調査季報179号 特集:男女共同参画によって実現する女性活躍社会 横浜市政策局政策課 平成29年2月発行 ≪コラム≫調査季報179号から考えるこれからの「男女共同参画社会」 横浜市立大学国際総合科学部教授 佐藤 響子 ―今号の調査季報では、20代から80代まで様々な世代と立場の女性から地域や職場での男女共同参画の考え方や女性活躍の取組をお伺いしましたが、それぞれの時代やその方の置かれた立場によって、仕事や家庭生活、地域活動に対する意識のありようや行動スタイルは、本当に様々ですね。 【佐藤】今号の調査季報に執筆されたり、座談会に参加された女性たちは、文字通り選ばれた層だと思うんですね。例えば皆さん、女性が社会で活躍していく際の障壁になる「ガラスの天井」の実態について良く認識していて、それをどのように打ち破っていくのかということで職場や地域、大学で様々な取組をしている。ところが、世の中には「ガラスの天井」という言葉すら知らず、これまでの男性と女性の職場や家庭での役割分担のあり方にそれほど疑問を持たないで日々暮らしている市民が多数なのではないでしょうか?一方で、今号の座談会に登場している意識の高い、アクティブな女子学生ですら、「家事や育児の主体はあくまでも女性であり男性はお手伝いする存在」だとか「結婚をし、育児をしながら働き続けるのは贅沢だと言われてしまう」だとか、ぽろっと発言している。やはり今の社会のマジョリティの性差別・役割に対する規範的意識が彼女たちの発言や行動をどこかで縛っているのが現実ではないかと思います。そういう意味では、彼女たちのようなリーダー層が、絶えず様々な他者との対話によって自己省察を重ねながら、男女が共に働き暮らす社会を創りあげていく活動を進めていく必要があるのではないかと思いますね。 ―今号では、横浜が女性が日本一働きやすい、働きがいのある都市になるために様々な提案を頂いていると思いますが、佐藤先生からみて、これは取り組むべきだと思われる提案はありましたか? 【佐藤】沢山あります。例えば、子育て世代からも大学生たちからも出ていた「事業所内保育所」。行政だけではない、民間事業者の力を活用した多様な保育支援のあり方を考えていく際の重要な取組だと思います。ただし、それには横浜市が職住近接の施策を積極的に進めることが前提になる。満員の通勤電車で長時間、子どもを抱えて会社に通うなんていうことは、さすがにできませんよね。それに職住近接であれば男女ともに保育にかけられる時間が長くなる。その際、例えば「みなとみらい」のように企業が集積している都心臨海部ならば周辺に住宅地も張り付いているし、今でも職住近接による子育て支援策の展開が可能な環境にある。ところが、「夫は東京へ通うサラリーマン、妻は地域で子育てをする専業主婦」といった性別役割分担を前提に住機能に専一して形づくられてきた横浜郊外では、それは難しい。だから今号の調査季報でも提案されているように、これからは郊外部でも医療や福祉、教育など生活サービス産業を興し、職住近接の街に創り変えていく必要がある。 ―職住近接の街づくりという観点でいえば、市内の頑張っている中小企業に優秀な人材を呼び込む施策も必要ですよね。 【佐藤】男女共同参画という視点から、企業のマネージメントや商品、サービス開発を考えると、今がちょうど過渡期ではないかと思います。一昔前までは完全に企業は男社会で、経営面などあらゆる面で男性が完全に主導権を握っていた。ところが、最近、女性が企業経営や商品・サービス開発の分野に進出するようになり、女性ならではの視点とか、発想がもてはやされるようになっている。これはあくまでも過渡期の現象だと思うのですね。最終的には性別にとらわれず、ひとりの人間としての個性や多様性が尊重される企業経営が進められるべきです。今号の調査季報でも紹介されているようにこうした個々人の個性に寄り添う「ダイバーシティマネージメント」は、小回りの利く中小企業でこそ力を発揮するわけで、横浜の中小企業はそこをアピールし、人材を確保していくべきだと思いますね。 ―「ダイバーシティマネージメント」は地域社会の活動においても大切な視点ですよね。 【佐藤】横浜の地域社会は、この調査季報でも紹介されているように、主婦である女性のリーダー層が、住民一人ひとりの事情に寄り添い、住民みんながフラットな関係でとことん話し合う中で形づくられてきた歴史がある。まさにこれは地域版のダイバーシティマネージメントです。これには、これから地域社会の活動にどんどん参加していくべき男性も謙虚に学ぶ必要がある。それによって、地域コミュニティも本当の意味で男女共同参画社会になるのだと思います。  女性活躍推進法が制定されるなど、法制度的には企業でも地域でも男女共同参画社会に向けた基盤が整いつつある。あとは、私たちが古い意識を変えて社会総ぐるみで男女共同参画に取り組めるかどうかにかかっていると思います。 *本記事は佐藤氏へのインタビューを基に編集部が編集しました。