《5》子育て世帯のライフスタイルに沿うまちづくりをめざして 執筆 伊藤 恵美 政策局政策課担当係長 1 はじめに  本市では、令和4年に戦後初めて、1月1日時点の人口が前年比減となり、令和5年も同様の傾向が見られることから、今後人口減少時代を迎えることが想定されている。  そのような状況の中、持続可能な市政運営を実現するため、人や企業を呼び込み、都市の活力を維持していくことが重要と考え、「次の横浜を創る政策プロジェクト」を立ち上げ、その一環として、「子育て世帯に優しい施策の検討」を進めている。  子育て世帯の状況としては、三世代同居家族が減少し、核家族が増加するなど、世帯規模が小さくなっている。また、子どもの世話をしたことがないまま親になる人が多く、加えて、近くに両親がいないなど祖父母世代の協力を得られず、不安や負担を感じている子育て家庭の存在がある。さらに、女性の社会進出が進み、共働き世帯の割合は増加傾向にある。  本調査では、子育て世帯に関する各種調査を行い、調査結果を踏まえ新たな施策展開を検討するものであるが、本稿では現時点で分析から見えてきていることを中心にまとめていきたい。 2 調査概要  「子育て世帯に優しい施策の検討」は、子育て世帯の居住促進を図るため、他都市比較やアンケート調査結果の分析を進めている。  具体的には、他都市と本市の子育て支援策の比較、子育て世帯のニーズ、価値観や居住地選択理由の分析を行い、これらを踏まえて子育て世帯の居住促進に効果的な施策を検討するものである。  このうち、本稿では、本市在住の子育て世帯を対象に実施したアンケート調査を中心にみていく。 3 子育て世帯アンケート調査の概観  本調査は、子育て世帯が住みたい・住み続けたいまちをめざし、子育て・教育分野に限らず、まちづくりやシティプロモーション等の政策形成にも役立つ基礎資料とすることを念頭に置き、25項目からなる調査を実施した(概要は下表参照)。 4 調査から見えてきたこと  本稿執筆段階では、分析を進めている途中のため、単純集計結果を抜粋してご紹介したい。 (1)回答者の基本情報  回答者の約八割が女性(母親)であった。  現住所の居住年数は、10年未満の方が7割で、現住所へ引っ越したタイミングや理由としては、「適当な物件がみつかった」が29%と最も多く、続いて、結婚(23%)、出産(16%)であった。 (2)住みやすさ・住まい選び  まず、子育て世帯が、今住んでいる地域の住みやすさをどのように実感しているかを見てみると、住みやすいと思う人が78%に対し、どちらとも言えない人が13%、住みやすいと思わない人が9%という結果になった。(図1)  住まいや住まい選びについて重要だと思うことを最大3つまで選ぶ問では、「立地(交通や生活の利便性)がよい」を選んだ人が77%と最も多く、「十分な間取りや広さがある」が49%、「持ち家である方がよい」が41%と続いた。(図2)  さらに、この結果を、「今住んでいる地域が住みやすいと思う群(A群)」と、「どちらとも言えない又は住みやすいと思わない群(B群)」に分けて分析したところ、次のような特徴が見られた。  A群は、「立地がよい」や「十分な間取りや広さがある」、「持ち家である方がよい」を重視する傾向があり、他方、B群は、「駐車場が付いている」や「住宅にかかる諸経費が低く抑えられる」、「家の近くに保育所・幼稚園がある」を重視する傾向が見られた。  また、住まいの周辺環境について重視することを最大3つまで選ぶ問では、「子どもが安全に遊べる場所がある」と「身近に公園・緑があり、自然に触れる場所がある」を選んだ人が75%以上と非常に多く、「子どもと一緒に出掛けられる商業施設やレジャー施設などがある」が続いた。他方、テレワークの普及により「自宅や職場以外で仕事のできる場所がある」を選択する人が多いことを想定したが、3%と最も少なかった。  さらに、この結果を、先ほどのA群とB群に分けて分析したところ、次のような特徴が見られた。  A群は、「身近に公園・緑があり、自然に触れる場所がある」や「地域住民が温かくコミュニティ活動が活発である」を重視する傾向があり、他方、B群は、「ベビーカーでの移動がしやすく、授乳室等が整備されている場所がある」や「地域住民や隣近所とはあまり干渉しあわず、さばさばした関係である」を重視する傾向が見られた。 (3)子育て環境  続いて、子育て世帯が、今住んでいる地域の子育てしやすさをどのように実感しているかを見てみると、子育てしやすい環境だと思う人が52%に対し、どちらとも言えない人が24%、子育てしやすい環境だと思わない人が24%という結果になった。(図3)  教育環境・子育て支援について重視することを最大3つまで選ぶ問では、「良質な教育を提供する学校がある」を選んだ人が70%と最も多く、「希望する保育所・幼稚園に入所・入園できる」が52%、「妊娠・出産・子育てに関して行政の手厚いサポートがある」と「放課後や長期休暇の時に子どもの居場所がある」が44%と続いた。他方、「気軽に立ち寄れる場や相談できる場がある」や「妊娠・出産・子育てに関して必要な時に必要な情報を入手できる」は14%と最も少なかった。(図4)  さらに、この結果を、「今住んでいる地域が子育てしやすい環境だと思う群(C群)」と、「どちらとも言えない又は子育てしやすい環境だと思わない群(D群)」に分けて分析したところ、次のような特徴が見られた。  C群は、「学校以外に様々な体験の場がある」や「学習塾や習いごとの選択肢が多」、「妊娠・出産・子育て中に気軽に立ち寄れる場や相談できる場がある」を重視する傾向があり、他方、D群は、「妊娠・出産・子育てに関して行政の手厚いサポートがある」を重視する傾向が見られた。  また、⼦育てしながら働くとき、どのような条件・サポートがあると働きやすいと思いますか、という問では、「休みがとりやすい」を選択した人が81%と最も多く、「勤務形態・勤務時間が選べる」が74%、「自宅から近い」が62%と続いた。  さらに、この結果を、先ほどのC群とD群に分けて分析したところ、次のような特徴が見られた  C群は、「自宅から近い」を重視する傾向があり、他方、D群は、「職場に子どもを預ける場所がある」や「子どもの送り迎えをしてくれる人がいる」、「子どもを見てくれる人がいる」、「ご飯の準備をしてくれる人がいる」、「掃除・洗濯をしてくれる人がいる」、「急に子どもの体調が悪くなった時に預かってもらえる場所がある」を重視する傾向が見られた。 (4)理想のライフスタイル  続いて、自分自身の理想の生活を実現できているかを尋ねたところ、実現できていると思う人が53%に対し、どちらともいえない人が26%、実現できていると思わない人が21%であった。(図5)  ライフスタイルにおいて重要だと思うことを選ぶ問では、「気持ちにゆとりのある生活」と「子どもと過ごすこと」、「家族・友人と過ごすこと」を選んだ人がそれぞれ70%を超えた。(図6)  さらに、この結果を、「理想の生活を実現できていると思う群(E群)」と、「どちらとも言えない又は実現できていると思わない群(F群)」に分けて分析したところ、次のような特徴が見られた。  E群は、「家族・友人と過ごすこと」や、「健康的な生活」、「仕事のやりがい」を重視する傾向があり、他方、F群は、「気持ちにゆとりのある生活」や「経済的に豊かな生活」、「自分一人の時間を持つこと」を重視する傾向が見られた。 (5)横浜の魅力  住みやすさや子育てしやすさ以外にも、子育て世帯を惹きつける要因を探るため、「あなたにとって、横浜の魅力だと思うもの」を尋ねた(当てはまるものを全て選択可とする設問)。  「多彩なイベントやお出かけスポットがある」を選んだ人が52%、「海、川、山などの自然が身近にある」を選んだ人が51%と最も多く、「都会的で洗練された街である」を上回る結果となった。(図7)  横浜市外に住む人にとっては、横浜といえば、みなとみらい地区に代表されるような都会的なイメージが先行しがちであるが、市内在住の子育て世帯にとっては、自然が身近にあることが魅力と捉えられていることがわかった。  さらにこの結果を、(2)で先述のA群とB群に分けて分析したところ、すべての選択肢において、A群は魅力だと思うと回答する傾向があった。  同様に、(3)で先述のC群とD群、(4)で先述のE群とF群に分けてそれぞれ分析したところ、すべての選択肢において、、C群及びE群は魅力だと思うと回答する傾向があった。  言い換えれば、「住みやすい」、「子育てしやすい環境」「理想の生活が実現できている」と思う人は、様々な面で横浜の魅力を感じていると言える。 (6)定住促進に向けて  10年後も横浜に住んでいると思うかという問では、そう思うと答えた人が74%に対し、どちらともいえないと答えた人が15%、そう思わないと答えた人が8%であった。  さらに、この結果を先述の(2)から(4)の二群比較により分析をしたところ、A群及びC群、E群は、10年後も横浜に住んでいると回答する傾向があることがわかった。つまり、地域の住みやすさや子育てしやすさ、理想の生活の実現という点において、現在の生活環境に満足している人は、同様に、10年後も住み続けていると回答する傾向が見られる。 (7)自由記述の分析  本調査は、回答率が53%と高かったが、それだけでなく、アンケートに設定した二か所の自由記述欄(①子育てしやすい環境だと思う理由・思わない理由、②横浜の子育て生活を充実させるための提案)において、それぞれ3,500件、2,400件、を超える意見をいただいた。  行政に対して改善を求める声も多くいただいているが、「初めての出産育児で不安もあったが赤ちゃん教室の開催や相談できる場所があり助かっている」や「保育コンシェルジュの制度はとても良く、保育園を検討したり、決定後の進路まで複数回お世話になりました」等の声もいただき、市の取組が子育て支援につながっていることが実感できた。     ご意見の多さは、子育て環境の充実に対する期待や要望の大きさの表れであると受け止め、一つひとつ丁寧に拝読し、今後の施策検討に活かしてまいりたい。 5 今後に向けて  当該アンケート調査結果やその他の調査を踏まえ、政策局内だけでなく、ソフト分野及びハード分野を担当する部署も含め庁内横断的に、今後の取組の方向性について検討を進めてきた。  その結果、子育て世帯の居住促進を図るために、子育て世帯への直接的な支援だけでなく、まちづくりや住宅政策、都市の魅力づくり等に総合的に取り組むことが重要と考えている。併せて、子育て世帯への訴求ポイントを意識しながら、横浜の暮らしの魅力を市内外に発信するシティプロモーションを強化していくことが重要であると考えている。  価値観の多様化が進む中、一人ひとりの横浜での子育て生活が充実したものとなるよう、多様なお出かけスポットや体験機会、身近な自然など、豊富な都市コンテンツを活かし、都市の魅力を高めていきたい。  令和5年度予算案では、こうした考え方に基づき、小児医療費助成の拡充や保育所等での一時預かり無料クーポンの配付、子育て世代のマイホーム購入支援等の直接的な支援と併せて、都市づくり戦略の策定や、動物園の充実や公園遊具の改修・更新の拡充等に取り組み、子育て世代の居住促進に向けてウェブサイトを新たに構築することとしている。  「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」の実現に向けて、今後は、今年度の調査結果を更に深堀りしつつ、より効果的な施策の立案につなげていきたい。