- 2 - 1 働き方改革を進める理由 (1)看過できない教職員の業務実態 (横浜市の実態調査) 横浜市では、平成25年度に「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査」(以下「25年実態調査」という)を実施しました。 約9割の教職員が多忙と感じていながらも、「子どもの成長を感じられたとき」など、やりがいを感じるときには、忙しくても負担を感じないという、子どものために献身的に尽くすという教職員像が浮き彫りになりました。 【図 教職員がやりがいや満足感を得られているとき(複数回答)】 (平成25年度「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査」より) 一方で、以下のような業務実態も明らかになりました。 ? 大切な業務だと考えている「授業準備」の時間が、勤務時間内に十分に取れておらず、時間の半分以上は勤務時間外に行っている ? 「調査・報告等」「会議・打合せ」「成績処理」などが「負担」と感じている ? 小学校約5割、中学校約7割の教職員が、「休憩時間」が全く取れていない ? 約4割の教職員の「休日出勤」が月4日以上  ・中学校教員約2割が月8日以上の休日出勤(部活動等) ? 半数以上が育児や介護、家庭の事情などのための休暇取得や早く帰ることができないと回答 ? 若くて経験の浅い教職員の負担が大きく、勤務時間も長くなる傾向  ・20代教職員=平日約12時間、休日約3時間勤務、24.2%が「21時以降」に退勤 ? 副校長が学校運営や教職員の育成に十分に携われていない  ・副校長=平日12.3時間勤務(職種内最長)、92%が「7時30分以前」に出勤 【図 負担だと感じている業務(複数回答)】 【図 勤務時間内に休憩時間がとれているか】 (いずれも平成25年度「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査」より) - 3 - (教員の1日の流れ) 下の表は、1日の総勤務時間平均11時間27分※1を、通常の教員の1日の流れに当てはめた場合のイメージ図です。 勤務時間開始時刻前にも、実際には、授業準備や登校の見守り指導、部活動の朝練習等の対応があり、勤務時間終了後も、部活動の放課後練習や会議・打合せ、授業準備、事務分掌等が入っており、正規の勤務時間(7時間45分)には到底収まりきらない業務を抱えている状態です。 【図 教員の一日の流れ(イメージ)】 (平成25年度「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査」における1日の総勤務時間平均(11時間27分)を当てはめた場合のイメージ図※2) (本来業務の「授業準備」が勤務時間内に終わらない現実) 教員の本来業務かつ最も注力すべき業務は、「授業・授業準備」であり、25年実態調査においても、教員が最も大切な業務と考えているものは、「授業・授業準備」です。 一方で、同調査においては、一日の業務のうち「授業準備」に平均約1時間45分かけていますが、半分以上の時間は勤務時間「外」に行われていることが明らかになりました。 勤務時間外の業務としては、「授業準備」が最長であり、教員の「本来業務」が勤務時間内に終わらない現実があります。 【図 勤務時間外の業務トップ5】 (平成25年度「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査)より ※1…平成25年度 「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査」結果。 ※2…横浜市教職員の勤務時間は1日7時間45分。勤務の開始及び終了時刻は学校によって異なる。    「学校事務分掌」とは、学級担任や教科担任のほか、教務、研究、管理、渉外など、学校運営のために教職員の中で役割分担している業務。    「その他の業務」とは、保護者や地域との連絡調整、研究・研修など。 - 4 - 下の図は、国で定める学習指導要領※3改訂の変遷による小学校の時間割表の変化を表したイメージ図※4です。 6時間授業の日数の増加に伴い、授業準備や研修に充てる時間が全体的に後ろにずれ込む状況になりました。 教員の本来業務である「授業・授業準備」等を勤務時間内に専念できるような環境整備が不可欠となります。 【図 小学校の時間割表の変化(イメージ)】 (学習指導要領に規定されている標準総授業時間の変遷を踏まえた、小学校第6学年の時間割表) ※実際には、各校の教育課程に基づき、×の枠(=授業が入っていないコマ)を使って、国で定められている標準授業時数には含まれない「委員会・クラブ活動」が時間割に組み込まれている。  また、これに加えて、標準授業時数に含まれない「学校行事」については、時間割には位置付けず必要に応じて確保する等、様々な工夫で確保。 ※横浜市では、平成22年度から、国で定められている標準授業時数に加えて、小学校1〜6学年の各学年で年間20時間上回る授業時数を設定。 (メンタルヘルスの状況) 毎年行っている横浜市のストレスチェックの直近3か年において、高ストレス者の割合は年々増加しており、ストレス因子として考えられるものでは、「身体負担度」が最も大きく、次いで「仕事の負担(質)」「仕事の負担(量)」が大きくなっています。 また、時間外勤務が長い層ほど、高ストレス者の割合が高くなっており、勤務時間が長くなるほどメンタルヘルスの状態は不良となる傾向が出ています。 【図 時間外勤務時間別の高ストレス者の割合(横浜市)】 (平成29年度 横浜市教職員ストレスチェックの実施結果より) ※3…各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の国の基準。教育内容や年間の標準授業時数等が定められている。    各学校では、この「学習指導要領」や年間の標準授業時数等を踏まえ、地域や学校の実態に応じて、教育課程を編成。約10年に1度改訂がある。 ※4…年間の標準授業時数を、小学校学習指導要領に規定される年間授業週数の最低限の「35週」で算出し作成したもの。 - 5 - (国の実態調査) また、国においても、平成29年4月に約10年ぶりに「教員勤務実態調査(平成28年度)」の結果が公表され、10年前の調査に比べて、平日・土日ともに、小中学校のいずれの職種でも勤務時間が増加しました。 特に小学校約34%、中学校約58%の教員が週当たり60時間以上(月80時間以上の時間外勤務相当※5)の勤務という実態が改めて明らかになりました。 【図 教員の勤務実態】 (文部科学省:教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)を参考に作成) (通常の時間外勤務手当がない教員の特殊な給与体系) 教員の職務は、学校内外の教育活動や自己研修等において、個々人の自発性・創造性に期待する面が大きく、その勤務の全てにわたって一般の公務員と同様に、勤務時間の長短によって機械的に評価することは必ずしも適当ではないという教員固有の勤務の特殊性から、給特法※6に基づき、時間外勤務の有無や総量にかかわらず、給料の4%の「教職調整額」が上乗せ支給されています。 これは超過勤務の「時間」に応じて支払われる性質のものではありません。 この教職調整額の「4%」は、昭和46年の制度創設当時の「月8時間」という時間外勤務の実態を参考に制度設計されているものであり、創設以来50年近く一度も見直されていません。 昨今の実態と大きく乖離した現状であり、これまでの学校教育は、教員の献身性、ひいては長時間労働に支え続けられてきた状況と言えます。 ※5…厚生労働省の過労による労災補償認定における労働時間の評価目安の一つとして、発症前1か月間概ね100時間を超える時間外労働、発症前2〜6か月間平均で月80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。 ※6…公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(昭和46年法律第77号) - 6 - (2)多様化・複雑化する学校現場 時代や社会の変化とともに、教育内容や学校の機能・役割は変化・拡大を続けてきました。 例えば、より「個」に応じた教育への転換を目指したこれまでの教育課程の変更やそれに伴う学習評価の変更への対応、そして、ここ数年だけでも、いじめ防止対策、アレルギー対策、学校安全対策等への対応として、個別の計画策定や校内委員会の設置等が各学校に求められるようになるなど、学校現場が多忙となる要因は様々ありました。 また、少子化の中にあっても、大きな社会の変化の中で、特別な教育的ニーズがある子どもの数は増大しており、学校だけで解決することが難しい課題も増えています。 例えば、下のグラフのように、横浜市における児童虐待相談対応件数※7 や就学援助の認定者数等は増加し、学校では、区役所や児童相談所など福祉部門との調整や連携に多くの時間を要しています。 また、発達障害などを理由に特別な支援が必要な子どもの数や、日本語指導が必要な子どもの数も増加し、学校では、それぞれ発達障害等の状況や日本語習得の度合いに応じて、個別の学習計画の作成、教材の用意、個別指導をするなど、通常の授業に加えて、「個」に応じた対応をしています。 【図 児童虐待相談の対応件数の推移※7(横浜市)】 【図 就学支援認定者数・認定率の推移(横浜市)】 【図 特別な支援が必要な児童生徒数の推移※8(横浜市)】 【図 日本語指導が必要な児童生徒数の推移(横浜市)】 ※7…未就学児童も含む。 ※8…市内の特別支援学校、個別支援学級(特別支援学級)、通級指導教室在籍者数の合計値 - 7 - (3)必要性高まる教職員の学びの時間 新しい学習指導要領が平成 29 年 3 月に公示され、平成 32 年度からの小学校での全面実施を皮切りに、各学校種で教育課程が大きく変わっていきます。 今回の改訂では、今後大きく変容していく予測困難な時代に、一人ひとりが未来社会を切り拓いていくために必要な「資質・能力」の育成を目指し、「カリキュラム・マネジメント」の充実や「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善、「社会に開かれた教育課程」の実現が求められています。 新学習指導要領の着実な実施のためにも、これまでにも増して、教職員自身がアクティブラーナーとなり、幅広い経験・研鑽を積み、実社会に触れるフィールドワークを行うことが必要です。 また、社会の多様化・複雑化を背景とし、特別支援教育や心理・福祉等、幅広い分野における知識等が必要とされています。 このように、これまで以上に、教職員は学び続けることが必要となります。 一方で、現状において、教材研究や自己啓発(読書など)の時間が足りていないと感じている教員が7割を超えている状況です※9。 学びの時間の確保は、新たな教育課程の着実な実施のためにも、より一層必要です。 【図 教材研究や自己啓発の時間に関するアンケート】 (平成29年12月 横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室共同研究「教員の働き方に関する質問紙調査」調査結果※9)より ※9…平成 29 年 11 月〜12 月 横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室共同研究により「教員の働き方に関する質問紙調査」を行った。    調査の目的は、教員の働き方に関する実態を調査した結果を踏まえて、研修を開発し、実施するためである。以下は調査の概要である。 調査対象者:横浜市立小中学校の教員、校長、副校長、標本抽出法:有意抽出法、調査実施法:自記式質問紙による Web 調査 回答期間:平成 29 年 11 月〜12 月で行われた。 対象者数:教員 949(小学校:610、中学校:339)、校長 30(小学校:20、中学校:10)、副校長 30(小学校:20、中学校:10) 回収数:教員 522(小学校:319、中学校:203)、校長 28(小学校:18、中学校:10)、副校長 27(小学校:17、中学校:10) 有効回答数:教員 521(小学校:318、中学校:203)、校長 28(小学校:18、中学校:10)、副校長 27(小学校:17、中学校:10) 有効回答率:教員 54.9%(小学校:52.1%、中学校:59.9%)、校長 93.3%(小学校:90.0%、中学校:100%)、副校長 90.0%(小学校:85.0%、中学校:100%) - 8 - (4)育児や介護等を抱える教職員の増加 児童生徒数の変化に伴う教職員の大量退職、大量採用の影響で、横浜市では、現在 10年以下の経験年数である若い教員が約5割※10 という状況である中、10年後にはこれらの層が学校の中核を担うミドル層に移行していくと同時に、「出産・子育て」世代に移行していきます。 また同様に、「介護」に携わる教職員の増加も予想されます。 アンケート結果によると、現在においても、約2割(22.3%)の教員が未就学児を抱え、約1割(9.8%)の教員が介護に携わっている状況です ※11。 これまでのような長時間労働を前提とした勤務、すなわち、長時間労働をしないと職責を果たせないという環境は、将来的に持続可能ではなくなります。 豊かな経験を積み重ねてきたミドル層の教職員が、子育てや介護等に携わりながらも、それまでの経験を存分に発揮できる環境を整えることは、教育の質を担保する上で非常に重要です。 このように、中長期的な視点からも、魅力的、安定的かつ持続可能な勤務環境の実現は喫緊の課題です。 【図 経験年数別教員数(横浜市)】 (平成29年5月1日現在) ※10…平成 29 年5月1日在職する正規の主幹教諭、教諭、講師の平成 29 年度末時点の経験年数(養護教諭・栄養教諭・臨任・非常勤含まず) ※11…平成 29 年 12 月 横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室共同研究「教員の働き方に関する質問紙調査」調査結果