青少年の地域活動拠点の現場から 地域社会における青少年育成の視点と地域連携の必要性 執筆 こども青少年局青少年部青少年育成課担当係長 東 明徳 1はじめに 青少年の健全育成は、地域社会の持続的発展の基盤です。近年、都市部ではコミュニティの希薄化や、インターネットを介した人間関係の単層化、身近な「居場所」の不足が顕在化しています。こうした環境変化は、思春期の不安や孤立の長期化、進路選択・社会参加に向けた体験機会が不足したりする要因となっています。地方自治体では、青少年の社会的孤立を防ぎ、地域とのつながりを回復・強化する施策を検討しながら実施してきました。 本稿では、横浜市が設置する「青少年の地域活動拠点」(以下、拠点)の経緯・概要・現況を整理し、拠点が果たす役割、地域連携の必要性、そして今後の方向性を、現場の事例を交えながら考察します。 2横浜市青少年の地域活動拠点づくり事業 (1)事業の趣旨と歩み 本事業は平成19年度に開始し、中高生世代を中心に「安心して気軽に集える場」を提供し、交流・体験活動を通じて成長を支援することを目的としています。設置当初から、学校・家庭以外の「第三の居場所(サードプレイス)」として、自由に過ごせるフリースペース、学習支援、自主企画の場など、青少年のニーズに応じた機能を整備してきました。 青少年を取り巻く環境が変化するなかで、拠点の役割は拡大しています。とりわけ、安心して話ができる「第三の大人」(親でも教師でもない地域の支援者・ボランティア・スタッフ)との対話機会を確保し、生活・文化・自然・社会体験を通じて地域への参加・参画を促すことが重要な柱となっています。 (2)現状と活動内容 令和7年度現在、拠点は市内7区(南・保土ケ谷・磯子・金沢・青葉・都筑・栄)に設置され、NPO法人等の民間団体が運営しています。活動内容は、フリースペース・自習室の開放、音楽・アート等の文化活動、地域の祭礼・清掃・防災訓練への参加、美術展・ボランティア体験など多岐にわたります。延べ利用者数は、約33820人(令和6年度)(図1延べ利用者数の推移のグラフ)と、コロナ禍による一時的な減少から現在は回復傾向にあり、利用者の中心は中高生ですが、小学生から大学生世代まで幅広く利用されています(図2令和6年度の年齢別利用状況のグラフ)。 (3)行政計画上の位置付けと目標 拠点は「こども、みんなが主役!よこはまわくわくプラン2025から2029」に位置付けられ、居場所づくり・体験活動の充実・多世代交流の促進を市の重点施策として示されています。アウトカム指標には「利用者の自己肯定感が高まったと感じた割合」(現状63%を目標70%へ)が掲げられ、年間利用者数も令和11年度71309人を目標に設定されています。このことは、拠点の量的拡充だけでなく、質的向上(体験の内実や関わりの質の改善)を伴う運営が求められていることを示しています。 (4)効果と課題 拠点利用者アンケートでは、自己肯定感の向上や「いろんな人がいることを知った」等の他者理解の促進、「相談できる人が増えた」などの関係資本の形成が確認されています(図3体験による自身の変化のグラフ)。 一方、認知度の低さが顕著で、中高生・保護者ともに約8割が「拠点を知らない」と回答しています。利用意向は中高生で約半数、保護者では約8割と高いため、広報・周知の強化、学校・地域施設との導線づくりが喫緊の課題です(図4中高生及び保護者への認知度・利用意向)。 3青少年を取り巻く環境と課題認識 (1)思春期の特徴と支援の要点 中学生期(青年前期)は自我の形成が進み、友人関係がより重要になりますが、親への反抗や自己像との葛藤が増える時期でもあります。高校生期(青年中期)は社会参画への移行期で、自立に向けた意思決定が求められます。 この時期には、主体性を尊重し、安全で安心できる環境、多様な体験機会、信頼できる大人の存在が不可欠です。 (2)都市化・情報化の進展と「機会の希少化」 都市化・情報化の進展により、青少年が自然や地域社会、異世代と直接触れ合う機会が減っています。遊び場の減少、部活動機会の縮小、デジタル環境の普及などにより、人と人との偶発的な交流や体験が得にくい状況です。 拠点はこうした不足を補い、日常的に出入りできる場として、意図的に交流や体験の場面をつくり出す役割があります。 (3)不登校・広域通学・ひきこもり等への視点 不登校は複合的要因によって生じ、再登校のみをゴールとしない支援が必要とされています。通信制高校など選択肢が広がる一方、「人と関わりたくない」と感じる青少年には安全な出会いの場が不足しています。 横浜市の調査では、ひきこもり状態の青少年は「居場所の欠如」を強く感じており、幼少期の「話を聞いてくれる大人」や「異年齢交流」の経験が少ない傾向が示されています。拠点における「斜めの関係」の重要性が裏付けられています。 さらに、教育現場では近年、多様な学び方を選択できる環境整備が進んでいます。同様に、青少年が利用する居場所についても、課題への対処だけに焦点を当てるのではなく、一人ひとりのニーズに合った多様な使い方ができる場を用意し、自分に合った居場所を“選べる”ことが今後は一層重要になります。 4青少年育成に必要な要素 (1)「斜めの関係」の価値 所属集団(学校・部活)に馴染みにくい青少年に、安心して声をかけ、話を聴けるのは「斜めの関係」にある地域の大人や近い世代の若者です。拠点は、これらの人材が自然に出会える場面を日常化し、地域に「見守り文化」を育むことで、困り事が深刻化する前の予防的支援につなげます。 (2)居場所(サードプレイス)の機能 家庭(ファーストプレイス)・学校(セカンドプレイス)では満たしにくいニーズ(自由で、否定されず、自分らしくいられる)を受け止めるサードプレイスの整備が必要です。ここでは、「今は相談までは望まない」段階の青少年も緩やかに見守られ、課題が顕在化した際には専門機関へつなぐ役割を果たします。自己肯定感が低いほど居場所を持たない傾向があることを踏まえると、拠点は誰でも立ち寄れる開放性と継続的な関係づくりを両立させる運営が望ましいです。 (3)体験活動の意義 生活・文化・自然・社会体験を通じた非認知能力(コミュニケーション・協調性・主体性・挑戦意欲・責任感・創造性・変化対応力等)の育成は、学力や規範意識にも波及効果をもたらします。一方で、体験活動には「体験格差」が存在することが指摘されており、特に経済的な理由によって機会が制限される青少年がいます。 家庭の経済状況によって、自然体験や文化体験、社会参加の機会が得にくくなることは、将来的な学びや成長の機会の不平等につながります。そのため、経済的背景に左右されず、誰もが等しく体験の機会を得られる環境を整えることが重要です。 拠点では、ボランティア、まちづくり、芸術文化、職業体験、自然体験など、多様なプログラムを意図的・計画的に提供し、「いつでも・どこでも・何度でも」参加できる体制を整え、あらゆる青少年が自らの成長につながる体験を選び取れるようにすることが求められます。 (4)青少年を「支えられる側」に限定しない 青少年期は「大人ではないが、全くの子どもでもない」移行期です。拠点運営では、青少年を常に支援される対象とみなすのではなく、主体的に企画・運営に関与できる役割を示し、相互に支え合う関係を構築する。発達段階に応じた設計により、成功体験・達成感を積み重ねられる仕掛けが必要です。 5拠点の役割と「地域連携事業」の必要性 拠点の対象は主に中高生世代ですが、小学校高学年から大学生世代まで、切れ目なく地域の大人と関わる重要性を踏まえ、柔軟な受け止めが望ましいです。拠点は、居場所(場・人)の提供と体験機会の創出を通じて、自己理解から他者理解へ、他者理解から社会参画へ、という成長プロセスを支える役割を果たします。 さらに、拠点が単に「大人が用意した場」を提供するだけではなく、青少年自身が居場所や活動を“創っていく場”となるよう環境を整備することも求められます。青少年が企画・運営に関わり、主体的に場をつくっていくプロセスそのものが学びと成長につながり、地域参画の促進にも寄与します。 今後は、拠点のみで機能を完結させるのではなく、地域資源のネットワーク化を進める必要があります。学校や区役所に加え、青少年に関わる専門機関、市民利用施設、区民利用施設、町内会・商店街・企業・大学等との緩やかなネットワークを構築し、目的共有・役割分担・連携協働を促します。拠点はその「ハブ(結節点)」となり、情報発信・人材コーディネート・プログラム共創を担うことが期待されます。 6各区の特色事例 (1)金沢区:青少年の地域活動拠点「カナカツ」 京急金沢文庫駅東口から徒歩圏、すずらん通り商店街の2階建て施設に位置する「カナカツ」は、1階に駄菓子コーナーとフリースペース、2階に中高生向けの学習・くつろぎスペースを備える居場所です。「第2の我が家」として、漫画・ゲーム・読書・自習など、多様な過ごし方が許容されています。高校生主体の運営委員会がイベント企画を担い、美術展、地域ボランティアなど、青少年が主役になる場を日常的に作っています。大学生ボランティアやスタッフが常駐し、進路や日常の悩みに寄り添う体制も整備されています。地域商店街との連携、花壇の水やりなど小さな貢献が継続され、自己肯定感の向上・孤立防止に寄与しています。 (2)青葉区:あおばコミュニティテラス×下市ヶ尾町内会 町内会と拠点が協働し、地域の魅力を発信する「下市ヶ尾ウォーキングマップ動画」を制作しています。高校生・大学生が主体的に企画・撮影・編集を担い、歴史・文化の見どころを解説する「詳細編」(約5分)とルート紹介の「概要編」を公開しています。青少年のまち歩き参画を通じて地域理解と愛着を高め、高齢者・子育て世代への情報発信にもつながっています。地域資源×青少年の創造性・当事者性を融合させた好事例であり、他地域への横展開可能性が高いです。  参考URL:https://aobact.com/archives/659 (3)都筑区:つづきMYプラザ「はぁとdeボランティア」 夏休みにSTEP1(オリエンテーション)からSTEP2(体験)へ、STEP2(体験)からSTEP3(振り返り・修了証授与)へという三段構成で、地区センター・福祉施設・動物愛護団体など90以上の体験先を用意し、約370人が参加しています(年によって変動)。俳句で感想を共有するユニークな振り返りも実施され、社会性・自主性・他者理解の深化が確認されています。小5・6年生向けの「プレコース」を併設し、早期の社会参加経験を段階的に提供する設計が特徴です。(写真 俳句での乾燥共有の様子) 7拠点運営に求められることと、市の支援 (1)スタッフ像と実務能力 拠点スタッフには、日常の関わり合いから生まれる信頼関係を活かし、安心の場づくりと体験機会の設計に取り組む姿勢が求められています。課題が表面化した際は、青少年相談センター・ユースプラザ・スクールカウンセラー等、専門機関への連携を迅速に図ります。地域連携を担ううえでは、関係構築力、情報発信・収集力、コーディネート力、アセスメント力が重要であり、会議・勉強会・イベントを通じて出会いを広げ、互いの目的と強みを理解し、必要に応じて協力する関係性を築く必要があります。 さらに、すべての拠点スタッフには、青少年が自ら考え、動き、場をつくっていくことを尊重し、支えすぎず、管理しすぎない関わり方が求められます。スタッフ一人ひとりの振る舞いが場の雰囲気そのものを形づくるため、青少年の主体的な参画を促しやすい安心感と自由度のバランスが問われます。 (2)運営団体に求められる視座 青少年を取り巻く環境は変化し続けています。運営団体は、現場で得た気づきを組織内で共有し、柔軟性と戦略性をもって運営を更新する必要があります。青少年参画の設計、広報手法の見直し、ボランティア・大学・企業との協働スキームの開発、資金調達の多様化(助成・協賛・クラウドファンディング等)を計画的に進めることが求められます。 (3)市による支援・情報提供 こども青少年局は、青少年相談センターや中間支援組織((公財)よこはまユース)等が実施する研修情報や、青少年に関する各機関・団体の情報を提供します。各区役所は、地域の関心団体・人材・既存取組等の情報提供に努め、拠点の地域連携を後押しすることが求められます。こうした公的支援は、拠点が「地域社会×青少年」をつなぐハブとして機能するための基盤になります。 8広報・評価・持続可能性に向けて (1)広報導線の再設計 認知度向上には、学校経由(学級通信・進路指導・生徒会)、地域施設(図書館・地区センター)、医療・福祉(地域ケアプラザ・子育て支援拠点)、デジタル(SNS・ショート動画・チャットツール)の複線的な導線が必要です。中高生の「使うメディア」に合わせ、学生広報サポーターの育成・運用、同世代の声を活かしたコンテンツ制作の継続が効果的です。 (2)評価指標の整備 「利用者数」だけでは拠点の価値を測りきれません。拠点の活動量を示すアウトプット(交流・イベント実施数、参加回数、相談対応件数など)と、青少年の変化を示すアウトカム(自己肯定感の向上、相談先の増加、異世代交流の広がり、地域活動や進路への満足度向上等)など、複合的な指標を設定・可視化する必要があります。加えて、当事者の語り(質的データ)を丁寧に収集・発信することで、拠点の内実を社会に伝えていくことが重要です。 (3)持続可能性 財源確保は、多年度の安定運営と改善サイクルに直結します。公的補助に加え、企業協賛・共同企画、助成金、地域基金、コミュニティ財団、ボランティアのスキルマッチング等を戦略的に組み合わせる必要があります。人材面では、学生・社会人ボランティアの育成・リテンション、専門職(心理・福祉・教育)との協働、OB・OGの関与(リターン参加)を促す仕組みが求められています。 9まとめ 横浜市の拠点が拓く未来 横浜市の青少年地域活動拠点は、都市部における居場所づくりの先進事例として評価できる取組です。拠点では、安全で安心できる場を提供するとともに、多様な体験機会を創出し、「斜めの関係」を育むことで、青少年の自己肯定感や社会参画の力を高めています。 今後は、青少年にとって身近で安心できる居場所の充実に向けて、既存の公共施設等を活用するモデル事業に取り組むことを予定しています。その他、地域資源との連携やデジタル技術を活用した情報発信、当事者が段階的に参画できる仕組みづくり、評価指標の整備などを通じて、拠点の質をさらに高めていくことも必要です。 本稿で紹介した「カナカツ」、あおばコミュニティテラスと町内会の連携、「はぁとdeボランティア」は、拠点が地域とつながりながら青少年の主体性を育む具体的なモデルとなっています。ここで取り上げられなかった拠点においても、地域の特性を生かしながら成果を見える化し、共有し、横展開を進めています。 拠点が「ハブ」として機能し、地域社会と青少年がともに成長していく循環を生み出すことこそ、横浜市における次世代の活躍を支える最も重要な課題であるといえます。