《12》知見共有を通じた国際開発協力〜世界銀行都市連携プログラムと横浜市 執筆 三木 はる香 世界銀行東京開発ラーニングセンター 業務担当官 田邉 信 世界銀行東京開発ラーニングセンター 知識管理官 俵 渉子 世界銀行東京開発ラーニングセンター 知識管理官 拡大する世界の都市開発ニーズ  今日、世界の人口の約55パーセントが都市部に居住している。直近の予測によると2045年までに1.5倍にあたる60億人が都市に住むようになる(世界銀行 2020年)。生産性を向上させ、イノベーションを生み出し、新しい価値観を創造することができる都市は持続的な成長に大きく寄与するが、急激な都市化は都市スラムの形成や交通渋滞、廃棄物問題、住宅問題等様々な課題を引き起こす。  こうした状況において、世界銀行は、2030年までに極度の貧困を撲滅し、所得の下位40%の人々と繁栄の共有を促進するという二大目標のもと融資や知見共有を通じて、途上国の緑豊かで包摂性と競争力、強靭性を兼ね備えた持続可能な都市づくりを支援している。具体的には、都市インフラの整備、都市・土地計画や都市の行政サービスを提供するにあたっての制度構築や能力開発、また昨今では、スマートシティや創造都市、健康都市といった新しいテーマの普及や事業化も後押ししている。 世界銀行TDLCと都市連携プログラム  世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は日本と世界各地のまちづくりにかかる知見や教訓、専門知識をとりまとめ、途上国の開発事業の成果向上に向けた知見収集・発信拠点(ナレッジハブ)としての役割を担っている。  具体的には、現地事業から寄せられるニーズをもとに、テクニカル・ディープ・ダイブ(TDD)と呼ばれる対話型研修や、専門家派遣を通じた技術協力事業、国内都市の知見の見える化を意図した調査・出版業務に取り組んでいる。こうした業務を可能にしているのが、横浜をはじめとした日本の都市との協力とその知見である。  TDLC都市連携プログラム(CPP)は、世界銀行と選抜された日本の都市が連携し、途上国の都市開発に関わる実務家が参考にできる日本のまちづくりの知見をまとめ、発信することを目的としたプログラムである。2020年現在、横浜、富山、京都、神戸、北九州、福岡とこのCPPを締結している。横浜市に関しては、これまでにスマートシティ、競争力ある都市づくり、ウォーターフロントを中心とした都市再生、公有地の利活用などの豊富な知見をもとに、TDDや海外ワークショップを実施している他、Yokohama Development Knowledge Sourcebookなどの報告書を出版している。こうした出版物は、世界銀行のホームページからダウンロードが可能で、世界各国の都市開発関係者を中心に活用されている。 都市連携プログラムにおける横浜市の強み  CPPにおいて横浜市の存在は重要である。TDDや海外ワークショップに参加した途上国の実務家からも横浜の包括的な都市開発、とりわけ都市計画や都市インフラの整備、さらには市民を巻き込んだ都市づくりに関して貴重な示唆を受けることができたとの声が寄せられている。  2016年より開始された横浜との協働事業につき、特に都市実務者より反響があったものに左記が挙げられる。@人口増加期における大規模かつ複雑な都市インフラの整備A都市型水害対策に代表される円滑な公共サービスの提供B公共交通指向型開発及び都心部とウォーターフロントの再開発による都市再生C市民参画を通じた都市ビジョンやデザインによる住みやすさや横浜らしさの向上  最後の点に関しては、横浜市のシティスケッチブックの手法を活用したワークショップをパナマ市(パナマ)とバランキア市(コロンビア)で開催し、横浜市の取組を紹介するとともに、同様のスキームを使って現地の市民が自らの街を再考する機会を設けた。都市デザイン分野における国際協力の新たな一ページを刻んだといえるだろう。  同時に、CPPは横浜市にも様々な裨益をもたらしていると考えられる。  第一に、市職員や地元企業関係者が途上国都市においてどのようなニーズがあるのかを知る機会を提供している。周知のとおり、横浜市はY-PORTやYUSAなど国際協力事業に注力している。世界銀行のプログラムを通じた都市開発関係者との交流は、こうした市の国際開発支援事業を後押しすると考えられる。  第二に、スマートシティや革新的技術などにかかる世界最先端の知見を横浜にもたらしている。TDLCは2017年より横浜市のアジア・スマートシティ会議に共催者として関わり、スマートシティに関連するセッションの登壇やモデレーションに協力してきた。今年度はバルセロナのスマートシティエキスポ世界会議と協働し、横浜の取組を含めた日本のスマートシティ事例について世界に発信するイベントを開催した。今後も、スマートシティ推進にむけて協働するとともに、横浜をはじめとする日本の取組を海外に紹介していく所存である。  第三に横浜市の政策や手法を海外都市において検証する機会を提供している。TDLCは世界銀行の各国事業チームと連携し、「横浜都市デザインビジョン」など日本のまちづくりのグッド・プラクティスを現地関係者に紹介するとともに、現地の文脈において導入可能かどうかを試行する取組を行っている。こうした取組を通じて、横浜市のメソッドが世界各地でいかに展開できるかを検証している。 今後について  TDLCは2020年7月から新たなフェーズに入り、日本のまちづくりに関する知見の海外展開に一層注力していく所存である。特にスマートシティや質の高いインフラ投資、さらには人工知能やブロックチェーンに代表される革新的技術を取り入れた未来志向のまちづくりについて、横浜や日本の各都市の取組をとりまとめ、途上国に裨益する形で知見共有を行っていく予定である。今後も、日本を代表する都市、横浜の取組を注視しながら、まちづくりのヒントを世界に向けて発信していきたい。 活動実績(抜粋) 【対話型研修(TDD)】 ・ 都市再生に関する対話型研修(2018年) ・ 公有地管理・活用に関する対話型研修(2018年) 【技術協力事業】 ・ パナマ・ウォーターフロント開発・強靭性プログラム(2019年) ・ バランキージャ都市再生プログラム(2020年) 【共催イベント】 ・ アジア・スマートシティ会議(2017年〜現在) 【出版物】 ・ Yokohama Development Knowledge Sourcebook(2017年) ・ Yokohama City SketchbookMethodology(2021年)