第1章 指針策定の趣旨 1 業務推進指針策定の背景と趣旨  生活困窮者自立支援制度(以下「本制度」という。)は生活困窮者自立支援法(以下「本法」という。)を根拠として、生活困窮者に対する包括的な相談・支援を実施するものであり、今般の改正(平成30年10月1日施行)により、本法第2条で「生活困窮者の尊厳の保持」、「生活困窮者の状況に応じた包括的・早期的な支援」及び「地域における関係機関等との緊密な連携等支援体制の整備(生活困窮者支援を通じた地域共生社会 の実現に向けた地域づくり)」が基本理念として規定されています。  本法第3条において「生活困窮者」とは、「就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」と定義されており、失業等を背景とする経済的困窮だけでなく、病気や地域社会からの孤立の視点も含め、幅広い方々を支援の対象としています。 そうした、多様で複合的な課題を解きほぐしながら本人の状況に応じた支援を行うため、「包括的」かつ「早期に」支援を行うことが基本理念として明示されました。  さらに、生活困窮者の早期発見や見守りといった観点も含め、包括的な支援を行っていくためには、地域における様々な分野の社会資源との連携が必要であり、公的部門のみで対応できない場合にはインフォーマルな支援や地域住民の力も含め、関係機関・民間団体との緊密な連携を図り、地域の実情に応じて最適な支援体制を整備する必要があります。  本市においても支援の実績を積み重ね、年度ごとに制度運営の振り返りを実施し、各区の取組事例や本市全体の施策展開の方向性を共有してきました。  今回、第4期横浜市地域福祉保健計画(2019〜2023)に、生活困窮者自立支援方策の推進に向けた方向性を盛り込むことにより、生活困窮者支援に直接関わる職員だけでなく、庁内の関係部署や地域の多様な主体と本制度の趣旨を共有し、地域の実情に応じた効果的な支援を行うことを目指しました。  これまでの支援の実施状況から見えてきた課題への対応、本制度の基本理念を明確化した改正法の施行、第4期横浜市地域福祉保健計画への本制度の理念の盛り込みを受け、「横浜市生活困窮者自立支援制度業務推進指針」(以下「本指針」という。)を策定することとしました。 2 横浜市における取組の経過  本法に基づく事業等のうち、「自立相談支援事業」と「住居確保給付金」は福祉事務所設置自治体が必ず実施する必須事業とされています。  このほかに、「就労準備支援事業」、「一時生活支援事業」、「家計改善支援事業」、「子どもの学習・生活支援事業」については任意事業として、地域の実情に応じて必要な支援を提供できることとされています。  さらに、社会福祉法人やNPO法人、企業等が自らの事業として就労に向けた訓練の機会を提供する「就労訓練事業」の適切な実施を確保するための認定制度があります。  本市では、制度の本格実施前のモデル事業時の実施状況を踏まえ、庁内プロジェクト(以下「全庁プロジェクト会議」という。)を立ち上げ議論を重ねた結果、各区役所に相談窓口を設け、必須事業については直営で、任意事業については委託を基本として全ての事業を実施することとしました。本市の豊富な相談支援・就労支援のノウハウを活かした直営での自立相談支援事業を核として、官民協働による制度運営に取り組んでいます。  また、生活保護と生活困窮者自立支援の一体性、継続性を確保するため、平成27年4月に課の名称を区・局ともに保護課から生活支援課に変更し、@法の趣旨・制度の普及啓発、A既存のネットワークや支援の仕組みとの連携強化、B庁内外の連携を最大限活用した支援の実践、と段階的に支援を展開してきました。   <自立相談支援事業を直営で実施することにより期待される効果> ・市民に身近な区役所での相談支援による、相談者のワンストップ性の向上 ・生活保護制度等の関連制度との一体的な運用による切れ目のない支援 ・本市社会福祉職が蓄積してきた相談支援・就労支援のノウハウの活用 ・18区役所に設置されたジョブスポット(31ページコラム参照)の効果的な活用 ・税、国民健康保険料の納付相談窓口等との円滑な庁内連携による対象者の早期把握 <区生活支援課における支援体制と主な役割> 職種 課長 主な役割 ・生活保護と生活困窮者の相談、支援の一体的な運用のための庁内外での関係調整職種 職種 係長 主な役割 ・日常業務のスーパーバイズ ・他課、他機関との連携が円滑に進むよう調整、確認し、地域・関係機関との連携、ネットワーク構築の推進 職種 主任相談支援員(社会福祉職) 主な役割 ・多様な相談のインテーク、アセスメント ・自立相談支援員が行う個別支援のコーディネートや助言(アセスメントの協議、面接同席、同行訪問等) ・統計集計、実績管理 ・庁内外、関係機関との連携、チームで支援を行うためのコーディネート 職種 自立相談支援員 主な役割 ・本人の自立に向けたアセスメントと個別支援 ・主任相談支援員、係長等課内や庁内各課、関係機関等とのチームでの個別支援を通して地域に働きかける (出典:自立相談支援事業実務マニュアル(平成29年1月横浜市健康福祉局生活支援課)) 【コラム】生活困窮者自立促進支援モデル事業  平成25年10月から平成27年3月まで、中区において総合支援窓口のモデル事業を直営で実施しました。「経済的な自立に向けた支援を希望される方」に対象を限定した支援ではありましたが、平成26年3月末時点までの半年間でも、97名の相談のうち36名が支援申込に至るなど、市民からの事業への期待が伝わりました。  順調に始まったモデル事業でしたが、主に2つの課題が浮き彫りになりました。  1つ目は、課名の問題です。従前の「保護課」はどうしても生活保護を連想させ、気軽に悩み事を相談する窓口としては、敷居が高い印象があるということが分かってきました。本制度と生活保護制度の一体運用を実感してもらう狙いも込めて、平成27年4月より18区一斉に、課名を「生活支援課」へ変更しました。  2つ目は、庁内連携のルールです。本事業の直営実施のメリットとしても期待されていた公債権の徴収部門からの相談者の案内が順調にスタートしたものの、具体的な支援段階での個人情報の共有など一定のルール決めが不足していました。そこで、実際の窓口業務へ同席するなどして徴収部門の業務理解を深め、平成27年4月、税務課・保険年金課との庁内連携マニュアルを策定しました。 その後も合同の職員研修を実施するなど、連携の維持強化に努めています。 3 横浜市地域福祉保健計画と業務推進指針の関係  「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画の策定について」(平成26年3月27日社援発0327第13号厚生労働省社会・援護局長通知)以下「通知」という。)において、「生活困窮者自立支援方策について市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画に盛り込む事項」(※)が定められています。  本市においては、第4期横浜市地域福祉保健計画の「推進の柱」の中で、本制度で求められる「支援を必要とする人の早期把握」と「多様な主体の連携による見守りや社会参加の場づくり」などの考え方が盛り込まれています。  一方で、横浜市地域福祉保健計画は本市の地域福祉保健に関する基本理念と方向性を提示し、区地域福祉保健計画の推進を支援するものであることから、本法に基づく個別の取組事項等については、計画の性質上なじまないため、別に本指針において示すこととしました。 (※)通知により定められた事項 通知により定められた事項 1 生活困窮者自立支援方策の位置づけと地域福祉施策との連携に関する事項  業務推進指針における位置づけ 第1章 第4期横浜市地域福祉保健計画における位置づけ 第4期計画の特徴 通知により定められた事項 2 生活困窮者の把握等に関する事項 業務推進指針における位置づけ 第2・5・6章 第4期横浜市地域福祉保健計画における位置づけ 柱2・資料編 通知により定められた事項 3 生活困窮者の自立支援に関する事項 (1) 生活困窮者への各種支援の実施について 業務推進指針における位置づけ 第4章 第4期横浜市地域福祉保健計画における位置づけ 柱2 通知により定められた事項 3 生活困窮者の自立支援に関する事項 (2) 生活困窮者支援を通じた地域づくり 業務推進指針における位置づけ 第5〜6章 第4期横浜市地域福祉保健計画における位置づけ 柱3 通知により定められた事項 4 その他の留意事項等(人材育成、新たな社会資源の創出等) 業務推進指針における位置づけ 第3〜6章 第4期横浜市地域福祉保健計画における位置づけ 柱1・2・3 【参考】 第4期横浜市地域福祉保健計画  「誰もが安心して自分らしく健やかに暮らせる『よこはま』をみんなでつくろう」という基本理念のもと、その実現のための基礎となる共通の考え方と推進の柱を以下のように示しています。 【計画の基礎となる共通の考え方】 ・誰もがお互いに認め合い、安心して暮らせる社会を目指します。 ・誰もが地域と関わりながら、お互いに支え合い、健やかに暮らせる社会を目指します。 ・地域における様々な主体が連携しながら、市民一人ひとりが自らの力を生かせるような社会を目指します。 【推進の柱】 1 地域福祉保健活動推進のための基盤づくり 2 身近な地域で支援が届く仕組みづくり 3 幅広い市民参加の促進、多様な主体の連携・協働の推進 4 国の動向(地域共生社会の実現に向けた動きについて)  我が国においては、高齢化、人口減少、地域・家庭・職場という人々の生活領域における支え合いの基盤の脆弱化が進んでいます。このような社会構造の変化や人々の暮らしの変化を踏まえ、厚生労働省は、今後の福祉改革を貫く基本コンセプトとして「地域共生社会」の実現を掲げ、その具体化に向けた改革を進めることとしています。  地域共生社会とは、制度・分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すものです。  この地域共生社会の実現に向けた取組として、地域づくり強化のための取組の推進、地域住民が主体的に地域課題を把握し、解決を試みることができる体制の構築支援、複合化・複雑化した課題に的確に対応するために、チームとして包括的・総合的な相談体制を構築することなどが求められています。  また、改革の骨格として、@地域課題の解決力の強化、A地域丸ごとのつながりの強化、B地域を基盤とする包括的支援の強化、C専門人材の機能強化・最大活用を掲げています。  地域共生社会の実現を踏まえ、社会福祉法の改正も実施され、「市町村による地域住民と行政等との協働による包括的支援体制づくり」や「福祉分野の共通事項を記載した地域福祉計画の努力義務化」などが規定されました。  社会福祉法の改正を受け、国から示された市町村地域福祉計画の策定ガイドラインでは、市町村地域福祉計画に盛り込むべき事項として、「生活困窮者のような各分野横断的に関係する者に対応できる体制」「就労に困難を抱える者への横断的な支援の在り方」「地域住民等が主体的に地域生活課題を把握し解決に取り組むことができる地域づくりを進めるための各福祉分野の関係の整理」等が挙げられており、第4期横浜市地域福祉保健計画にもその内容が組み込まれています。 5 本指針の構成  本指針の構成は前述の「通知((※)4ページ参照)」に基づき、生活困窮者自立支援方策について市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画に盛り込む事項を参考に構成しています。 第1章から第3章では、本市における本制度の推進に向けた基本的な考え方を示し、第4章から第6章では、基本的な考え方に基づく具体的な取組を中心に、今後の方向性を示しています。   第1章 指針策定の趣旨  生活困窮者自立支援方策の位置づけと、国の動向や地域福祉施策との連携に関する事項を記載しています。 第2章 横浜市における生活困窮者を取り巻く状況  生活困窮者の把握などに関する資料を掲載しています。 第3章 生活困窮者自立支援制度が目指す目標の実現に向けた視点  本制度が目指す目標と、目標実現に向けた視点、取組を進めるうえでの考え方及び横浜市地域福祉保健計 画との関連性について記載しています。 第4章 包括的な相談支援の充実(第3章視点1に対応)  本制度に基づく各種事業の概要や事業実施における基本的な考え方を記載しています。 第5章 支援のためのチームづくり(第3章視点2に対応)  関係機関や他制度、多様な主体による支援との連携に関する取組について説明します。 第6章 お互いに支え合える地域づくり(第3章視点3に対応)  生活困窮者支援を通じた地域づくりに向けた基本的な考え方と具体的な取組を説明します。