調査季報179号 特集:男女共同参画によって実現する女性活躍社会 横浜市政策局政策課 平成29年2月発行 ≪5≫男女が共に活躍できる都市・横浜を目指して ①座談会 「子育て世代が考える『男女が共に活躍できる都市・横浜』」 相原 朋子 東日本電信電話株式会社神奈川事業部 所田 綾子 千代田化工建設株式会社 石油・化学・新エネルギー設計ユニット 神野 由紀子 株式会社アイネット 企画部営業企画課課長代理 河口 綾乃 日産自動車株式会社日本市場情報部主担 【司会】今回は、30~40代の仕事や子育てなど様々な形で社会との接点を持つ世代の女性にお集まりいただき、これからの働き方、そして女性ならではのビジネスのあり方などについて、意見交換をさせていただければと思います。まずは、自己紹介からお願いします。 【相原】NTT東日本の相原と申します。私は、現在中学1年生の娘が1人おりまして、共働きで育てています。  2年ぐらい前までは新宿本社に勤務をしておりましたが、昨年関内にある神奈川事業部の勤務となりました。 【所田】千代田化工建設の所田と申します。弊社はプラントをつくる建設会社で本社はみなとみらいにございます。建設業のため、社員の85%が男性です。   私自身は工学部出身で、プロセス設計を担当しております。建設現場がある会社ですが、私がいる部署はあまり現場に長く行かなくてよいため勤めやすく、これまで仕事を続けてこられたと思っています。家族構成は夫と子どもが3人で、完璧を目指さないことをモットーにしています。 【神野】アイネットの神野と申します。アイネットは、みなとみらいに本社を置く独立系のIT企業で創業年になります。私は入社してから人事部に所属しておりました。その後、6年ほど前からはマーケティングの部署に移って仕事をしております。子どもが小学校4年生の女の子と小学1年生の男の子の2人で、共働きをしております。 【河口】日産自動車の河口と申します。私は皆さんが大きなお子さんをお持ちでびっくりしているのですが、子どもが1人、3歳の男の子です。お客様調査を管轄する部署におりまして、主に日本市場におけるお客様の分析などを行い、会社への提言や戦略にお客様視点を付加することを担っております。調査やお客様分析のようなキャリアが非常に長く、途中で商品企画などを経験した後、今の部署に戻ってキャリアを重ねています。 1 働き方の課題と企業における取組 【司会】今、日本では超高齢化が進み、生産年齢人口が減少している中、国を挙げて女性がより活躍できる社会を推進しています。 横浜市は以前は専業主婦が多いまちでしたが、高齢化や少子化が進む中、保育政策などに力を入れるなど女性の社会参加や就労を応援する施策を進めています。しかしM字カーブと言われるように、20代後半から30代の女性が結婚・出産を機に仕事を辞めてしまう例も少なくありません。男女共同参画推進課が行った意識調査でも、7割が「社会において男性のほうが優遇されていると感じている」と答えています。女性が主に子育てと仕事の両方を担っているという状況が変わっておらず、さらに、高齢化が進んだことで、働きながら子育てをしつつ介護もしている女性も増えています。 介護の問題は、男性も直面する問題です。男女問わず働き方や仕事のあり方を見直していかなければ、これからの社会は成り立っていかないのではないかと思います。  そこで、まず皆さんが職場や家庭で課題だと感じていることからお聞かせください。 【河口】社会において男性の方が優遇されていると感じるという意識調査結果をご紹介いただきましたが、私自身はあまりそのように感じたことはありません。時短勤務をするのは圧倒的に女性が多いと思いますが、女性が一手に仕事も家庭も引き受けるのではなく、男性も時短勤務したり分担すればよいと思います。男性が優遇されていると思う意識が一般的なものだとしたら、むしろ小さいころからの慣習が染みついていて、女性たちが自らそれを受け入れ、そういうものだと思い込んでいるようなところがあるような気がします。 【神野】3年前から社内でトップダウンでスタートした女性委員会という委員会の一員として活動をしているのですが、毎年弊社の女性社員を対象にアンケートをとっています。その中で、同じような設問がありまして、4割ぐらいが「男性が優遇されているのではないか」と回答しています。IT企業としては少し低めだと思います。現在男性社員の比率は8割ですが、新卒の採用では女性が4割以上を占めている状況です。最近の若者は女性のほうがしっかりしていると言われていますが、社内でもそのような声があり、女性が活躍している場面を目にしたり聞くことが増えてきています。そのようなことも影響してか男性のほうが優遇されているという意識は少し減ってきたのではないかと思っています。 ただ、そうは言っても、共働きの場合残業をするのは多くが男性で、女性は帰って家事、育児というのが無意識のうちに根づいているところもあります。残業しているから仕事ができるというわけではないけれども、特にシステム開発の現場では、お客様のご要望スケジュールに沿うために残業しなければならないこともあるため、女性が長く働き続けるのは難しいのではという声が男性からも女性からも挙がっているのは事実です。  それを是正するため女性委員会と人事部とが連携し、残業時間の削減に向けた活動をしてきました。結果、業界の平均残業時間が大体40時間と言われている中で弊社の平均残業時間は、今は20時間弱となり、かなり削減されています。アンケートでも男性が家事・育児に関わる時間が持てるようになってきているという結果も出ているところです。これが当たり前になれば、より働きやすい環境になるのではないかと思います。そういう意味では、長時間残業の是正は不可欠ではないでしょうか。 【所田】お二人の話に同感です。私は最初の子どもを生んだ時、夫に育児休業を取ってもらいました。12年前のことですが、夫が会社でどういう立場に立つかあまり考えず、今考えれば結構つらい思いをさせてしまいました。制度は整っていても実際に利用するとかなりいろいろと言われてしまったようです。  今は少しずつ男性の育休利用が増えているとはいえ、まだ育児、家事、介護の全てを女性がやるものだと女性自身も思っていると思います。先日ハラスメント研修を受けた時にパタニティ・ハラスメントというものがあると聞いてなるほどと思いました。男性が自分も育児や家事に関わりたいと思っても、会社や社会はあまり前向きではない。女性も男性も同じ土俵で立てるようにならないと活躍の場が狭まってしまうように感じます。性別でなく個々の希望する働き方ができるようになればよいと感じます。 【相原】私は20代後半から30代前半に、自分と夫の両親4人の介護を続けた経験があります。最初は21歳のときに母が倒れ約7年介護状態が続きました。育児より先に介護を経験したのです。当時大学4年で「介護をしながら仕事はできるのだろうか」と悩みました。入社後も、仕事や出張に苦労した経験があります。そういう時代を経て出産しましたが、両親という子どもの預け先がないので、週1日は夫が先に帰宅して子どもの世話をし、2日位はファミリーサポートなどを利用して自分の時間をつくり出し、時短を取らずフルタイム勤務で復帰しました。子どもの世話を夫やファミリーサポートの方がやっていただいている間は少し残業もできるようにしました。仕事との両立は難しいと諦める方も多くいるので、これから出産する世代の後輩たちに自らの経験を話す草の根的な活動をしていたのですが、話を聞いて「両親のサポートがなくても何とかなるかも」と思われる方も多かったです。最初から女性が抱え込む前提で両立は無理だと思っている方も、何かしら方法があることがわかると、どういう配分でやればよいのか、解決手段は何か、と考えられるようになり、女性の活躍の幅も広がると思います。  また、弊社では9年前に「男女を問わず多様な社員がいきいきと輝ける会社」を目指し、ダイバーシティ推進室を発足しましたが、それ以降、男性も女性も意識が変わってきたように思います。4年前には社内に保育所を設置するとともに女性マネージャーを増やす取組もしています。制度だけでなく活用する仕組みがあることで職場にも男性にも浸透してきたと感じてます。 【司会】9年前にかなり抜本的な男女共同参画の取組をされて、それが確実に実を結び始めているということですね。ほかの皆さんの職場でも働き方改革の取組をされていると思いますがいかがですか。 【河口】弊社でも平成16年にダイバーシティディベロップメントオフィスができました。当初は「ダイバーシティって何?」というくらいの感覚でしたが、女性の能力を生かすような取組を進めてきました。グローバル企業でいろいろな人種の人たちが一緒に働いている状況もあり、現在ではダイバーシティとは女性だけではないという考え方にシフトしてきています。  社内託児所も設置されていて、私自身も復職時に利用しました。始めは認可保育所を希望していたのですが入所できず、復職する前に一か月くらい社内託児所で慣らし保育をして、4月1日にはフルタイムで働けるようにしました。通常の認可保育所ですと慣らし保育が1日2、3時間なので、復職しても数時間で帰らなければならないのですが、社内託児所は融通が利く点がとてもよかったと思っています。ただ、子どもを連れ横浜駅を通って通勤するのはかなりハードルが高く、私が子どもを預けた時の利用状況は定員6名に対して利用が3人、気づいたら2人になっているような状況でした。その後は社内託児所のよさが浸透し利用も増えていますし、復職時期も自分で選べるように変わってきました。会社に託児所があるということで、自分のキャリア形成を考えやすくなってきていると思います。 【神野】長時間残業の是正の他にも、今、在宅勤務制度を取り入れようと試行しています。IT企業としてクラウドサービスを取り扱っていることもあり、これを活用して多様な働き方ができないかとテスト運用を開始しています。例えば、午後に外出の予定がある場合ですと、その後に会社に戻るのではなく上司の了解を得た上で自宅で仕事をできるような環境が用意されています。在宅には向かない業務もあり、全社で取り入れるのはまだ課題が残っていますので、まずは、利用できる職種や、育児・介護中の人など、うまく利用、運用ができないか、といろいろ模索しているところです。 【河口】弊社にも「在宅強化月間」というものがあります。育児介護型の在宅勤務の場合、全社員対象に月の所定労働時間の50%まで在宅勤務にすることができるもので、在宅勤務時のルールも定められています。また働き方を見直し、プライベートも仕事もどちらも充実させようという〝HAPPY8〟プログラムを導入しています。ただ、そのような制度が整っていても、なかなか利用が進まないというのが課題だと思います。 【神野】在宅勤務だと本当に仕事をしているのか、成果物はどうなっているのかなどを示すことが難しい職種もあります。成果をうまく提示できないがために仕事をしなかったというマイナス評価に繋がってしまう可能性があるなら会社で仕事をしたほうがよい、という考え方になってしまいます。 【所田】弊社でも「千代田チェンジマインドセットタスクチーム」という有志の集まりがあり、ダイバーシティに関する活動を行っています。私も1年位前に参加しはじめました。ただ、人事部のサポートを受けながらも正式な部署ではなく、半分ボランティアのような草の根的な活動です。社内で啓蒙のため講演会を開催したり、ダイバーシティについて考え、意見を出し合う場の提供、意識調査アンケートなど取り組んでいますが、まだまだ道は途上です。  また、会社としては、在宅勤務トライアルを始めたところです。時間制約のある社員が辞めずに仕事を続けられる、活躍の場が広がるということを初めの目標としていますが、社員全体の生産性を上げるという点もターゲットにしていると思います。私自身もトライアルに参加していますが、対面の方が話が早いなどやりづらさを感じるところはどうしてもありますし、セキュリティ面の課題などもあります。ただ、まだ始めたところですので、これから理想的な環境を目指していきたいと思います。  以前はフレックスタイム制もあり、また、納期に合わせるため終電や徹夜などで対応するような人も見られました。それが、4年ほど前、トップの判断で原則8時出社・20時退社となり、20時以降・土日勤務は許可制です。以前は許可制でなく、自分の判断で勤務していましたが、許可制になることでその残業は本当に必要なのかと考え、時間が無尽蔵にあるような働き方から時間内に収まるようにどうするかという意識に変わってきたように感じます。効率よく生産性を保つ意識がでてきていると思います。 【相原】弊社でも在宅勤務を取り入れています。今年からより多様な人材の活躍や生産性向上を目指し、働き方の見直しを強化しています。上司である神奈川事業部のトップはNTT東日本で唯一の女性の取締役なのですが、上司も子どもがいて在宅勤務も活用しながら両立しています。トップが働き方改革をやっていこうと声を上げると、現場も動きやすくなります。  また、営業でお客様訪問をした際、職場に帰社する移動時間のロスを考慮して在宅勤務にしたり、出張先に近い支店で勤務することもできるよう、遠隔でパソコンを利用できるネットワーク環境も整っています。ただ、やはり、どのように成果を出し、管理するのかが課題です。 2 女性の活躍により生まれる新しい職場と働き方のあり方 【司会】女性や外国の方、高齢の方などいろいろな方の発想が融合することでこれまでにない新しいビジネスや仕事のあり方が生まれてくるという面もあると思います。その点で、女性が積極的、主体的に参加することによってビジネスが変わった、生まれたという例があれば教えてください。 【河口】私は日本だけなく世界のお客様の消費動向等を見ていますが、2020年には消費の3分の2は女性が牽引すると言われています。 商品開発において、よく女性視点と言われますが、それは女性に向けた商品をつくるということではなく、女性に受け入れられる商品を作るということ。女性が目利きのような存在になり、女性に受け入れられるものは男性にも受け入れられる、という考え方で、弊社の商品企画でもかなり意識しています。また、販売の現場においても、女性の営業担当に対応された客は男性に対応された客と比べて満足度が高いのです。女性の方が安心できる、雰囲気がよくなる、お店全体にもいい効果を与えているということが数字にも表れています。購入をする時も、ある調査では車購入の決定権の90%は女性が握っているという結果もあるほどで、売る側も買う側も造る側も、女性の視点が重要になってきていると日々感じます。 【神野】感性や発想力が必要になる仕事を女性に、ということでは、私が所属しているマーケティングの部署は、部長を除いて全員女性です。それまではカタログ1枚にしても、あまり見栄えや受け手の捉え方を気にせずに作ったようなものしかないという状況でしたが、女性が受け入れられるものは男性にも受け入れられるだろうと、ソフトなイメージでキャッチコピーを決めたり製品名を改めて考え直してみたりと企画から成果物におこすまでの全ての過程において女性視点を大切にしながら進めています。その結果、受け入れられやすくなったのか、お問合せが増え、お客様も増えています。  この部署だけではなく、アイネットにはいろいろな働き方をしている女性がいますが、私の所属している部署では、誰がどの仕事に適任で、関係メンバーの可能な働き方を考慮してプロジェクト体制を決める、というようにうまくコントロールできています。その結果、女性として働きやすい部署となり成果も出ているのではないかと思います。 【所田】弊社は世界中に建設現場がある建設会社です。そのような業界なので、正直女性らしさや女性ならではということを生かしている面はあまり見出せてはいません。この「女性視点」はそもそも役割の押しつけという面もあるようにも感じます。本来は個人の能力を生かすということなのではないでしょうか。  働く母の一人として以前は無かった保育や学童などのサービスが最近は充実してきていると感じます。家事代行などはこれからも増え、もっと使いやすくなっていくと思います。私自身は家事代行を頼んだことはありませんが、もっと外注できるといいと思うことはあります。何もかもを母親がやらなければいけないという概念がだんだん緩和しているのかなと感じます。  もう1つ、私は2年ぐらい前に管理職になりましたが、部下の育成は子育てととても似ていると思うときがあります。女性の子育て経験が部下の育成に生かせるように感じることがあるのです。 【司会】たしかに今の人材育成は男性目線での育成かもしれません。男性も男性なりに子育て経験はあると思いますが、女性ならではの子育て経験が生かされ、これまでの方法が打破されていく可能性もありますね。また、家事サービスの利用には、まだ心理的な障壁があるように思いますが、その点をいかに敷居を低くしながら、同時にサービスの安全性や安定性を確保していくかというのが課題ですね。 【相原】女性はマネージャーに向いているというのは同感です。子育ては時間のマネジメントが必要ですし、褒めて育てるという点も仕事を効率的にマネジメントして部下を育てることと通じるところがあると思います。  また、業務においては電話工事などの立会いの際に、部屋に女性が1人なので男性の工事担当者が部屋に入って作業するのは不安だとお申し出があり女性の工事者を派遣したところ、お客様がとても喜んでくださいました。性別にこだわるわけではないのですが、そういう面でも女性がいろいろな職場にいることは重要だと思います。 【司会】そうですね。女性の単身の方はもちろん、高齢の方も同性であることで安心してサービスを受けられるということもあるとおみますので、今後、そのようなニーズが増えてくるかもしれません。 【相原】私が所属している「コラボレーション推進部」は、社外の方との協業を進める部署です。多様な業種業態の企業の方と何が一緒にできるのかを考えるのは、女性ならではの感性など、多様性が活かされる仕事だと思います。私の部署は半数近くが女性で、年齢も幅が広く40歳くらいの幅があります。多様な視点で考えることで新しいアイデアが出て、個性が生かせるような職場が増えてきているように思います。 3 職場内外でつながるネットワーク 【司会】コラボレーションという言葉が出ましたが、これからの働き方という点で、今後どのようなつながりやネットワークがあればよいと思いますか。 【河口】私は横浜市が主催している「みなとみらい女子会」に参加しています。みなとみらい地区にオフィスのある企業の方が集まって2か月に1回程度勉強会やイベントなどをしています。  私が育休中だった時には、地域のママ友とのコネクションがとても強かったのですが、職場に復帰するとそれが疎遠になってしまい、気づくと会社の人としかコネクションがなくなってしまいました。働いていないママとは何か話がかみ合わなくなる瞬間があって、なんとなく疎遠になってしまうのです。でも、私は復職後に「みなとみらい女子会」に参加することで働いている女性たちとのネットワークを築くことができました。とても安心感があり、会うだけで元気をいただけます。  私自身の課題意識としては、地元のママ友、会社でつながってきたママ、みなとみらい女子会、そして社内のネットワークなどが分断されているように感じるので、それらがもっとつながるようになればよいと思います。コミュニティ同士が分断されていてなかなか難しいと思いますが、私は職住近接しているので、生活圏と職場圏のネットワークの密度が濃く広がっていけば、と思っています。 【神野】女性委員会でアンケートやワールドカフェ形式でいろいろな意見を吸い上げたり、座談会やセミナーの開催などの活動をする中で、特に比較的若い女性社員は会社内で仕事を希望する人が多いことに気づきました。しかし一方で、いろいろな会社の女性社員と交流を持ちたいという希望もとても多いのです。そこで、近隣の企業様と共同で、社外交流会として男性管理職と女性の一般社員を対象にした共同セミナーを企画しています。その近隣企業の方々とお話をすることでつながりができ、他企業様のやり方を参考に社内での改善などに活かしていくこともできます。女性委員会は、発足当初は社内での活動が中心でしたが、3年目の今年度は、このように近隣の企業様と共同で活動するという試みも併せて進めています。 【所田】弊社でも千代田チェンジマインドタスクチームで社外交流会として、先進的な企業から取組についてお話を伺ったりしています。ただ女性の先輩の話を聞こうとしても、業界・学会でも全体的に女性が少ない。弊社は女性社員の割合が15%、そのうち半分は事務職で技術職は7%程度です。もともと理科系に女性が少なく採用する学生さんも少ないことが要因ですが、最近、大学で理科系を選ぶ女性が増えてきていると聞きます。少ない女性技術者とその候補者である学生さんをつなぐべく、業界団体や学会関連でも女性の先輩の話を聞く会など、女性活躍や男女参画という切り口での場がありますね。そういったものを継続していくことは大切かと思います。そのほか弊社では社内SNSがあります。仕事と関係なく趣味で繋がったり、例えばワーキングペアレンツのグループもあり、情報交換に役だっています。コミュニケーションの手段の一つとして始めたところです。 【司会】ネットの中であれば、人数が少なかったとしても仲間同士でつながりやすいですよね。自分の個性に応じて、時間と場所を選ばずに情報や意見の交換ができるというのはとてもよいかもしれません。 【相原】私はいくつかの異業種交流会に参加しています。1つは企業から研修派遣として2年間、女性リーダー育成を目的に掲げるNPO法人J―Winの活動に参加しました。そこでは女性活躍に向けた課題について、いくつかのテーマに分かれ議論するのですが、会社によって制度等が違う中、共通の課題にどう対応したのかを他社の女性たちから話を聞ける場はとても有意義でした。研修後も、若手女性の育成プログラムや近隣企業との共同セミナー開催など、参加者による自発的な取組が各地で行われています。 また、別の異業種交流会では、自分にはない視点、特に官庁の方から社会課題に対して自身がどう取り組んでいくのかという点で、多くの示唆を受けました。最近、私が一番感動したのは「子ども食堂」との交流を行ったことです。異業種の社会人たちが一緒になって子どもたちと話をしているうちに、自分たちにも進路に悩む子どもたちにアドバイスするキャリア教育のようなことができるのではないかという話に至り、これまで3回ほど高校生との対話会などをやらせていただいています。親と先生しか見ていないのでは職業の多様性が分かりませんし、貧困の連鎖が課題とも言われていますが、自ら生計を立て自立していくことに協力したいと思います。このような取組を、自社の社員や近隣企業とのネットワークの中でも、近隣の学校の子どもたちに対して行っていきたいと思っています。 【司会】困難を抱える状況の子どもたちは、経済的にだけでなく何よりも社会的なつながりを持つことが難しい面があります。自分がどんな大人になりたい、どんな職業につきたいかというモデルがなかなか見出せずにいるのです。いろいろな企業の方から「こんな生き方ができるんだよ」ということを語ってもらえるのは、彼らにとっても糧になるのではないでしょうか。では最後に、みなさんがこれから取組んでいきたいことなどがありましたら教えてください。 【河口】自分は偉くなりたい、と思ったことは一度もありませんでしたが、ある女性の上司に「自分がやってきた仕事に対しての正当な評価は受けてもいいのでは?」と言われ「ああ、そういうふうに考えればいいんだ」と思ったことがあります。それから、自分の努力に正当な評価をもらうのは当たり前のことなのだと考えるようになり、キャリアを積むことに対する考え方が変わってきました。  私が管理職になって上の世代の頑張っている女性を見ると「自分も頑張らなくては」という感覚はありましたが、一方でつらそうにしている面も見てきたので、そうではない自分のあり方もあるのではないか?と日々模索しています。部下から「小さい子どもがいるのにどうやってフルタイムでマネージャーをやっていられるのか」と聞かれることもありますが、私自身は、どうやったら自然体でいられるのかを意識しています。 【神野】企業的視点から言えば、より働きやすい環境や制度をつくっていくこと、保育施設や学童を含めたインフラの整備、サポート体制、そしてそれらを啓蒙していく活動を官民が一緒になって進めていければよいと思います。  それから、個人的視点ではワークライフバランスの一言に尽きると思っています。夫と両親の協力のもと、母親としての存在意義と社会での存在意義を示しながら、両立して頑張っていきたい、と今日あらためて思いました。 【所田】個人的には今後もやりがいを持って仕事と家庭生活を続けていきたいと思います。まだ子どもも小さく、仕事においては管理職という新しい場を与えていただいたので、今後も頑張っていきたいと思います。今の女性が感じる働きにくさ、ガラスの天井のような見えない何かが取り払われ、自分の娘が大きくなるころには、女性が働いていることがごく普通であり、もっといろいろな可能性が広がっている社会となっていればよいと思います。 【相原】自分なりのやり方、自分らしいリーダーシップでいこうと思っています。自分らしさを発揮すればその中でできることがある、と周りにも伝えています。  ワークライフバランスというと、今までは「仕事」と「子育て・家庭」の2つが中心だったのですが、子どもも大きくなった今、3つ目の「自分自身」を加えていきたいと思っています。3つ目が加わることで、今まで以上にマネジメントしなければならないことが増えますが、ワークライフバランスではなく、ワークライフマネジメント―自分がやりたいことを、自然体で自分なりのやり方で欲張って実践していきたいと思いますし、それを目指す後輩を育てていきたいと思います。 【司会】今日は、経験や実感に基づいた貴重なご意見をたくさんいただきました。  どうもありがとうございました。