第2章 スポーツを取り巻く現状と課題 1.社会情勢の変化 第1期計画が策定された平成24年度以降、スポーツ庁の新設とそれに伴う障害者スポーツの厚生労働省からの移管、第2期スポーツ基本計画の策定など、新たなスポーツ政策が次々と展開されてきました。また、第1期計画の中間見直しが策定された平成29年度以降も、ラグビーワールドカップ2019™や東京2020大会等の国際的なスポーツ大会の開催、日本体育協会から日本スポーツ協会への名称変更など、スポーツに対する機運の醸成やパラダイムシフト(認識の変化)が生じています。一方、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、心身の健康づくりや人と人とのつながりの重要性を改めて認識するきっかけとなりました。 このような社会情勢の変化を受けて、スポーツを推進する意義や目的は、従来から認識されてきた心身の健康づくりや人格形成、競技力向上という枠を超え、人々の暮らしをより豊かにするもの、地域コミュニティの形成や共生社会の実現、地域・経済の活性化に寄与するものとして、個人と地域のどちらの視点においてもますます欠かせない存在となっています。 また、世界各国で共通の目標であるSDGsについては、日本においても達成に向けて積極的に取り組まれています。スポーツは健康や教育、コミュニティ強化など、SDGsの達成に寄与する活動として考えられることから、スポーツ庁では、スポーツの力によりSDGsの達成に向けた取組を推進しています。 共生社会の実現や多様性と調和への関心がより一層高まる中、令和4年度に策定された第3期スポーツ基本計画では、これまで捉えられてきたスポーツを「する」「みる」「ささえる」の視点に加えて、状況に応じて既存の枠組み等を見直し・改善するとともに、新しい方法やルールを創出するなど、スポーツを「つくる/はぐくむ」という視点も求められるようになりました。 本市では、このように変化・充実しつつあるスポーツの意義を踏まえつつ、持続可能な社会の実現を目指すべく、以下のような社会情勢の変化を的確に捉え、市民のスポーツ推進を着実に行っていきます。 ※1 SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、平成27年9月に国連サミットで採択された令和12年までの国際目標である。健康や教育、ジェンダー平等などをテーマとする17のゴールから構成され、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、世界各国及び日本の全国各地で取組が推進されている。 (1)新型コロナウイルス感染症の影響 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、運動不足による健康二次被害、スポーツに親しむ上で「新しい生活様式」への対応の必要性、スポーツ施設の利用制限、学校運動部活動やアマチュアのスポーツ大会・イベントの延期・中止などが生じています。その一方で、成人における週1回以上のスポーツ実施率は感染拡大前よりも向上しており、感染拡大前後でスポーツ実施意欲が高くなった人が低くなった人よりも多い傾向もわかっています。 国が示した「新しい生活様式」に留意しながらスポーツを推進することが求められており、その在り方は仲間とスポーツ施設で楽しむものから、一人で自宅またはその周辺で取り組むものまで幅広く捉えることが重要となっています。 (2)健康寿命の延伸と人生100年時代の到来 日本人の健康寿命は世界最高水準であり、更なる延伸が予想されています。こうした背景を受け、政府は「人生100年時代構想会議」を立ち上げ、幼少期から高齢者まで全ての人々が元気に活躍し続けることのできる社会の実現を目指しています。人生100年時代の基盤は一人ひとりの心身の健康であり、スポーツは市民の健康づくりや仲間づくりに寄与する活動として期待できます。 (3)多様性を認め合うまちの実現 「共生社会」とは、障害者をはじめ配慮が必要な人々が、積極的に参加・貢献していくことができる社会であり、国は、このような社会を目指すことを最も積極的に取り組むべき重要な課題と捉えています。 スポーツにはジェンダー平等をはじめとする幅広い社会課題の解決に寄与する力があると期待されています。一方で、我が国における各種競技団体の役員の女性参加は世界各国と比べると遅れており、東京2020大会の開催を通じてジェンダー平等に対する国民の関心が高まりました。 これからは、スポーツに親しむ場においても、性別、年齢、障害の有無、国籍等の違いを超え、多様性を尊重し合うことが重要です。 ※2 新しい生活様式とは、日常生活の様々な場面で、感染症予防のために「人との間隔を空ける(ソーシャルディスタンスをとる)」「マスクを着用する」「こまめに手洗いする」などの対策を取り入れていく生活様式のこと。 ※3 出典:スポーツ庁(令和2年)「新型コロナウイルス感染症の流行による国民のスポーツへの参画状況や意識の変化、健康状態等に関する調査研究(令和2年度)」 ※4 人生100年時代構想会議とは、「人生100年時代」を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行うために国に設置された会議体のこと。 (4)国際スポーツ大会のレガシー 令和元年にはラグビーワールドカップ2019™が開催され、開幕前の予想を大きく上回る盛り上がりを見せました。また、東京2020大会は新型コロナウイルス感染症の影響により、開催が令和3年に延期となりましたが、安心・安全に大会が開催されました。 このような国際スポーツ大会を契機に実施したパブリックビューイングや海外チームとの交流、スポーツに対する機運の高まりなど、レガシーを生かした取組が求められます。 (5)スポーツ・インテグリティ インテグリティとは高潔さ・品位、完全な状態を意味し、スポーツにおけるインテグリティは暴力やハラスメント、差別、ドーピング、八百長、違法賭博、団体ガバナンスの欠如等の不正がない状態を指します。 スポーツ庁では、スポーツ団体における適正なガバナンスの確保と、スポーツを行う国民の権利利益の保護などに取り組んでいます。 (6)デジタル技術革新の進展 ICT、AI(人工知能)、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)などの技術開発が急速に進展しています。これらの技術は、新しい産業の創出・発展や企業の生産性向上のみならず、人々の働き方やライフスタイル、健康管理、教育など、市民の生活に関わるあらゆる分野での活用が期待されています。スポーツ分野においても、個人・法人を問わないトレーニング動画のオンライン配信や、VR・ARを活用した新たなスポーツなど、多様な楽しみ方の創出が期待できます。 また、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を意味するeスポーツについても、オリンピックの公式イベントが開催されるなど、注目が集まっています。