調査研究レポート3 一人ひとりのライフスタイルに応じた豊かな暮らし方を選択できるまち よこはま ~横浜らしい多様な“地域特性”と多彩な“市民力”を生かして~ 林隆一 建築局住宅政策課担当係長 1 はじめに  本市は、今後10年間の住まいや住環境についての基本的な方向性を示すことを目的として、「横浜市住生活基本計画」を平成24年3月に策定し、平成30年2月に改定している。  近年、自然災害の頻発・激甚化、急速な技術革新やDXの進展、脱炭素社会の実現に向けた対策の加速化などの「社会環境の変化」や、コロナ禍を契機とした新たな暮らし方・働き方といった「価値観の多様化」など、横浜市の住生活を取り巻く状況が大きく変化している。  そこで、これらに対応した今後の住宅政策の展開について、令和3年4月に第7次横浜市住宅政策審議会に諮問し、令和4年5月に答申を受領した。この答申を踏まえ、「横浜市住生活マスタープラン」(以下「本プラン」という。)を同年10月末に改定した。  本稿では、本プランの概要とともに、特集テーマに関連の深い郊外住宅地の方向性について、前回プランとの比較に触れながら考察していく。 2 目指すべき将来像  本稿のタイトル及び図1は、本プランが掲げる10 年後の将来像である。横浜らしい多様な〝地域特性〟と多彩な〝市民力〟を生かし、社会状況に伴い変容し続ける市民の価値観を受け止めることができるよう、との思いを込めている。この〝地域特性〟と〝市民力〟の2つが、『横浜らしさ』を物語っている。  図1をご覧いただきたい。市の南部方面から都心部を眺める構図とし、手前に郊外部の低層住宅地を配置した。「住宅」よりも「人とアクティビティ」を大きく描き、それぞれの「暮らし」をクローズアップさせた。また、このイラストではタイトルを含め、敢えて文字を入れていない。「これは何が描かれているのだろうか?」と、イラストの登場人物と10年後の自分を重ね合わせ、子どもから大人までそれぞれの将来を楽しみながら思い描いていただくことを企図した。  なお、本プランの巻末に説明入りのイラストを掲載したので、答え合わせをしながら楽しんでいただきたい。 3 将来像の実現に向けて  図2の右側をご覧いただきたい。本プランに掲げる将来像の実現に向けて、3つの視点と7つの目標を設定した。  これを、前回のプランと比較してみる。3つの視点は、前回のプランでは「人」「住まい」「住宅地・住環境」、今回のプランでは、「社会環境の変化」「居住者・コミュニティ」「住宅ストック」と、言い回しや順番が異なるものの、全体の方向性としては前回のプランを概ね踏襲しつつ、目標1に前回との違いをみることができる。  以下、目標1について詳しく述べる。 目標1  「新たなライフスタイルに対応し、多様なまちの魅力を生かした豊かな住宅地の形成」  全国的に、働き方改革の進展などにより、新たなライフスタイルや多様な住まい方への関心が高まる中、コロナ禍を契機として、勤務場所に縛られないテレワークの動きが急速に広まっている。これに伴い、「外食」や「趣味・娯楽」など、自宅周辺に出かける割合の増加や、公園・広場など、ゆとりある屋外空間の充実に対するニーズが高まっていることが、国土交通省によるコロナ禍の生活行動調査において明らかになっている。  本市においても例外ではない。当課が令和2年度に独自に行ったアンケート調査によると、コロナ禍前に比べ、日常の買物や医療・福祉・文化施設などの利便性、公園や緑・水辺などの自然環境、近隣の人やコミュニティとの関わりなどを重視する傾向が強まっている。また、コロナ禍を受け、住み替え先の立地に対する考えが変化した人が34・3%、そのうち住み替え先として、現住地よりも郊外部を希望する人が42・6%となっている。(図3)  これらの現状を踏まえ、本市郊外部では、ライフスタイルの変化などの新たなニーズに対応するため、若い世代をはじめさまざまな世代が『住み』、『働き』、『楽しみ』、『交流』できる住宅地を形成し、地域の魅力を発信していくこととした。(図4)  なお、前回のプランにおいても「『住む』住宅地から、多世代のための『住む』『活動する』『働く』を実現できる郊外住宅地への転換」を打ち出しているが、今回は自宅周辺で過ごす時間が増加したことを踏まえ、『楽しむ』を柱の一つに加えたことに特徴がある。  次に、郊外の低層住宅地における具体的な取組を2つ紹介する。  両取組とも、前回のプランにはなく、今回初めて位置付けたものである。特に2つ目の「農」の取組は、『楽しむ』を具現化するほか、地域の様々な課題解決につながる大きな可能性を秘めていると考えている。 ①働く場や買物などの生活利便施設、コミュニティを育む地域の居場所など、「住む」以外の多様な機能の誘導  本市では、市街化区域の約4割を第一種低層住居専用地域に指定しており、これまで良好な住環境が形成されてきた。一方、住宅以外の立地が制限されており、最寄りの⽇⽤品店舗までの距離が遠いなど、特に⾼齢者等の⽣活利便性の⾯で⼤きな課題が⽣じているほか、先述のコロナ禍を契機としたニーズの多様化への対応が困難となっている。  こうした状況を踏まえ、建築局都市計画課では、平成8年以来の用途地域等の全市見直しに着手している。日用品店舗や喫茶店等の立地が可能となるよう、第一種低層住居専用地域から第二種低層住居専用地域への見直しや、働く場等の創出を目的とした特別用途地区の指定を進めているところである。  これにより、「住み、働き、楽しみ、交流する場」を創出し、持続可能で価値の高い郊外住宅地の形成を図ることとしている。 ②身近な農や緑、水辺、歴史など、横浜ならではの地域の資源や自然の恵みを生かしたまちづくりの検討  本市は、市街化区域と市街化調整区域が入り組んでいるため、大都市でありながら市民生活の身近な場所に多様な緑(農地、樹林地など)を有している。山積する課題を解決し、将来を見据えた住宅地の形成を図る上で、こうした横浜ならではの魅力を生かす視点が重要と考えている。  特に「農地」については、コミュニティ、防災、環境、景観など多面的な機能が再評価され、平成28年には、これまで「宅地化すべきもの」とされていた都市農地の位置付けが、「都市にあるべきもの」へと大きく転換し、特定生産緑地制度や田園住居地域が新たに創設された。  市民のニーズにおいても、地産地消や農体験、子どもの食育、コミュニティガーデン等への関心が高まっており、コロナ禍を契機としその傾向はますます強まっている。  本市の「農」を通じた市民活動も、様々な地域で活発に行われている。詳しくは、第7次横浜市住宅政策審議会・第2専門部会(令和3年6月22日)において、オブザーバーの内海氏から紹介されているので、HPをご参照いただきたい。オブザーバーからのお話で印象的なフレーズがある。 「『土』を耕し、『心』を耕す!」(内海氏) 「『まち』を耕す!」(瓜坂氏) (『住み』『働き』『楽しみ』『交流する』…もう一つの柱は『耕す』ではないか、筆者は密かに思っている…)  こうした背景を踏まえ、住宅地と農地が共生し、農を通じて食や生き方を豊かにする新たな仕組みづくりの検討を進めることとしている。これにより、住宅地としての魅力や価値の向上、子育て世帯の流入や定住の促進、さらには農地の保全や農業従事者の担い手育成など、様々な課題解決につなげていきたい。 4 おわりに  「住まい」は、生活の3要素「衣・食・住」の一つとして我々に欠かせない存在である一方、これまでの生活スタイル・働き方では、得てして「住まいは寝に帰るところ」となりがちであった。しかしながら、コロナ禍を契機とし、自宅周辺で過ごす時間が増え、あらためて自らの「住まい」や「まち」を見つめ直す機会が増えている。  コロナ禍の厳しい状況をチャンスと捉え、断熱化・省エネ化など健康や快適性に直結する「住まい」の性能を高めるとともに、地域の魅力を発信し、「まち」の価値を高め、「住むならヨコハマ」、「住んで良かったヨコハマ」と、誰もが誇れる「住まい・まち」づくりに取り組んでいきたい。  そのためには、住宅政策だけでなく、福祉、防災、環境、まちづくりなど、様々な分野の連携や、地域、企業、大学など、様々な主体との連携も必要である。  関係者の皆様には、本プランの策定に多大なご支援をいただき、あらためて感謝申し上げるとともに、今後も一層の御協力と連携をお願いし、本報告を終えることとしたい。