《11》おわりに  少子高齢化や人口減少など社会状況の変化や、経済状況、法律や制度の変更など様々な影響を受けながら、生活を取り巻く環境は変化している。それらは私たちの生活意識や価値観、行動を変化させ、あるいは逆に意識や価値観の変化が仕組みを変えていくこともある。  私たちの意識や価値観はそれぞれの生活の積み重ねの中で変化していく場合も多くあるが、現在も続くコロナ禍は、突発的で私たちに経験のないものであり、様々な行動や考え方など生活の全般を変容させるに十分なインパクトを与えている。  コロナ禍では通勤・通学や買い物、人と会うなど、何かをする目的で、するための場所に移動する、というこれまで多くの場面で日常的に行っていた行動が制限された。それにより、私たちは、移動しないでするか、移動先を変えるか、する方法、内容を変えるか、すること自体をやめるかを改めて考え、判断し、選択して行動することとなった。  そうして、現在も経済活動だけでなく、精神的なストレスや負担、知識や体験を得る機会の損失など、様々な方面、レベルで影響が生じている。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  本号では、私たちの生活環境や意識の変化を概観し、併せて、移動を前提としない「なるべく移動・接触しないで生活する」という経験によって変化が起きているのか、現時点でできる範囲で把握を試みた。  以前からの傾向に大きな変化が見られたのは、転居や消費、観光などの行動であった。例えば、生活の拠点となる住まいを移動、転居するという行動については、全国的にコロナ禍前から移動者数が減少傾向にあったものの、緊急事態宣言が発出された2020年4月、5月には大きく減少し、本市でも転入数、転出数ともに減少した。ただし、既に2022年には増加に転じ以前の状態に戻りつつあるように見える。また、買い物などの消費行動にも変化が顕著に表れ、実店舗での買い物の機会は「減った」とする人が3年度に6割近くに上ったが、4年度には4割半ばに縮小した。観光も同様に、緊急事態宣言などの影響で著しく減少したが、少しづつ戻りつつある。このように、生活行動は状況に対応するために急変したが、一部で揺れ戻しの動きもみられる。  しかし、以前と同様の状態に戻るとは考えにくい。実際、ネットショッピングの機会が増えた人は約4割、テレワークも経験者の4割が働くうえで重視するようになったと回答するなど、自らの行動を考え直す機会を経て、今後も、より効率性や快適性を感じられるような行動を選択するように変化していくであろう。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  一方、住まいや仕事、隣近所との付き合い方などに対する意識や価値観は、これまでの傾向から大きく変わった様子は見られなかった。  それでも、住まい周辺からの移動が少なくなることで地域との接点―例えば公園に行く頻度など地域で過ごす時間が増えており、今後暮らす地域やコミュニティ、住まいの環境への関心がより高まっていくことも考えられる。また、コロナ禍で注目されたテレワークやウェブ会議等のデジタル技術の活用は、通勤や働き方に留まらず、居住地選択や家族、地域との係わり方にも影響していくだろう。行動ほど急激ではなくとも、コロナ禍の経験が、今後どのように意識や価値観に反映していくのかを注視する必要がある。   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  コロナ禍の生活において、意外なものが売れたり注目を集めたりして、世の中のヒト、モノ、コトが、様々な形で繋がっていることを改めて考えさせられた。例えば、ネットショッピングは、店に行き、商品をかごに入れ、レジで支払いをして、袋に入れ、家に持ち帰るという行動を自らがしないで済む訳だが、その裏では別の何か―人やデータなど―が代わりにそれを行っていて、その人やデータに関連した別の何かが必要となって…と場所や時間、量などとの関係を変化させながら様々に繋がっていく。コロナ禍で経験した自らの行動を改めて選択することを通じて、これまで日々行ってきたことが他のモノや方法に置き換え可能なのか、そもそも必要なのかを考える機会となった。  さらに、置き換えにとどまらず、効率化ややり方の変化によって時間やエネルギーに新たな〝場所〟が生まれることで、今働いている人が移動せずに仕事ができるだけでなく、今まで就労が困難な状況にあった人にとって働きやすい環境となったり、新たな活動の場となる可能性もある。  また、一部の商店街が地域経済の一翼を担いつつ、その場所・地域と繋がる役割を確立し、また、観光分野で人出の回復への期待だけでなく、人出が戻った時に起こりうる課題への対応を含め、その「場所」と係わることに更なる価値を見い出す取組を進めているように、行動の変化と共に変化していく意識や価値感を捉えて対応していく視点が重要となる。  一度変わった行動がどのように定着するのか、意識はどのようにそれらに反応していくのか。行政においては、社会の急激な、あるいは緩やかな変化とともに、市民の意識や価値観等の変化を捉え、これから必要となるものは何か、適切な仕組みは何かについて考え続けなければならないと思う。