こどもにやさしいまちづくりとは まちそのものをこどもの居場所にするために 執筆 横浜市立大学国際教養学部都市学系・教授 三輪律江 執筆者プロフィール (株)坂倉建築研究所、横浜国大を経て横浜市大に着任。専門は建築・都市計画、参画型まちづくり、こどものための都市環境、環境心理学。「こども」と「まち」との関係に着目した実践的調査研究を数多く手掛ける。代表編著に『まち保育のススメ(萌文社)』『子どもまちづくり型録(鹿島出版社)』他。 1はじめに 「こどもの居場所」とはなにか 最近「こどもの居場所」「こどもの居場所づくり」という言葉を耳にする機会が多いと思います。なんとなくイメージが付きやすい語句ですが、「こどもの居場所」とは何か考えたことがありますか。 「居場所」とは、社会学的には「主体性をもって集いこころの拠り所となる場所」、建築学的には「利用者が主体的に環境に働きかけ獲得する場所」といった定義で整理されたりしています。単に場が用意され存在するだけでは居場所にはならず、どんな場か、そこに誰がどのように集っているのか、も大事な要素になります。「人」が介在してこそ「居場所」であり、誰かが自分のために用意してくれているだけ(一方的)では居場所にはならない。でも居場所となるには空間も大事な要素になります。 2023(令和5)年12月『こどもの居場所づくりに関する指針』が閣議決定されました。その中では、「こどもの居場所づくりが求められる背景」について以下のように記されています【参考文献1】。 人間は社会的な動物であり、肯定的・開放的な関係の中に自分の居場所を持つことは、自己肯定感や自己有用感に関わるなど、全ての人にとって生きる上で不可欠な要素である。当然、こども・若者が生きていく上でも不可欠と言えるものであり、居場所がないことは、人とのつながりが失われ、孤独・孤立の問題と深く関係する重大な問題である。こどもは家庭を基盤とし、地域や学校など様々な場所において、安全・安心な環境の下様々なおとなや同年齢・異年齢のこども同士との関わりの中で成長する存在であるが、社会構造や経済構造の変化により、こども・若者が居場所を持つことが難しくなっている現状にある。すなわち、地域のつながりの希薄化、少子化の進展により、こども・若者同士が遊び、育ち、学び合う機会が減少しており、「こども・若者が地域コミュニティの中で育つ」ことが困難になっている。特に過疎化が進展する地方部では、こうした傾向が一層懸念される。 (中略) こうした背景によって、こどもの居場所づくりの緊急性と重要性が増している中、様々な地域で、地域のニーズや特性を踏まえた多種多様な居場所づくりの実践が行われている。これは、上に述べたような環境の変化により、これまでの枠組みでは十分に拾い切れていなかったニーズに対応した取組であるとも言え、こうした各地域での居場所づくりを推進する観点から、国としてもこどもの権利を基盤とした居場所づくりについて一定の考え方を示すことが求められている。 さらには「こどもの居場所づくりとは」では以下のように記されています。 重要なことは、様々なニーズや特性を持つこども・若者が、身近な地域において、各々のライフステージに応じた居場所を切れ目なく持つことができることである。どこにも居場所がないこども・若者が生じないよう、また、できるだけ多様な居場所を持てるよう支援していく必要がある。それぞれの地域において、潜在化しているものも含めたニーズを把握し、こども・若者の特性を配慮した多様な居場所づくりに取り組む必要がある。 指針の中では、地域全体で多様なこども・若者の居場所を設けていくためには、国や地方自治体の取組だけでなく、こども・若者自身や地域住民を含めた多様な人の理解・協力が必要であることが謳われています。つまり、居場所づくりは、誰か一人、あるいは特定の当事者関係者だけで行うのではなく、多様な人をいかに巻き込むか、ということが肝要になるのです。 2こどもが育まれる場としてのまちの課題 私の専門は、建築・都市計画、まちづくり、環境心理という分野です。これまで、その分野から、乳幼児期、学童期、青年期と各世代のこどもとまちとの関係に着目し研究テーマにしてきました。そして、こどもが自身で居場所を獲得していくためのサポートを学生や住民、企業等と共に試行してきました。本稿ではその専門的視点から、こどもにとっての居場所となり得る都市環境と、多様な場を居場所としていくまちづくり、その未来について捉えていきたいと思います。なお、ここでいう都市環境とは、人が暮らし営んでいく上での生活基盤となる社会インフラ(生活道路や公園・緑地、住区、施設など)の在り方を指します。 まずこどもが育まれる場としてのまちが抱える課題について整理しておきましょう。 これまでの都市計画・まちづくりは、高度成長期の開発型をベースにした制度の下、人口が安定した後の高齢化や少子化といった点は想定されておらず、また夫婦共働きを前提とせず、特に都市部においては職住分離を推進するような都市づくりがされてきました。モータリゼーションによる車優先の道路整備なども進められてきました。 ところが人口減少社会となり核家族化も進む家族や社会の変化は、そのような都市環境の変化と相まって、限られた人間関係の中で、こどもたちが乳幼児期から保育施設や教育施設の敷地内で長時間を過ごすようになることを誘因し、加えてこどもだけでまちを散策したり、異年齢や異なる世代の人と接する機会を奪ってしまっています。また血縁以外のこどもに接する機会を持たない大人が増え、こどもに不寛容な社会への移行にもつながっていき、そんな環境を心配して、ますますこどもを囲い込む悪循環を生んでいます。 現代社会において、家族の形の変容に伴い子育て環境は大きく変化しています。かつての大家族や多くの血縁関係の中で行われていた子育ては、核家族化に伴い複数の大人が関わる機会は激減し、加えて夫婦共働きといったライフスタイルが日常となる中、家族の中での子育てに制約と役割分担の変化が生じ、家族内で群れてまねる環境が自然にできない状況にあります。そのことは育児ストレスや虐待などを招くとして、近年では「孤育て」「アウェイ育児」等といった言葉も頻出し社会課題となっています。その傾向は、核家族が進む中で、近親者が近くにいない現代の都市部において顕著です。また少子化や核家族化などの社会の変化により、こどもの世話をしたことがないまま親になる人も増加しており、妊娠から産後の時期に不安を感じる一因になっているとも考えられます。 これらのことは、裏を返せば、子育てする上で自分の住んでいるまちに、自身の子育ての理解を得て共感・交流できる人を作っておくことが大事、だから地域に知り合いを増やしておくといいですよ、となるのですが、核家族化が進行しほぼ9割が共働きの社会となり、出産ギリギリまで就労している人が増えている都市部の状況下においては、そもそも産休直前まで居住する地域社会との接点は皆無です。特に第一子を迎えこれから親になろうとしている人たち、さらにはつい少し前まで若者であった人たちが、自身が住んでいる地域のことに関心をもち、知るようになるのか、彼らと地域の交流接点をいつどのように創出するのかということが喫緊の課題であることがよくわかります。 こどもの成長を考えると、家庭や幼稚園、保育所などの就学前児童施設を中心とした大人と共にある生活から、小学校を中心とした乳幼児期から学童期にかけてのこども達のみでの活動が頻繁になる生活への移行期に、こども達の身近な生活圏で、どのようにしたら、こどもと保護者、そして専門的な施設が繋がっていけるかといった観点は極めて重要です。加えて共働き社会の現代においては、就学前から学童期(特に学童前半期)のこども達を近隣で見守りケアするモデルの構築、そのための社会インフラや地域社会の在り方を捉え直すことが喫緊の課題となっています。 3こどもの成長に伴うまちの使いこなし方から捉えたまちへの期待 ところで、こども・若者は具体的にまちのどこでどのように育っていくのでしょうか。 乳幼児期のこどもの動きは、ゼロ歳から三歳児頃までの間に、寝転ぶ段階からおおよそ一か月単位で細かく変化していきます。私は、複数の都市で継続して実施してきた親子の外出ニーズの調査研究から、このようなゼロ歳児からの成長によって外出の動向に差があること、それによる行動圏を身近さ圏として捉えてきました。主な外出先を商業施設とする親子が多い乳児期に比べて、自我が芽生えだす幼児期のこどもとの主な外出先は、「近さ」を第一理由として近所の公園(児童遊園や街区公園等)が中心となっていて、そこまでの平均移動時間は約5~8分程度の時間距離、こども連れでゆっくり歩行する分速約60メートルで換算した場合、半径約300~500メートルの範囲の徒歩圏であることが確認されています。まずはこの範囲こそが、乳幼児期のこどもが育まれるための〝地域コミュニティ〟となる具体的かつ最小な圏域(「乳幼児生活圏」)であると考えています。人のライフステージにおいて、自分の暮らすまちを身近に感じ、様々な地域資源を活用し濃い関わりを得られる第一期は乳幼児期であり、こどもの成長に伴い生活圏は広がり、物的・人的の両観点の地域資源の活用度も弱くなっていく様を時間軸で捉えたものが図1(ライフステージで捉えた生活圏の広がりと地域との関係の変化)です【参考文献2】。 さらに幼児期から小学校へ入学する学童期前半に目を向けてみると、こどもたちは急に一人でまちの中を歩く機会が増えていくことに気がつきます。小学校への往来がこどもだけでの移動となり、彼らの日常生活圏はおおよそ小学校区(一般的には半径約500メートル程度)へと広がりを見せていくことになるのです。その広がりと独り歩きへの挑戦はこどもの成長にとっては大事なプロセスであるのは言うまでもありません。と同時に、躊躇や不安なく安心してその挑戦への第一歩を踏み出せるためには、こどもが育っていく生活圏のまちを保護者も共によく知っていることが後押しの一つになることは想像に難くないでしょう。そして学童期後半から青年期と成長するに連れて行動圏域は広がり、それに伴い地域コミュニティとの関わりは薄くなってしまいます。 それは自身が親になる際に一変します。親になった途端、はからずも急にキュッと狭まるからです。先述した第一子ゼロ歳児を持つ母親の出産前後の行動圏と地域交流に関する調査からも、出産前のよく行く場所の種類数も個所数も多い人であっても、出産後はよく行く場所の種類は画一的になり、出かける場所そのものも減少してしまう傾向も顕著で、どんなにアクティブな人であっても出産直後は行動圏が狭まり行く場所が限定的になってしまうことも明らかになっています【参考文献3から5】。よく考えれば、出産前は成人の個人での動きになるため、その生活圏は徒歩での行動に閉じず広域でアクティブであることは当然です。 私が横浜市で子育て世代を対象に実施した調査では、親子で近くの同じ公園や商業施設のみに行っている人はまちにいる時間が長いにも関わらず近所づきあいが薄くなる傾向がありました。また、自分が居住している地域を知らない、あるいは知ることができない状況(例えば産休直後からの里帰り出産等)はその地域での子育てに不安を感じやすい傾向もありました。さらには、身近に知り合いや多様な居場所を持っている人ほど定住志向があるという調査結果もありました【参考文献6から8】。 出産直後にはそれまでとは想像ができないぐらい、本人の意思に反して外出機会が急激に減り行動圏が縮小されてしまいます。そのことを前提に、出産前、すなわちこどもが胎児期の頃から、あるいはそれ以前から、先述の小学校区より一回り小さい「乳幼児生活圏」を理解しておき、その先の学童期前半に向けたこどもの成長に伴う生活圏の変化を想定しておくこと、そして早い段階からまずは「乳幼児生活圏」という狭域での地域資源を活用したまちとの関わり方を育み、まずはこの小さな生活圏の地域社会に早い段階から地域コミュニティとの接点づくりを進めておくことが大切です。それは子育てに対する様々な不安を軽減し、こどもの健全な育ちに寄与できる都市環境づくりとして肝要な視点といえるのではないでしょうか。 4まちを居場所にする 居場所となる場の選択肢を増やす さて、日本のニュータウン等の郊外の新興住宅地開発では、1920年代にアメリカの都市計画家ペリーが提唱した「近隣住区論」の考え方が広く適用されてきました。「近隣住区論」とは住民の生活環境の質を向上させ、車に頼らず徒歩圏内での持続可能なコミュニティを築くための基礎となる概念で、そのコミュニティの圏域は小学校区程度(半径500メートル)と想定されていました。 現在の地域福祉の拠点整備といった観点から、地域包括支援センターなどの設置に際して中学校区を日常生活範囲と設定していますが、先述の実際の乳幼児生活圏は設定圏域より随分狭い範囲だと気づくことができます。横浜市には、地域の福祉拠点としての地域ケアプラザや、地域コミュニティ拠点としての地区センターやコミュニティハウスなどがあり、それらもおおよそ中学校区に一つ、といった単位で整備目標を掲げていると思います。いずれもキッズスペースがあったり、乳幼児の親子向けのプログラムが開催されていたりしますが、ここまで述べてきた乳幼児生活圏から学童期のこども達の生活圏がその整備目標設定よりも一回り小さいことを鑑みれば、どちらも対象となる親子が気軽に集えたり、学童期のこどもたちが自らアクセスできるとは限らない、ということを留意しておく必要があります。さらには、こどもの成長に伴う学童期から中高生のまちでの居場所づくりも注視されるなか、そのような施設や場所は専門的施設として閉鎖的な傾向にあり、「そのまちで育っていくこどもが他者と集う大事な場を公的で専門的な場だけに頼らずどう散在させて創り込むか」という視点が決定的に欠如しているのです。 私が関わっている横浜市金沢区にある計画的積層団地・金沢シーサイドタウンの団地再生プロジェクトでは、一般社団法人金沢シーサイドあしたタウンというまちづくりの団体が、多世代が集う地域交流拠点(「あしたタウンラボ」)を運営しています。開かれた場があり、そこで時々開かれた講座や住民提案のイベントなどがされることで、多様な世代の人が利用し、思い思いの過ごし方をしています。地域交流拠点開設時のワークショップにおける地域の子育て世代からの提案を受け、その一角に人工芝を敷いてソファを置き小上がりスペースを設けたことで、自然と口コミで子育て世代の方々も集い利用していただくようになりました。そんなニーズを得たことをきっかけに、「あしたタウンラボ」の一角に、地域住民の方々と共に、未就学児の親子の居場所となる『横浜市親と子のつどいの広場事業 あしたひろば』を開設することになりました(写真1あしたひろばの占有エリア)。 親と子のつどいの広場の開設に際しては、あえて腰壁(カウンター)で囲った程度の閉鎖的ではない形にすることで、利用者親子がある程度守られつつ、「あしたタウンラボ」内の他の利用者にもこどもの声が聞こえる空間づくりをして、こどもと直接的な関わりの少ない他世代もゆるやかにまちのこどもへ関心をもてるような場となる工夫をしています。子育て支援の場を敷居が高いと感じがちな父親たちからの、ここは立ち寄りやすいといった声もあります【参考文献9】。 他方、エリアに1か所だけではこの場に来られる方たちは限られます。そこで「あしたひろば」にはなかなか足を運べない、少し離れた居住者の親子に対する子育て支援のアウトリーチをする場として、月1回学生たちと共にエリア内のあちこちの公園や緑地を巡り、同世代や多世代の地域コミュニティと自然な接点を点在させ展開する「ぱあくる」という取組もしています(写真2ぱあくるの活動の様子)【参考文献10】。これにより、今まで行ったことのない公園へ行くきっかけをつくったり、出会ったことのない人同士が出会ったり、まちを居場所化する動きにもなっています。 冒頭の『こどもの居場所づくりに関する指針』の「こどもの居場所が求められる背景」でもわかるように、もはや自然発生的に「こども・若者が地域コミュニティの中で育つ」状況は生まれにくくなっています。だからこそ、これらを踏まえ、子育ちの小さな生活圏の地域社会に、親子にとっての身近な居場所となり得る場の選択肢を多く用意しておく戦略と、こどもが乳幼児期の早い段階から親子での地域コミュニティとの接点づくりが必要であり、そのためにも他者のこどもの育ちへの理解者(コミュニティファン)を増やしておくことも求められるのです。 5まちが居場所になる こどもたちが主体的に集い関わる 2023年12月『こどもの居場所づくりに関する指針』では、「こどもの居場所づくりが求められる背景」にこんな記載もありました。 かつてはこどもの居場所となり得た空き地や路地裏など、こどもが自由に遊び、 過ごせる場は減少し、駄菓子屋などの結果としてこどもの居場所となっていた場も減少している。ボール遊びなどが禁止されている公園も多い。また、こども・若者へのヒアリングでは、放課後の時間においてこどもが自由に過ごせる時間が減っているとの声もあった。こうした環境の変化が進む中で、新型コロナウイルス感染症の影響による臨時休業は学校の居場所としての役割を再認識させる契機となった。さらに、「ソーシャルディスタンス」の確保の要請は、こども・若者が居場所を持つことを一層困難にした。 小学生になり、こどもたちには自宅と学校の往来だけでなく、自らの意志で色々な場所に出かけることが可能になります。でも、現代のまちの構造、大人の振る舞いはそれを許容してくれているでしょうか。 自宅と学校の単なる往来だけでは健全な成長はできません。特に学童期にどこかの施設に囲い込むことなく、こども自身が自らの意志で居場所となる場を選択し獲得していくことが必要です。それには大人の理解と後押しも必要です。 横浜市には、いわゆる児童館のようなこどもたちの放課後の居場所となり得る公共施設が少なく、その代替として地区センターが放課後の居場所としての役割も担うことになっています。三輪研究室が2016年度に実施した市内の全地区センター80館(当時)に対するアンケート調査からは、回答を得た61館のうち33館が一定数の小中高生の利用があり、彼らと他世代とのイベント時の交流があることを指摘していました【参考文献11】。しかし、周辺環境や施設形態の違いによって必ずしも近隣の小中学生が気軽に立ち寄る状況ではなく、多世代が集うコミュニティ活動拠点である性格上、こども達の主体的な集いと利用がうまく実現できていないのが現状です。また青少年が気軽に集い、自由に活動する場の提供、仲間や多世代と交流する機会の提供等を実施する青少年の地域活動拠点が、横浜市には18区中7区のみでそれぞれ1拠点しかない状況です。こどもといっても小学生、中学生、高校生では行動圏がまったく異なり、こども自身のそれぞれの成長ステージの生活圏のなかで、自ら居場所となる場を公的な場からのみ選択できる状況下にはありません。つまり、ここでもやはり、こどもたちの成長ステージごとの生活圏を丁寧に捉え、身近な居場所となり得る場の選択肢を多く用意しておく戦略、理解者を増やしておくことが必要となります。 先に述べた親と子のつどいの広場は乳幼児期の親子のための場であるため、就学したら利用できなくなります。でも、そこに保護者と来ていたこどもには顔見知りのスタッフがいます。「あしたひろば」では、小学1年生が馴染みのあるこの場にちらっと立ち寄り、「あしたひろば」のスタッフとカウンター越しに立ち話といった場面もよく見かけます。 また「あしたタウンラボ」では週1回夕方から夜にかけて小中高生専有の時間帯を設定した小中高生の居場所「あすなみ」という活動も並行して実施しています(写真3あすなみの活動の様子)。 最近では、小学1年生から中学3年生まで常時7~8人ほどが居て、異年齢のこども同士でボードゲームや卓球等で遊んだり、下の年齢の子の世話をしたり、一人で勉強をしたり、勉強を教え合ったりと、個々が自ら決めた過ごし方をしています。○○をやってみたいということがあれば、大人スタッフと相談して実現できるか考えたり、○○をやってほしいのだけどどうかな、と大人スタッフから相談することも多いです。活動の支え手(大人スタッフ)は大学生と地域住民のボランティアの方々になりますが、「あしたひろば」のすぐ横の空間で実施しているので、「あしたひろば」のスタッフもゆるやかに見守ります。参加するこどもは就学前に「あしたひろば」に通っていた子もいますし、長年通っている常連のこども達とは顔見知りの関係になっていて、まちで出会えば挨拶をする、元気すぎて危ないことをすれば怒られ素直に従う、そんな場になっています。開かれた場なので通りすがりのシニアが元気なこどもたちの様子に微笑んでいる場面も多く見られます(写真4通りすがりのシニアとこどもたちの自然な関わり)。このようなこどもたちの身近な生活圏の中に、こどもたちを囲い込みすぎず、こどもたちが主体的に集い受け入れられる場があり、主体的に関わる活動(仕組みや役割)もあれば、彼らにとって繰り返し来たくなる居場所になっていくと思うのです。 6おわりに まちがこどもの居場所になるために 私は、こどもの育ちを血縁関係だけでなく地域社会で育み共有するため、多様な主体を巻き込みながら地域資源を活用したまちとの関わり方を促す手法論として、“こどもの育ちに(身近な)まちを開いてまちで育てる”「まち保育」という概念を、拙著『まち保育のススメ(2017)』の中で提唱しています【参考文献12】。2020年9月に日本学術会議より出された「我が国の子どもの成育環境の改善にむけて-成育空間の課題と提言2020」においても、「子どもが遊び・育つ社会関係資本を形成するこれからの住環境は、閉鎖系ではなく開放系の住環境形成が必要」「胎児期・幼児期・児童期・青年期という各ステージでの子どもへの直接的サポートが可能となる環境の改善と、養護される立場での主体的な育ちの経験は、その後、子どもを社会的に養護する側の立場となっていく過程でも正の連鎖となっていくはず」と述べられています。“こどもの育ちに(身近な)まちを開いてまちで育てる”「まち保育」のような視座を持って、「他者との集い」と「親子・こどもの育ち」を主軸に施設計画やまちの地域資源を捉え直すこと、そのためには公的な場だけでなく“まちのすき間”と“境界”のデザインの工夫が、こどものための都市環境の未来に繋がるでしょう。 場を用意しただけでは居場所にはなり得ません。自身が主体的に関わる“なにか”や“小さな役割”があれば居場所になっていくものです。そのためには、まずこどもが育っていく空間軸と時間軸の2つの軸でそれぞれの生活圏と成育圏を捉え、分野横断的に、戦略的にハード・ソフト両面からの参加・協働型のまちづくりを推進し、こどもの育ちを共有できる地域コミュニティが数多く構築されていくことが必要です。その中で、こどもと保護者・保育者などがゆるやかに、自らの意志で集い利用する(利用できる)多様な地域資源が、彼らの身近な生活圏に複数点在し、それらが分野領域を超えて面的に繫がり、そこを舞台に地域コミュニティにつながっていけば、まちそのものが彼らの居場所になっていくはずです。 「居場所」を特定の施設に頼らず、意外な場所を居場所化することで、まちそのものが居場所になる、そんなこどもにやさしいまちづくりが望まれます。 【参考文献】 1 こども家庭庁「こどもの居場所づくりに関する指針」令和5年12月22日 https://www.cfa.go.jp/policies/ibasho/#three(最終閲覧日2025.11.11) 2 三輪 律江「まちとともに子どもが育つ生活圏」日本不動産学会誌no.143,36 (4), 85-89, 2023 3 三輪 律江、吉永 真理、松橋 圭子、ぼうだ あきこ、米田 佐知子「胎児期から0歳児にかけての行動パターンからみえるまちとの繋がりに関する考察―胎児期からのまち保育によるプログラム構築に向けた基礎的調査より―」こども環境学研究vol.16、No.1(C.N.45)、2020.8 4 三輪 律江、吉永 真理、藤岡 康寛、松橋 圭子、ぼうだ あきこ、米田 佐知子「胎児期からの地域との関係性構築に向けた母親の行動分析(横浜市を事例に)―胎児期からの切れ目ない包括型まち保育システムのモデル構築に向けて その1-」こども環境学研究Vol.17, No.1,p64、2021.6 5 富所 優、三輪 律江、藤岡 泰寛、松橋 圭子、ぼうだ あきこ、米田 佐知子、吉永 真理「胎児期からの社会関係資本構築が産後の適応に及ぼす影響」こども環境学研究Vol.17, No.3,p85-91、2021.12 6 西田 あかね、三輪律江、藤岡泰寛:「こどもの年齢別親子の外出先選択パターンと居住地選択に関する基礎的研究-乳幼児生活圏構築に資する地域資源の関係解明に向けてその1」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)建築計画OS、2015.9 7 小林 志海、藤岡 泰寛、三輪 律江、大原 一興:「乳幼児のいる子育て世帯の購買行動からみた地域資源のあり方に関する研究- 乳幼児生活圏構築に資する地域資源の関係解明に向けてその2」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)建築計画OS、2015.9 8 西田 あかね、三輪 律江:「乳幼児親子の行動圏からみた地域資源の利活用・選択構造と地域評価に関する研究」こども環境学会関東研究会第一回研究セミナー、2016.2 9 三輪 律江、中西 正彦「郊外住宅団地のエリアマネジメント拠点における子育て支援活動拠点の連携設置・運営の価値と課題-金沢シーサイドタウン・並木ラボでの横浜市親と子のつどいの広場事業「あしたひろば」の実践事例から-」日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)都市計画、pp.1281-1282、2023.9 10 永田 侑楓、三輪 律江他8名:「まち保育プロジェクト「ぱあくる」〜親と子の集いの場をつくる〜」こども環境学会全国大会(東京)ポスター発表、2024.6 11 森 春奈「中高生の放課後の居場所として機能する公共施設の在り方―横浜市地区センターを事例に―」2016年度 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系卒業論文 12 三輪 律江、尾木 まり8名:『まち保育のススメ-おさんぽ・多世代交流・地域交流・防災・まちづくり』、萌文社、2017.5