《13》技術協力を受けた海外都市からの声 執筆 【フィリピン・セブ市】 エヴェリン・ナカリオ=カストロ Cebu Leads Foundation Inc. アドバイザー 【ネパール・カトマンズ市】 アルチャナ シュレスタ カトマンズ市 元防災局長  横浜市が技術協力を行ってきた海外都市のうち、フィリピン・セブ市及びネパール・カトマンズ市から技術協力に対する所感等を寄稿していただいた(両市への技術協力の内容は、本号15、20頁を参照)。 1 都市間協力の強みを発揮して〜メトロセブと横浜市〜 ■一都市から都市圏域での協力へ  フィリピンのセブ市代表団が横浜市を訪問したのは2012年3月のことである。これが環境に配慮した持続可能な都市の発展に向けた技術協力を行う関係構築の第一歩となった。双方の市長により協力のための覚書が調印され、さらにメトロセブと呼ばれるセブ市と周囲の都市によって構成されるセブ都市圏を協力対象に含めることとなった。この協力関係が評価され、2015年と2018年に覚書が更新されており、セブ市だけでなく、13自治体で構成される都市圏域を対象に協力が行われている。 ■成長する都市に共通する課題の解決に向けて  経済成長の中心となるセブ市では人口増加が続いている。総合的な開発計画が確立されていないことにより、急速な都市化とともに、環境汚染、水源の不足、洪水、交通渋滞といった都市問題が発生した。これらは経済生産性、市民の健康、環境の持続性などに悪影響を及ぼし、セブの都市としての競争力は、都市インフラの不足等により年々低下していた。無計画な都市化の弊害が生じる中で、一都市のみならず都市圏全体を対象に都市としての成長を再考し計画する機会が与えられることになったが、そこには共通のビジョンによる共同プロセスが必要であった。  横浜市は過去、急速な工業化と人口増加により同様の問題に直面した。対策を講ずる中で、横浜市は都市計画と開発のための専門的技術やノウハウを蓄積した。住みよく環境に配慮した都市づくりのノウハウを持つ横浜市は、Y-PORT事業を通してその知見を広めている。Y-PORT事業は、横浜市とセブ都市圏の協力を行う上での土台となっている。 ■公民連携による取組  セブで基礎的な行政サービスが十分に提供できないのは、様々な施策を市域や各機関の所管領域を超えて計画・実施・モニターするための仕組みが欠如しているためである。  地政学的な統一性を保ちながらセブ都市圏を構成する13自治体が持続的な開発に向けて協力するという方針のもと、都市圏レベルで開発を進めるためのプラットフォームが誕生した。合意覚書により、セブ州、13自治体、中央政府機関、市民団体、民間セクターが集まり、都市圏開発の調整機関として、メトロセブ開発調整委員会(MCDCB)が組織された。 ■共通のビジョンに基づく協力  組織づくりの初期の活動は、洪水、交通渋滞、公共交通の未接続など個別課題への対策が中心だったが、MCDCBは次第に、都市圏開発における共通のビジョンや進むべき方向性を持つことの重要性を認識した。  横浜市とJICAらの支援を得て、MCDCBは競争力・住みやすさ・機動性・都市圏運営の4つの開発戦略で構成される「メガセブビジョン2050」を策定した。このビジョンには、「メトロセブの波(WAVES)を起こそう」という市民にも覚えやすいスローガンを設けた。  「WAVES」はWholesome(健全的)、Advanced(先進的)、Vibrant( 活気的)、Equitable(公平的)、Sustainable(持続可能)の頭文字を取ったものである。 ■計画策定とプロジェクト実施に関する協力  地政学的な所管領域を越えて総合的な開発計画を策定することが、MCDCBの活動を通じてセブ都市圏の目標となった。  セブ都市圏の要望を受けて横浜市とJICAは、これまでに@メガセブビジョン2050と開発戦略、A持続可能な都市開発へのロードマップ、Bメトロセブ都市交通システム開発マスタープラン、Cメトロセブ汚泥管理計画、Dマクタン─マンダウエ橋及び沿岸道路建設の可能性調査等のため、経験豊富な専門家チームを派遣してくれた。  また、調査と計画策定が軌道に乗ったところで実践的な事業が立案実行された。その中には、横浜市とJICAの支援を受けた廃棄物管理事業(潟Oーンとの提携による廃プラスチックのリサイクル)や下水処理事業(アムコン鰍ノよる汚泥脱水処理)がある。各プロジェクトでは、計画段階で議論された課題を踏まえ、現実とのギャップや実施段階で発生する課題解決などに継続的に取り組み、成果につなげていく必要がある。 ■組織的な枠組みの強化に向けた協力  計画、調整、プロジェクト開発とその実践を継続していくためには、大都市圏が抱える諸問題に取り組むための強固で組織的な枠組みが不可欠である。その強化を目指して、経済協力開発機構(OECD)は、メトロセブを「アーバン・グリーン・グロウス・イン・ダイナミック・アジア・プロジェクト」の対象都市の一つに選んだ。OECDの支援を得て、MCDCBは都市のグリーン成長と回復のための重要な政策リソースを得ることになった。このOECDとの関係は、アジア・スマートシティ会議における横浜市のバックアップがあって開始されたことを特筆したい。 ■次のステップへ  この9年間で基本的な取組は進めることができたが、今後もなすべきことは多く残っている。ビジョン、開発戦略、ロードマップ、セクター別マスタープランはすでに策定されている。これらに定められたプログラム、プロジェクト、政策を実現するためのアクションを更に継続し、実現していく必要がある。  成長を続ける都市圏共同体としてのメトロセブは、現在も機構のあり方について模索を続けている。インクルーシブで生活しやすい魅力あるメトロセブの基礎を強化するために、地元機関はもちろん、横浜市のような国際パートナーの継続的な支援を必要としている。都市間協力の強みを発揮することで、望ましい変革とセブ市と横浜市の協力による取組の成果を実現することがはじめて可能となる。 2 カトマンズ市における 横浜市による研修とワークショップ  シティネット横浜プロジェクトオフィスとカトマンズ市の協定により、横浜市はカトマンズの技術者に3年連続で耐震建築技術研修を実施した。技術者たちは貴重な情報を得て、技能を大いに高めることができた。  研修では、国際基準の建設工法と建設現場の管理・検査方法について発表と講義が行われた。カトマンズではいまだに昔ながらの工法が用いられていたが、大型建設工事では次第に新しい工法を採用するようになってきた。研修では一方的に聞くだけではない対話式手法が取り入れられ、大変効果的で、参加者全員が非常に熱心に聴講した。  横浜市とカトマンズ市で多くのワークショップが行われ、参加者が専門的な経験を共有して学び合い、大きな成果を挙げた。現場の管理技術や建設工期中の安全対策など、全ての研修内容が技術者たちの職場や建設現場における日頃の活動に深く関連するものだった。研修では現場見学が非常に重要であったため、参加者たちはカトマンズでも同様の形態で行うことが有効だと感じている。 【カトマンズ市で実施中のプロジェクト】  @既存の消防署内に防災教育センターを設置し、防災・減災教育を目的とした複数の部屋を設置  A地理情報システムベースのカトマンズ市のハザードマップの公表(火災・地震・洪水等の災害リスクに備える)  B市の緊急事態センターを設置し、技術機器と防災関係者のコミュニケーションツールの予算を計上  C耐震性・耐久性の高い建築構造に関する建築主向けマニュアル(※)の策定  D建設現場における指導技術と安全管理  しかし、こうした運営管理は実現する上での課題も大きい。担当部局の特に幹部職員の異動による頻繁な入れ替わりが大きな問題となる。また関係各部門のコーディネートも不十分で、実施プロセスに大きな影響をもたらしている。  カトマンズ市は横浜市による技術協力に心から感謝しており、今後も災害リスク削減、災害時の救助活動、技術職員・非技術職員への能力向上のための研修などの支援をいただきたいと考えている。防災教育センターの設立と事業活動についても、支援とアドバイスをいただければ幸いである。 ※日本では住宅建築を発注する際に住宅メーカーに一括して発注することがほとんどだが、カトマンズ市では、建築主が住宅建築に際し、設計、工事、資材等それぞれを自らが発注することがほとんどである。建築の専門知識のない市民が建築工事全体の管理をせざるを得ないため十分なチェックができず、不法建築などが横行する状況にある。慢性的な人材不足で行政が個別の不法建築に積極的に規制をかけることも難しいため、新たに建築を行う建築主がマニュアルを活用してより良い管理ができるよう策定された。