つどいの広場の現場から 執筆 こども青少年局課長補佐(こども福祉保健部地域子育て支援課担当係長) 野田 実 1子育てを地域で支える仕組みの成り立ち (1)横浜市における子育て支援施策の変遷 令和7年度は、「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」を基本戦略とした横浜市中期計画の最終年度であり、その振り返りとともに、新たな計画の策定に向けて始動した年でもあります。 また同年4月には「横浜市こども・子育て基本条例」が施行され、横浜市のこども・子育て支援施策の総合計画である「こども、みんなが主役!よこはまわくわくプラン2025~2029」も策定されたことで、横浜市は新たな子育て施策の推進に向けて大きく踏み出しました。 少子化が喫緊の課題として注目され、国や全国の自治体で様々な子育て支援施策が打ち出される中で、横浜市には、地域における子育て支援に早期から取り組んできた経過があります。 横浜市ではかねてより、区役所を中心に地域の担い手と連携しながら、子育てに不安を抱える家庭への支援を目的として、子育てサロンに代表されるような、こどもが健やかに育ち、親同士がつながる場となるような多様な居場所を展開してきました。 平成8年度には、市民の知恵と経験を活かす取り組みとして、「子育て支援者事業」が開始され、先輩ママが子育ての不安や悩み、地域での仲間づくりの方法などの様々な声に対し、共に考え、応援する活動が地域ケアプラザなどの身近な場所で行われるようになりました。このような活動が広がっていくことで、行政と市民が協働して地域で子育てを支える基盤づくりが徐々に整えられてきたとも言えます。 平成12年度には、当時の保健所で健診時に配布される子育て情報冊子を地域の保護者とともに編集したことを契機に、港北区の子育て中の親たちが中心となり、商店街の空き店舗を活用して「おやこの広場 びーのびーの」が立ち上がりました。 この取り組みは全国的に注目され、後に国により制度化された「つどいの広場事業」のモデルケースとなりました。 平成14年度には国において「つどいの広場事業」が開始され、全国28か所でスタート。横浜市でも「子育て支援事業本部(平成15年度設置)」のもと、「親と子のつどいの広場事業」の拡充が進められました。 さらに平成17年度には、本市において相談支援・居場所・情報提供などの多機能型支援を一体化し、地域ネットワークを牽引する拠点として「地域子育て支援拠点事業」が創設されました。国においても、これまでの広場事業を平成19年度に再編、平成20年度の児童福祉法の改正により法定化され、社会福祉法における第二種社会福祉事業に位置づけられました。 このように横浜市は、地域ぐるみで子育てを支える取り組みを早期から進めてきた自治体として、全国に存在感を示してきました。特にNPO法人などの市民活動団体とともに事業を運営していくことで、行政と市民活動の連携を深化させ、当事者の視点を強く反映した支援モデルをいち早く築き上げてきた点が大きな特徴です。 今回は、地域における子育て支援の源流ともいえる「親と子のつどいの広場」事業について、現場の視点からお伝えしたいと思います。 2地域にひらかれた広場 (1)広場の役割 横浜市の親と子のつどいの広場は、実施施設の要件として、広さがおおよそ40㎡以上(1LDKほどの間取りに相当)であること、1日あたり5時間以上、週3日以上開所すること、そして2名以上の子育てアドバイザーが常駐することが定められています。 広場の主な機能は以下の4点です。 ①親子の交流・つどいの場の提供 ②子育てに関する相談対応 ③子育て関連情報の収集と提供 ④子育て及び子育て支援に関する講習の実施 さらに、全体の約半数の広場では、一時預かりも実施されています。 (2)データにみる広場 横浜市には、75か所の親と子のつどいの広場があります(図1令和7年4月時点の広場の箇所数のグラフ)。 これらの広場を運営する団体のうち、半数以上がNPO法人であり、その他にも社会福祉法人、一般社団法人、株式会社、市民活動団体などが運営に携わっています(図2令和7年4月時点の法人形態別の箇所数のグラフ)。また、14団体が複数の広場を運営しています。 区別の設置数を見ると、港北区が8か所、青葉区と都筑区がそれぞれ6か所と、比較的子育て家庭が多い地域に広場が設けられている傾向が見られます。 広場の実施場所としては、マンションの一室(住居用または事業用)が最も多く、次いで戸建て住宅、店舗型物件が続きます。さらに、町内会館や小学校、助産院の施設内で活動している広場もあります(図3令和7年4月時点の物件種別ごとの箇所数のグラフ)。 横浜市全体の広場利用者数は、新型コロナウイルス感染症の影響により令和元年度に減少しましたが、令和6年度には237,534人まで利用者が増加し、平成30年度の水準にまで戻ってきている状況です(図4広場の延べ利用者数のグラフ)。 (3)みんなが利用したくなる広場 親と子のつどいの広場は専用施設として新設されるのではなく、空き部屋や空き店舗など既存の空間で運営されているため、限られたスペースを工夫して有効活用しています。 例えば、壁面やラックを活用した子育て情報コーナーや、使用していない浴室・キッチンを授乳スペースとして転用するなど、各広場の施設の状況に応じた創意工夫が見られます(写真1港南区のおやこひろばてとてとの、浴室を授乳スペースに活用した事例)。 広場には、子どもが遊べる遊具やおもちゃ、絵本が用意されており、こいのぼりやハロウィンなど季節感のある工作が壁に飾られ、楽しい雰囲気が演出されています。 また、より多様な方々が広場を利用できるよう、例えばパパ向けのプログラムとして、親子で身体を使った遊びを教える講座を休日に開催したり、妊娠中の方やそのご家族が自由に立ち寄って子育て中の親子の様子を見学・交流できる取り組みが行われていたりします。 さらに、通常の遊びの場では話しづらい、こどもの発達に関する悩みを共有できる相談会を設け、当事者同士が不安や悩みを分かち合える場も提供されています。 新型コロナウイルス感染症の影響で広場に足を運べない時期が続いた際には、親同士のつながりを求めるニーズに応えるため、オンラインによる企画が実施されました。 ベビーマッサージ講座をオンラインで配信し、自宅と広場をつなぐハイブリッド形式の実施や、離れた広場同士をオンラインでつなぎ、利用者やスタッフが交流するお話会も開催されました。 3地域とつながる広場 各区の広場は、その成り立ちや周辺環境に応じて工夫を凝らし、独自の支援や地域連携による活動を展開しています。 今回は、3つの広場の取り組みをご紹介します。 (1)わかば親と子の広場そらまめ(旭区) わかば親と子の広場「そらまめ」は、旭区の若葉台団地内にある広場です。運営は、多世代の居場所づくりを支援する認定NPO法人若葉台が担っています。この広場は、地域の連合自治会や連絡会など、さまざまな団体が日常的に関わりながら運営されています。保育士経験者を含むスタッフが子育て家庭を温かく迎え、おもちゃや絵本を使った遊び、手遊び、絵本の読み聞かせなどを通じて、親子のふれあいを促進し、ホッとできる居場所やもうひとつの実家と思ってもらえるような広場づくりに励んでいます。 また、広場では1歳までの赤ちゃんと保護者を対象にした「赤ちゃんデー」(写真2病院の管理栄養士から離乳食についての講習)や、地域の幼稚園・保育園の園長先生を招き、親子で一緒に遊ぶ時間を提供する「園長先生とあそぼう」(写真3描いた絵をタブレットで撮影し大画面に投影)などのイベントも開催。地域の子育て家庭が気軽に参加できる工夫がなされています。さらに、発達に不安のあるお子さんについて相談を受けた際には、区の保健師と連携し、支援につなげることもあります。 この広場は、団地や周辺地域における地域連携の好事例です。地区社会福祉協議会主催のスタンプラリーへの参加や、地元中学生の職場体験の受け入れを通じて、子どもと遊び触れ合う機会を提供するなど、地域とのつながりの足掛かりとして機能しています。 (2)親と子のつどいの広場「ハッピーひろば」(都筑区) ハッピーひろばを運営するNPO法人H&Kは、子育て支援と地産地消という、当初は異なる活動をしていた団体同士が協力して設立された経歴をもち、地域まるごと「子育て応援団」として活動している団体です。 横浜市営地下鉄センター南駅からほど近い場所にあり、絵本やおもちゃでこどもを遊ばせながら、親子同士の交流や相談ができる広場です。まるで第二の実家のように、親子が安心して過ごせる環境が整っています。 ハッピーひろばの特徴は、スタッフによる自主企画・自主運営です。例えば絵本の読み聞かせ、手遊び、歌、ペープサートなど、毎月開催される「お楽しみデイ」は、絵本の専門家を講師に呼ぶのではなく、毎月広場スタッフが練習して挑む形にこだわっています。 また、新型コロナウイルス感染症の影響下では、オンラインでの絵本の読み聞かせや子育て相談を実施するなど、柔軟な対応で支援を継続してきました。 ハッピーひろばは、広場内での活動にとどまらず、行政や民間事業者との連携によるイベントや支援にも積極的に取り組んでいます。 例えば、横浜市交通局との協働事業として「バスの交通安全教室」(写真4バスの前での集合写真)を開催しています。実際に大型バスにベビーカーで乗車する体験、横断歩道の渡り方講座、交通安全クイズなどが行われ、毎年90名程度が参加しています。 さらに、公益財団法人キユーピーみらいたまご財団の助成を受け、さまざまな「食」に関する活動も行っています。管理栄養士・助産師との協働による「赤ちゃんとママへの食育」や「産後ケアのワークショップ」(写真5ワークショップの光景)、農家と協働して実施する「野菜の収穫体験」など、複数の食育事業を展開中です。 地域の支援団体・機関や行政と連携し、発達が心配なお子さん、親御さんへの支援など独自の取り組みも行っています。 (3)親と子のつどいの広場 あしたひろば(金沢区) 金沢区にある「あしたひろば」は、子育ち・住まい・公共スペースなどをテーマに地域活性化プロジェクトを推進する、一般社団法人金沢シーサイドあしたタウンによって運営されています。地域住民が主体となり、子育て世代を支える場をつくりたいという思いから誕生し、あしたタウンラボ内に開設されました。 広場は外からも中の様子が見える開放的なつくりで、ふらっと立ち寄れる、気負わず利用できる雰囲気が特徴です。親子での利用はもちろん、プレママ・プレパパ、祖父母の参加も歓迎され、世代を超えたつながりが生まれる場となっています。また、あしたひろばは、地域の人が活躍できる場としても親しまれています。地元の中学生によるプラレールをつかったイベント(写真6イベントの光景)や、地域のピアノの先生によるリトミック、地域で活動されているボランティアの方が紙芝居の読み聞かせイベントを開催しています。これらは、楽しいイベントであると同時に、世代を超え、さまざまな方が地域とつながれる居場所となっています。 あしたひろばにおける地域連携は、横浜市立大学との協働が特徴的です。大学のゼミ生と協力して行う外遊びイベント「ぱあくる」など、屋外での活動も積極的に実施しています。 さらに、食品等の宅配で知られるパルシステム神奈川との連携により、離乳食や幼児食に関する講座(写真7講座の様子)を開催。 離乳食やおやつなど、子育てに関する食のサポート情報を提供するとともに、ママ同士の交流の場をつくり、企業が地域とつながる機会にもなっています。 このように、広場は利用者や地域のニーズに応え、活動から派生して地域や企業と連携した自主的な取り組みを柔軟に展開できる点も、市民活動を主体とする広場ならではの特色であり、強みです。 4おわりに 親と子のつどいの広場は、地域に身近な子育て支援施設として、多くの家庭にとって安心できる居場所となっています。こどもにとっては楽しく遊べる場であり、保護者にとっては仲間づくりの場でもあります。 時には、不安そうな表情のお母さんにそっと声をかけ、「何かあったら、いつでも来てくださいね」と伝えることもあります。こうしたやりとりは、悩みをすぐに解決できるわけではありませんが、誰かと不安な気持ちを分かち合えるという安心感につながっているのではないでしょうか。 また、各広場は区役所や他の支援窓口と連携しており、行政や専門機関の相談窓口に敷居の高さを感じている方にとって、普段からなじみのある広場から窓口を紹介されることは、相談への一歩を踏み出すきっかけとなっています。 親と子のつどいの広場の活動が今後さらに広がることで、子育て家庭の居場所が増えるだけでなく、例えばマンションの一室での交流が、人と人をつなげ、地域社会を活性化させることで、子育てがより身近な存在になっていくことが期待されます。