調査季報179号 特集:男女共同参画によって実現する女性活躍社会 横浜市政策局政策課 平成29年2月発行 ≪1≫女性活躍を進める各国の動向と日本の現状 ②座談会「女性活躍によって目指す都市と社会の姿」 江原 由美子 首都大学東京教授 横浜市男女共同参画審議会会長 菊嶋 秀生 株式会社キクシマ代表取締役社長 山下 文江 横浜ウーマンビジネスフェスタ実行委員長 有限会社メイリリィ代表取締役社長 田邉 恵子 日立INSソフトウェア株式会社企画営業本部事業企画部主任 司会 小賀野 敏子 政策局女性活躍・男女共同参画担当理事 【小賀野】本日はご参加いただきありがとうございます。  では早速、自己紹介とともに女性活躍や男女共同参画社会の実現といった切り口でみなさまの問題認識などをお聞かせいただければと思いますので、まず江原先生からお願いします。 【江原】江原と申します。首都大学東京で社会学の教員をしています。現在、横浜市の男女共同参画審議会の会長などをやらせていただいております。  ジェンダー研究を専門の一つにしていますが、先日女性の働き方をテーマに学部生に講義をした際に男女や正規・非正規による賃金格差に関するデータを示したところ、大変驚かれました。そのような情報が若者にあまり知らされていないのです。日本型企業社会、日本型雇用慣行と呼ばれるものは、長時間労働という仕事のあり方が働き方の基本のようになっていて、その体制は男性たちに長時間労働を強いる一方、その前提のもとに女性は短時間労働、低賃金となっています。これがずっと変わらないまま今日にいたる状況です。横浜市でも「男性のほうが優遇されている」と感じている市民が7割いて、仕事をやめる女性も全国平均より高いそうです。  それゆえ、女性が活躍するには今後どのような社会に変えていかなければいけないのか。特に雇用におけるさまざまな慣行が女性が働きにくい社会をつくっているのではないかと思いますので、どう変えていくことが必要なのかを考えたいと思っています。  他方、もう一つ、従来主に女性たちが担ってきた家族や地域をどうするのかという問題もあります。横浜は専業主婦が多い地域だったこともあり女性が地域社会ですばらしい活躍をしてきました。女性が働くことは大事なことですが、一方で地域社会はどうするのか、という点はまだ方向性が見えていないように思います。 【菊嶋】菊嶋と申します。私の会社は父親が創業し一昨年ちょうど創立50周年を迎えた会社で、もともとは鉄工所として創業しました。私が入社した当初の従業員は大体30名弱で、女性は常時事務をやっていただく方が1人と時折アルバイトのようにして働いていただく女性がいて、あとは母がサポートするという家族経営的なところがありました。鉄工所ということで男性職場でしたが、私が社長になるころから事業分野を建築の元請けにまで拡げたことで、設計や営業のような業務、それから総務機能的業務など女性が活躍する分野が増え、現在は60名ほどの従業員のうち女性が10名おります。2名が総合職、7名が一般職、1名が営業部のパートです。  最近は女性の現場監督などの試みをされている会社もありますが、それでもまだ、女性は総務的な業務や設計などの業務に就くケースが多いと思います。  当社は横浜市内の同規模の同業者と較べると女性の比率が比較的高いほうではないかと思います。当社では、CSR活動を通して企業のあり方を外に発信しようと、デザインコンペや他の企業との交流会を開催しています。これらは本業とは離れた分野ではありますが、それらの企画に女性社員が非常に柔軟な発想で携わっており、とてもよい活躍をしていると感じています。新たな事業分野をつくっていくという過程、特に既成概念を打ち破っていくためには、女性のものの考え方が必要となってくるのではないかと思っています。 【山下】山下と申します。私は横浜で育ち、日本最初の女子教育機関として生まれたフェリス女学院で、他者のために貢献できる自立した女性を育成するという建学精神のもとで教育を受けましたが、就職した当時、社会では全くといっていいほどそれを女性に求めていませんでした。部長秘書として働いていましたが、スケジュール管理や電話対応、コピー取りなど、仕事らしい仕事をすることもなく1年勤めた後、結婚退社をしました。  私の学生時代の友人も優秀な方たちでしたが、ほとんどが会社を辞めて専業主婦になっています。一度会社を辞めると、子育てが一段落した40代位になって何か仕事を探そうとしても、年齢や女性であることで断られてしまう時代でした。私は結婚後、4人の子どもを生み育てましたが、ストレスから心と体が壊れ37歳で離婚しました。当時体調を悪くしていたので仕事ができる状態ではなかったのですが、香りに出会い、香りとバラに助けてもらい元気になり、もう一度自分を取り戻すことができました。何か私にできることを社会に返していこうと思った時、横浜市との縁でヨコハマグッズへ応募したことがきっかけで起業しました。 私は、親に子どもの面倒を見てもらえる状況でしたが、そういうサポートがなければ今の私はなかったと思いますし、子育てしながらというのはとても大変なことですので、女性も起業すればいい、となかなか簡単に言えることではありません。こういう状況は現在もあまり変わっていないのではないかと感じています。 【田邉】日立INSの田邊と申します。企画部門で、主に情報発信や宣伝広報などを担当しています。 私はお茶の水女子大学大学院に通っていましたが、学内にジェンダー研究センターというものがありました。そこでは女性の自立、女性は強くという感じで、DVなどについての授業をしているのを当時怖く感じていました。その後IT系の会社に就職した頃、女性をもっと活用しようということで産育休制度ができましたが、職場をみても30歳を越えた女性はほとんどいませんでした。そして私は徹夜や土日出勤といった長時間の働き方が続いて苦しくなり、自分の身を守るしかないと思って28歳の時に転職しました。もともと希望していた出版業界で働いたのですが、賃金の面から現在は、再びIT系の会社に勤めています。IT関連なので残業は覚悟はしていましたが、稼働時間が多く大晦日も働くような働き方をした結果身体を壊してしまいました。3か月間の休職後に復活して、今は自分に合った仕事をすることができ、とても生き生きとした働き方ができています。  私は、今までの働き方はおかしいにではという思いがあり、セミナーに参加したりしていました。お茶大女性ビジネスリーダー育成塾「徽音塾」に参加した時に今の女性活躍の考え方を聞いて、学生時代に感じていた怖いイメージとは違うと思いました。女性が置かれている今の状況を知り、会社や個人の働き方を変えるためには女性だけではなく男性も考えていかないと進まないことだと考え始めています。  最近は、さらに活動の幅を広げCode for ○○というようなITの活動などに参加していますが、そのような場で会社とは違う評価を得られるというのはとてもおもしろいことだと思います。 1 雇用面における課題 【小賀野】ありがとうございます。今、みなさんからさまざまな課題を挙げていただきましたが、特に雇用という面において今後どうしていったらよいのかについてご経験も踏まえながらお話しいただければと思います。 【菊嶋】建設業界は3K、5Kとよく言われるような職場環境の中で担い手を確保することが大きな課題になっています。インターンシップや学校での説明会なども行っていますが、なかなか採用に繋がらないのです。そこで、当社では中途採用する際に、経験や性別などの枠を外し、職種に関しても枠を外したところ応募者が来るようになりました。男性も女性も、それから未経験者、比較的年齢の高い方など様々です。そうすると、今度は会社側が、それまで採用枠の外にいた人たちがどのような分野で社内に新しい風を起こしてくれるのか、もしかしたら新しい事業分野を生み出すかもしれないと、前向きに捉えるようになりました。そして、その方たちの期待を裏切らないような受入体制を整えなくてはいけないと考えるようになりました。社員の中だけに任せていると過去の踏襲になりがちですので、変革や視点を変えていくということは上に立つ者の役割だと思っています。 【田邉】大企業は、適性検査を通過した、社会人としての基礎がある程度ある人材を採用しているはずなのに、若手を長時間労働などでだめにしてしまうという声をよく聞きます。新卒採用向けの情報発信で女性が定時退勤して自由な時間を過ごし、長期休暇では海外旅行に行きます、といったイメージをよく見るのですが、実際には大企業でも苦労するところは苦労することをきちんと発信していかないと、企業側も苦労すると思うのです。 【小賀野】男性と女性が同じ扱いのようで、実は研修体系や職務のやり方が異なっていたりするという話は、大企業にお勤めの方からよくお聞きします。 【江原】建設業でも建設機械操縦などの仕事では筋力があまり必要ないので女性でも男性でもあまり変わりないと思いますがどうでしょうか。女性の職域はもう少し拡大できるのか、それともこれ以上の拡大は難しいのでしょうか。固定観念を捨てることで、男女どちらでもやれるような職域が広がってくると思うのですが。 【菊嶋】最近は溶接をする女性なども増えてきていますが、力作業などは不利な部分があります。全部をイコールにしようというのは無理があると思うのです。女性でなければできないこともたくさんありますし、得意な分野もある。それと同じように男性が得意な分野もあると捉えればよいのではと思います。また、今までいなかった職場に女性が入ってくると周りの男性の職員が手伝い始めたり、というような効果もあります。 【山下】菊嶋さんはすばらしい経営者だなと思ってお話を伺っていました。これからのビジネスは菊嶋さんのように経営者が柔軟でなければと思います。社長が「こうでなければならない」と凝り固まってしまったら、その企業全体が、窮屈で身動きがとれなくなってしまう。企業の経営者や管理職は男性の方が圧倒的に多い中、ダイバーシティということで、女性を取り込み、女性の経営者や管理職を増やそうとしている。これはとても大切なことだと思います。しかし同時に、男性の経営者や管理職の方が菊嶋さんのように積極的に女性社員の声を聴いて、女性の発想をビジネスに取り入れていく、まずはそういう経営者が増えることが重要だと思います。小回りの利く中小企業の良さを活かして、現場で働く女子社員が積極的に社長に提案できる体制を創る。それができると、先ほど菊嶋さんが例を挙げて下さいましたが、女性ならではのやわらかい視点や発想を活かしたビジネスの成功事例が生まれてくる。こうした成功事例がどんどん生まれてくることで、地元を始め社会全体で少しずつ女性の職域が広がってくるのではないかと思います。  私が行っている香りの仕事も同じです。私は自社で香水をはじめとする化粧品の製造販売と、ブルガリアからローズオイル・ウォーターを輸入して販売していますが、こういうタイプのビジネスは、もしかしたら、その日の生活にも窮する状況で生活している人々が多い社会では、全く必要のないものかもしれません。しかし、人間として真に「豊かな生活」を送ろうと思ったとき、心のゆとりが必要で「香り」は心の豊かさやゆとりを生むのにとても大切な要素になります。例えば残業時間が100時間にもなると、たとえ経済的に余裕ができても、心も身体も余裕がなくなり、極端な言い方をすれば、生きているか死んでいるかわからない状態になる。実は、私も結婚生活の中でその状態になり、つぶれてしまったのでよくわかるのですが、そういう私って何だろう?と思った瞬間、自分がなんのために生きているのかわからなくなってしまう。一人の人間であるはずが自分を忙殺し、ただ単に働き続けなければ成り立たない社会というのは、本当の意味での「豊かさ」とはほど遠い貧しい社会だと思います。闇雲に働くのでもなく、男女が仕事を取り合うのでもなく、相互に助け合いながら働き、そしてゆとりを持って生活を楽しむ。多くの人たちが、そのような形で本当に「豊かな生活」を営むことができたら、柔軟な経営判断ができるようになり、新しいビジネスの発想が生まれ、さらに新たな産業が生まれるのではないかと。私の「香り」のビジネスもそういう社会を創るお手伝いをするためのものだと思っていますし、またそういった社会でこそ生きてくるビジネスだと思っています。みんなが生き生き働き、ゆとりを持って暮らすことのできる社会を創ることをお手伝いするためのビジネスや産業。これを仮に生活創造産業と名付ければ、ちょっとした発想の転換で、いろいろな生活創造のビジネスのアイデアが生まれてくるはずです。  今はものにあふれ、何が必ランク上げるための細やかでかつおしゃれな視点は、女性にはとても得意な分野ではないかと思います。これからはさまざまな枠を超え、既成概念にとらわれない柔軟な視点をもつことがキーとなり、そこから新たな産業が生まれ経済が大きく動く可能性があると思っています。  それは、人材育成や教育の分野も同じです。私は今、県立藤沢総合高校で「香楽(こうがく)」~香りを通して心を開く~というテーマで、時間1単位の授業を行っています。香水と教育というのはほど遠そうなのですが、競争社会の中で比較ばかりされ、自分を見失ってしまったり、自身を認めることができにくくなったりしている子たちが、香りを通して自身と向き合い、心が柔らかく耕され、希望が沸いてくるようになる。画一的な知識の詰め込みや比較評価ではなく個性を生かす教育です。今は大人も含め自分の心の声を聴くことが少な過ぎる社会になってしまっているのではないか。4人の子どもを育て、ビジネスを興してきた一人の人間として、高校生たちと真摯に向き合い、香りを通して彼らの話を聞く。生徒たちは他との比較ではなく、自分を客観的に観ることから、これまで気づかなかった新しい自分を発見し、それを表現することで将来のキャリアに繋がっていく。私自身も、授業の中で自分の生き様を伝え、生徒たちとの対話の中で多くを学び、また新たなビジネスの発想も湧いてくる。これもまた生活創造産業の一つの形かなと思います。 【江原】一つのあり方として、菊嶋さんがおっしゃった職種の枠を外して採用するということも有効だと思います。むしろ採用した人に合わせて仕事をつくる、という視点でみると応募する人が広がる。どういう採用枠にするかによって応募する人って全然違うと思うのです。 【菊嶋】それが企業の発展にもなるわけですね。 【山下】外から見るということは、中にいては気づかないものを見つける機会になると思いますが、企業においても多様な人たちの意見を聞くことで、新しい視点からさまざまな可能性が広がると思います。 【江原】その人に合わせた職をつくればその才能を生かせる。枠を外しながら人材を発掘するのでしょうね。全然知らなかったタイプの才能のあり方のようなものを見つけられる。固定観念で、この仕事はこういう人というふうにするとよい人材が集まらない時代になっているのだと思います。 もう一つは、長時間労働。それは男性ももちろん大変だと思いますが、労働時間が長い分、家事などを女性に負担させていることもあると思います。女性は自分の身だしなみに気を使いながら家事までやるなんで到底不可能で、女性活躍どころではない。どんなに仕事がおもしろくても長時間労働していると過労死や過労自殺に結びついてしまいます。 【田邉】そうですね。余裕があって初めて他を見ることができるようになり、新しい創造力というのが生まれると考えています。 【菊嶋】ストレステストが義務化され当社でも今年度から対応しているのですが、その結果を見ると、やはり「時間」、長時間労働というよりも、忙しいことで自分に余裕がつくれないということが一番であり、男女共通の課題でした。 また、土曜日は本来休みなのですが、業界全体として日給月給で働いている現場作業員が圧倒的に多く、土曜日を休みにすると彼らの収入が大きく減ってしまうため、なかなか休みにすることができません。そのため、現場を動かす元請け会社は、現場の監督業務をやる社員を出勤させざるを得ないのです。そういう状況を発注者も理解し、社会全体で解決していかないといけない。そのために、社員に対する思いを持っている企業だからこそこの企業に就職したい、仕事を依頼したいというような関係になればよいと思います。 【田邉】従業員の立場としては、従業員の健康を守りたいという気持ちが強い会社というのはすばらしいと思います。最近はIT企業でも、残業を少なくして社員を守るような仕掛けをつくるということを宣言した会社があります。そこは経営者が、発注元に社員を守りたいという意思を示した上で従業員を一定の時間しか残業させない活動をし始めたのです。私はそれにとても驚いたと同時に、自分の会社でもできないのかと思ったのです。そこで、IT系の業界団体が行っているダイバーシティ委員会、本来部長クラスの人が出席する会なのですが、他社の取組について知りたくなり、その委員会に出席したいとお願いしました。初めは叶わず諦めようとしていたのですが、会社の先輩方のサポートやその団体からあなたなら出席してほしいという後押しもあり、今は委員として参加しています。最近は社会が働き方改革や女性活躍への関心が高まっていることもあり、弊社内でも、社員自身がどう変えていきたいのかという意見を発する場ができてきました。 2 女性の活躍とダイバーシティ 【小賀野】先ほど、山下さんから様々な要素が出会うことで新しいものが生まれるというお話をいただきましたが、その意味では、女性の活躍はダイバーシティのきっかけとなると思います。女性の活躍は経済の発展や経営革新などに対してどのような効果が期待されているとお考えですか。 【山下】私はもともと起業しようという発想は全くありませんでしたが、香りの持つ大きな力を伝えたいという思いが会社を設立することにつながりました。まずは企業として「もの」(香水)をつくるということを始めましたが、本来私は何をしようとしていたのかと考えた時、生き生きと生きるために香りで何ができるかということであったと気づき、香りを創っていく過程が大変重要なので、「香り創り」を伝えるということをどうしてもやりたいと思ったのです。 また、香りを学んだことによってローズの持つ魅力を知り、ブルガリア大使館とブルガリアのローズ事業を行っていた企業と連動し、ブルガリアのバラを普及させる運動を始めました。ブルガリア大使館から私たちが年前に「ブルガリアはヨーグルトというイメージがありますが、実は世界一のバラの国なのです。」という話を聞いたときにはほとんどの日本人がそのことを知りませんでした。大使館からブルガリアのイメージをバラに変えてほしいという依頼を受け、ブルガリアンローズを普及させる運動が、私の事業の一つの柱になりました。  製造販売業であるメイリリィを起業した後、「香楽(こうがく)」という独自のメソッドの普及については「一般社団法人香楽メソッド普及協会」を立ち上げ、ブルガリアのバラやそれにまつわる文化を広げるために「一般社団法人ブルガリアンローズ文化協会」をつくりました。現在、香楽メソッド普及協会では、県立高校や生涯教育、デザイナー育成スクールの展開、フレグランス協会などで香楽を伝えています。ブルガリアンローズ文化協会の活動は、ブルガリアとブルガリアンローズの認知度をあげると同時に、その利用方法を普及させる目的があります。ブルガリアンローズは美と健康の両面に役立つ特別なバラで、化粧品だけではなく飲食用に利用することができます。現在、片岡護さん、鎧塚俊彦さんや脇屋友詞さんなど有名なシェフの方々に調味料としてのローズウォーターを日本から世界へ発信する活動をお手伝いいただいております。  また全国の調理製菓専門学校を対象にローズウォーターのレシピアワードを毎年開催し、彼ら有名シェフに審査していただき、優秀なレシピを作った生徒にはブルガリア大使から表彰状を授与するということで、ローズの普及と同時に生徒たちの励みやトライする機会を作っています。  実はこうしたローズの普及活動と横浜のシティープロモーションを融合させた一つのアイデアがあります。ブルガリアには年に一度3週間しか咲かない大変高価で貴重なブルガリアンローズによって1年の生計を立てる人々がいます。その収穫祭としてブルガリアでは毎年「バラ祭り」が行なわれていますが、日本でもブルガリアのバラを広める活動の一環で、大使公邸で「バラ祭り」を17年にわたり行ってまいりました。バラと感謝を結びつけた文化を日本に定着させたいという思いのもと、2011年にブルガリア大使に6月2日を「ローズの日」と宣言してもらい普及活動しています。日本語で6/2、ローズと語呂合わせをしましたが、まさに6月2日はブルガリアのバラ祭りの時期であると同時に、横浜の開港祭とも重なります。「横浜市の花」であるローズを贈ることで「ありがとう」を表現する。横浜からこの素敵な文化を発信し全国に広がったら!というのが私の長年の夢です。そしてそれは大変大きな経済効果を生むこととと構想しています。  私の行っている事業は、香りという一つの大きな柱のもとに、化粧品の製造販売および食品の販売、ブルガリアのローズと文化の普及、「香楽」としての香り教育の普及と、多岐にわたり、何をやっているかということを一言では表せなくなってきています。こういう営利、非営利が融合した、非定形流動の事業の多様性が、もしかしたら女性の社会起業家ならではのマネージメントの特徴なのかもしれないと思ったりしています。 【菊嶋】うちの会社で目下一番大切にしようと思っていることは、人とまちが輝く未来をつくる、そのために我が社はあろう、ということです。そういった理念は、もちろん本業を通して発信することが一番大事なことですが、社会にも社員にも伝わりにくいのです。そこで、50周年の記念事業であるストリートファニチャーデザインコンペをCSR活動として実施しました。ストリートファニチャーというのはベンチや街路灯など公共スペースに置く工作物全般のことですが、横浜のまちが輝く未来をつくっていくために、全国のデザイナーからデザイン案の募集をしました。応募の中からベンチ や犬の停留所という犬の リードを引っかけておくようなものなど3作品を実際に制作し日本大通りに展示しました。この事業には非常に共感をいただいて、本年は実行委員会組織を立ち上げて、80社以上の企業に参加していただいています。もちろん同じ方向性を持ち共感できる企業同士ですから、この事業に関わることのメリットやプレゼンスを持って、ビジネス上のBtoBにつながるような場に持っていく。このようなCSR活動は、企業が何を大事にしているのかを発信して、さらに共感を得て、同じ価値観を持つ人との接点をつくっていくものだと思います。 また、港南台にある本社の屋上で、5年ほど前からミツバチを飼っています。これも港南台は都市化が進んだ住宅地ではあるけれども豊かな自然もある、ということを感じていただきたいという思いから始めたことなのです。建設業というのは自然を壊しているような印象があるかもしれませんが、これからのビジネスは自然と共生していかなければいけませんし、そのことを近隣の方にも社内にもきちんと伝えていきたいと思ったのです。  それから異業種交流会を2か月に1回、関内の事務所で行っています。毎回30社ほどが参加して横浜をテーマにした講演会を開催しています。 【田邉】3~4年位前に少し時間ができたので働き方やダイバーシティなどに関するセミナーに、多い時は週4日くらい参加していました。そうしているうちに、自分が好きなこと、自分のテーマが地域とダイバーシティであることがわかってきました。そんな折、たまたま大学の講座で、女性は小さいコミュニティでもリーダーになれるという話を聞きました。女性は会社でも、地域のコミュニティでも、家族の中でもリーダーになれる。何でもいいから自分の強みを持ちなさい、それもたくさん持って一つが倒れても他があると思えば強くなれるから、という話を聞いたのです。それで私は、ダイバーシティだけではなく、地域と連携してできることをやることにしたのです。やりたい活動のテーマがあると力が出ますし、不思議と助けてくれる人が現れるものなのですね。自分のテーマが見えたのも余裕が出たからかもしれませんが、自分がやりたいことを一つ見つけると強くなれるのかもしれません。 【江原】女性の視点が入ることによる良い変化という点では、まず一つは商品、学術で言うと研究などの最終生産物が、女性の視点が入ることによって新しいものができる。例えば女性が使いやすいように小さくした耕作機械は、エンドユーザーが女性だということを考えて作られたものですし、医療における女性医療など女性が入ることで新しい領域が広がり、その結果、多様な人々がいる社会に対応するような商品が生まれる。 もう一つは、組織論的な意味での柔軟性です。男女を分けていることで社会のいろいろなところで矛盾が起きている。それを双方が柔軟に対応していくことで、効率的になったり多様な生き方が広がったり、またビジネスの活性化などにつながるのではないかといわれています。自動車でも男性の視点で格好いい車とは違う、子どもを抱えていても乗りやすいような車が求められていたのに、そのような車がこれまではなかったわけです。 先ほどやりたいことをやっていると力が出るとおっしゃいましたが、これは女性に限らず真理だと思います。みんながやりたいことをやれたらどんなに力が出るのだろう、みんながやりたいことがやれるような社会になれば何倍も活気が出るのではないか、と思います。例えば菊嶋さんがおっしゃっていたストリートファニチャーなども、横浜は、公園やストリートファニチャーなどの美しさで評価されていますし、高速道路を川の下に通したということで都市計画的には有名なまちですから、それらを一つの都市文化として生かすことによって観光資源にもつながると思います。 【菊嶋】造る側の発想ではなく使う側の求めるデザインに切り変わっていく、プロダクトアウトからマーケットインへ、ということでしょうか。例えば住宅をつくる時に、規格化された男性発想的なものではなく、どんな家族、どんなライフスタイルなのかを、男性の視点だけではない、主に女性が使うような水回りや家族で将来的にどういう暮らしをしていくのかを描くような家づくりを提案していくように切り変わっていく。そのためには、建築家ですとか、場合によっては福祉や健康分野のみなさんと異業種交流をすることが大事だと思います。 【小賀野】ありがとうございました。最後に一言いただけますか。 【江原】住宅中心の都市は、地域の中での居場所の性比の均衡が崩れてきます。ジェンダー地理学という視点でどの場所にどういう性比で人がいるのか、時間帯などで分析すると、横浜は昼間は女性ばかりということになります。多摩ニュータウンも働く場がなく男性は都心に行ってしまいます。しかし、働きやすさで職住近接の方が圧倒的によい。そういう意味で、都市を計画するときに、男女共同参画を前提とした、機能的に住宅地域、産業地域等を広域で分離するのでなく、できうる限り職住近接となるような都市のあり方を考えていくことが必要だと思います。 【菊嶋】去年M&Aをした会社が長野にありますが、横浜の会社と雰囲気が全然違います。消防団や、中にはPTAの会長をやっている社員もいて、みなそういう活動を優先しているのです。今日は半日消防団の活動に行きますということが普通のことなのです。横浜のキクシマでは市内在住の社員が圧倒的に多いので、子育て中の社員が保育園に預けている子どもが熱を出した時に2時間ぐらい抜けて戻ってくるということができるのですが、市外に住んでいるとなかなか難しいですよね。特に女性が安心して働けるという意味では、そのような環境が必要なのだと思います。 【江原】逆に言えば、住宅地の近くに立地すれば、企業にとっては良い女性労働者を雇用できるという可能性が拡大するわけです。特に子どもがいる女性の場合、通勤時間は大きな要素ですので、男性とは求職行動の地理的範囲が違うのです。女性の働きやすい職場というものは、都市のあり方ととても関連していると思います。もちろん少し遠くても公共交通で移動が可能な大都市・首都圏だからこそ、結婚してそれぞれが別の仕事をしながら一緒に暮らすということができている面もありますが、やはり理想は職住近接ではないでしょうか。 【山下】これからは介護という問題もありますよね。これは子どもがいるなしにかかわらず誰にでも関わってくることだと思います。 【江原】一緒に住むために親を地方から転居させるというのも難しいことです。遠距離介護をしている人もいますし、この問題をどうやって解決したらよいのか、まだまだ課題は多くあります。ただ、職住近接は、地域の担い手不足という問題の解決策の一つになると思います。 【小賀野】IT技術の進展などで、今後もいろいろな方策が生まれてくると思いますので、ぜひ引き続きアイデアをいただければと思います。本日はありがとうございました。