第5章 支援のためのチームづくり  本法の目標の実現に向けた視点の2つ目が「支援のためのチームづくり」です。本市では庁内各課及び庁外関係機関との連携を生活困窮者の「@把握に向けた連携」と「A包括的な支援に向けた連携」に整理して、支援のためのチームづくりを図ってきました。 @ 生活困窮者の把握に向けた連携  本市では区役所に自立相談支援事業の窓口を設けることにより、同じ庁舎内にある税・国民健康保険料等の納付窓口等と連携して支援が必要な対象者を早期に把握することが期待できます。   さらに本市には、子ども・子育て支援、高齢者支援、障害者支援及び青少年支援等、福祉保健に関する分野別の相談支援機関等の豊富な社会資源があるという強みがあります。一方で、各分野の支援対象にならない「制度の狭間」の問題や、介護や障害等の課題が顕在化する手前の状況で、どこに相談したらよいか分からず、地域社会からも孤立してしまう場合があります。  そこで、関係各課・機関との連携を強化することで、自立相談支援窓口につながっていない生活困窮者を確実につなげるよう取組を実施します。 ⇒本法第8条では、自治体の各部局(福祉、就労、教育、税務、住宅等)において、生活困窮者を把握した場合には、自立相談支援事業等の利用勧奨を行うことが努力義務とされています。   A 生活困窮者への包括的な支援に向けた連携  複合的な課題のある人(世帯)を適切に支援するために、就労支援や家計改善支援等の生活困窮者自立支援法に基づく各種支援を効果的に運用することが重要です。一方、病気や年齢等の事情から、これらの支援メニューだけでは、課題解決が難しい場合があります。  そこで、福祉保健に関する各分野の支援機関や、雇用や居住に関わる相談・支援機関等と分野を超えて、連携して対応することが必要になります。  連携構築のためには、幅広い相談者のニーズに応じた支援事例の蓄積に加えて、専門職によるケースカンファレンスや各分野の様々な会議(地域ケア会議や障害者地域自立支援協議会等)を通じた日頃からの支援者間の顔の見える関係づくりが重要です。  いろいろな分野の現場で活躍している専門の支援者が知恵を出し合いながら協力できる状態を目指して、支援のためのチームづくりに取り組んでいきます。 【具体的な取組事項】 1 公租公課(※)部門との連携による生活困窮者の早期把握  本制度の開始に先立ち、全庁プロジェクト会議を立ち上げ、庁内各課が連携して相談者を自立相談支援事業につなぐための仕組みづくりを行ってきました。  特に、公租公課の徴収部門との連携に関しては、モデル事業を実施していた中区保護課(当時)・税務課・保険年金課、財政局徴収対策課、健康福祉局保険年金課・保護課(当時)をメンバーとして区局庁内連携ワーキングを開催し、相互の業務理解に向けた話し合いを重ね、庁内連携における基本的な考え方等を共有しました。  実際の窓口業務へ同席するなどして徴収部門の業務理解を深め、平成27年4月に「庁内連携マニュアル(税・保険年金部門)」を策定し、さらに平成28年3月には情報共有の手順等をまとめた「横浜市生活困窮者自立支援における区関係課の連携及び情報共有に関する事務取扱要綱」を制定しました。  本制度の開始に伴い構築された連携関係を維持・強化していくことが重要であり、そのためには、@当該マニュアルの有効活用、A相互研修の実施による業務理解の促進、B税務課・保険年金課等の窓口への本制度チラシの配架、C相談者を自立相談支援事業に適切に案内するための連絡票の活用等が有効です。   (※)公租公課…国や地方公共団体により、公の目的のために賦課徴収される金銭負担の総称のこと 公租:国税や地方税などの租税を指し、地方税には住民税などが含まれる 公課:健康保険料や社会保険料等の租税以外の分担金を指す 2 庁内各課及び関係機関との事例検討等を通じた関係づくり  庁内各課及び庁外関係機関の職員等と一緒に事例検討や勉強会を実施することにより、相互の業務を理解し、支援の幅を広げることにつなげます。 【参考】事例検討及び勉強会の例 ・障害者雇用の制度理解を深める勉強会【区 高齢・障害支援課(障害者支援担当)】 ・障害年金申請の制度理解を深める勉強会【区 保険年金課(国民年金担当)】 ・生活に課題を抱えたまま生活保護廃止が見込まれる場合に、スムーズに生活困窮者自立支援制度による支援につなぐための事例検討【区 生活支援課(生活保護担当)】 【コラム】鶴見区暮らしの相談支援者ネットワーク  鶴見区暮らしの相談支援者ネットワークは、経済的困難を抱えた人、制度の狭間で困っている人、孤立しがちな人たちに対して、専門職同士が連携によって一緒に考え支えることを目指して、平成27年に発足しました。事務局は、区社会福祉協議会・地域ケアプラザ・医療機関・区役所の代表が協働して担っています。年に2回、「お金がない人をどう支えるか」をテーマに、事例を基に制度を紹介しながら研修を継続してきました。対象は、区内行政各部署、地域ケアプラザ職員、地域のケアマネジャー、医療機関、その他地域の支援機関の職員です。「貧困」はお金のことだけを指すのではありません。『えん(お金の「円」と繋がりの「縁」)がない』ことで、解決困難な課題を抱えることが多いことを踏まえ、支援者が気づきの視点を持ち、支援者間のネットワークを活用して支援の輪を広げられるよう取り組んでいます。 3 生活保護制度との一体的な運用  本市では各区役所の生活支援課に相談窓口を設けることにより、生活保護制度による支援との間で切れ目のない継続的な支援を行うことを目指しています。  本制度の相談者の中で、「要保護状態と見込まれる場合」や「支援途中で要保護状態となった場合」については、速やかに生活保護制度担当と情報を共有し、生活保護につなぎます。  逆に、生活保護を廃止する場合の手続きの中で、@本人が廃止後の相談支援を希望している、またはA本人の支援希望はないが廃止にあたり、ケースワーカーとして気がかりなことがある等の場合に原則として本人の同意を得たうえで、アセスメント結果や支援のポイント等の情報を本制度担当者に提供する仕組みの定着を図ります。 4 支援調整会議を活用したチームづくり  支援のためのチームづくりを進めるための手法として、支援調整会議の開催があります。国の手引きにおいて、「支援調整会議」の役割は、@支援プランの適切性の協議A支援提供者による支援プランの共有 B支援プランの終結時等の評価 C社会資源の状況の把握と創出に向けた検討の4つの役割を果たすものとしています。  本市においては、「支援調整会議」を大きく2段階に分けて区ごとに実施しています。  第1が個別支援を迅速に行うための「個別支援調整会議」です。必要に応じて随時に開催しており、主任相談支援員、自立相談支援員、提供するサービスの事業者に加え、支援対象者(本人)も参加し、会議の場で支援プランの確認・検討作業を行っています。直営方式の強みを生かし、この会議を経て支援プランの決定を行っており、速やかなサービス提供等につなげています。  第2が、社会資源の状況把握や創出に向けた検討、地域づくりに向けて行う「定例支援調整会議」です。年に2〜4回程度、庁内関係課の職員や関係機関・サービス提供事業者の職員等が参加し実施しているもので、新規相談や申し込みの状況、支援終結等の事案の状況報告を行うとともに、いくつかの事例については詳細を紹介し、事後ではありますが支援プランについての意見交換をしています。情報共有と支援プランの確認・了承の場として位置づけている会議です。さらに、事業の振り返りを行いつつ、地域におけるネットワークづくりや、不足している社会資源の開発に向けた意見交換などを行っています。  さらに、「地域包括ケアシステム」の実現を目指して開催される「地域ケア会議」、障害者総合支援法に基づく「障害者地域自立支援協議会」、児童福祉法に基づく「要保護児童対策地域協議会」など、個別支援の充実や関係機関の連携促進を目的とした各分野の会議とも協働するなど、各区の実情に応じた多様な実施手法が展開されています。  多種多様な課題解決に向けて、互いの得意分野を理解し、各支援者の力を最大限に生かしたチームづくりに向けて、会議の場を有効に活用していくことが重要です。     個別支援調整会議の目的と実施内容 ◆個別支援に関する以下の事項の検討・確認【本人との協働】 (1) 自立相談支援員が作成する支援プラン案の内容 本人の課題解決及び目標の実現に向けて適切か (2) 法定事業の申し込みの確認、収入要件等がある場合は要件確認 (3) 本人と支援提供者の目標・支援プランの共有 (4) 支援決定後の支援状況、目標の達成状況の確認 (5) 支援の終結、継続に対する定期的な評価及び支援プランの内容の変更の要否等 個別支援調整会議の参加者 ・本人 ・自立相談支援員 ・主任相談支援員または区担当係長 ・その他関係者 (ジョブスポット・区社協・関係事業者等) 個別支援調整会議の開催頻度 随時 プランの・策定・変更・終結時などに実施 定例支援調整会議の目的と実施内容 ◆支援プランの適切性の協議【生活支援課以外の関係者 により判断】 (1) 支援プランの適切性の協議・確認 (2) 支援内容の確認・実施状況の共有 ◆社会資源の状況把握や創出に向けた検討、地域づくり (3) 関係機関とのネットワーク構築 (4) 社会資源の状況把握 (5) 個々のニーズに対応する社会資源の創出に向けた検討等 定例支援調整会議の参加者 ・生活支援課 ・庁内関係他課 ・区社協 ・ハローワーク(ジョブスポット) ・関係事業者等 定例支援調整会議の開催頻度 定期 3か月に1回程度実施 【コラム】支援調整会議の開催状況 1 個別支援調整会議   支援プラン案を作成した段階で、支援対象者(本人)と自立相談支援員に加え、家計改善支援員・ジョブスポットの就職支援ナビゲーター等の関係者が集まり、課題解決及び目標の実現に向けて支援プランは適切であるかどうかや、関係者の役割分担等を確認します。  さらに、支援プラン期間の終期において、支援の経過と成果を評価し、支援プランに基づく支援を終結するかどうかの検討を行っています。 2 定例支援調整会議  他分野も含めた関係機関への制度周知やネットワーク構築を目的に開催する「連絡会方式」と、「個別支援調整会議」等で把握した課題や支援するうえでの課題をもとにテーマ設定し、関係機関等と検討を行う「事例検討方式」を組み合わせながら、各区が趣向を凝らして実施しています。   ●参加者について  「個別支援調整会議」の参加者(支援対象者(本人)を除く)に加え、「寄り添い型学習支援事業」等の本法に基づく各種支援事業の受託事業者、区社会福祉協議会や地域ケアプラザをはじめとした庁外関係機関、庁内関係各課の代表者や担当者が参加しています。また、会議のテーマに応じて、単発で関連する機関が参加する場合もあります。例えば、「ひきこもり」の支援を検討するために若者支援の関係者が参加することや、「高次脳機能障害」の理解を深めるために医療機関の関係者が参加するなど、内容に応じて多様な機関が参加しています。また、より幅広い関係者・機関と交流できるよう、参加者を拡大して実施する「拡大版」会議を開催する場合もあります。 ●内容について  「連絡会方式」では、制度概要や実績を紹介するとともに、支援メニューを分かりやすく説明するため、寸劇を取り入れて紹介する手法や「ジョブスポット」見学などを行う場合もあります。また「事例検討方式」では、「KITYメソッド」を活用したやり方や「ワールドカフェ方式」によるグループディスカッションを用いるなど、各区が工夫しながら実施しています。 5 関係機関同士の情報共有を行う会議体の設置  平成30年10月の本法改正に伴い、生活困窮者に対する支援に関する情報交換や支援体制に関する検討を行うための会議体「支援会議」の設置が制度化されました。  この会議においては、関係機関がそれぞれ把握している生活困窮が疑われるような事案の情報共有や支援に係る地域資源のあり方等の検討を行うこととされています。  また、会議の構成員に対する守秘義務(※)を設けることで、本人の同意がなくとも、関係機関が把握している個々の事案の情報共有が可能となり、世帯全体としての生活困窮の状態把握等が進みます。深刻な状況にある生活困窮者や困窮状態に陥る可能性の極めて高い人への早期かつ適切な支援につなげることができます。   (※)地方税法第22条の守秘義務は地方税法上の調査権に基づき取得された情報の保護を図るもので、厳しい守秘義務を課していることから、「支援会議」において、税務担当者が有する税務情報を本人の同意なく共有することまでは想定されていません。 6 住まいの確保に関する支援  多様な相談を包括的に受け止める中で、困窮状態の背景として、家賃負担が家計を圧迫している人や、連帯保証人、緊急連絡先の確保等が課題となり、賃貸住宅への転居が難しいなどといった、住まいの確保に関する課題を抱えている人を把握する場合があります。  住居は安定した生活の基盤であるため、困窮状態からの自立に向けては、長期継続的な住まいの確保に向けた支援が必要となります。  そこで、本市では市営住宅をはじめとする公営住宅や公的賃貸住宅を中心とする既存の住宅セーフティネットに加え、「民間住宅あんしん入居事業」を実施し、不動産店・賃貸物件オーナー・保証会社が協力して、入居しやすい物件の紹介を行っています。  また、平成29年10月に「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正住宅セーフティネット法)が施行となり、低額所得者、高齢者、障害者及び子育て世帯等の住宅の確保に特に配慮を要する者(住宅確保要配慮者)の入居を拒まない住宅(セーフティネット住宅)の登録制度がスタートしました。登録された物件に関する情報は国の「セーフティネット住宅情報提供システム」により、ホームページで確認することが可能です。  加えて、平成30年9月より家賃補助付きセーフティネット住宅制度を実施しており、低額所得者が入居する住宅のオーナーを対象に、家賃や家賃債務保証料の補助を行っています。  さらに、住宅確保要配慮者の円滑な入居を促進するため、本市、不動産関連団体、社会福祉法人等の居住支援団体で構成する「横浜市居住支援協議会」が平成30年10月に設立され、孤立死等の課題に対する具体的な取組が検討されています。  住まいの確保に課題を抱える相談者に対して、これらの制度を積極的に案内し、有効な支援策につなげることが必要です。   7 無料低額診療事業との連携  無料低額診療とは、医療を必要とする方が、経済的な理由によって医療を受ける機会を制限されることのないよう、無料又は低額な料金で診療を行う事業(第2種社会福祉事業)です。  社会福祉法第2条第3項第9号の規定に基づき、医療機関が任意で実施する事業であり、実施医療機関によって受け入れ体制や減免規程が異なることから、利用にあたっては注意が必要です。  実施医療機関の協力のもと、無料低額診療が円滑に利用できるよう、連絡票を活用して情報共有を進めています。   8 フードバンク・フードドライブ活動との連携  フードバンクやフードドライブとは、本来食べられるにも関わらず廃棄されている食品、いわゆる「食品ロス」の削減と同時に生活に困っている人への支援や地域の支え合い活動等への食料資源の有効活用を目的とした取組です。  経済的理由から緊急に食品が必要な人が、安定した生活や自立した生活に戻るための一助として、また継続的な支援につなげるための手段として、必要に応じて食料支援団体や区社会福祉協議会との協働による支援を行います。   9 ひきこもり状態にある人への対応  本市では、こども青少年局青少年相談センターが国のひきこもり対策推進事業に基づく「ひきこもり地域支援センター」として認証されており、相談・支援等の対応を行っています。  従来、ひきこもりの当事者は子ども・若者と捉えられてきましたが、近年は中高年も含む事象とされています。特に、80代の親の年金等で50代の子の生活を支える「8050」が社会的課題になっています。  ひきこもりの原因・背景はいじめや失職をはじめ、疾病等様々であり、個々人の状況に寄り添った対応が求められます。中高年に限らず、ひきこもりはその状態にある本人とその家族が社会から孤立してしまうことを防ぐことが重要であり、地域の身近な機関で対応できるよう、生活支援課と高齢・障害支援課等、区福祉保健センター各課が連携して対応する必要があります。その際、アセスメントや家族支援に関するノウハウを有するこども青少年局青少年相談センターや健康福祉局こころの健康相談センターとの間で情報共有や助言を求めるなどの連携も重要となります。 10 自殺対策施策との連携  自殺は、倒産、失業、多重債務等の経済・生活問題、病気の悩み等の健康問題、人間関係の問題のほか、地域・職場のあり方の変化など様々な要因とその人の性格傾向、家族の状況、死生観などが複雑に関係しています。自殺を防ぐためには、精神保健の視点だけでなく本人の経済・生活面や人間関係等に係る視点を含めた包括的な「生きる支援」を展開することが重要です。  平成29 年における市内で発見された自殺者数は443 人で、このうち、主な原因が「経済・生活問題」である人の割合は13.1%に及びます。自殺の危険性が高い人は、既に生活困窮状態にあることもあれば、将来的に生活困窮に至る可能性のある人もいると考えられます。逆に、生活困窮状態にある又は生活困窮に至る可能性のある人が、生活困窮状態を理由に、または生活困窮状態と他の要因が絡み合い、自殺に追い込まれることもあると考えられます。  したがって、本法に基づく支援と自殺対策とが、対象者本人の状態や意向と各々の専門性に応じて、しっかりと連携することが重要です。  自殺の危険性が高いと考えられる人が、自立相談支援機関に相談した場合、自立相談支援機関は、高齢・障害支援課の精神保健福祉担当や必要に応じて精神科医療機関等に早期につなぐ必要があります。このため、自殺の危険性を示すサインについての解説資料である「ゲートキーパー養成研修用DVD」(以下URL)を積極的に活用すること等により、自殺の危険を示すサインやその対応方法、支援が受けられる外部の保健・医療機関の連絡先等の基礎知識を習得しておくことが重要です。  (「ゲートキーパー養成研修用DVD」URL(YouTube))  https://www.youtube.com/playlist?list=PLMG33RKISnWjI0JFBIe6i4eyYatP33rq0