育ツールを活用できる能力や情報活用能力の向上が求められている。 また、教職員は、午後の授業や業務を終えた後に研修を受講する等、業務多忙のため時間、場所等の制約が多く、学校における ICT環境等、遠隔から研修に参加できるような環境の整備が求められている。 教職員にとって、 eラーニングや Web会議等の ICTの活用は、効率性を生み出し、働き方改革に寄与する。 他方で、研究会や対話的な研修の中で、人が集まって感情や感性を伴いながら語り 合い、仲間とともにチームとなって刺激し合いながら学ぶことも必要である。 一方、教員の志願者数はここ数年減少しており、教員採用試験の合格者倍率は低下している。 横浜市の倍率は 5.2倍(平成 26(2014)年度)から 2.6倍(令和元(2019)年度)に低下しており、臨任・非常勤講師を含め人手不足は深刻な状態である。 そのため、新たな教育センターでは横浜の教育の魅力を大学と連携して発信するなど、大学生や教員志望者が横浜の教育を知ることができる拠点としての役割が求められる。 4)インクルーシブ教育の推進 特別な支援を要する児童生徒数はこの 10年間で 1.6倍(令和元(2019)年度:11,800人、平成21(2009)年度:7,209人)に増加している。 不登校児童生徒の人数はこの 10年間で 1.3倍(平成 30(2018)年度:4,978件、平成 20(2008)年度:3,790件)に増加している。 特別支援教育総合センターの相談件数(平成 30(2018)年度:4,468件、平成 25(2012)年度:3,692件)と教育総合相談センターの相談件数(平成 29(2017)年度:7,563件、平成 20(2008)年度:5,544件)は、増加傾向にあり、相談の増加及び人員不足により予約から相談までの待機時間が長期化している。 特に近年、知的な遅れはないが発達障害によって特別な支援を要する児童生徒の相談が急増し、一般学級における支援・指導が課題となっており、それに伴い、教育相談に関する学校の対応力の向上が求められている。 また、一人ひとりのニーズに応じた適切な支援・指導を行っていくためには、全ての教職員に特別支援教育・不登校支援等に関する専門性・指導力の向上が求められている。 また、教育総合相談センターと特別支援教育総合センターは、相談窓口が異なるが、実際には相談の主訴がはっきりと切り分けられるものばかりではなく、相談に至る要因は複合的である。 そのため、教育総合相談センターで特別支援教育に関する相談を、特別支援教育総合センターでいじめの相談を受け付けることが多くある。 そのような時には両者で迅速に情報共有し、本人・保護者に適切な相談場所を示す必要があるが、両センターは、別の場所に設置されており、情報共有に時間がかかる等連携体制に課題を抱えている。 学校や保護者が、適切な相談先を選択することも難しい状況にある。 教育総合相談センターと特別支援教育総合センターの相談窓口を一元化し、新たな教育センターに教育相談機能を集約することで、教育相談機関として、特別な支援を要する児童生徒だけでなく、発達障害やいじめ、不登校の問題も含め、児童生徒に適切な学習の場の提供すること、学校に対して、学校支援体制の構築や指導方法等を提供することが可能となる。 また、保護者や教職員にとっては相談先がわかりやすいものとなる。 さらに、教職員が、研究活動や研修に来所した際に両センターと調整ができるようになる等、集約のメリットは大きい。 教育課題は、日々の相談業務から把握されることも多いため、教育相談機能と同じ場に研究、研修機能があることが望まれる。 教職員養成の強化に向け、教育総合相談センターと特別支援教育総合センターの統合に合わせて、教育相談機能と調査・研究・開発機能、人材育成機能を統合し、これら機能を担う各部門が一層連携できる仕組みを構築することが求められる。 さらに、「保育・幼児教育センター」を教育センターに併設することで、特別な支援を要する子どもと保護者に対し、乳幼児期からの一貫した相談・支援、就学に向けての情報提供等に加え、人材育成により幼児教育に関わる保育者の専門性の向上を図ることで、乳幼児期から小学校への一層の円滑な接続が期待できる。 5)幼児期から小学校教育への接続 保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領(以下、「保育所保育指針等」という。)に示された資質・能力は、幼児期から小学校・中学校・高等学校へとつながっていく。 保育所保育指針等で示される「知識及び技能の基礎」「思考力、判断力、表現力等の基礎」「学びに向かう力、人間性等」の3つの資質・能力が乳幼児期に育まれることで、学びの芽生えが生まれ、小学校低学年で育つ自覚的な学びの基礎となる。 そのことを、保育・教育施設と小学校双方が認識をともにし、取組や研究を行っていくことが大切である。 本市では、これまでも全国に先駆けて幼保小連携の取組を推進してきているが、民間園が主となる幼保については、設立主体や種別も異なることから、取組についてはそれぞれの園や団体等の自主性に委ねられている。 今後、ますます求められる幼保小の円滑な連携・接続を図るためにも、民間園と行政が協力して調査・研究・開発や人材育成等を行い、乳幼児期の保育・教育と小学校以降の教育との連携を図ることができる環境が求められる。 幼保小の連携は、「小1プロブレム」や不登校、いじめ等の今日的な課題の改善・未然防止につながっており、学校への信頼を高めるものとなっている。 「保育・幼児教育センター」を教育センターに併設することで、それぞれの発達段階を踏まえた保育・教育の充実を一層図るとともに、育ちと学びの連続性・一貫性を保障し、円滑な接続を図るためのカリキュラム研究・開発に協働で取り組めるような仕組みを構築することが必要である。 6)教職員の働き方改革の推進 社会環境の変化に伴い、子どもたちを取り巻く環境が複雑化、多様化しており、学校に求められる役割が拡大している。 他方で、教職員のなり手は減少傾向にあり、教職員の負担増加、長時間勤務が問題視されている。 子どもたちが豊かに学び育つことができる学校を作るために、教職員が働きがいを感じながら心身ともに健康でいきいきと働くことができる環境整備が不可欠である。 そのためには、教育センターにおいて、教職員が自ら学び続けられる環境を整備する必要があり、限られた時間の中で教材研究や自己啓発等の学びの時間を効率的に確保することや、企業や大学等と連携しながら学ぶ意欲を刺激するような仕組み等を構築することが求められる。 7)企業・大学等との連携・協働 人口減少社会の到来、グローバル化の一層の進展や情報社会、 AIの進化等、子どもたちを取り巻く環境は刻々と変化しており、これからの時代に対応した新たな教育研究や教育人材の育成、授業力の向上が求められている。 また、横浜の教育は、子どもたちが主体的に考え学び続け、多様な人々や社会と関わり合うことを大切にしており、社会全体で子どもたちを育むこととしている。 そのため、教職員だけでなく、企業、民間団体、大学、教育関係機関等と子どもの成長に向けた目標を共有しながら、連携・協働し、教育内容の充実を図ることが求められており、連携強化を具体的に進めるための場や機会を教育センターが創出することが必要である。 (3)新たな教育センターの現状と必要性のまとめ 教育センターの現状 〇平成23(2011)年3月教育文化センター閉館 ・教育センター専用の研修室、ホール、ギャラリーが廃止 ・関係各課が複数の民間賃貸ビルに分散 〇教育研究、研修、教育相談及び成果発表の機能を有する ・各機能に関する活動は、多くの関係各課が携わりながら活発に行われている ・教育センター専用の施設がないため、市内外の公共施設や民間施設を利用している ・教育相談を行っている教育総合相談センターと特別支援教育総合センターで行っている ・いずれの機能に関する活動においても、新たな教育センターの利用意向は非常に高い 新たな教育センターの必要性 @教育文化センターが閉館したことによる課題 〇施設分散による業務の効率低減 ・教職員や関係各課のコミュニケーションの機会の損失 ・教育総合相談センターにおける問題 〇設備が整った研究スペースの不足 ・活動に適した環境ではない等の賃貸オフィスビルの限界 ・実技系研究、研修のための施設の不足 ・実技系研究、研修で使用する備品等の管理問題(貸し出しの非効率、メンテナンスが不十分) 〇教育センター専用のホール、展示場がない ・児童生徒の発表の場の不足 ・教育委員会事務局主催の行事や会議・研修等における施設確保が困難 ・大人数を収容するホールと併設する研修室がないことによる研究発表大会等への影響 A横浜市における教育センターの役割 〇次世代を見据えた教育研究の推進 ・学校、教育研究会、教育委員会事務局の多様な研究・取組を結集する中核的な研究拠点を設置 〇客観的な根拠に基づく教育政策の推進(EBPM) ・市立学校のデータを一元的に集約・分析し、教職員の育成や教育現場に反映する機能の構築 〇主体的に学び続ける教職員の育成 ・役割別等に合わせたキャリアステージ分けやそれに合わせた研修の実施 ・教職員が研修を遠隔から研修に参加できるような ICT環境等の整備 ・横浜の教育の魅力を大学生や教員志望者が知ることができる発信拠点 〇インクルーシブ教育の推進 ・児童生徒、保護者、教職員にわかりやすい相談先とするための教育相談窓口を一元化 ・学校現場の状況を適時に把握するため、教育相談と調査・研究・開発、人材育成の機能統合 〇幼児期から小学校教育への接続 ・幼児教育で身に付けた力が学習の素地を形成するため、幼保と小学校とで円滑にカリキュラムをつないでいくための連携と接続の在り方の研究 〇教職員の働き方改革の推進 ・教職員が働きがいを感じながら心身ともに健康でいきいきと働くことができる環境整備 〇企業・大学等との連携・協働 ・子どもたちが主体的に考え学び続け、多様な人々や社会と関わり、社会全体で子どもたちを育むために、教職員だけでなく、企業や大学等が連携・協働し、教育内容を充実化