コラム 都市におけるSDGsの潮流と横浜の強み 谷澤 寿和 国際局米州事務所副所長 はじめに  2015年9月、世界の指導者らは、国連サミットで、「持続可能な開発目標(SDGs)」を中心に据えた「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」を採択した。   2030アジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画であり、全ての国及び全てのステークホルダーが、パートナーシップの下でこの計画を実行するとされている。このグローバルなアジェンダに位置づけられたSDGsは、都市にとってどのような意味を持つのであろうか。 SDGsへの都市の重要性  グローバルな課題に対する都市の影響力は、人々の都市への集住が進むとともに増大している。国連によると、2007年以降、世界の人口の半分以上が都市に居住し、2030年までに60%になると予測されている。また、都市と大都市圏は、世界のGDPの60%を生み出す一方で、世界の二酸化炭素排出量の約70%、資源使用量の60%以上を占めている。経済協力開発機構(OECD)の調査では、SDGsで定められた169のターゲットのうち少なくとも105のターゲットは、地方自治体による適切な関与がないと到達できないとされている。  SDGsの進捗をレビューする国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)においても、都市の重要性への認識が年々高まっている。HLPFには、毎年行われる閣僚級会合と4年に1度行われる首脳級会合(SDGsサミット)があり、2017年の閣僚宣言で、地方自治体の関与の重要性が記載され、2019年には、2030アジェンダを推進するため、都市の力を引き出し支援することがSDGsサミット政治宣言に盛り込まれた。 SDGsのローカル化  SDGsを推進する世界の諸都市では「SDGsのローカル化」をいかに進めるかが関心事となっている。国際目標であるSDGsを自分の問題として捉え、自都市の政策形成にSDGsの視点を組み込み、都市課題を解決することで、SDGsに貢献しようとしている。また、SDGsへの都市のコミットメントの国際社会への発出(注1)やSDGsの取組の都市間での共有(注2)などによって、SDGsのローカル化を国際的に推進しようとする動きもある。SDGsは進捗しているか 各都市の熱心な取組の一方で、SDGsの全体的な進捗は遅れている。2019年のSDGsサミット政治宣言、2020年のHLPF閣僚宣言と二年連続で、進捗の遅れが明記された。  新型コロナウイルスがSDGsに与えた影響も大きい。  世界の極度の貧困状態にある人の割合は減少し続けてきたが、パンデミックによって1990年以来初めて増加しうるという国連大学世界開発経済研究所の研究結果もある。新型コロナウイルスからのより良い復興も含め、SDGsのグローバルな達成のためには、アフリカをはじめ開発途上国での進捗が必要不可欠となっている。 SDGsと都市の国際協力  横浜市は、2030アジェンダ採択以前から、横浜の都市課題解決の経験、知見、技術を必要とするアフリカ、アジアなどの海外諸都市の都市課題解決に取り組んできた。  私は、SDGsのローカル化の次のステージとして、自都市におけるSDGsの推進のみならず、都市間協力への国際的な議論と期待が高まっていくと考えている。都市の国際協力は、国際貢献という利他的な側面と自都市への裨益・還元という側面を持ち合わせているが、SDGsという共通言語を持つことで、両面を包含したグローバルな共生や地球市民的な行動に対する人々の価値観が今まで以上に醸成されていくだろう。都市における国際協力のフロントランナーとして、国際的な議論を牽引し、新たな潮流を生み出すことが、横浜だからこそでき得る、国際社会における役割ではないだろうか。 (注1)ニューヨーク市は、2018年にSDGsの進捗に関する初めての都市としての自発的なレビューを国連に提出。2019年には、世界の諸都市にレビューの実施を呼びかけ、横浜市を含む20都市以上が宣言書に署名した。  (注2)2019年、SDGsの都市の課題や実践を議論・共有するため、横浜市を含む、SDGsを推進する諸都市によるネットワークが米国のブルッキングス研究所によって、立ち上げられた。