第3章 生活困窮者自立支援制度が目指す目標の実現に向けた視点 1 制度が目指す目標  本制度においては、「生活困窮者の自立と尊厳の確保」と「生活困窮者支援を通じた地域づくり」を制度の目指す目標と定めています。  これは本制度が本人の内面からわき起こる意欲や思いを主役とし、自己選択、自己決定を基本に経済的な自立だけではなく、日常生活や社会生活の自立も含めた本人の状態に応じた「自立」を支援していく内容であること、また、生活困窮者の早期把握や見守りなどの支援策の構築とともに、「社会とのつながり」の実現が不可欠であり、「相互に支え合う」地域の構築を目指していることに由来します。  この2つの目標の実現に向けては、行政、福祉保健関係機関だけではなく、地域における様々な主体と目標を共有し、連携していく必要があります。  なお、生活困窮者の自立と尊厳の確保に関連して、本市では、横浜市人権施策基本指針(平成29年1月改訂版)において「生活困窮者」を新たな人権課題として位置づけ、人権尊重に向けた取組の推進を図っています。   2 目標実現のための視点  生活困窮者の自立支援に関する各種の取組を進めるうえで、国の動き等を踏まえて、本市では、次の3つの視点を念頭に置きながら、実施することとします。  視点1 包括的な相談支援の充実  困りごとのある人の相談を包括的に受け止め、課題に応じた必要な支援を行います。生活困窮者の多様で複合的な課題に対応し、制度の狭間に陥ることがないように、様々な窓口で相談を丸ごと(包括的に)受け止め、各関係機関や地域で活動する団体、個人との連携を図りながら、本人に寄り添い、課題解決に向けて支援します。  視点2 支援のためのチームづくり  個別支援の中で把握した課題を支援機関、関係機関と共有し、課題解決に向けた支援を展開していくためのチームづくりに取り組みます。切れ目のない一体的な支援を目指し、各機関の強みを生かしたチームアプローチができるよう、多様な関係機関や地域で活動する団体、個人と連携・協働します。  視点3 お互いに支え合える地域づくり  生活困窮者の早期発見、「多様」な自立の実現だけでなく、相互に支え合える地域づくりに必要な情報を関係機関や地域住民に向けて発信します。  社会参加や就労体験等の自立に向けてステップアップできる場が身近な地域に存在するよう、多様な社会参加の場となりうる社会資源を地域の様々な主体と一緒に創設していきます。また、個別支援を通した地域課題の抽出を行い、生活困窮者の課題を地域の課題として共有していきます。    包括的に相談を受け止めながら、生活困窮者に対する適切なアセスメントを通じて、課題を把握し、解決に向けた支援をしていく必要があります。  また、支援を実施していくにあたっては、真に困窮している人ほど「SOS」を発することが難しいことに鑑み、「待ちの姿勢」ではなく、早期に生活困窮者を把握していくこと、さらには、本人のペースに合わせ、「切れ目なく継続的」に支援していく姿勢も必要です。その際には、行政・関係機関・地域等との連携が欠かせません。関係者(チーム)が一体となり、課題解決に向けたプロセスを共有していくことが大切です。 3 目標実現に向けて市域で実施する内容  本制度においては、「包括的な支援」「個別的な支援」「早期的な支援」「継続的な支援」及び地域の実情に見合った「分権的・創造的な支援(※)」が求められています。それらの支援を進めるため、下記の内容を実施していきます。 @ 各区の地域特性、地域資源の活用状況や社会情勢等について各区に対し情報提供等を実施します。 A 本制度の対象者及び目指す方向性からも高度な倫理観と相談援助技術を備えた人材育成が必要です。そのため、目標実現のための視点を踏まえ、人材育成に向けた各種研修等を実施します。 B 各関係部局と連携し、生活困窮者自立支援方策について、関係会議等を通じて制度の理解及び周知等に向けた取組を進めます。 C 上記の内容を実施するにあたり、新たに生活困窮者自立支援方策が盛り込まれた第4期横浜市地域福祉保健計画と一体的に推進します。 (※)「分権的・創造的な支援」  一律の支援メニューを提供するだけでなく、地域の実情や社会資源の充足状況等に合わせて、行政と様々な主体が協働し、支援体制を創造すること 4 第4期横浜市地域福祉保健計画における生活困窮者自立支援制度の位置づけ  本制度の目標実現のための視点と、第4期横浜市地域福祉保健計画との関係性を、地域福祉保健計画の推進の柱ごとに整理すると以下のようになります。  個別支援を通じて把握された課題を地域の中に位置づけ、地域課題として捉え、地域福祉保健計画に反映することで、課題解決につなげていくことが必要です。また、計画内において各柱に位置づけている取組の中で、生活困窮者支援に関する取組を以下に抜粋して掲載します。 【推進の柱1】地域福祉保健活動推進のための基盤づくり 【生活困窮者の支援に関する主な取組】 ・地区別支援チ-ムとして地域の課題を住民目線で捉え、支援者として関わるスキルを身につけるための研修の実施(1-1-1) ・地域共生社会の実現に向けた、地域を「丸ごと」支える包括的な相談・支援の推進(1-1-1) ・本法に基づく各種事業の実施における、区社協・地域ケアプラザをはじめとする関係機関との連携強化(1-1-1) ・社会的孤立や生活困窮等、どの地域でも共通に考える必要のある課題に対する支援機関としての解決策の検討と、施策化を通じた解決策の実行(1-1-2) ・社会的孤立等、地域でも受け止めていく必要のある課題の提示と取組推進の支援(1-3-1) ・地域に関する様々な情報を収集し、地域特性や地域活動等、関係者間で情報共有できる場の開催(1-4-2) ・地域では解決できないような生活課題や困りごとを抱えている人が、いつでも気軽に相談できる窓口となる人材の育成(1-4-2) 【推進の柱2】身近な地域で支援が届く仕組みづくり 【生活困窮者の支援に関する主な取組】 ・困りごとを抱えている人に早期に気づき、支援につなげる相談窓口(関係機関)の周知(2-1-1) ・日頃の活動を通して地域住民等の変化に気づく意識を広めるための、企業、商店、施設、NPO等との連携の推進(2-1-1) ・困りごとを抱えている人が地域にいることを知り、受け入れる意識づくり(2-1-1) ・必要な人が相談等につながるよう、地域住民に支援機関につなぐ意識の浸透の推進(2-1-1) ・支援が必要な人だけではなく、その予兆がある人を受け止め必要な支援につなげるための、地域や関係機関・学校・企業等とのネットワ-ク構築の推進(2-1-1) ・既存のネットワ-ク(地区別計画の懇談会等)での、地域と関係機関との情報共有の推進(2-1-2) ・行政をはじめ、地域ケアプラザや基幹相談支援センタ-、地域子育て支援拠点等、支援機関及び関係機関の専門職が、制度の狭間の課題に対して、その専門性を生かし積極的に支援に関わる意識づくりのための研修の実施(2-2-1) ・生活困窮者を含め、地域で困りごとを抱えている方の課題を分野横断的に協議する場の検討(2-2-2) 【推進の柱3】幅広い市民参加の推進、多様な主体の連携・協働の推進 【生活困窮者の支援に関する主な取組】 ・就学前も含め、子どもの頃から地域とつながる機会を増やすだけでなく、親世代や親子、就労世代や退職後の方等が一緒に参加し、継続して地域とつながりを持てるための支援(3-1-1) ・関係局課が連携し、幅広い市民への情報提供に加え、会社をリタイヤする前等の特定の年代に向けた社会参加への更なる啓発(3-1-2) ・社会福祉法人・施設と地域の連携による地域課題を解決する取組の拡充(3-2-1) ・地域ニ-ズを把握するためのデ-タの提供や、市内外の取組事例の紹介等を通じた取組支援(3-2-1) ・一般就労と福祉的就労の間に位置する中間的就労や社会参加の場、食支援、見守り活動等、企業の強みを生かした社会貢献のコ-ディネ-トの支援(3-2-2) ・学校と地域、関係機関が連携した、不登校や引きこもり等への対応に向けた検討・実施(3-2-2) ・NPO法人と地域、関係機関が連携した、生活課題、地域課題への対応事例の集約と発信(3-2-2) 5 目標実現に向けて各区で実施する内容  政令指定都市である本市の場合、各種福祉保健サービスの提供や地域ニーズと地域特性に基づく取組の中心は区単位となります。そのため、各区の実情に応じて、庁内外の関係機関、地域の関係者等と本制度の理念を共有し、計画的に様々な取組を進め、個別支援の充実を図ることが求められています。   @ 個別支援を展開する際、支援対象者のニーズに合わせ、庁内外の関係機関や地域の活動団体、個人と協働していきます。 A 個別支援から把握できた課題に対し、積極的に地域資源を開拓するとともに、各区の実情に応じた事業化等も必要に応じて検討します。 B 支援者(自立相談支援員含む)の人材育成に取り組み、積極的に研修会や情報交換会を開催し、顔の見える関係づくりと支援者相互のサポート体制を構築します。 C 第4期区地域福祉保健計画の策定・推進の過程において、「生活困窮者の早期発見につながる住民主体の見守り活動の推進」や「住民や関係機関との連携、協働による相談支援体制づくり」という生活困窮者自立支援に資する取組を、地域住民を含む地域全体の取組としていくよう働きかけを行います。